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●異常な土建国家、ニッポン 少々古い数字だが、日本がいかに異常な土木系公共事業天国であるかを示す数値がある。 経済開発協力機構(OECD)が1990年代後半に行った調査データである。 それによると、日本は@総額、A対GDP比、B対面積比のいずれにおいてもOECD諸国で土木系の公共事業費がダントツに多い。 その内訳だが、当時、日本の土木系公共事業額全体の約1/3が道路(第1番目)、2番目がダム・堰事業であった。 20年も前から、米国やカナダに比べ国土面積で1/40以下と狭い日本は、道路やダムばかりを造っていたのである。 図1はGDPに対比した当時の日本の公共事業費である。 図1 主要先進国の公共事業費総額 出典:ナショナル・アカウント(1996)、OECD 図2は、同じくOECDのナショナル・アカウント・データにある政府支出に占める公共投資(主に土木系公共事業)の割合を示したものである。 図より明らかなように、わが国の公共投資の比率は欧米諸国と較べ突出して高い。こんな土建国家は、世界広しといえどG7やG20を問わず日本以外にはない。 図2 政府支出に占める公共投資の割合の推移 出典:アニュアル・ナショナル・アカウント、OECD なぜ、日本がかくも土建公共事業地獄の国になったのか? それにはいくつかの理由があるだろうが、筆者は日本が「官僚社会主義」、すなわち表向きは先進民主主義国家でありながら、その実、霞ヶ関の官僚によって一般会計、特別会計ともに国の財政がねじ曲げられてきた実態があると思っている。 永田町の政治は、あらゆる意味で政治の本来の役割である行政のコントロールができず、特に突出する「官僚社会主義」をコントロールできない。そればかりか、保守政治は「政」「官」「業」癒着のトライアングル(三角形)の一角として土建利権や既得権益の拡大に奔走してきた現実がある。 図3 従来の利権構造 さらに、言えば「政」「官」「業」癒着のトライアングルは、1990年代はじめから政治、行政、業界の利権的癒着、ネットワークだけでなく、学者、報道機関を組み入れた利権と現状追認、既得権益拡大ののペンタゴン(五角形)のなかに組みいれたと言える。 図4 現在の利権構造 ダムや道路事業の推進過程を見ると、いかに土木工学分野の学者、研究者が図4のペンタゴンに駆り出され、結果的に巨大なダムや道路事業にお墨付きを与えているかが分かる。 近年では土木系だけでなく環境分野の学者、研究者もいいように利用されている。御用メディアについては、以下を参照して欲しい。 ◆青山貞一:日本のメディアの本質を考えるJ巨大公共事業推進の先兵 ◆青山貞一:<検証>八ツ場ダム事業にみるメディアの腐敗と堕落 その結果、従来にも増して、日本の土建系公共事業国家化を強固なものになっているとさえ思えるのである。まさに、御用学者、御用メディアが「政」「官」「業」に組み込まれ、一体となることで、世界的に見ても異常な土建的公共事業大国ニッポンが国土を蔓延することになった。 その中核的な司令塔であり現場指揮舞台が、いうまでもない旧建設省、現在の国土交通省であると云える。霞ヶ関の「官僚社会主義」は今も道路、ダムなどの事業費が減らないようにありとあらゆる手段を労している。 ●土建国家の象徴、ダム・道路事業 2007年8月30日の日本経済新聞はその一面で「ダム建設費膨張9兆円・149基調査、当初計画比1.4倍」という記事を大きく掲載した。それによれば、日本各地で建設中のダム事業、149基の建設費の総額は約9兆1000億円にのぼるという。 日本ではいわゆる行革によって、建設省が国土交通省に看板を変えたあとも、河川系、道路系ともに世界に冠たる日本の土木公共事業(工事)天国は変わらない。 国土交通省はその後も、「政」、「官」、「業」に「学」(御用学者)、「報」(御用メディア)を加え、中国顔負けの官僚主導で日夜、国費、公費、税金の消費にひたすら走っているのである。 先の日経新聞記事では、全国で建設中のダム149基の建設費が約9兆100000億円と、当初見積もりの約1.4倍に膨らんでいることを明らかにしている 理由は工期の延長や設計変更などが主因である。見積もりの約16倍の建設費を計上しているダムもあるという。さらに公共事業評価監視委員会などにより無駄な公共事業の見直しで、一端建設を凍結したダムでも、建設再開の動きがあり、さらに建設費が膨らむ可能性が大きいという。 まさに私も公共事業監視評価委員会で最後まで問題となった長野県の浅川水系のダムもその典型であろう。 日経記事には、当初予算がその後大きく修正されたダム事業のリストがあった。以下は、修正後の額で並べた主なダムの建設費の当初見積もりと実際の費用である。 表1 当初予算がその後大きく修正された事業のリスト
表1を見ると、「日本の土木系公共事業がいかに小さく生んで大きく育てる」ことがよく分かる。 日本の将来、とくに財政面での将来は、防衛省と国土交通省を政治がいかにコントロールするか、できるかにかかっていることは間違いない。その意味で防衛省は「旧陸軍」、国土交通省は「関東軍」である。 以下は平成18年度の公共事業関連予算である。国費が6兆2545億円、もうすぐ期限が切れる財政投融資が3兆6576億円などである。土木系公共事業の年度予算額からみても、上記のダム関連予算(複数年にまたがっている)がいかに大きなものであるかが分かる。 表2 国土交通省の予算(平成18年度) 出典:国土交通省関係予算のポイント、国土交通省 http://www.mlit.go.jp/yosan/yosan06/yosan/03.pdf なお、平成19年度の国費総額は6兆588億円とほんのすこし減少しているが、、財政投融資額は逆に3兆9808億円と増加している。 平成19年度の国土交通省予算内示額 ●延期につぐ延期で巨額化する八ツ場ダム予算 八ツ場ダムの総事業費は、1986年当初、2110億円であった。2004年、国土交通省はそれを2倍以上の4600億円に増額した。 しかし、八ツ場ダム事業では、@国道145号線の4車線の高規格道路化と全面的な付け替え、A新設の一般県道、BJR東日本の吾妻線の全面的な付け替えに伴う、橋梁工事、トンネル工事、道路工事、軌道工事にかかる費用と各種移転補償費が膨大に膨らんだことで、ダム本体工事がまったく行われる前に、2倍に増やした4600億円を食い潰す可能性がでてきた。 以下は、それを報ずる毎日新聞の記事である。
筆者の八ツ場ダムに関連する論考では、幾度となく八ツ場ダムに関連する道路事業の実態を報告してきたが、八ツ場ダム事業では社会経済的観点、環境保全の観点など、いずれの観点からもほんど不要と思える道路事業を国土交通省は長野原町で展開してきた。 以下はそれを報ずる毎日新聞の記事である。記事によれば八ツ場ダムの完成までに、水資源特別会計と道路特別会計を含め少なくとも約1000億円が道路の付け替えに投入される見込みであるという。 しかも増額された4600億円には道路特別会計分の約170億円は含まれていないから、八ツ場ダムの総事業費は現状でも約4800億円が投入されていることになる。 すなわち、冒頭に記した日本の土木系公共事業の第1位の道路事業と第2位のダム・堰事業が吾妻川の渓谷で財政破壊、財政破綻と無関係に行われている。 実際、現地を視察すれば一目瞭然のように、群馬県の長野原町の吾妻川流域地域では、日本で有数の渓谷美をもつ景勝地で、これでもかと云えるほどの道路、橋梁、トンネル事業が連日行われているのである。 まさに官僚社会主義によって、巨額な国費を浪費し、やりたい放題の土木工事が行われているのである。
つづく |