メアリー・ステュアートの足跡を追って スコットランド2200km走破 湖水地方1 青山貞一 Teiichi Aoyama 池田こみち Komichi Ikeda 2018年8月公開予定 独立系メディア E-Wave Tokyo 無断転載禁 |
スコットランド総目次へ 湖水地方1 湖水地方2 ワーズワース・ロマン派詩人 ◆湖水地方(Lake District)の概要 いわゆる湖水地方(Lake District) は、下のグーグル地図にあるように、ダンドレナン、ダンフリーズなどのスコットランドの南端から、さらに沿岸沿いを南に下ったところの地方を指します。 この湖水地方は、残念なことに近くにセラフィールドの核廃棄物処理施設の南にあります。冬場北から南に向けてえ風が吹けば湖水地方は空間放射線量が高まる可能性すらあり、まして事故が起きれば湖水地方の人々は退避を余儀なくされるはずです。 出典:グーグルマップ 湖水地方(Lake District)は、イングランド(England)北西部ウェストモーランド・カンバーランド郡・ランカシャー地方にまたがる地域の名称です。 ◆湖水地方の概要 私たちはまさにそのセラフィールドの核廃棄物処理施設を視察した後に、湖水地方に向かいました。 6月の湖水地方 Source: Wikimedeia Commons 氷河時代の痕跡が色濃く残り、渓谷沿いに大小無数の湖(英:lake)が点在する風光明媚な地域で、イングランド有数のリゾート地・保養地としても知られています。The Lakes、Lakelandなどとも呼ばれていまする。 湖水地方のほとんどの地域に相当する約2300平方キロメートルは、1951年に湖水地域国立公園(レイク・ディストリクト・ナショナル・パーク・Lake District National Park)と呼ばれる国立公園(National Park)に指定されています。 イングランドとウェールズにある13の国立公園のなかでは最も広い面積を持ち、イギリス全体でみてもスコットランドにあるケアンゴーム・ナショナル・パーク(Cairngorms National Park)に次いで2番目の広さを誇ります。その範囲が2017年に世界遺産リストに登録されました。 湖水地方の位置 Source: Wikimedeia Commons 湖水地方 Source: Wikimedeia Commons 地理 スコーフル・パイクとU字谷 湖水地方は今から約15000年前の最終氷期の終了とともに形成されたと考えられています。氷河が衰退するとそのあとには氷河が土砂を削り取ったU字谷や圏谷が残っています。 これらはその多くが水を貯めこみ湖となりました。湖水地方近辺は緯度が高く、平均気温が低いために遷移が進みづらく湖とならなかった部分は岩場やムーアが形成されてシダなどが繁茂しました。 ※参考 圏谷(カール)とは 岳氷河の浸食作用によって形成された氷河地形の一種。 谷氷河によってつくられた氷食谷(U字谷)の谷頭部に位置し, 圏谷(けんこく)とも呼ばれる。山頂あるいは稜線との間は 急な圏谷壁となっており,この谷壁で馬蹄形に囲まれるよう にして,比較的平らな圏谷底がみられる。 ※参考 ムーア (英: moorland または moor)とは 酸性土壌の上に背の低い草木のみが広がる土地のこと。 日本語では「湿原」という。 典型的な湖水地方の風景。ヒツジの放牧と石垣、 山をバックにした白い家が見えます。 Source: Wikimedeia Commons 森林限界以下にはブナ科コナラ属の植物が茂り、19世紀にはマツのプランテーションが開かれた。標高800mから900mあまりの山がいくつもあり、イングランド最高峰のスコーフル・パイク(標高978m)を擁し、イングランドでもっとも深い湖もあります。 地質 湖水地方の地質はとても複雑であるがよく研究されています。北西から南東へ時代が新しくなる地層で3区分されます。最古の地層は約5億年前のオルドビス紀前期の泥岩で、Skiddawスレートと称されてきました。中部はオルドビス紀後期の泥岩と火山岩からなり、南東部はシルル紀まで及ぶ泥岩と砂岩で、縁辺では石炭紀の石灰岩も含み特徴的な地形をつくっています。 英国気象庁の観測によると、湖水地方の平均降水量は年間2,000mmということですが、地域によって大きな差がありボローデール(ボロー渓谷)に位置するセスウェイト集落が最も多く年間3,300mm程度、場所によっては5,000mmを記録するのに対し、東側のペンリス(厳密には湖水地方から外れる)では1,000mmに満たないという。3月から6月にかけてが降水量が少なく、10月から1月にかけて多くなっています。 月別平均気温は1月の 3℃(37°F) が最低で、7月の 15℃(59°F) が最高です。湖水地方はロシアのモスクワとほぼ同緯度ですが、北大西洋海流の影響でモスクワよりも温暖です。このため山間部を除けば、雪が積もることもほとんどありません。ただし、年間を通じて霧が発生し日中に平均2.5時間、沿岸部では平均4時間程度は霧に包まれます。 動植物 湖水地方には多くの動植物が生息しています。キタリス(現地ではレッド・スクレイルと呼ぶ。赤いリスの意)は最も多くみられる動物の一つです。植物は貧栄養地を好む食虫植物の仲間が多い。魚ではサケ科の3種、ヴェンデイス(Coregonus vandesius)、コクチマス属の淡水魚のイングランド方言、ホッキョクイワナが貴重です。 特にヴェンデイスはバセンスウェイト湖、ダーウェントウォーターの2か所でしか確認されていません。これらの希少種の保護を目的に14の湖で生き餌やルアーによる釣りを禁止する条例が2002年6月より施行されました。 外来種の問題は特に魚において顕著です。スズキ目のラッフ (学名: Gymnocephalus cernua)は、ほかの魚の卵を食べてしまうという点で脅威となっており、特に産卵から孵化まで120日もかかるヴェンデイスでは深刻な問題となっています。 もっともイギリス固有の動植物は種レベルで見た場合の「固有種」では0と言われており、一般的な種類は他の地域やヨーロッパの大陸部(アルプス山脈以北)でも見られます。 ヴェンデイス Vendace (Coregonus vandesius)は、イングランドの 湖水地方のみに存在する希少種。 Source: Wikimedeia Commons 産業 新石器時代の湖水地方は石斧の産地だったと考えられています。 牧畜、特にヒツジの牧畜はローマ時代より続くこの地域の主要産業です。現在ではヒツジは肉や羊毛で地域経済を支えるだけでなく、観光客が求める風景の一部にもなっています。 各地で見られる石垣も元はと言えばヒツジが逃げ出さないように建てられたものです。2001年に大流行した口蹄疫は牧場主に大きな打撃を与えました。これは湖水地方で用いられていたフェンスの貼り方に問題があり、山頂側はフェンスを張らず通電させなかったことにあります。 これが山を越えて行き来する一部のヒツジ同士で接触を招き感染が拡大したとされています。以後、山頂部にもフェンスを張り通電させるようになっています。 鉱業は銅や鉛を産出します。また重晶石(主成分:硫酸バリウム)、グラファイトや粘板岩(スレート)を産します。湖水地方の伝統的な家屋ではスレートを薄くしたもの積み重ねて外壁を構成しています。 19世紀になると織物の原料につかう糸巻き(ボビン)の生産が盛んでしたが、20世紀にはいると交通機関の発達により主要な産業は観光業に移り、それが今日まで続いています。 植林地の伐採 Source: Wikimedeia Commons 世界遺産 湖水地方は第11回世界遺産委員会(1987年)で複合遺産として審議されたときには見送られ、文化遺産として推薦された第14回世界遺産委員会(1990年)では、適用する基準などをめぐって委員会審議がまとまらずに見送られました。 2017年の第41回世界遺産委員会では、新たに文化的景観(世界遺産上の分類としては1992年に採用)として推薦され、登録されています。 つづく スコットランド総目次へ |