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ロシアの新しい外交政策、
プーチン ドクトリン
ロシアのNATOとの対立は
始まりに過ぎない
セルゲイ・カラガノフ著(3)
Russia’s new foreign policy, the Putin Doctrine
Moscow’s confrontation with NATO is just the start

Sergey Karaganov: RT  Feb.23 2022

翻訳:池田こみち(環境総合研究所顧問)
独立系メディア E-wave Tokyo 2022年3月1日
 
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<(3)本文>

■明日のロシアのための政策

 既存の世界秩序が崩壊しつつある今、ロシアにとって最も賢明な道は、できるだけ長くこの事態を静観し、「新孤立主義の要塞」の壁の中に身を隠し、国内の問題に対処することであろうと思われる。しかし、今回は、歴史がわれわれに行動を求めているのだ。私が暫定的に「建設的破壊」と呼んでいる外交政策アプローチに関する私の提案の多くは、上記の分析から自然に生まれてくるものである。

 エリートたちがロシアに対して新たな冷戦を始めるほど必死になっている西側諸国の内部力学に干渉したり、影響を与えようとしたりする必要はないのである。その代わりに私たちがすべきことは、軍事的なものを含む様々な外交手段を用いて、ある種のレッドラインを設定することである。一方、西側システムが道徳的、政治的、経済的劣化へと舵を切り続けるなか、非西側勢力(ロシアを主要プレーヤーとする)は、必然的に地政学的、地経学的、地理イデオロジー的立場を強化することになるであろう。

 西側諸国のパートナーは、予想通り、ロシアの安全保障の要求を封じ込め、外交プロセスを利用して、自国の制度を延命させようとしている。貿易、政治、文化、教育、医療などの問題で、有用であればいつでも対話や協力をあきらめる必要はない。

 しかし、私たちは今ある時間を使って、軍事的、政治的、心理的、さらには軍事技術的な圧力を強化しなければならない。ウクライナの人々は新しい冷戦のための大砲の餌にされてしまったが、それは、欧米の集団は考えを変え、過去数十年にわたって追求してきた政策から手を引かざるを得ないようにするためである。

 対立がエスカレートすることを恐れる必要は何もない。ロシアが西側諸国をなだめようとしている間にも、緊張が高まっているのを私たちは目の当たりにした。私たちがすべきことは、西側諸国からのより強い反発に備えることである。また、ロシアは、平和と協力に基づく新しい政治的枠組みという長期的な代替案を世界に提示することができるようになるはずである。

  「欧米は壊滅的な制裁で我々を威嚇することができる。しかし、
   我々は、欧米の経済を麻痺させ、社会全体を混乱させるよう
   な非対称の反応という独自の脅威で欧米を抑止することも
   可能である。」


 当然ながら、そのような事態に代わる互恵的な選択肢が存在することを、時折、パートナーに思い出させることは有効である。

 ロシアが合理的でありながら断固とした政策を(国内でも)実行すれば、西側の敵意の高まりにうまく(そして比較的平和的に)打ち勝つことができるだろう。以前にも書いたように、この冷戦に勝利する可能性は十分にある。

 また、楽観的なのは、ロシア自身の過去の実績である。私たちは、自分たちのため、そして人類全体のために、外国勢力の帝国的野心を何とか手なずけることに一度ならず成功してきたのだ。ロシアは帝国となるはずだった国々を手なずけ、比較的無害な隣人に変えることができたのである。ポルタヴァの戦いの後のスウェーデン、ボロジノ戦後のフランス、スターリングラードとベルリン戦後のドイツなどである。

 ロシアの新しい対西側政策のスローガンは、アレクサンダー・ブロックの「スキタイ人」の一節に見いだすことができる。「私たちに加わってください。戦争と戦争の警報から離れ、/平和と友好の手を握れ。/ まだ時間があるうちに、同志たちよ、武器を捨てよ / 真の友愛のために団結しよう!」

※注)アレクサンドル・アレクサンドロヴィチ・ブローク
 (Алекса́ндр Алекса́ндрович Блок,
  1880年11月28日(ユリウス暦11月16日) - 1921年8月7日)は、
  ロシアの詩人。ロシア・シンボリズムを代表する作家。


 欧米との関係を修復しようとするとき(たとえそれが苦い薬を必要とするとしても)、文化的に近いとはいえ、欧米諸国には時間がないことを忘れてはならない--実際、もう20年もそうである。欧米諸国は基本的にダメージ・コントロール・モードにあり、可能な限り協力を求めている。

 私たちの現在と未来における真の展望と課題は、東洋と南洋にあるのだ。西側諸国に対して強硬路線を取ることで、ロシアが東方への軸足を維持することに気を取られてはならない。この2、3年、特にウラル山脈を越えた地域の開発に関して、この軸足が鈍化しているのを我々は見てきた。

 ウクライナがロシアにとって安全保障上の脅威となることを許してはならない。とはいえ、そこに行政的・政治的(経済的は言うに及ばず)資源を費やしすぎるのは逆効果であろう。ロシアは、この不安定な状況を積極的に管理し、限界内に収めることを学ばなければならない。ウクライナの大部分は、自国の反国家的エリートによって去勢され、西側によって堕落し、過激なナショナリズムの病原体に感染している。

 それよりも、東方、シベリアの開発に投資する方がはるかに効果的だ。労働条件や生活環境を整えることで、ロシア人だけでなく、ウクライナ人など旧ロシア帝国の他の地域からも人を呼び寄せることができる。ウクライナ人は、歴史的にシベリアの発展に大きく寄与してきた。

 ここで、私の他の記事で述べたことを再確認しておこう。ロシアを大国にしたのは、イワン雷帝(イワンⅣ世)のシベリア編入であり、「最も平和な人」の異名を持つアレクセイ・ミハイロビッチ(モスクワ大公)のウクライナ編入ではないのである。

 ウクライナなしではロシアは大国になれないという、ズビグニュー・ブレジンスキーの不誠実な、そしていかにもポーランド的な主張を繰り返すのは、そろそろやめた方がいいのではないか。その逆の方がはるかに真実に近い。レーニンによって作られ、後にスターリンの下で西方に拡大した政治的実体である、ますます扱いにくくなるウクライナに負担をかけられては、ロシアは大国たりえない。

 ロシアにとって最も有望な道は、中国との関係を発展させ強化することである。北京とのパートナーシップは、両国の可能性を何倍にも高めるだろう。もし西側諸国が激しい敵対政策を続けるなら、中国との5年間の一時的な防衛同盟を検討するのも無理からぬことであろう。

 もちろん、中国路線で「成功に目がくらむ」ことで、近隣諸国を臣下にして成長した中世の中国王朝のモデルに戻らないよう注意も必要である。西側が仕掛けた新冷戦で、北京が一瞬でも敗北しないよう、できる限りの支援をするべきだ。

 その敗北は、われわれをも弱体化させる。それに、われわれは、西側諸国が勝っていると思ったときにどのような変貌を遂げるか、十分すぎるほど知っている。1990年代に権力に酔ったアメリカの二日酔いを治療するために、厳しい治療が必要だった。

 東方志向の政策が中国だけに焦点を当てるものであってはならないことは明らかである。世界の政治、経済、文化において東洋と南洋の両方が台頭しているが、その一因は、500年にわたる西洋の覇権の主要な源泉である軍事的優位性を我々が損ねたことにある。

 危険なほど時代遅れの既存の安全保障システムに代わって、新しいヨーロッパの安全保障システムを確立する時が来たら、それはより大きなユーラシア・プロジェクトの枠組みの中で行われなければならない。旧来のヨーロッパ・アトランティック体制からは、何一つ価値あるものは生まれない。

 国家の主権と安全保障のバックボーンである軍事力を支える経済的、技術的、科学的潜在力の開発と近代化が必要であることは自明である。ロシアは、大多数の国民の生活の質を向上させることなしに成功することはできない。ロシアが成功するためには、大多数の国民の生活の質を向上させることが不可欠である。これには、全体的な繁栄、医療、教育、環境などが含まれる。

 欧米という集団に対峙する際に避けられない政治的自由の制限は、決して知的領域にまで及んではならない。これは難しいことだが、達成可能なことだ。才能があり、創造的な思考を持ち、国に貢献しようとする国民の一部に対しては、可能な限り知的自由を維持しなければならない。ソ連式のシャラシカ(ソ連の労働キャンプ制度で運営されていた研究開発機関)による科学開発は、現代社会で通用するものではない。自由はロシア人の才能を伸ばし、発明はロシア人の血の中に流れている。外交においても、イデオロギー的な制約を受けない自由は、閉鎖的な隣国と比べ、大きなアドバンテージとなる。共産党政権が国民に課した思想の自由に対する残忍な制限が、ソ連を破滅に導いたことは歴史が教えている。個人の自由を守ることは、どの国でも発展のための必須条件である。

 私たちが社会として成長し、勝利を収めようとするならば、精神的なバックボーン、すなわち国家理念、団結して進むべき道を照らすイデオロギーを身につけることが絶対不可欠である。偉大な国家は、その核にそのような思想がなければ、真に偉大な国家になり得ないというのが、基本的な真理である。1970年代から80年代にかけての悲劇は、この点にある。願わくば、共産主義時代の痛みに根ざした新しいイデオロギーの推進に対する支配エリートの抵抗が薄れつつあることを期待したい。2021年10月のバルダイ・国際討論クラブ年次総会でのウラジーミル・プーチンの演説は、その点で強力な安心感を与えるシグナルとなった。

 ※注)ヴァルダイ国際討論クラブ(Valdai Discussion Club)
 専門家の分析センターで、2004年にロシアの大ノヴゴロドで設立された。同クラブの名称は最初の会議が行われた場所を讃える形で名付けられており、最初の会議がヴァルダイ湖(ロシア語版、英語版)の近くで開催されたことにちなむ。 ヴァルダイ・クラブの主な目的は、国際的な知的プラットフォームとして、専門家、政治家、公人やジャーナリストなどの間で開かれた意見交換を促進することであり、国際関係、政治、経済、安全保障、エネルギーあるいは他の分野における現在の地球規模の問題について先入観のない議論を行うことで、21世紀の世界秩序における主要な趨勢や推移を予測している。  ヴァルダイ・クラブの知的可能性は、ロシア国内外で非常に高く評価されている。長年にわたって、同クラブの会議には、世界62ヶ国から成る国際科学コミュニティーから900人以上の代表が出席している。後略(Wikipedia)


 増え続けるロシアの哲学者や作家と同様に、私は自分なりの「ロシアの思想」[3]のビジョンを提唱している。(私自身の出版物を再び参照しなければならなくなったことをお詫びする。)


(4)へつづく