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青森県視察総括コメント
  
豊かな自然があってこその青森

  池田こみち
環境総合研究所(東京都目黒区)

掲載日:2014年5月21日
独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁




 青森県へは2度目の訪問となる。県内には多くの観光資源・環境資源が点在しているが、これまで私が見学したのは秋田県との境に位置する十和田湖だけだったので何も見ていないも同然の状態だった。

 今回は、下北半島を中心に原発関連施設、風力発電関連施設を視察することが主な目的であったが、全行程約800kmにわたって県内を走り、青森県の魅力と課題を多少なりとも感じ取ることができた貴重な機会だった。

●青森県内の原子力関連施設

 現在、青森県内には、東通原子力発電所(予定を含めて2施設、4機)、大間原子力発電所(建設中1機)、六ヶ所原子燃料サイクル施設、使用済燃料中間貯蔵施設、旧原子力船「むつ」関連施設が存在している。これらは、いずれも下北半島側に集中しており、エネルギーの大消費地である東京首都圏とつながっている。

 本州最北端の地に東京電力が東通原発を計画していることがそれを象徴している。福島第一原発事故の際にも、東京に電力を供給するために福島に原発を設置しているのはいかがなものか、という議論が沸騰した。まさに、日本経済をエネルギー面から支え牽引する役割を過疎の村が背負わされている現実を直視し、改めて拭いようのない重圧のようなものを感じざるを得なかった。

 六ヶ所村の原燃資料館では、頭の先から足の先まで制服でビシっと身を固めた説明員の女性が「原子力発電所から出される使用済みの燃料の97%が資源化可能なものであり、それをリサイクルしているのが私どもの施設なのです。」と誇らしげに話し、解説ビデオでも「六ヶ所村は次世代エネルギーパークの整備をいち早くめざし石油備蓄・風力発電・核燃料リサイクルを推進している」とし、平成20年には「六ヶ所村地域新エネルギービジョン・次世代エネルギーパーク整備プラン」を策定されている。

 実際、これらの原子力関連施設の整備にはこの間、膨大な税金が投じられてきたことは間違いない。

 今回、下北半島と津軽半島を走ってみて、明らかに下北半島側の自治体の公共施設は過剰なまでに立派に整備されていた。


東通村体育館
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014-5-18


東通村役場と村議会議事堂・交流センター
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014-5-18


 図1:電源立地地域対策交付金 交付対象地域  出典:青森県のWebサイト


図2 青森県内市町村地図  出典:マピオン

 図より明らかなように、交付金はもっぱら下北半島側に集中し、原発関連の交付金は全自治体に交付されている。一方、津軽半島側は白地となっていることがわかる。六ヶ所村だけを取り上げてみても、昭和54年から平成24年度までの電源三法交付金の総額は約450億円に上り、総事業費はそれを上回っている。
(出典:六ヶ所村Webサイト

 実際、東通村でみたように、交付金は、立地可能性調査開始年度あるいは開始翌年度から一期分として1.4億円/年が交付され、稼動期間はもちろん、運転終了まで手厚く交付されることとなっている。

 問題はこうした巨額の交付金が本当の意味で地域住民の幸福度アップにつながっているかどうかである。地域の雇用の増加、賃金ベースのアップ、公共施設の整備拡充などは確かにメリットではあるが、その一方で失うものも多いのは言うまでもない。

 今回の視察では、改めてそのことを思い知らされた。

●自然の恵みがもたらす豊かな環境資源

 青森県は大きく三つの地域に区分される。下北(下北半島全域)、三八上北(三沢市・八戸市を中心都市とする南部地域)、津軽(青森市・弘前市を含む西部地域)である。

 今回の視察では、三沢市以南の県南地域と津軽地域の西津軽郡・弘前市以南の白神山地までは回れなかったものの、北部エリアは概ね回ることができた。

  下北・津軽の二つの半島が突きだし、その間に抱かれるように豊かな陸奥湾が広がっている。ホタテをはじめとする豊かな漁場となっている。また、北海道との間の津軽海峡では大間のマグロに代表される全国ブランドの漁業も盛んだ。また、十三湖や小川原湖など汽水域の湖や沼も多く、シジミなどもブランドとなっている。

 陸に目をやれば、標高1625mの岩木山が青森県の最高峰であることから分かるように、風力発電に適した台地が広がっている。また、南部には世界遺産の白神山地が連なり、霊場恐山、津軽富士と呼ばれる岩木山、豪雪で知られる八甲田山など地域の人々の精神性に通じる自然、奥深い手つかずの自然も堪能できる。


夕暮れの岩木山、弘前にて
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014-5-19

 もちろん、南部の十和田湖や奥入瀬渓谷も絶景である。野生生物もクマを筆頭に多様性に富んでいる。今回はホンドギツネに遭遇したが、残念ながら会えなかった下北半島の東の突端尻屋崎地域に放牧されている寒立馬(かんだちめ)の愛らしさは何とも言えない。青森県の天然記念物に指定されている貴重な農耕馬である。

 二つの半島と県北部地域には、豊かな農地、牧草地が広がり、リンゴはもとより、牛肉や米、酒、果物など農産物にも特産品が多い。実際、私も毎年、津軽の「達人りんご」を取り寄せて頂戴している。格別の美味しさだ。

 まさに、太平洋・津軽海峡・日本海と三方を海に囲まれ、他の県にはない環境資源と観光資源に恵まれた県であると言える。今回は時間がなくて沢山の物産を味わう暇がなかったが是非また味わってみたいものである。

 青森の資源はこうした自然や食べ物だけではなく、今回視察した斗南藩関連の史跡をはじめ、文学の分野でも今回視察した太宰治の生地は有名だが、それ以外にも寺山修司や石坂洋次郎なども青森出身であり、歴史的文化的遺産も多い。伝統工芸では津軽塗が有名だ。


五所川原市 太宰治「斜陽館」
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014-5-19


五所川原市 太宰治「斜陽館」にて
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014-5-19

 今回、いくつかの自治体の郷土館を訪ねたが、建物の割に中身が貧弱で十分に地域の歴史文化、資源を展示できていないように感じた。今後は是非とも、原発関連施設の立地や稼動に依存しない街づくり、地域づくりを進めてほしい。

 たった三日間の青森視察ではあったが、初めて青森県の持つ魅力に触れることができ充実した旅となった。地元の方々との触れあいはを十分に持つことが出来なかったのは残念だったが、各所でお話ししたみなさんはみな優しく津軽弁が耳に残っている。是非また機会を作って再度訪問してみたい。