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セラフィールド再処理施設から
漏れ出る放射能汚染(4)


〜膨大な放射能物質漏洩〜

青山貞一

掲載日:2005.5.13

1)河野太郎議員の問題提起
2)その位置と施設の概要
3)プルトニウム30kgを紛失
4)莫大な放射性物質の漏洩
5)環境汚染の実態
6)今回のコラム執筆で分かったこと


 以下は、河野太郎代議士が2005年5月10日号のメルマガで提起された英国セラフィールドのソープ核廃棄物再処理施設の閉鎖に関する英ガーディアン紙の記事の全文である。

 当該記事の暫定翻訳は、池田こみち氏(環境総合研究所副所長)及び斉藤真実氏(環境総合研究所研究員)が行った。


膨大な放射性物質の漏洩によりソープ工場が閉鎖へ

ガーディアン紙 2005年5月9日
環境特派員 ポール・ブラウン


 セラフィールドにある高濃度の放射性核燃料再処理工場で、濃縮された硝酸に溶解した状態の高放射性核燃料が、オリンピックプールの半分もの量が漏洩するという事故が起き、閉鎖に追い込まれている。非常に危険な混合液は、およそ20トンものウラニウムとプルトニウム燃料を含んでおり、破損したパイプから巨大なステンレスの容器(入れ物)に漏れ出しているために、非常に放射性レベルの汚染度が高く、中に入ることができない状態となっている。漏れ出した液体を回収し、パイプを修復するためには、数ヶ月が必要と見られ、21億ポンドもするプラントの修復には、特殊なロボットによる高度な作業が必要とされている。(記事つづく)

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 放射性物質の漏洩は、一般市民にとってそれほど危険ではないが、納税者としては財政面で大きな痛手となるはずである。というのも、一日に100万ポンド以上と計算されているソープ工場(酸化物燃料再処理工場:THORP,Thermal Oxide Reprocessing Plant)の収入で、この余分な各施設の事故処理費用をまかなわなければならないからである。工場の閉鎖は原子力産業にとって最悪の事態なのである。英国は、温室効果ガスを2010年までに1990年レベルの20%削減するという目標の達成に苦労している。風力発電施設を大規模に整備してはいるものの、まだまだいくつかの石炭火力発電施設の規模縮小によって発電能力は打撃を受けている。

 そこで、新しい原子力発電所を建設するかどうかの意思決定は、第三期トニー・ブレア政権における重大で微妙な問題となっている。

 昨日、原子力(エネルギーの)選択に関する閣僚へのブリーフィングペーパーが漏れたところによると、野党のマーガレット・ベケット氏(環境・食品及び農村問題担当相)の反対のために、新しい原子力発電施設による温室効果ガスの削減効果については、今のところまだ検討されていないとのことである。

 4月1日に英国核燃料公社(BNFL)から処理工場の所有権を引き継いだ特殊法人である核施設廃止措置局(NDA)は、今年22億ポンドの処理費(浄化費用)を予算化した。これは、運営初年度の予算であり、そのうちの5億6000万ポンドはソープ工場の収入が当てにされていた。

 NDAの広報官リチャードフリン氏は、「もし工場からの収入が得られなければ、(漏洩事故)処理計画を見直さなければならないのは明白である。」としている。

 NDAにかわってセラフィールドの工場を運営するためにつくられた管理会社であるイギリス原子力グループ社(BNG)は、金曜日、政府の安全規制担当部門である原子力施設監督局(NII)と会合をもち、どのように漏れ出した放射性物質を除去し(吸いとり)、破損したパイプを修理するかについて議論した。同社は、行政当局の承認を得た上でなければ作業を行うことができない。

 工場の異常は4月19日、工場のオペレータが硝酸のなかに溶けた使用済みの燃料の全量を計量できなかったことによりはじめて気づいた。それは、プラントの各施設を移動しながら、数箇所の遠心分離機において、ウラニウム、プルトニウム、そして廃棄物とに計量され、区分されているものと想定されていた。工場内の遠隔カメラが漏れを発見した。

 大半の物質がウラニウムであるにもかかわらず、燃料はおよそ200kgのプルトニウムを含んでおり、この量は20個の核兵器を製造できる量に匹敵する。また、この量は、核物質が悪人の手に落ちることがないように防衛するための国際的な保護規定(安全規定)に従って回収・回復されなければならないものである。液体については、吸い上げて除去し、作業が終了するまで保管されなければならないがこの作業方法については、工夫が必要である。

 会社は、どのようにしてこの漏洩が起こったのかについて調査を行うための聴聞委員会を設置した。一方で、NIIも別の委員会を設置し、指示されたとおりの適切な手順を守っていたかどうかについて追求を行う。

 ソープ工場は、膨大な使用済み燃料からウラニウムとプルトニウムを製造している一方で、ごくわずかな量しか反応炉の燃料として再利用できていなかった。評論家たちは、この工場は、12年前に稼動したときの設計能力どおり運転されておらず、非経済的であり、また、命令を達成するスケジュールが何年も大幅に遅れていたことも批判している。

 この指摘は顧客の怒りをかい、BNGは顧客の一人であるドイツ人が経営するブロックドルフ発電所から提訴され、使用済み燃料の保管料として、一日あたり2,772ポンドの支払いを求められた。同社は、この問題は1年以上前に処理されるべきだったと主張している。

 ソープ工場は、12年間にわたり、5,644トンの燃料を処理してきたが、最初の10年は、7,000トンが目標となっていた。昨年、同社は、年間の725トンの目標を達成することができず、590トンにとどまった。

 放射性環境に反対するカンブリア州民(Cumbrians)のマーチンフォワード氏は、「NDAは、”ナイーブ”にソープ工場からの収入を当てにしてきた。”再処理は、明らかにNDAの公的なクリーンアップ支出(remit)とは相容れないものであり、最新のソープ工場の事故の結果として、自腹を切って負担すべきである。”と主張している。新しい所有者たちは、納税者に対して最大のサービスをするべきであり、ソープ工場はただちにすべて閉鎖すべきである。

 セラフィールドのBNG社長バリー・スネルソン氏は、工場を閉鎖するように指示し、「工場が安全で安定した状態であると人々に再度安心していただくために努力する。」と述べた。


 これに対し、2005年5月11日に日本で配信された新聞記事は、共同通信が配信した以下の記事だけである。


英核施設で放射性溶液漏れ 4月に異常発見、汚染なし
(共同通信)

 【ロンドン10日共同】

 9日の英科学誌ニューサイエンティスト(電子版)などによると、英中西部セラフィールドにある使用済み核燃料の再処理施設「ソープ」の無人区域内で放射性の液体が漏れる事故があり、作業が無期限に停止された。

 同誌によると、英国内で原子力の安全を監視する機関の当局者は「従業員は無事で、放射能による大気汚染もない」と確認している。

 英紙ガーディアンによると、異常が発見されたのは先月中旬で、遠隔操作のカメラで調べたところ、パイプから液が漏れているのが発見された。

 ニューサイエンティストによると、漏れた放射性溶液は約83立方メートルで、大量のプルトニウムやウランを含んでいた。

[ 2005年5月11日1時34分


 ご承知のように共同通信社は新聞社ではなく通信社である。

 共同通信の上の記事は、ほんの数行、しかも英国のガーデンアンなどの新聞が報じた内容のごくごく一部だけである。

 内容を読めば分かるが「異常なし」とか「放射能による大気汚染もない」など、ことさら問題がないことが強調されているようにも見える。

 この共同通信の記事だけを見た読者は、事故は起きたが大したことことはないと思うだろう。

 にもかかわらず、この共同通信が配信した記事を報道した日本の新聞、テレビ、ラジオなどのマスコミは、現在までの筆者の調査によれば、以下に示す各社だけである。

 京都新聞、佐賀新聞、山陽新聞河北新報岩手新聞東奥日報
 ヤフーニュース、ライブドアニュース、エキサイトニュース、gooニュース
 インフォシークニュース

 もし、他のメディアが報道している場合は、メールでaoyama@eritokyo.jp 青山貞一まで記事のURLなどをお送りいただきたい。
 
 他方、はっきしりているのは、インターネット系のニュースが共同通信の記事をそのまま掲載していたことである。

 さらに大切なこと、重要なことは、共同通信の上の速報を追っかけ、その詳細を取材、調査した日本の主要マスコミの記事が今のところ皆無であることだ。

 つづく

1)河野太郎議員の問題提起
2)その位置と施設の概要
3)プルトニウム30kgを紛失
4)莫大な放射性物質の漏洩
5)環境汚染の実態
6)今回のコラム執筆で分かったこと