青森県の風力発電から見る 現状と課題(後半) 斉藤真実 環境総合研究所(東京都目黒区) 掲載日:2014年6月1日 独立系メディア E-wave Tokyo 無断転載禁 |
速報1(5月17日) 速報2(5月18日) 速報3(5月19日) 3.国がやっていること こういった問題点を解決し、風力発電を拡大すべく、国はどのようなことをしているのだろうか。要は、風況の良い所の送電網を強化し発電を促し、それを広域的に享受しようということをやっている。 3-1.地域間連系の強化?経済産業省による「風力発電のための送電網整備実証事業」 平成25年度から経済産業省による送電網の整備・増強のための実証事業が開始された。「国内でも特に風況がよく風力発電の適地であるにもかかわらず送電網が弱い、北海道、東北の一部地域を特定風力集中整備地区と指定し、当該地域における風力発電のための地 域内送電網整備とその技術的課題の実証に対する支援を行う」ことが趣旨である。 集中整備地区ごとに、風力関係の民間事業者が過半を出資するSPC(特別目的会社)を設立し、有料送電線を設置する。費用の回収は電力料金ではなく、送電線の利用料金を風力発電事業者から徴収し、返済に充てる仕組みとなっている。採算が合わないことを見込み、国からの補助金も投入する。補助率は1/2で、平成25年度は250億円、平成26年度は150.5億円を予算案として計上した。 平成25年度は北海道地区が実施した。補助事業者2社を採択し、北海道電力が700万円ずつ出資した。補助事業者は、以下のように大手である。 @日本送電株式会社(三井物産株式会社、丸紅株式会社、SBエナジー株式会社の出資による特定目的会社) A北海道北部風力送電株式会社(株式会社ユーラスエナジーホールディングスの出資による特定目的会社) 補助事業者は平成26年度中に経済産業省に事業が可能かどうかを報告し、認められれば工事に入る。下北・津軽半島などの東北地域は平成26年度の実施予定である。 3-2.地域間連系の強化 前述のように、風力発電の需給調整が問題の一つである。狭い地域内よりも、広い地域内でのほうが需給調整しやすい。そして、調整電源内に制限された比率でしか変動電源を入れられないのであれば(2-2-1参照)、狭い地域(電力需要の低い地方のみ)から広い地域(電力需要の高い都市も含めた地域)に対象を広げ、総体の調整電源量を増やせば、おのずと導入できる変動電源(風力発電)量も増える。 そのようなことから、「広域的運営推進機関」の新規設立が決まり、その設立準備組合が平成26年1月に発足した。構成は東北電力も含む一般電気事業者や昭和シェル石油などの特定規模電気事業者、発電設備設置者や業界団体など26社・団体(平成26年1月20日現在)である。現在この機関の組織体制や、業務・システムについて検討がすすめられている。 当然と言えば当然だが、参加企業等は全てステークホルダーである。この機関が担う役割は極めて重要であるがゆえに、客観性や中立性、公益性が担保されるのかどうかがカギとなるだろう。 以上が現在進行中の風力発電に関する制度である。 電力制度の流れを見ると、平成25年11月に改正電気事業法成立、平成27年には広域的運営推進機関の設立と電力小売りの全面自由化、平成30〜32年に発送電分離となっている。 なお、ここでの主な出典は、前述の資料1である。これには本稿にはとりあげなかった方針や施策も載っているので興味がある方は参照されたい。 広域的運営推進機関については、「広域的運営推進機関の発足に向けた検討状況」(「広域的運営推進機関の発足に向けた検討会」事務局、平成26年1月20日)に詳しい。 4.再生可能エネルギー時代への真の転換 風況の良い所と電力需要が高い所とは一致しない。風力で得た電力を国内でやりくりできる広域的な連携がとれれば、風力を最大限有効活用できるし、風況の良い所での風力発電拡大へのモチベーションとなる。一方で、電力需要の高い所まで長距離を運べば、それだけ電力のロスが生じることも忘れてはいけない。 更に、再生可能エネルギーを拡大させるということは、単に火力や原発に代替させていくだけでなく、より大きな枠組みでの制度や意識転換も必要と思われる。つまり、これまでの原発開発にみられるように、都市で主に消費される電力を供給するために、地方で発電施設の開発をしまくるといった構造は避けなければいけない。 「エネルギーの地産地消」という言葉にもみられるように、それぞれの地域が出来るだけ節電・省エネをし、最大限の再生可能エネルギーを地域内で普及させ、自立を試みることが、第一に必要だと言える。それをしたうえで、賄いきれない部分を全国的に融通する、といった発想が、これからの再生可能エネルギー社会であり、それに伴った制度づくりでなければならない。 この度の青森視察で目の当たりにした豊かな風力資源が、単なる都市のための電気製造工場や大企業の餌食となるのではなく、青森県が自立する術となることを望む。 国からは今後も様々な施策が繰り出されることと思う。それらの制度や施策が、大手企業のためだけの利権の構造になってはいないか、地域の自立をきちんと促しているかなど、チェックしていく視点が重要である。 (おわり) |