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放射性ヨウ素による内部被ばくと

小児甲状腺がん


鷹取 敦

掲載月日:2013年11月30日
 独立系メディア E−wave
無断転載禁

◆環境総合研究所(東京都)・福島県内小児甲状腺がんの予備的疫学調査
◆青山貞一:甲状腺(ホルモン)システムと甲状腺がんについて
 
◆鷹取敦:放射性ヨウ素による内部被ばくと小児甲状腺がん 

 チェルノブイリ事故では、原子力発電所4号炉が炉心溶融、その後、爆発し、火災が10日間続いたことで、大量の放射性物質が環境中に放出され続けました。

 そして、1992年〜2002年までにベラルーシ、ロシア、ウクライナで、事故のとき0〜18才だった人の甲状腺ガンが4000例以上報告されるという大きな健康被害が発生しました。そのうち0〜14才が3000例以上あります。

※出典:チェルノブイリ事故による放射線影響と健康障害 (09-03-01-12)
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=09-03-01-12

 当時のソ連政府は事故を公表せず、すぐに周辺住民の避難も食品の規制も行われなかったため、住民は高いレベルの外部被ばく、そして呼吸や食べ物を経由した内部被ばくにさらされました。

 甲状腺がんは、放射性ヨウ素の呼吸を通じた摂取(吸入摂取)と、食べ物・飲み物を通じた摂取(経口摂取)によって、特に年齢の低い子供の発症が増加することが分かっています。

 チェルノブイリ事故では、放射性ヨウ素を含む汚染を呼吸で吸入することに加えて、食品制限が遅れたことにより牛乳を経由した摂取が大きかったことが分かっています。

 京都大学原子炉実験所の今中哲治助教の推計(下記の表に引用)によると、牛乳を飲んでいた人、特に0〜7才で、「経口」つまり飲食経由の甲状腺被ばくが大きいこと、0〜7才はそれ以上の年齢より5倍程度「経口」の甲状腺被ばくが大きいことが分かります。

 なお、表ではレム単位で示されていますが、1Sv=100レムなので、例えば表の中で一番大きい3,200レム=32Sv=32,000mSv(甲状腺等価線量と思われます)ということになり、いかに大きな甲状腺被ばくがあったかが分かります。

表:避難民全体の甲状腺被曝の見積り
地域 グループ  人数 取込み経路別線量(レム)
吸入 経口 合計
プリピャチ市  子供   25 0 25 
大人   14 0 14 
3〜15km 牛乳を飲まなかった子供 1200 560 0 560
牛乳を飲んでいた子供 1200 560 2600 3200
牛乳を飲まなかった大人 1万800 310 0 310
牛乳を飲んでいた大人 1万800 310 430 740
子供平均 2400     1900
大人平均 2万1600     500
15〜30km 牛乳を飲まなかった子供 3300 63 0 63
牛乳を飲んでいた子供 3300 63 290 350
牛乳を飲まなかった大人 2万9700 35 0 35
牛乳を飲んでいた大人 2万9700 35 49 84
子供平均 6600     210
大人平均 5万9400     60
子供の年令は0〜7才、大人は7才以上

出典:今中哲治、「チェルノブイリ原発事故による放射能汚染と被災者たち(3) 」
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/GN/GN9207.html

 その結果、下記のグラフに示されるように、子供の甲状腺がんの症例数が、事故4年後くらいから、急増していることが分かっています。年齢別の症例数をみると、とくに0〜4歳で顕著に多く、5〜9歳、10〜14歳と事故時の年齢が上がるにつれて、甲状腺がんと診断された症例数が少ないことが分かります。



出典:ベラルーシでチェルノブイリ事故による甲状腺がんと診断された症例数
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-02-03-12
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09020312/05.gif

 チェルノブイリ事故でも福島第一原発事故でも、放射性ヨウ素は主に稼働中の原子炉内で生成され、事故によって大量に放出されました。半減期が8日間と短いため、環境中や停止した原子炉内に存在する時間は短く、半月で4分の1に、1ヶ月で約10分の1に、2ヶ月で約100分の1に、3ヶ月で約0.04%にと急激に減少します。

 したがって事故直後の吸入、経口による摂取を避けることが非常に重要です。当時のソ連が事故が起きたことを当初、隠蔽し、食品の検査や流通制限を行わなかったことにより多くの小児甲状腺がんを発生させる結果になったということになります。放射性ヨウ素が環境中から無くなった後に出来ることは、甲状腺がんの検査を継続することで早期に対応の判断をすることしかありません。


追記(福島第一原発事故における吸入と経口の割合について):

 なお、福島原発事故の場合は、吸入と経口の割合は推計が難しいようです。

 甲状腺被ばくを直接測定するためには、のどの甲状腺の位置に線量計を当てて測定します。下記の報告書のP.8にはスクリーニング法の写真が掲載されています。この方法では、吸入と経口の合計の被ばく量が分かるだけなので、吸入と経口の内訳を出すには前提をおいて推計計算をする必要があります。

平成24年度原子力災害影響調査等事業「事故初期のヨウ素等短半期による内部被ばく線量評価調査」放射線医学総合研究所
http://clearinghouse.main.jp/web/env_0016.pdf


上記報告書より甲状腺測定方法の写真(P.8)

 上記の報告書では、いろいろな前提や手法を変えて、放射性ヨウ素による内部被ばくの推計を試みていますが(半数が10mSv未満、線量の高い地域の小児で30mSvの甲状腺等価線量と推計したものの多くの不確かさ要因があると注記)、経口と吸入の割合については、摂取量の個人差や食品中の濃度プロファイルの不確かさ等から、推計困難として断念した旨記述されています。

 地震のために牛乳の流通は止まっていたことから、福島原発事故では経口摂取が割合がチェルノブイリ事故と比較して少ないと考えられていますが、水の汚染がありそれを飲んだ人がいるのではと指摘する人もいます。いずれにしても摂取と汚染の関係把握のは、半減期の短いヨウ素131を後になってから測定できないので難しいようです。