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学術の世界も「格差社会」(2)
〜国際ダイオキシン会議始まる〜

青山貞一

武藏工業大学大学院教授
株式会社環境総合研究所所長

掲載日:2007年9月5日、7日拡充



 この9月3日から国際ダイオキシン会議(学会)が東京都港区虎ノ門のホテルオークラで始まった。

 この国際会議の参加料(登録料)が一人9万円と高額であることは、5月2日、以下のブログに書いた。貧しい学者、研究者、またNPO、途上国からの研究者にとっては、この登録料が大きな参加障壁となっている。すなわち学術の世界にも「格差社会」が押し寄せているのだ。
 
◆青山貞一:学術の世界も「格差社会」(1)
  〜国際ダイオキシン会議 in 東京〜
  http://eritokyo.jp/independent/aoyama-col8102.html


 この国際ダイオキシン会議(学会)に、私たち環境総合研究所(途中から武蔵工大青山研究室も)からは、過去、2001年の韓国・慶州大会、2002年のスペイン・バルセロナ大会、2003年の米国・ボストン大会、2004年のドイツ・ベルリン大会に青山、池田が、2005年のカナダ・トロント大会に鷹取が英論文を多数提出し、発表してきた。


韓国慶州大会で口頭発表する池田さん。
米国環境保護庁EPAや英国環境省から質問を受けた。



米国EPAで野菜・植物中のダイオキシンを研究している研究者等と。
所沢のほうれんそうに非常に興味を持たれ帰国後、データを送った。
バルセロナ大会にて



ボストン大会で宮田教授と。このときは日米の5種類の銘柄のタバコに
含まれるダイオキシンのリスクについて発表。17カ国の研究者から
質問を受けるなど国際的に大反響となった。



ベルリン大会(ベルリン工科大学)で松葉ダイオキシン研究論文を
発表する池田さん。会場は大学で十分だ。


 トロント大会に続く2006年のノルウェーは参加費(登録費)+旅費+滞在費が合計でひとり40万円を超すことが分かり欠席となった。

 環境総合研究所から国際会議で過去発表した論文タイトルは以下の通りである。

Dioxin Related Research Papers in Internatiol Symposium 
on Halogenated Environmental Organic Pollutants and POPs

 http://eritokyo.jp/eri-english/eri-dioxin-conference.html


 今年は上述のように東京での開催となり、環境総研から以下の2本の英論文を提出し、3日から発表に入っている。

 P-086 RELEVANCE OF PAHs EMITTED FROM AUTOMOBILES
  MONITORED BY PINE NEEDLES IN TOKYO, JAPAN
  Takatori A, Ikeda K, Saito M, Aoyama T

 P-087 PBDEs LEVELS IN PINE NEEDLES AFFECTED
  BY MUNICIPAL SOLID WASTE MELTING FURNACES IN JAPAN
  Ikeda K, Takatori A, Saito M, Aoyama T


今年の大会(東京)にて。池田さん(環境総研)と
カナダのトロントから来たテリーさん。テリーさんの
マクサム社が私たちの研究を分析面で支えてくれている。
マクサム社はカナダ随一、北米第二の分析機関。



今年の大会(東京)にて。緊張の面持ち?鷹取さん(環境総研)

 東京大会には多くの課題があると思う。そこで、ホテルオークラの国際学会に連日、参加している池田こみちさんと鷹取敦さんからの報告をまじえ、以下にそれらの課題について述べてみたい。

 ひとつの大きな問題は、参加費(登録料)が非常に高額なことだ。すでに(先のブログにも書いたが、早期割引でもひとり9万円(バンケット参加費1万円を含め)である。

 海外、とくに欧米からこの時期東京にくるとなると、@登録料が高額なことに加え、Aこの時期の航空運賃がすべてあわせエコノミーでも20万円以上となること、B推奨ホテルのホテルオークラはじめ都心のホテルが高いこと、C東京での滞在費が世界一高いこともなど、ノルウェー大会を上回る出費となり、当初、登録者数は非常に少なく、開催が危ぶまれるほどであり、何度となく論文発表期限や登録期限が延期されていた。

 しかも、いつもは早々に示されるいわゆる開催国の実行委員会の役員名、審査委員名が国際会議の公式Webに8月中旬頃まで掲載されなかった。池田こみちさんが事務局にメールで問い合わせるも、何と、なしのつぶてだったのである。

 最終的に国内実行委員会の役員名、審査委員名が開催直前の8月上旬に公表された。

 このことから、環境省が所管する独立行政法人、財団、北海道大学から熊本県立大学までの全国の大学、そして、関連の民間企業に大規模な動員をかけ、参加者とともに、出展ブースなどへの参加を増やしたことが窺える。主催者側からの報告では最終的な参加人数は1000人46カ国とのことだ。

 以下は国内実行委員会(
National Organizing Committee & Local Organizing Committee)の役員名簿である。ただし、冒頭には国際委員会名簿がある。その後の120名に及ぶのが国内実行委員会の委員リストである。
 http://www.dioxin2007.org/data/committee.html

 私の知る限り、この国内実行委員会の委員の中には、ダイオキシンをはじめとするPOPsの常連研究者もいるにはいるが、環境省(旧厚生省)系の独立行政法人、公益法人系、分析機器メーカー、分析会社、製薬会社、焼却炉メーカーの人々が名を連ねている。

 そこで過去に論文を出した人がどれくらい係わっているかチェックしてみた。全部の年度を調べるのは困難なので とりあえず2001年9月の韓国慶州大会での研究発表者リストを照合してみた。すると以下のいまだかつてない総勢120人の委員のうち、約50人しか研究発表していないことがわかった。他の年度に参加しているひとはいるだろうが、そもそも120人というのが、どうみても不自然である。

 さらに2003年9月の米国ボストン大会での研究発表者リストを照合したところ、120名のうち、何と17名しか発表していないことが分かった。120名のうちわずか17名である。国内の実行委員会は、研究発表する研究者ではなく、別の理由にで急遽かき集められたのではないかという疑義がある。

 その後分かったことをあわせると、ダイオキシン等の有害化学物質を研究し、国際会議(学会)で発表している人というよりは、有害化学物質関連の「産」「官」「学」動員リストという色彩が色濃く出ていると言わざるを得ないのである。委員(=「動員リスト」)は、単に参加者(登録者)を集めるためだけでなく、所属する機関、会社などから賛助金を集めた可能性もある。

 9月3日、鷹取さんが会場で実行委員会の主要メンバーの一人にこれを直に問いただしたところ、「委員には賛助金集めが課せられ相当額を頑張って集めた」とのことだった。120人もの委員を集めた目的は参加者集めよりもむしろ資金集めだった可能性もある。

 果たして、こんなことまでして、ことダイオキシン問題の国際会議を東京で開催する意味があるのだろうか?

 本来、国際的なダイオキシンなどPOPsに関連した学術交流会議が、研究発表以前に、国策的に国威発揚の場となっていることもおかしい。そもそも直前に大臣になった鴨下環境大臣は、何とこの翌日から「政治とカネ」のスキャンダルまみれになっている。ダイオキシン以前にご自身の汚染をどうにかして欲しいものだ。

 こんなことで結果として、高額の登録料となり、賄いきれない費用をダイオキシン研究をしていないひとびとや機関から賛助金などの名目で集めていたのだとすれば、これはもう、本末転倒である。いかにも日本らしい。

 事実、今回の東京大会は、やたら大臣や知事など為政者、政治家が挨拶していたし、派手なオープニングイベントをしていた。

 1999年のUNEPデータによると、日本は世界中で輩出される排ガス系ダイオキシンの1/2,半分を一国で排出していた。この年の2月に所沢ダイオキシン騒動が起きている。昨年はあのセベソの大事故からちょうど30年に当たる年である。本来、東京で敢えて国際会議をするなら、それらの歴史的事件や事柄にもっと留意すべきではないのだろうか?

 ........
 
 2001年の韓国・慶州大会同様、日本人が多かったことは間違いない。式では、皇太子殿下が歓迎の辞を述べられたこともあり、会場は厳重な警戒態勢がしかれ、参加者は空港並みの検査を受け、早い段階から座らされて窮屈を強いられた。

 また、オープニングセレモニーに就任間もない環境大臣やごみ問題では日の出町の広域処分場を強行し土地収用法の改正までさせた石原都知事が挨拶し、例によって「中国は何も環境問題を考えていない」といった中国批判をしたのでは、せっかくの歓迎レセプションも興ざめだ。

 3日にわかったのだが、初日のオープニングセレモニーに参集した参加者は、推定900名〜1000名とのことだ。

 この国際会議は、いつも同時通訳はない。東京会議でも英語だけ、同時通訳はない。単純に1000人×9万円とすると、参加料だけで9000万円となる、それに賛助金が加わると、おそらく1億円を優に超す。

 冒頭述べたように、大学施設を使えば、この時期、6日間使っても無償ないし、学術会議であれば借料は最大でも数100万円程度であろう。

 実際、ベルリン工科大学で開催したときは、かなり老朽化した施設だったが、十分研究発表はできた。食事などは大学ちょっと離れたところで立食でOKだった。オープニングのイベントは、女子学生による弦楽四重奏(曲は確かバッハなど)だった。このときから、予稿集は印刷製本を辞め、CDROMとなっていた。他の大会でもオープニングセレモニーはあったが、バルセロナでもボストンでも、ベルリンに準ずるものだった。

 どうみても東京のそれは、イベント会社主導の巨額の費用をかけた見せ物、イベントである。依然としてダイオキシン大国である日本の中心地、東京で開催する大会に似つかわしくないものである。是非、会計報告の詳細を明らかにすべきだと思う。

 そもそも、なぜこの国際会議が、通常無償に近い費用で施設を借りられる大学で開催してはいけないのか? 私の大学ではこの種の学術会議、学会には最新の設備、施設をほとんど無償で施設を貸している。

 なぜ、国際ダイオキシン会議に無関係無い冒頭のイベントが必要なのか?イベントは海外からの参加者には概ね好評だったようだが、その分、参加費が高くなっていたのでは本末転倒である。いろいろな面で疑問の多い今回の会議である。

 それになぜ、学会の場に今や世界中から顰蹙を買っている「日本の閣僚」や公然と近隣アジア諸国に対する侮辱的発言をはばからない知事を呼ぶ必要があるのか?

 もちろん、海外以外に日本から毎年国際会議に論文を提出している友人、知人もいるにはいるが、一段と「学術の世界も『格差社会』」をことさら強く感じさせる大会となっていることは間違いないようだ。

 アフリカや中南米からの報告のセッションでは、こうしたシンポジウムに若い学生や研究者も参加したいが、資金が不足していてままならないという訴えも聞かれた(池田さんのポスターに寄ってきた研究者)。

 7日のバンケットで、アフリカのウガンダやガーナの政府から来ていた方とも話しましたがやはり高いので若い学生などが参加できなかったとぼやいていました(池田さん談)。

 この他にもいろいろ、なぜ、なんでという疑問があるが、これについては終了後に総括したい。

 

つづく