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官製談合と随意契約
(4)

〜元環境事務次官が政官業を巻き込み
地元で画策した巨大ゴミ事業〜


青山貞一

2006年4月16日



 くだんの環境庁事務次官と神奈川県知事を務めたもと高級官僚は、地元自治体、神奈川県で自然保護団体、市民団体、地域住民などの反対を押し切って巨大廃棄物処理プロジェクトを敢行しようとし、結果的に住民・地権者および基礎自治体の反対で失敗した事実がある。

 場所は神奈川県西部地区の山北町である。

 その元高級官僚は、重厚長大メーカー、環境コンサルタント、ゼネコンと連携し、さらに県内市町村を巻き込み巨大廃棄物処理事業「エコループプロジェクト」を計画(画策)した。

 この計画は、ある弁護士が「ゴミ・マフィア」と言うように、県内の一般廃棄物、産業廃棄物を県西部の山北町一カ所に集中し処理しようというもので、重厚長大メーカーの大型焼却炉、大型溶融炉などを多数山北町に建設し、一手にビジネス化しようという「壮大」なものであった。

 以下にその規模、すなわち計画処理量を示すが、通常の基礎自治体の場合、一日の処理量が数10トンであることから、最終規模となっている一日の処理量が5,500トンがいかに巨大なものであるかが分かるだろう。


出典:エコループプロジェクト事業計画概要

 このプロジェクトが元高級官僚と民間事業者ら政官業によって構想された背景には、廃棄物事業への民間参入を容易とする規制緩和路線がある。

 さらに、市町村にそのための中間保管施設を建設させ、基礎自治体をエコループ事業で立ち上げた会社の事実上の「下請け機関」とさせようというものであったという点も見逃せない大きな問題である。

 このプロジェクトそのものの詳細、元高級官僚と国、自治体、業界などとの関係は、以下の資料(PDF)をご覧頂きたい。


元環境庁事務次官(元神奈川県知事)が中心となり神奈川県山北町に計画された
巨大廃棄物処理事業
「エコループプロジェクト」に関する資料一覧(PDF)

 掲載2004.12.272005.4.13

出典:ゴミ弁連(環境、ゴミ問題に関連する約100名の弁護士で結成)

1. 特定非営利活動法人 環境テクノロジーセンター
エコループプロジェクト事業説明会配付資料
15. 神奈川県廃棄物処理計画の改訂について
(基本的な考え方)資料1
2. 株式会社エコループセンター会社概要 16. 神奈川県議会定例会知事答弁要旨 環境農政部
田島信二議員 会派(自民党)
3. 株式会社エコループセンター事業報告会配付資料
株式会社エコループセンター事業報告会出席者名簿
17. 神奈川県議会定例会知事答弁要旨 環境農政部
田島信二議員 会派(自民党)
4. エコループプロジェクト事業報告会 開会挨拶等 18. 株式会社エコループセンター定款
5. NPO環境テクノロジーセンター会長挨拶(近藤次郎) 19. ごみ処理の広域化に関する意見交換次第
平成16年9月2日、神奈川県等
6. 来賓挨拶、神奈川県知事(松沢成文) 20. 参考資料:ゴミ処理広域化とエコループプロジェクトについて
7. エコループプロジェクトの実現に向けて(報告)
岡崎理事長説明資料
21. エコプロジェクト事前説明、逗子市
8. エコループプロジェクトの実現に向けて(説明)
岡崎理事長説明
22. 神奈川エコループプロジェクト 市町村及び事務組合からの質問に対する現時点の回答について(その1)
9. エコループプロジェクト事業報告会での来賓挨拶
 @神奈川県議会議員(久保寺邦夫)
 A環境省廃棄物・リサイクル対策部長(南川秀樹)
 B国立環境研究所理事長(合志陽一)
23. 神奈川エコループプロジェクト 市町村及び事務組合からの質問に対する現時点の回答について(その2)
10. エコループプロジェクト事業説明会参加リスト 24. 神奈川エコループプロジェクト 市町村及び事務組合からの質問に対する現時点の回答について(その3)
11. エコループプロジェクト事業計画概要
平成16年8月 株式会社エコループセンター
25. 廃棄物処理の大規模な民営化をやめさせ、県民本意の発生抑制・再使用・リサイクルによる循環型社会を
12. エコループプロジェクト基本構想
平成16年7月26日 NPO環境デクノロジーセンター
26. 調整会議の開催について(逗子市長宛)
13 エコループプロジェクト事業概要の報告
平成16年8月16日 株式会社エコループセンター
27. 山北町長からエコループセンター代表取締役への候補地断念のファックス
14. 神奈川県市町村等廃棄物主幹部局長会議次第
平成16年7月29日
28. エコループセンターから市町村長・一部事務組合へのファックス
 

 上記を読めば分かるように、元高級官僚は、株式会社エコループセンター、 特定非営利活動法人環境テクノロジーセンターといった組織を次々に立ち上げ、ゼネコン、重厚長大企業、コンサルタントと連携し、環境省、神奈川県、県内市町村などの行政機関に、元事務次官、元知事の名を生かして声をかけるなかで、政官業あげての一大ゴミ事業を立ち上げようとしたのである。

 この事業報告会では、神奈川県松沢知事、県議会議員、環境省廃棄物リサイクル対策部長、国立環境研究所理事長らが来賓として挨拶している。

 出席者名簿を見ると、主要な政官業の面々(260名)が参加しており、元高級官僚の人脈がよく分かる。一民間のプロジェクトにかくも多くの行政関係者が列席していることにも驚かされる。

株式会社エコループセンター事業報告会出席者名簿

 しかし、地元基礎自治体や住民の意向を無視して唐突に出されたその計画は、どうみても無謀なものであったといえる。


事業の対象地域。神奈川県西部全域が対象となっている。
出典:エコループプロジェクト事業概要より


 多数の焼却炉、溶融炉を一地域に立地、建設する計画は、各種の有害化学物質汚染など環境問題を憂慮するひとびとから激しい批判を受けることになった。さらに、この計画は、ゼネコン、重厚長大企業、コンサルタントなどの利益を反映したものと思われ、地域での住民運動のみならず、次第に全国規模の反対運動を誘発することとなったのである。

 神奈川県のみならず最終的に全国規模の大きな問題となったこの計画とそれへの急速な反対運動の盛り上がりだったが、メディアの対応は鈍く地元の神奈川新聞に小さく掲載される程度であった。


神奈川新聞(カナコロローカルニュース)2005/05/09

エコループプロジェクトで町議にアンケート/山北

 山北町議員十八人のうち、現時点で「エコループプロジェクト」に反対なのは四人-。同町の住民有志で組織する「山北町の環境を考える会」(湯川瀞策代表)が行ったアンケートに、町議十七人が返信した。最も多かったのは「(賛否)どちらとも言えない」で八人、五人は「現時点では回答できない」としたが、「プロジェクトに賛成」と答えた議員はいなかった。

 同会では「町民代表の議員の考えを知り、その結果を町民にも公開しよう」(湯川代表)と、十一日に議員全員にアンケートを送付。二十日までに返信するよう求めた。

 「反対」と答えた議員は理由として「(同町が受け入れの前提条件としている)安全・安心が確認できない状態では受け入れられない」「健康、農産物、森林、河川などに被害が出る可能性がある」などを挙げた。

 一方、「どちらとも言えない」と答えた議員は「安全・安心についての確認がまだ不明確」「今までの情報だけでは分からない」などを理由に挙げた。

 また、安全・安心の検証方法については、八人が回答。「中立、公平、公正な第三者機関でチェックする」「センターから提出される資料を専門家に検証してもらうべき」などの意見が寄せられた。

 アンケート結果は、八日に開かれた同会主催の勉強会で、参加者約三百人に配布された。同会発起人メンバーの瀬戸孝夫さんは「のんびりしていたらプロジェクトの作業が進み、ストップできなくなってしまう。態度を表明していない議員は、早急に鮮明にしてほしい」などと述べた。

◇エコループプロジェクトに対するアンケート結果◇

【反対】
 ▽曽我 彬弘
 ▽茂木 猛
 ▽小菅 光雄
 ▽岩本 章冶
【どちらとも言えない】
 ▽野崎 重孝
 ▽牧田 礼二
 ▽本多 雅司
 ▽川村 俊治
 ▽杉本 君雄
 ▽池谷荘次郎
 ▽瀬戸恵津子
 ▽鈴木登志子
【回答保留】
 ▽石田 進二
 ▽池田 謙
 ▽本杉 博是
 ▽湯川 裕司
 ▽佐藤 光男
【返信なし】
 ▽細川 哲郎



 しかし、環境問題に関わる弁護士約100名により組織されるゴミ弁連や環境問題の研究者らが2005年春以降この「神奈川エコループプロジェクト」を問題視、ゴミ弁連の弁護士はこの年秋、現地で総会を開催し、計画の撤回に向け全力で取り組むこととなった。


神奈川新聞(カナコロローカルニュース)2005/05/09

地元住民らがエコループ事業学ぶ/山北町(神奈川新聞)

 山北町の住民有志で組織する「山北町の環境を考える会」(湯川瀞策代表)は八日、同町山北の町体育館で「エコループプロジェクト」について勉強会を行った。今回で二回目となる会には、町内外から約三百人が参加した。 

 同会では三月十九日に初めて開いた勉強会の後、参加者有志一同でプロジェクトに反対する決議表明を採択している。

 今回の勉強会では、環境総合研究所取締役調査部長の鷹取敦さんや、「たたかう住民とともにゴミ問題の解決をめざす弁護士連絡会(ゴミ弁連 )」の弁護士・岩橋宣隆さん、岩本章冶同町議員、環境を考える会発起人メンバーの瀬戸孝夫さんの四人がパネリストを務めた。

 プロジェクトに反対している岩本議員は「山北町の売り物は自然。エコループには撤退してもらいたい」とあらためて反対を表明。一方、四月中旬から町内六地区で開かれた連合自治会主催の説明会での佐藤精一郎町長について、瀬戸さんは「(事業主体の)エコループセンター社員が参加者からの質問の答えに窮していると、佐藤町長が助け舟を出した。町長は町民側には立っていない」と非難した。

 また鷹取さんは、日本のごみ焼却事情やダイオキシンの危険性などについて説明。プロジェクトの課題として、1:高温焼却による重金属や有害物質の排出2:ごみの減量化が妨げられる3:インフラ施設の整備や分別収集など自治体がセンターの下請けになる-などを挙げた。


 地元住民団体やゴミ弁連弁護士以外に、かながわ市民オンブズマンの大川隆司氏が、2005年3月24日発行の広報誌61号で次のような興味深いことを書いている。少々長文となるが以下に引用してみたい。


「エコループ・プロジェクト」に関心を持とう   大川 隆司

       出典:かながわ市民オンブズマン 広報誌61号、2005年3月24日発行

1 エコループ・プロジェクトとは


 (株)エコループ・センターという会社が04年7月6日に設立された。社長は岡崎洋前知事。住友商事、東芝、JFEエンジニアリング(旧 日本鋼管)、前田建設工業などが出資者である。 このエコループ・センターという会社が、山北町の砂利採石場跡地約23ヘクタールに建設予定の施設が「エコループ・プロジェクト」である。 プロジェクトの内容をひとくちで言えば、「一般廃棄物と産業廃棄物の一括広域処理」であり、さしあたり横浜・川崎2市を除く県内市町村(総人口約380万人)から一般廃棄物の処理を受託し、将来は他の都道府県でもビジネス展開する計画である。

2 「民間主導」と言いつつ公費依存

 センターは、第1期における目標処理量を可燃ゴミ1,250t、有機資源ゴミ300t、不燃ゴミ300tと設定している。 これらの処理施設は銀行からの借入金で建設するのだが、その前提として、センターにゴミ処理を委託する市町村は、センターとの間に、期間を15年とする基本契約を結ばなければならない。「15年」というのは施設の採算上の耐用年数と同じである。 この契約を事実上の担保として、センターは銀行から借金をし、市町村から受けとる委託料でその借金を返済するわけである。今はやりの(?)LBO方式とよく似ているが、この考え方だと35市町村のうち、すくなくとも(人口比率で)3分の1以上にあたる市町村の支持がないとスタートが切れないだろう。

3 ゴミの広域処理は高くつく

 市町村が一般廃棄物の処理のため現在支払っているトンあたり平均コストが31,500円であるのに対し、センターへの委託料は29,000円程度だから安上がりだ、と考えるのは早計だ。

 広域処理のためには「中継基地」が必要になることを見落としてはいけない。中継基地は、市町村が2t積みパッカー車で集めたゴミを圧縮して、10t積みコンテナに積みかえる施設である。コンテナは専用キャリヤーでJRの貨物駅へ運ばれ、貨物列車に移し替えられて御殿場線駿河小山駅に行き、専用引込線でセンターに到着する。 この中継基地(臭気対策、汚水対策が伴う)の設置・維持は市町村の責任であり、そのコストは別にかかるのだ。

4 エコループ・センターに未来はあるのか

 コスト・メリットがない、というだけでも市町村にとってエコループ・センターの魅力はない。それに加えて、「広大な遊休地を使って静脈産業としてのゴミ処理ビジネスを立ち上げよう」というアイデアは、誰でも考えていることだから、ライバルは沢山いるはずだ。 たとえば、千葉県富津市には、新日鐵の遊休地30ヘクタールと千葉県の「工業団地」用塩漬土地67ヘクタール、あわせて約100ヘクタールが遊んでいるので、「首都圏の廃棄物を呑み込む一大リサイクル拠点」をここに造る、というのが千葉県企業庁のプロジェクトにある。何よりも、一般廃棄物の焼却施設が、既に大幅に余っているということを直視しよう。全国1,715箇所の焼却炉の焼却能力は1日20万tあるのに対し、焼却量は11万tである(00年度統計)。

 横浜、川崎を除く県内35市町村の持つ32施設の焼却能力1日約6,000tに対して、実際の焼却量は約4,000tである。 つまり、エコループ・センターなどという超大型施設を新しく造らなくても、市町村間の協力でゴミの域内処理は十分可能である。そのことは同時に、エコループ・センターの事業の安定性・継続性に不安があることを意味する。そして、市町村が自前の処理施設を廃棄して、センターに一切をまかせたあとで、センターが倒産した場合には大混乱が起きるだろう。 センターが倒産しないためには、県内どころか超広域で自転車操業的にゴミを集める必要があろうが、そのことは、あらたな「ゴミ輸送公害」を発生させると思われる。


 かくして、元高級官僚らによって構想、計画された「神奈川エコループ・プロジェクト」は、次第に地元町民、地権者、県民、自然保護団体、環境団体、さらにはそれを支援する環境弁護士らの活動によって次第に中止に追い込まれて行くのである。

 以下は地元自治体から元高級官僚が代表取締役を務める会社に山北町町長が送ったFAXである。

◆山北町長からエコループセンター代表取締役への候補地断念のファックス

◆エコループセンターから市町村長・一部事務組合へのファックス

 エコループセンター事業説明会に参加し、受け入れ側に傾いた山北町長が、上記の候補地断念に至った背景には、直近に放映されたTBSの「噂の東京マガジン」がある。この番組はけっして「環境ジャーナリスト」が取材し制作する報道番組ではなく、いわばお笑いタレントらが出演する情報番組であるが、しっかり現地取材し、双方の言い分を聞き、問題の本質をえぐることで有名な番組である。
 
 TBSの「噂の東京マガジン」放映後、抗議の電話が町役場に殺到し、町長がねを上げた、というのが最終的に町長が立地を返上する重要な要因であったと言われている。

 これは本来、マスメディアやジャーナリズムがまともに機能し、報道すれば、それなりの役割を果たせる可能性があると言えるものだ。

 しかし、遺憾なことだが、元高級官僚がとしりきったこの計画、事業について「環境ジャーナリストの会」に集まる記者が現地を取材し、記事にされたことは、ついぞなかったはずである。

 もっぱら、元高級官僚側のプレスリリースをもとに事業の計画を紹介する記事はあるにはある。しかし、この種の記事はいわば広報記事であって、環境問題、財政問題など本質的問題は何ら触れていない。

◆事業計画だけを伝える記事の例

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 長くなったが、
環境省の外郭団体を介した「行政」と「報道」の危うい関係について具体的に述べてきた。

 この種の「行政」あるいは「事業者」と「報道」の危うい関係は、原発事業、核廃棄物再処理事業などに絡む問題で常態化しているが、結果的に「報道」が国民の知る権利をまったく満たさないばかりか、事実、真実の前に立ちはだかっていると言える。
 
 以下に、日本のマスコミにはごく一部以外全く報道されてこなかった英国のセラフィールド核廃棄物リサイクル施設の深刻な事故である。

青山貞一:日本のマスコミが報じない英核廃棄物再処理施設の甚大な放射能漏洩 1

 日本の核廃棄物の多くはこの英国セラフィールドとフランスで処理されている。その意味で、事故の事実を伝えない日本の報道機関は、戦争時の「大本営発表」機関同様、存在する意味も価値もないと言っても過言ではないだろう。

 いずれにせよ本来、環境行政を監視し、問題があれば批判するべき日本環境ジャーナリストの会が、環境省から特命随意契約で仕事をとり、上記のように、環境立法、環境施策のミッションに逆行するようなことを行うひとが理事長をつとめる財団法人の一角に事務所を置いていることひとつをとっても、到底、看過できない、と思うのは私だけではないだろう。
 
 本特集はさらにつづきます。