東南アジア最後の秘境 ミャンマー アウン・サン・スー・チー氏 青山貞一 Teiichi Aoyama 池田こみち Komichi Ikeda 掲載月日:2016年8月4日 独立系メディア E−wave Tokyo 無断転載禁 |
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(30) 四日目の朝、インヤー湖 (31) アウンサンスーチー氏 (32) ヤンゴンからマンダレーへ (33) マンダレーの概要と歴史 (34) マンダレーの下町を食べ歩く ◆スーチーハウス 途中、タクシー代はそのままでインヤー湖南端の高級住宅地の一角にあるアウン・サン・スー・チーさんの自宅に立ち寄ってもらうことにしました。ここはスーチーさんが永年軟禁されていたところでもあります。これについては、次の頁をご覧ください。 軍事政権下で出来た憲法では、英国、日本などへの移住、亡命経験のあるスーチーさんはNLD の代表ではあっても、大統領にはなれません。NLD は、昨年末の国民選挙で圧倒的な支持を得て、第一党になりました。そして政権をとったものの、大統領にはスーチーさんの側近が就任しています。 下はインヤー湖とアウン・サン・スー・チーさんの自宅を★を示したものです。空港に向かう道からら東に1kmほど入ったところにあります。 Source: Google Map 下の地図のちょうど中央のインヤー湖畔にアウン・サン・スー・チーさんの自宅があります。地図では Daw Aung San Suu Kyi Houseとあります。 Source: Google Map 時間が限られており、タクシーから撮った写真は、えらくピンボケでしたので、スーチー女史の自宅は以下のトリップアドバイザーの写真集を見てください。 ◆アウンサンスーチ女史の自宅(Aung San Suu Kyi house)の写真 出典:トリップアドバイザー 上の写真は2012年から最近(2016年3月)までにスーチーさんの自宅とその周辺で撮影されたものです。大変多数あり貴重です。 とくに軟禁中の様子がよくわかります。またNLDのひとつの拠点となっていること、世界中からメディアが集まっている写真などもあります。 ◆スーチーさん近況 ところで、今回、ミャンマーに行く際、大いに気になったのは、いうまでもなく2015年11月8日のミャンマー総選挙結果です。下はそれを報ずるCNNの記事です。
結果的にNLDが圧勝しました。NLDは党首、アウンサンスーチーの大統領就任を要求したものの憲法の規定と軍の反対によってそれはかなわず、次善の策としてアウンサンスーチーの側近のティンチョー氏を自党の大統領候補に擁立しました。 ティンチョー氏は2016年3月10日にミャンマー議会で大統領候補に指名され、3月15日には正式に大統領に選出、3月30日には上下両院合同の連邦議会で新大統領就任式が行われました。 ミャンマーで文民大統領が誕生するのは54年ぶりとなります。 半世紀余に及んだ軍による統治が終結し、結果的にNLD党首のアウンサンスーチーが国家顧問、外務大臣、大統領府大臣を兼任して政権の実権を握ったことにより、新政権は「事実上のアウンサンスーチー政権」と評されています。 以下は比較的新しい、アウンサンスーチーさんのギャラリーです。 以下はCNNの記事にあった写真です。 出典:CNN 下は英国BBCの記事にあった写真です。 Source: BBC 以下は米国で40年続いている女性雑誌のMs.の表紙です。 出典:Ms. 以下はWikipediaにも使われている有名な写真です。 出典;Wikipedia 以下はスーチーさんにスポットを当てた映画、The Lady からです。 『The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』(ザ・レイディ アウンサンスーチー ひきさかれたあい、原題: The Lady)は、2011年のフランス・イギリス合作の映画のタイトルです。 監督はリュック・ベッソン、ミシェール・ヨーが主演しています。ミャンマーにおける非暴力民主化運動の指導者アウンサンスーチーの半生を描いたドラマ映画です。2011年9月12日、トロント国際映画祭で初上映されました。 映画、The Ladyより 映画、The Ladyより 映画、The Ladyより 出典:日本公開のポスター AllCINEMA ◆スーチー政権が取り組むべき重要政策について ところで、実質スーチー政権の今後に関していくつかの課題を指摘しておきたいと思います。 スーチー氏はミャンマーが昔から抱えるいわゆる少数民族に対し、一言でいえば冷たい対応をとってきていたはずです。とりわけイスラム系の少数民族であるロヒンギャに対してはそう感じます。たとえば、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは2013年版の年次報告において、アウンサンスーチー氏について「少数民族の人権保護に消極的で、失望している」との批判を掲載しています。 以下はミャンマーにおけるロヒンギャ族にかかわる問題についていくつかの論評をまとめたものです。 アラブ系メディアのアルジャジーラも2015年に、イスラム系少数民族のロヒンギャの難民問題について、多数派である仏教徒の支持を得るために迫害を黙殺しているとの報道を行っています。 そして2016年にはスーチー氏のロヒンギャ問題に対する差別的な発言をめぐり、「ノーベル平和賞を取り消せ」という署名キャンペーンがChange.orgで行なわれ、5万人以上の署名が行われています。 ただし、ミャンマー当局の追放を助長させないために国際社会や人道主義団体には、感情論に走らない冷静な対応が求められること、他方で「人間の安全保障」の観点から英領植民地時代の遺産である民族間の怨讐から生じる差別と迫害が明らかに現存しており、今後、スーチー政権にロヒンギャの身柄保護と人道支援が急務であると思います。また人権団体アムネスティ・インターナショナルは、「まずは、ビルマ(ミャンマー)国内におけるロヒンギャの人権が確保されるべき」と主張しています。 当然のこととして、ロヒンギャ問題を打開するため周辺諸国の協力が必要ですが、比較的マレーシアがロヒンギャの流出に同情的なのに対して、タイ、バングラデシュ、インドネシアなどは、国連やNGOの批判に取り合わず、ロヒンギャの正規受け入れを拒否し続けています。 さらに、2016年6月下旬、スーチーさんらの後ろ盾となってきた英国(イギリス)がシリア難民の受け入れなどに端を発して、EUからの独立国民投票で独立系が勝つことで、英国、G7のみならず、英国のスコットランドはじめ世界各国に大きな激震をもたらしました。 キャメロン首相も秋には辞任すると明言しています。 震源地の英国が、果たしてこれからいわば経済離陸、政治離陸するミャンマーに対し、どれだけの支援、援助ができるか、不透明となってきています。英国にしてみれば、本音ではそれどころではないと考えているところがあると思います。 周知のように、大英帝国は、世界中に植民地をつくり、それらの国々が独立した後も、さまざまな形で連携してきました。これは東南アジアも例外ではなく、シンガポール、マレーシアなどとともにミャンマーについても同じです。 また日本はビルマの英国からの解放と称してビルマに進軍し、結果的にビルマ各地を疲弊、破壊してしまった過去があります。 今後、英国、日本が実質スーチー政権とどのようにかかわるのかが問われます。 一方、ミャンマーはすでにASEAN(アセアン、東南アジア諸国連合)に加盟しております。下はアセアン加盟国地図です。 出典:日本外務省 ミャンマーについては軍事政権による人権抑圧を理由に批判もありましたが、マレーシアやインドネシアなどが推進した結果、アセアンに1997年に加盟しています。 国際社会から民主化停滞への批判が高まる中、加盟国からも不満の声が上がり、2005年には回り持ちの議長国就任の辞退に追い込まれましたが、今回の総選挙でNLDが圧勝したことで、アセアンにおけるプレゼンスも大きく変わってくるものと思えます。 とはいえ、アセアンには、マレーシア、インドネシア、ブルネイなどイスラム系の国々も多く、やはりロヒンギャ問題に正面から取り組むことが、他国とのさまざまな協力において重要なものとなるはずだと思えます。 私達の専門分野からは、廃棄物問題、水処理問題、大気汚染問題など、環境問題への対応が望まれます。とりわけ廃棄物問題は深刻であると現地を視察して実感しました。しかし、現在、安倍政権が進めている東南アジア諸国への日本の大型焼却炉や溶融炉の売り込みにミャンマーが乗ってはいけないと感じます。 現在、アジア開発銀行(ADB)や国際協力事業団(JICA)などをベースに、さまざまな経済援助とあわせ、東南アジア諸国への日本の大型焼却炉や溶融炉の売り込みが活発化しています。 マレーシアについては私達は地域住民や自治体職員、国会議員からの依頼で廃棄物処理について多面的に協力してきましたが、日本政府(JICA)の二十三区清掃一部事務組合、焼却炉メーカーなどが一体となったセールスにより、すでに軍門に下った感があります。しかし、今のミャンマーでは都市、農村ともに廃棄物処理のイロハがまったくできておらず、沿線や沿道などがごみ捨て場と化しています。 その意味では、大型焼却炉や溶融炉の導入ではなく、いわゆるゼロウエイスト政策によるごみの分別とともに、いわゆる5R政策を地域の特性と適合する形で進めるべきです。そこには小学校からの徹底した教育も必要となるでしょう。 私見では、カナダ・ノバスコシア州の脱焼却、脱埋立の循環型経済社会づくりがきわめて有用かつ効果的そして適正な方法と思えます。廃棄物=資源という理念のもと、高額なハードへの投資はなく、地域、地域で新たな雇用が生まれるはずです。 つづく |