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福島県内小児甲状腺がんの

予備的疫学調査報告


環境総合研究所
(東京都目黒区)
Environmental Research Institute, Tokyo
青山貞一,  鷹取敦,  池田こみち

掲載月日:2013年11月28日, 12月1日拡充
独立系メディア E-wave Tokyo

無断転載禁
◆環境総合研究所(東京都)・福島県内小児甲状腺がんの予備的疫学調査
◆青山貞一:甲状腺(ホルモン)システムと甲状腺がんについて
 
◆鷹取敦:放射性ヨウ素による内部被ばくと小児甲状腺がん 

はじめに

 2011年3月11日の東日本大震災の直後に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故に関連し、初期段階でヨウ素131,セシウム134,137など大量の放射性物質が周辺地域に移流、拡散、沈降し、多くの住民が影響を受けることとなった。

 これに関連し、福島県は県民健康調査を行うとともに「県民健康管理調査「甲状腺検査」の実施状況について」なる報告資料を公表している。
http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/251127siryou1.pdf

 それによれば、県内小児を対象に甲状腺がん検査が平成23年度(2011年)、平成24年度(2012年)、平成25年度(2013年)と、過去3回にわたり実施されてきた。 小児の甲状腺がんについては、甲状腺がんの種類が分かった例のほとんど(たとえば27例中26例)は乳頭がんであるとされている。

 この乳頭がんは、被ばくによってがん細胞ができてから検査によって発見できる大きさになるまで、ある程度時間がかかる。したがって、上述の平成23年、平成24年など比較的早期での検査において悪性ないし悪性疑いがある甲状腺がんが見つかるかという問題がある。

 ※乳頭がんについては、巻末の資料を参照のこと。


図1 甲状腺の位置 出典:旭川医科大学公式Web


図2 甲状腺と副甲状腺  Source:Englsish Wikipedia


図3 甲状腺がんのイメージ 右側の白いおでき状のものが「甲状腺がん」

 ※上のイメージ図を見ると、甲状腺がん、とくに乳腺がんができた
   場合、それなりの大きさになれば、自分で触っても分かるという
   こと、すなわち触診の意味が分かる。上のイメージ図は片方だけ
   にがんがある場合だが,実際には両方にシンメトリーにできること
   もあるそうだ。


図4 甲状腺の位置 出典:がん治療ナビ


1.調査対象グループと一次検査受診者数(母数)

 本予備的疫学調査では、平成23年度(2011年)、平成24年度(2012年)、平成25年度(2013年)と、過去3回にわたり行われてきた福島県「県民健康管理調査」の結果をもとに、以下のように検査を受けた小児の母数グループを5つに分け、コントロールに類するグループと他のグループの悪性ないし悪性疑い例数の比較を試みるとともに、全国規模での小児がんの罹患率との対比を試みた。

 ただし、全国規模での過去の罹患率では、福島県内で行われている検査と同じ方法で行われていないことから、全国規模での過去(3.11以前)の小児がんの罹患率との対比は、あくまでも参考である。疫学調査は、あくまで同一の検査方法を前提としている。

 ただし、第一グループは平成23年調査、第二、第三、第四グループは平成24年調査、第五グループは平成25年調査の調査対象をベースとしている。

 それぞれのグループの母数は37,997人から53,838人となっている。また原発事故時から現在に至る空間放射線量率に関しては、第一グループは高位、第二グループ、第三、第四グループは中位、第五位クループは低位である。


図5 福島県市町村図  出典:Mapion

第一グループ 平成23年度調査
(川俣町、浪江町、飯舘村、南相馬市、伊達市、田村市
 広野町、楢葉町、川内村、大熊町、双葉町。葛尾村)
 一次検査受診者 41,493人 

第二グループ 平成24年度調査
 (福島市)
 一次検査受診者 47,030人

第三グループ 平成24年度調査
 (郡山市)
 一次検査受診者 53,838人

第四グループ 平成24年度調査
 (二本松市、本宮市、大玉村、白河市、天栄村、西郷村、
  桑折町、国見町、三春町、泉崎村、いわき市など)
 一次検査受診者 37,997人

第五グループ  平成25年度調査
 (いわき市、 須賀川市、 相馬市、 鏡石町 新地町 )
 一次検査受診者 58,427人

出典:【第13回 福島県「県民健康管理調査」検討委員会資料】
 県民健康管理調査「甲状腺検査」の実施状況について
http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/251127siryou1.pdf


2.グループごとの悪性ないし悪性疑い例数(人) 

第一グループ レベル高 平成23年度調査
 (川俣町、浪江町、飯舘村、南相馬市、伊達市、田村市
  広野町、楢葉町、川内村、大熊町、双葉町。葛尾村)
  悪性ないし悪性疑い例数(人) 13人

第二グループ(福島市)レベル中 平成24年度調査
  悪性ないし悪性疑い例数(人) 12人

第三グループ(郡山市)レベル中 平成23年度調査
  悪性ないし悪性疑い例数(人) 16人

第四グループ レベル中 平成24年度調査
 (二本松市、本宮市、大玉村、白河市、天栄村、西郷村、
  桑折町、国見町、三春町、泉崎村、いわき市など)
  悪性ないし悪性 疑い例数(人) 16人

第五グループ レベル低 平成25年度調査
  (いわき市 須賀川市 相馬市 鏡石町
  悪性ないし悪性疑い例数(人) 1人

出典:【第13回 福島県「県民健康管理調査」検討委員会資料】
 県民健康管理調査「甲状腺検査」の実施状況について
http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/251127siryou1.pdf


3.グループ間での 悪性ないし悪性疑い例数の比較

 周知のように、疫学調査は、あくまで同一の検査方法を前提としている。

 本来、バックグランドあるいはコントロールデータとして、福島第一原発事故による放射性ヨウ素の移流、拡散からの呼吸による吸入や飲食による摂取の影響をほとんど受けないグループがあり、そのグループに対して福島県内で行われてきた検査方法と同じデータがあれば比較が可能である。

 しかし、現時点では、そのようなグループのデータが手元に存在しないので、第五グループをバックグランドあるいはコントロールデータと見立て、第五グループの悪性ないし悪性疑い例数に対する他のグループの悪性ないし悪性疑い例数の比を求めてみた。

表1 低汚染グループに比べた中高汚染グループの 
   悪性ないし悪性疑い例数の比率
第一グループ/第五グループ  13倍
第二グループ/第五グループ  12倍
第三グループ/第五グループ  16倍
第四グループ/第五グループ  16倍
註)第五グループをコントロールとした

 上の表から分かるように、福島県内で福島第一原発事故による放射性物質の移流、拡散、沈降などによって空間放射線レベルが高い地域は、比較的低い地域に比べ12〜16倍、悪性ないし悪性疑い例数が多いことが分かった。

 次に、第五グループの検診者数に、他のグループの検診者数を補正した上で悪性ないし悪性疑い例数を算出し、倍数を求めると以下のようになった。

表2 低汚染グループに比べた中高汚染グループの 
   悪性ないし悪性疑い例数の比率
第一グループ/第五グループ  14倍
第二グループ/第五グループ  15倍
第三グループ/第五グループ  17倍
第四グループ/第五グループ  25倍
註)第五グループをコントロールとした

 補正後の比率で補正前と大きく変わったのは、第四グループであり25倍となった。他のグループは大きく変わっていない。

 なお、中位汚染グループの方が高位汚染グループよりも悪性ないし悪性疑い例数が多い理由は、いくつか考えられるが、高位地域は、いわゆるPAZ(原発から10数km)、UPZ(30kmまで)に位置しており、事故後、大きな放出が起きる以前に、福島県内、県外の汚染レベルが低い地域に避難していることもありうる。

 また避難指示等の経緯をみると、第一グループのうち、楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町の南部、川内村の東部は大きな放出がある前に避難指示区域となっている。避難指示がなくても自主的に避難した住民がいることも考えられる。

◆参考:避難指示等の経緯
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/1/01240331.pdf

 今後、福島県内の他地域における調査、全国各地で同様の調査が進めば、さらに詳しい実態が把握できるものと思われる。


4.小児甲状腺がんに限っての全国平均(2008)との対比

 繰り返すが、甲状腺がんは自覚症状等がなければ健康診断等で検査されることはないため、子供の頃には潜在化している可能性がある。これは原発事故時以降も以前も同様である。

 国立がん研究センターのがん統計(以下のPDFにあるグラフ)によると、甲状腺がんは大人で人口10万人あたり女性が22人、男性が12人くらいがピークとなっており、0−19歳の甲状腺は以下の2008年のデータでは、10歳まではほとんどなく、10歳から19歳までの区間で2〜3名であることが分かる。


図6  部位毎の集計(甲状腺がん)の年齢別罹患数(10万人当たり)
出典:国立がんセンター がん情報サービス
http://ganjoho.jp/pro/statistics/gdball.html?16%2%2


図7  部位毎の集計(甲状腺がん)による年齢別死亡数(10万人当たり)
出典:国立がんセンター がん情報サービス
http://ganjoho.jp/pro/statistics/gdball.html?16%2%2


図8 経年別年齢別の甲状腺がん(男性)(10万人当たり)
出典:国立がんセンター がん情報サービス
http://ganjoho.jp/pro/statistics/gdball.html?16%2%2


図9 経年別年齢別の甲状腺がん(女性)(10万人当たり)
出典:国立がんセンター がん情報サービス
http://ganjoho.jp/pro/statistics/gdball.html?16%2%2


図10 図9の拡大グラフ(10万人当たり)

 ただし、これら国立がん研究センターの統計データは、現在福島県内で行われている検査方法と異なり、年次も2008年なので、本来、コントロールデータとしては使えない。

 ここでは、仮に国立がん研究センターセンターの2008年データ、すなわち小児甲状腺がん(0−19歳)の例数を10万人中、男女合計で2名とした場合、グループ1〜4との単純対比は、表2のようになる。

表3 全国平均罹患率と各グループとの対比 
   悪性ないし悪性疑い例数の比率
第一グループ/全国罹患率  16倍
第二グループ/全国罹患率  13倍
第三グループ/全国罹患率  15倍
第四グループ/全国罹患率  21倍
註)全国罹患率をコントロールとした

 これは、第五グループと他のグループとの単純対比に近い倍率である。すなわちグループ5をコントロールデータとせず、全国の罹患率をコントロールデータとした場合でも、第一グループから第四グループの倍率は大きく変わらないことが分かった。

 上記は今後の調査により、より精度を高めたいと考える。

 この問題を明らかにするため、現在、福島第一原発から遠く離れた複数の地域(県)で小児を対象とした甲状腺がんの健康診断を行っている。これにより、原発事故を原因とする甲状腺がんであるかどうかについても、それなりに明らかになるものと思われる。

 また、今後、同じ被験者を対象に年度を追って継続的な調査を行うことにより、同一被験者が新たに悪性ないし悪性疑い例となる可能性もありうる。


5.小児がん全般を含めての罹患率の推定

 がんには、胃がん、陰茎がん、各骨軟部腫瘍、肝臓がん、甲状腺がん、後腹膜腫瘍、骨転移、子宮がん、食道がん、腎がん、腎盂尿管がん、膵臓がん、精巣がん、前立腺がん、大腸がん、胆道がん、頭頸部がん、乳がん、肺がん、副腎がん、膀胱がん、卵巣がんなどがある。

 甲状腺がんは、上記のがんのひとつである。

 小児がん専門委員会報告書 -(厚生労働省)によれば、過去における小児がん全体の罹患率は、以下に示すとおりとなっている。罹患率は人口10万人当たりの小児がん数(人数)で表される。


図11 年齢別小児がん罹患率

出典:小児がん専門委員会報告書 -(厚生労働省)


 以下によれば、0−4歳の罹患率は高く12人程度、それ以外は6人から10人であり、小児全体の10万人当たりのがんの罹患率は約10人と推察される。

 ただし、このデータは2005年以前のものであり、2011年3月に起きた福島第一原発事故による影響、とくに甲状腺がんの人数は含まれていない。また、小児の甲状腺がん検診はふだん行われていないことから、事故前の人数には現在福島県で行っているような甲状腺がんの検査は行われていない。

 ここで上記の小児がん罹患率と小児甲状腺がんの罹患率について考察してみたい。

 例として福島県内の第二グループ+第三グループを罹患率の母集団(第一次検査者)とすると、  47,030人+ 53,838人 = 100, 868人となり、約10万人となる。それに対する悪性ないし悪性疑い例数は、12人 + 16人=28人となる。
 
 すなわち福島市と郡山市を合わせた10万人単位の罹患率は28人となり、全国規模の小児がん罹患率、10人の2.8倍となることが分かる。

 一方、福島市と郡山市にも甲状腺がん以外の通常の小児がんの罹患率10人があらかじめあることを前提とすると、

 福島市+郡山市 の総合小児がん罹患率は、38人 となり全国平均の3.8倍となることも分かった。
 

◆チェルノブイリ事故における小児甲状腺がんについて

 チェルノブイリ事故(1986)では、子供、特に幼児に甲状腺がんが多発したことが知られている。1986〜1997年のグラフをみると、事故から4年後の1990年以降、甲状腺がんの症例数が激増していることがわかる。とくに事故時に0〜4歳だった人の甲状腺がんの症例数の伸びが著しい。

出典:ベラルーシでチェルノブイリ事故による甲状腺がんと診断された症例数
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-02-03-12
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09020312/05.gif


図12 ベラルーシでチェルノブイリ事故による甲状腺がんと診断された症例数

 チェルノブイリ事故の場合、吸入(呼吸)による放射性ヨウ素の吸入に加えて、事故が隠され、汚染された牛乳を子供が飲み続けたことから、甲状腺被ばくが著しく大きく、地域によっては甲状腺等価線量で3Sv(3000mSv)を超える被ばくがあり、半数が200〜500mSvだった。(参考文献1,2より)

参考文献1: E. Cardis et al., Cancer consequences of the Chernobyl
accident: 20 years on J. Radiol. Prot. 26, 127 (2006)
参考文献2:UNSCEAR報告書(2008年)及び放医研論文(NIRS-M-252)から

 福島の甲状腺検査は全数調査なので、子供も検査を受けている。それにも関わらず、甲状腺がんがでやすいはずの幼児にでていないのが、まだ顕在化していないのだろうと推測できる。

参考 ◆甲状腺がんとは

 甲状腺は頸部の正面下方に、喉頭(のどぼとけ)につづく気管を取り巻くように、位置する。蝶のような形でサイロキシンという全身の細胞の新陳代謝に関与するホルモンを分泌する。ここに発生する甲状腺がんは5種類の組織型別に、頻度、悪性度、転移の起こり方などに、それぞれ特徴がある(以下の表参照)。

表4 組織型別にみた甲状腺がん(1997-2007, 386例)
組織型 分化がん 低分化がん 髄様がん 未分化がん
乳頭がん 濾胞がん
頻度 92% 3% 2% 2% 2%
好発年齢(平均 52-54歳 59歳 52歳 高 年
腫瘍の発育 穏 や か やや激しい 散発性は種々 激しい
周囲への浸潤 49% 17% 89% 87% 強い
頸部リンパ節
転移
69% 0% 89% 87%
血行性転移 7% 17% 44% 0%
治療法 外科的 集学的
10年生存率 92% 100% 56%(5年) 73%
その他の特徴 手術時、濾胞腺腫、のち血行転移発生し、がんとわかる例がある 乳頭がんや濾胞がんの中で、低分化成分が含まれるがんである。 家族性発生がある. 血中カルトシトニンが腫瘍マーカーである 約半数は経過の長い分化がんから発生する

 甲状腺がんの頻度は、全がん症例の1%程度である。性別は女性に多く、男性の約3倍であり、また年齢では、50代、40代、30代の順に多い。

 最も多く、最も予後のよい乳頭がんはリンパ節転移をよく起こし、硬いしこり(腫瘤)をつくる。つぎに多い濾胞がんは肺や骨へ転移しやすく、良性のしこりに似る。これを分化がんとまとめる。カルシトニンをつくる細胞から発生する髄様がんは遺伝性のものがある。これに対して未分化がんは幸い少ないが(2%)、全身のがんの中、もっとも悪性である。

 主訴のうち一番多いのは、甲状腺のしこりである。それは殆どの場合に自覚症状がない。つまり何の痛みも異物感も感じない。たまたま鏡で見てはれていることをみつけたり、何気なくさわってみてわかったり、人にいわれたり、職場の定期検診でみつけられたり、他の疾患で受診して、その医師に指摘されたといったことを契機にして、甲状腺腫に気づき、当科を訪れている。

 二番目に多い主訴は頸部リンパ節腫大であり、これも自覚症状がないことが多い。これは、まずリンパ節転移がさきに見つかって、あとから本来の原発巣が甲状腺とわかる場合である。

 少しずつでも大きくなる傾向にある甲状腺腫と頸部リンパ節の腫大は、専門医に診てもらわなくてはならない。

 甲状腺がんの診断には触診が重要である。がんらしい硬さ、不平滑な表面と形、そしてその可動性を診ることによって70〜90%まで診断はつく。さらに次のような検査が行われる。

出典:愛知県がんセンター中央病院