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マニュアル通りではなく、地域の状況を的確に反映した実効性のある防災計画を作成する必要がある。その点、UPZの一つである北海道虻田郡ニセコ町の防災計画は「住民の安全」を徹底的に追い求めたものとなった。独自かつ先進的な取組の特徴を4つ挙げる。 B−1.参考にした拡散シミュレーションが違う! 原発事故時の緊急事態において瞬時に知りたいことは、「逃げたほうが良いのかどうか」「逃げたほうが良いならいつまでに、どの方角へ逃げたほうがいいのか」ということである。それをできるだけ正確に知りうるためには、拡散シミュレーションが極めて重要である。おそらく他のUPZでは、原子力規制委員長自ら「あまり役に立たない」とお墨付きの拡散シミュレーションを参考にするしかない。 ニセコ町が他と違ったのは、三次元流体シミュレーションを基に防災計画を作成したことだ。この三次元流体シミュレーションは、泊原発の事故規模及びニセコ町周辺の実際の地形、風向風速等気象状況を反映させており、この上なく蓋然性が高い。これは他のUPZとの大きな差になるだろう。 単に三次元流体シミュレーションを参考にしただけではない。研究開発者である青山貞一のひとり東京都市大学名誉教授で環境総合研究所顧問(もうひとりは同じく環境総合研究所代表の鷹取敦士)を専門委員の一員として迎え、毎回の専門委員会の場で防災計画全体について議論を深めていった。議論のなかでは、積雪の場合の影響はどうなるのか、事故発生時にいかほどの時間でプルームがニセコ町に到達するのかなどの具多的な論点が示され、きめ細やかな状況設定が可能となっている。 B−2.住民参加で徹底議論 専門委員会には一般公募の書類選考で2名のニセコ町民が参加している。筆者も別の市町村の委員会に参加した経験から、一般的に委員会の場で住民参加といっても、住民参加の利点を最大限活かすにはなかなか難しいことがわかる。 住民参加の人数が多ければいいというものでもなく、誰でもよいわけではない。とりわけ当該防災計画は全国的に初めての取組であり、防災専門用語や概念も未だ日常言語にこなれていない。そのような中で、住民であれ素人を人数だけ増やしても、初歩的な質問の嵐で終始してしまっただろう。最初の段階で共通理解が済めば、議論を深め様々な提案へつなげていかなければならない。たとえ少人数でも、住民としての視点を持ちつつ、実効性のある提案ができる人材が望ましい。 そういう点ではニセコ町の住民参加は大成功である。自主的に専門委員会とは別にワーキンググループを作り、そこでの議論を専門委員会にフィードバックするなど積極的参加の様子がうかがえる。青山貞一委員にお聞きしたところ、他の委員の方とは専門委員会の場だけではなくメールでも議論を重ねていらしたという。並々ならぬ尽力である。 また、専門委員に女性の視点も必要とのことで途中から女性の専門委員が選出された。女性の参画というのも見過ごされがちだが、重要な点である。 B−3.情報公開 専門委員会での議論の経緯がなぜ部外者の筆者にわかるかと言うと、第1回目からの会議録及び関連資料が公表されているからだ。(ニセコ町HP;http://www.town.niseko.lg.jp/kurashi/bousai/cat299/post_89.html) 第4回目からは、委員からの提案を受けて、出席者の発言を一字一句記録する会議録を作成・公表している。お陰で直接出向いて委員会を傍聴しなくても、全国どこにお住まいの方でも議論の経緯を知ることができる。 見方を変えれば会議録とは単なる記録文書ではなく、ニセコ町の財産でもある。何度も言及するが、防災計画作成はゼロから議論を積み重ねていく作業である。その経緯にはさまざまなアイディア、着想、データと根拠が盛り込まれている。ニセコ町民への情報公開ということを抜きにしても、惜しげもなくニセコ・メソッドを公開していることは全国のUPZにとっても有益であろう。 B−4.ニセコ町の熱意 専門委員の熱意も凄いが、ニセコ町の熱意も相当である。担当の方に防災計画関連の予算を尋ねてみると、わずか441万円であり、人件費は勿論無しとのこと。そのせいか、担当はたったの2名である。しかも仕事は防災計画関連のとりまとめに専念できるわけでなく、通常業務をこなしながらやらなければいけない。ニセコ町の場合は総務課が担当されているので、通常の業務も幅広いことは想像に難くない。 そのうえ、当然だが防災や原発やシミュレーションの専門家でもないので、独自に学んだり研修に参加するなど、見えないところでの尽力もされている。一語一句のテープ起こしの会議録を作るだけでも大変な作業だ。 町長・副町長・担当職員が一丸となり、人的資源も予算もないなかで、町民の安全のためにベストな防災計画を作るぞ!という情熱を燃やしているのだ。 つづく |