電波メディアと通信メディアの 融合・連携の可能性 〜改めて日本のメディアを問う〜 青山貞一 掲載日2005.3.22 |
前に戻る ここでホリエモンが問題提起した「放送と通信の融合や連携」の可能性を、私なりに理解、認識した上で整理してみるとおおよそ次のようになる。 同時に数百万人、数千万人の視聴者にワンウエーで音声、音楽、映像を含めた情報を技術的に提供可能な既存のアナログ放送(ラジオ、テレビ)と、すでにブロードバンド化され双方向、準リアルタイムで交信が可能なデジタル通信(インターネット)を結びつければ、次のことが可能になるだろう。 その第一は、NHK、フジサンケイグループに象徴されるような一部の新聞・テレビ等が複合した巨大メディア業界に独占されてきた電波メディアがもっている機能を一部業界から開放することであろう。 具体的には、ブロードバンド化したインターネット通信と既存電波メディアを連携させることにより、国民、市民、消費者、株主、労働者など個々人が主体的に誰でもが参加可能な一大フォーラム(広場)ができる可能性が従来より遙かに大となる、というものだ。どうもホリエモンは、そんな社会をイメージしているのではないかと思える。 政官業癒着の既存テレビ業界による一方的、選択的な国民、市民、消費者、株主、労働者など個々人へのエログロナンセンス情報はじめ消費情報、製品情報情報の垂れ流しによる弊害、価値選択的な政府・政治情報の一方的な国民への垂れ流しによる情報操作、これらに共通している問題は、ワンウエー、すなわち一方的に事業者側が視聴者側に情報を強制的に送ること、そして次に、その強制的に送ってくる情報が選択的であることである。 筆者近影:東京都品川区の環境総合研究所にて。撮影、朝日新聞社 ところで、すでに燎原の火のごとく拡大しているホームページやメーリングリストなど対話型のデジタルメディアとテレビが連携すれば、今以上に、誰でもが自宅から各種のショッピング、株取引、オークションが行えるだけでなく、誰もが表現者としてジャーナリズムに参加できる。 実質的に政権交代がないことはじめ、間接民主主義の著しい弊害が指摘される我が国にあって、既存電波メディアとインターネットの連携は、国、自治体の議会や行政の政策形成過程に、国民、市民が誰でも参加し議論したり、政策提言できる21世紀型の準直接民主主義政治のあり方のイメージにまで及ぶ。ここでは、政治もジャーナリズム同様、「政治屋」などの代弁者を介することなく、誰でもが議論、審議、採決に参加することが可能となるかも知れない。 まさに電波メディアとインターネットメディアの連携により、社会的な情報交流や議論の場、開かれたプラットフォームが構築され、市民や消費者主体のワイヤードシティーが実現することになるのである。 もちろん、すでに上記のごくごく一部はすでにテレビで実現している。生番組放送中の意見募集やアンケートなどで。今後、電波メディア側が融合と連携を強く意識することにより、上述のように、さまざま多様な活路が見いだせるのである。 その先には、まさに市民、NPOによる「独立メディア」、そして政治の有り様を本質的に変える、直接民主主義の政治の世界すらかいま見える。既得権益と現状追認に満ちた「政」「官」「業」「学」「報」癒着の構造からの脱却である。そこではプロの「メディア屋」や「利権に満ちた政治屋」は不要となる。 一言で言えば、それは小説家、ジョージ・オウエルの「1984年」にあるビッグブラザースに一元管理された管理型の情報社会から、誰にも開かれたコモンズ型情報社会への移行と言える。 そこでは、各種メディアは一部の利権に満ちた放送業界やジャーナリズムに独占されたものでなく、一般道路のように一定ルールのもので誰でもが利用可能なものとなるだろう。電波メディアもその例外ではないと言うことだ。メディアはあくまで情報の媒介者であり、その上を走る各種情報は、特定の利益集団、プロ集団の支配から解放される。つまり、それは<メディア>とその上を走る<情報>の分離と言って良い。 従来は主要<メディア>を支配するものが、ジャーナリズム、言論などの<情報>を支配することが容易となっていた。それにより巨大メディアが時の為政者、政権、巨大企業と癒着することで世論を操作(情報操作)しやすくなり、特定の方向に政治や社会を誘導することが容易となっていたのである。その典型的なものが電波を使うラジオでありテレビである。 ※ 新聞業界の場合も、メディアを支配するものが情報を支配する ことが妥当するが、免許事業ではないことから、ラジオ、テレビに 比べ大きく異なる。事実、膨大な数の地方紙が存在する。とは いえ。日本では発行部数が1000万部を超える新聞の存在が ジャーナリズムを歪め、情報操作的な世論形成が容易となって いると言える。ちなみに、かの米国のニューヨークタイムズ紙で すら100万部ちょい、ワシントンポストは80万部弱、英国のタイム ズでも70万部ちょいに過ぎない。 ところで、巨大メディアによる<メディア>と<情報>の支配を辞めさせるために、両者の分離を行うことが重要だが、他方で両者の新たな弁証法的統合が不可欠となる。 インターネットのブロードバンド化は、相当程度その弁証法的統合を実現していると言ってよい。 言うまでもなく、ここ数年、誰でもがホームページを開設し、分量を気にせず毎日、ブログが書け、メーリングリストによって自分の考えを仲間に、また見ず知らずのひとに送ることができる。もちろん、送るだけでなく、すぐさま返事をもらうことが可能となる。英語ができれば、世界を相手にそれは可能となる。燎原の火の如く、双方向の情報交流が可能となっているからだ。 簡単に言えば、メディアを支配するものが情報を支配する時代から、個人でもメディア(ネットワーク)をもち、情報を送受信することが容易となったのである。 事実、情報操作が横行したイラク戦争では、日本人は巨大メディアより個人やNPOが設置し情報発信しているホームページから多くの情報を得ている事実が分かっている。 ●青山貞一:国民はイラク情報をどのウェッブで得ていたか 後述するように、日本では電波メディアでは、免許される者が同時に情報を扱うことが圧倒的である。ニッポン放送は総務省から放送事業者として免許を受け、同時に各種の番組を制作し放送している。 他方、インターネット系におけるメディアの提供者は、電気通信事業法の届出が必要だが、この場合はあくまでも、メディア(=媒体、インターネットワーク)を整備、提供、管理することがメインである。しかも届出なので免許や許可に比べはるかに自由度がある。 電気通信事業法 ラジオ、テレビのように免許事業者がイコール情報提供者とはならない。もちろん、ライブドア、ヤフー、楽天等は両者を兼ねているが、だからといってメディアを独占せず、国民、市民、事業者など、ありとあらゆる人々にメディアを廉価ないし無料で提供しているのである。 今後、インターネットのブロードバンドと、従来、ごく一部の巨大メディアに占有されていたテレビ、ラジオ(AM,FM)を融合、連携できれば、計り知れない開かれたネットワーク社会が可能となる、と言うのがおそらくホリエモンのビジョンのはずである。 かかる社会では、単に生活が便利になる、効率的になるだけでなく、国、自治体からのプレスリリースも、企業、NPO、市民団体からのプレスリリースも、今のホームページが象徴するように、どちらが上という序列がない。メディア(媒介者)が勝手に裁量(さじ加減)で情報やデータ、事実を取捨選択したり、スクリーニング(ふるい分け)したりすることのない開かれた社会の到来である。 そこでは、ひとびとは為政者や巨大業界による一方通行的な情報操作から開放され、自ら考え自ら行動するようになる。同時に、これは日本の現在の巨大メディアと政府、業界による利権に満ちた一元的情報管理社会と180度異なる社会の実現となるだろう。 もどる <補遺> ラジオ、テレビが昔から総務省(旧郵政省)の免許事業なのは、一義的には発信する<情報>の制限からではない。その多くは、数KWから数100KWと言うエネルギーの電波を発信する設備の設置、管理・運用の面からである。 というのも、もし、免許が放送内容、放映内容など発信する情報の内容と連動しているとしたなら、それは明らかに憲法に違反することになる。 そもそも毎日私たちが見、聞きしているラジオやテレビの内容がいかに公序良俗に反するものであるかは、誰でも知っている。一度として今まで日本のテレビ局やラジオ局がそれを理由に再免許交付されなかったことがあるだろうか? これは公序良俗以外に、政治的に公正、公平と言う点についても同様だ。日常的な番組には、政治、思想的にみて明らかに偏向しているものも多々あるからだ。 もっぱら、今回のNHKvs朝日新聞事件は、公共放送であることを理由に、その事業計画、予算案の国会承認との関連で、政治的な圧力をかけたことが問題となっている。この場合でも、本来、免許事業であることと切り離して考えねばならない。 繰り返すが、巨大メディアは、免許事業であることを利用し、ラジオやテレビと言ったメディアを支配するとともに、その上を走る情報を支配してきたことが問題の根源であると言える。 <参考> 放送法 第1条 この法律は、左に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
1.放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
2.放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
3.放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。
電波法 第1章 総 則 (目的) 第1条 この法律は、電波の公平且つ能率的な利用を確保することによつて、公共の福祉を増進することを目的とする。
第2条 この法律及びこの法律に基づく命令の規定の解釈に関しては、次の定義に従うものとする。
1.「電波」とは、300万メガヘルツ以下の周波数の電磁波をいう。
2.「無線通信」とは、電波を利用して、符号を送り、又は受けるための通信設備をいう。
3.「無線電話」とは、電波を利用して、音声その他の音響を送り、又は受けるための通信設備をいう。
4.「無線設備」とは、無線電信、無線電話その他電波を送り、又は受けるための電気的設備をいう。
5.「無線局」とは、無線設備及び無線設備の操作を行う者の総体をいう。但し、受信のみを目的とするものを含まない。
6.「無線従事者」とは、無線設備の操作又はその監督を行う者であつて、総務大臣の免許を受けたものをいう。
第3条 電波に関し条約に別段の定があるときは、その規定による。
第4条 無線局を開設しようとする者は、総務大臣の免許を受けなければならない。ただし、次の各号に掲げる無線局については、この限りでない。
1.発射する電波が著しく微弱な無線局で総務省令で定めるもの
2.26.9メガヘルツから27.2メガヘルツまでの周波数の電波を使用し、かつ、空中線電力が0.5ワット以下である無線局のうち総務省令で定めるものであつて、第38条の7第1項(第38条の31第4項において準用する場合を含む。)、第38条の26(第38条の31第6項において準用する場合を含む。)又は第
38条の35の規定により表示が付されている無線設備(第38条の23第1項(第38条の29、第38条の31第4項及び第6項並びに第38条の38において準用する場合を含む。)の規定により表示が付されていないものとみなされたものを除く。以下「適合表示無線設備」という。)のみを使用するもの
3.空中線電力が0.01ワット以下である無線局のうち総務省令で定めるものであつて、次条の規定により指定された呼出符号又は呼出名称を自動的に送信し、又は受信する機能その他総務省令で定める機能を有することにより他の無線局にその運用を阻害するような混信その他の妨害を与えないように運用することができるもので、かつ、適合表示無線設備のみを使用するもの
第5条 左の各号の一に該当する者には、無線局の免許を与えない。
1.日本の国籍を有しない人
2.外国政府又はその代表者
3.外国の法人又は団体
4.法人又は団体であつて、前3号に掲げる者がその代表者であるもの又はこれらの者がその役員の3分の1以上若しくは議決権の3分の1以上を占めるもの。
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