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論点
日本人のマスメディア
<鵜呑み度>は世界一
青山貞一
東京都市大学名誉教授
掲載月日:2013年2月17日 
独立系メディア E−wave
 無断転載禁


 日本を覆っているおかしな空気を作り出している元凶の一つが新聞、テレビなどのマスメディアである。

 以前から指摘されていたことではあるが、3.11 以降、マスメディアの劣化は著しく、社会の木鐸としての役割を果たしていないどころか、最低限の事実情報の伝達でさえまともに出来ていないことは誰もが否定し難い状況となっている。

 インターネットの普及に伴い、このところ新聞・テレビ離れが著しいとは言うものの、日本人のマスメディア依存性は依然として極めて高いものがある。

 日本リサーチセンターが実施し2000 年に公表した先進国、発展途上国、資本主義国、社会主義国を問わず各国の国民が、いかなる組織に信頼を置いているかを調べた「世界60 カ国価値観データブック」の調査結果からその特徴を見てみよう。

 日本とイギリスを比較すると、日本国民の圧倒的多数(70%以上)が新聞などマスメディアに信頼をおいているのに対し、イギリス国民はマスメディアをわずか14%しか信頼していない。

 他の先進国を見てみると、米国もイギリス同様の傾向を示している。米国民のマスメディアの信頼性は26%に過ぎない。カナダ36%、イタリア34%、フランス35%、ドイツ36%、ロシア29%である。逆に日本(70%)に近い国を探すと、中国が64%、インド60%、フィリピン70%、ナイジェリア63%と、いずれも発展途上国となっている。

 要約的に言えば日本国民は新聞、テレビなどマスメディアの情報を先進国の中で最も無批判に信頼しているということを意味している。

 信頼しているというと聞こえが良いが、要は日本国民は自分の頭で考えず、マスメディアからの情報を鵜呑みにしているということである。そこで、私達はこれを<鵜呑み度>と名付けた。日本国民は世界一マスメディアを鵜呑みにする国民ということになる。

 日本国民の<鵜呑み度>を裏付ける別の調査結果が多数ある。たとえば米国の著名な世論調査会社、ギャラップ社による日本人のマスメディア信頼度調査によると、日本国民の73%〜74%が新聞、テレビなどのマスメディアを信頼する、となっている。

 日本リサーチセンターの国際調査結果と極めて近いことが分かる。 さらにノルド社会環境研究所が実施した「情報源の信頼性」と題する調査では情報源の信頼性について質問している。

 ここでも日本人の多くは、@マスメディア→A大学・研究機関→B企業・事業者→C市町村→D都道府県→E国の省庁→F衆議院・参議院→G政党(与党)の順で情報に信頼をおいていることが分かった。

 ノルドの調査結果から、日本国民は国の省庁や政治をほとんど信頼しておらず、圧倒的にテレビ、新聞などの情報を信頼していることが改めて浮き彫りになった 。

 さらに、公益財団法人 新聞通信調査会による全国世論調査の結果を発表したが、各メディアの情報の信頼度に関する質問で「全面的に信頼している」を100点とした場合、 NHKテレビが74点、新聞が71点、民放テレビは64点であった。

 以上、複数の調査結果から分かったことは、日本社会ではマスメディアが流す情報に国民が他の先進諸国ではありえないほど高い信頼をおいているということである。

 逆説すれば、新聞、テレビが提供する各種情報、とりわけ報道や解説によって国民の世論が形成されてきたことに他ならない。日本同様、鵜呑み度が高い国は、ナイジェリア、中国など、途上国と新興国である。

 さらに驚くべきことがある。上記の日本リサーチセンターの国際調査は5年に一度行われているが、2005年調査が2000年調査より<鵜呑み度>のポイントを上げている先進国は、日本だけであることだ。

 英国は14.2から12.5%、米国は26.3から23.4%、ドイツは35.6から28.6%など、先進諸国は軒並み<鵜呑み度>を下げている。韓国も64.9から61.7%、中国も64.3から58.4%と大幅に<鵜呑み度>を下げている。しかし、日本は70.2から72.5%と<鵜呑み度>を上げているのである。

 そのため、政府がマスメディアを利用して国民を正当な理由もなく、特定の方向に誘導しようとすれば、記者クラブや公共広告などを使って、いくらでも情報操作による世論誘導が可能となる。これが昨今の状況である。

 このような状況の中でマスメディアも協力して世論が作り出されている。さらに言えば、今の日本では、人口が3倍弱多い米国に比べて一桁多い発行部数が世界一の新聞と、全国的な系列ネットワークをもつテレビ局の情報操作により世論誘導される危険性があると言っても過言ではないだろう。

 事実、2005年5月、英国のセラフィールドで起きた大規模なプルトニウムの海洋流出事故は、欧米の新聞、テレビが一面、トップで大々的に報じたが、日本では通信社がベタ記事にしただけでマスメディアは一切報じなかった。

 ※昨年、私達は2014年に英国からの独立を審議するスコットランドに
   現地調査で出かけた際、スコットランドとイングランドの境界近くに
   あるセラフィールドに現地調査で出かけた。
   これについては別途ブログ化している。
   ◆青山貞一・池田こみち:英国セラフィールド核燃料再処理工場
   ◆青山貞一・池田こみち:セラフィールド工場がもたらす健康リスク

 2012年9月、ニューヨークタイムズ紙が「オスプレイは沖縄以外に配備すべし」という趣旨の社説をだし、やはり日本の通信社がベタで報じたが、マスメディアは一切無視した。当然のことながら、知らせないことも重要な情報操作であり世論誘導である。

 果たして日本が先進国以前に、そもそも民主主義国家であるのか、さらに独立国であるのか疑義を感ずることが多い昨今だが、この状況を根底から変えるためには、マスコミ<鵜呑み度>世界一の国民が変わることが必須条件であろう。