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   東南アジア最後の秘境 ミャンマー

パゴダの構造と仏教の宇宙観
Representation of the structure and
the Buddhist cosmology of Pagoda


青山貞一 Teiichi Aoyama  池田こみち Komichi Ikeda
掲載月日:2016年8月24日
独立系メディア E−wave Tokyo

無断転載禁
(83) パゴダの構造と仏教の宇宙観の表現  (84) なぜ、多くのパゴダができたのか
(85) 格差を是正するバガンの社会の仕組み


 ここでは、「パゴダと仏教の宇宙観」との関係についてお話しておきます。

 バガンは日本でいえば平安時代後期から鎌倉時代さらに室町時代にビルマの旧イラワジ川右岸に栄えた一大王朝です。

 バガンには3000を超す寺院や仏塔(パゴダ)がバガン王国のもとで創られ、しかも、その多くが現存しています。

 バガンの歴史でお話ししたように、バガンでは初代のアノーヤター王の時代から上座部仏教(小乗仏教)を取り入れ、現在のミャンマーに至るまで敬虔な仏教国となっているのです。

 今まで何度が触れてきましたが2015年10月にNHKスペシャル「アジア巨大遺跡 バガン、黄金の仏塔、祈りの都」では、バガンの寺院や仏塔とともに、非常に興味深い社会がつくられたと報じています。


,出典:NHKスペシャル アジア巨大遺跡 バガン

 現地報告ではこれからバガンの寺院や仏塔の紹介に入りますが、その前に、ぜひ、「アジア巨大遺跡 バガン、黄金の仏塔、祈りの都」で紹介されたバガンの謎についてお話してみたいと思います。

 それは、バガン王朝では王国全体で富が偏在しにくい、大きな格差が社会で発生しづらい独自の社会システムがつくりあげられてきたというのです。その社会システムは、広大なイラワジ川からの灌漑システムと気候的に三毛作が可能という自然的な条件からだけでなく、いわば仏教の宇宙観、理念、価値観が王朝の社会経済のありように大きくかかわっていることであり、格差が生じにくい社会制度は、今なお現地に生きているというのです。


撮影:池田こみち Nikon Coolpix S9900  2016-6-7

 
 ところで、上座部仏教(小乗仏教)にあって、バガンに3000近く現存するパゴダ(仏塔)は、仏教の宇宙観を表現しているといわれます。パゴダは、仏教の宇宙観をどう表現しているのでしょうか?

 下の写真と図は、NHKバガン特集で使われた「パゴダの構造に対応した仏教の宇宙観の表現」です。


出典:NHKスペシャル アジア巨大遺跡 バガン

 ここでは「パゴダの構造と仏教の宇宙観の表現」についての解説から入りたいと思います。

 上の写真にあるように、パゴダ(仏塔)のあの形と構造は、仏教でいうところの下から<下界>、<人間界>、<天界>、<涅槃(ねはん)>の4つの空間を表現しているといいます。

 番組では、ミャンマーの考古学者ネ・ウイン・マウン氏が四つの空間について、次のように説明しています。 

 <下界> 下の部分は地獄など下界を表しています

 <人間界> 次の部分は私たちがいる人間界です。

 <天界>  釣鐘の形をした部分は神々がいる天界です。

 <涅槃(ねはん)> 頂上部分は仏教徒が目指す迷いのない境地、
        「涅槃」を意味しています。


 上記のうち<下界>、<人間界>、<上界>は、普通の平凡な男、すなわち凡夫が生死を繰り返しながら輪廻する世界を三つに分けているとされています。

 具体的には、これら三界は、下界=欲界、人間界=色界、上界=無色界の三つを表しており、三有ともいいます。なお、仏陀はこれら三界での輪廻から解脱し、涅槃に到達したとされています。


 以下は上記<三界>及び<涅槃>の詳細な解説です。

◆三界(下界、人間界、天界)について

・欲界 ...<下界> 
 淫欲と食欲の二つの欲望にとらわれた有情の住む処です。
 六欲天から人間界の一部を含み、無間地獄までの世界をいいます。

・色界 ...<人間界>
 欲界の淫欲と食欲という二つの欲望は超越したものの、物質的条件(色)
 にとらわれた有情が住む処です。

 この色界は禅定の段階によって四つ(四禅天)に分けられ、またそれを
 細かく18天(経典によっては17天または16天)に分けます。多くの
 人間はここに属するはずです。

・無色界 ...<上界>
 欲望も物質的条件も超越し、ただ精神作用にのみ住む世界であり、
 禅定に住している世界を意味します。


 以下では、<下界>、<人間界>、<上界>それに仏教における最終的境地である<涅槃(ねはん)>の四つについて解説します。 

◆下界(げかい)

 下界は仏教で、欲界ともいいます。また天界に対し、地上の世界を指します。下界は、以下のように分類されることもあります。

・地獄界
 あらゆる恐怖に苛まれた状態。地獄も含まれます。

・餓鬼界 
 眼前の事象に固執する餓鬼の状態。

・畜生界
 動物的本能のままに行動する状態。食欲、睡眠欲、性欲、物欲、
 支配欲など、欲望のままに行動する状態を指します。

 下は地獄図(草紙)の例です。


出典:Wikipadia


◆人間界(にんげんかい)

 人間界は、人間がいる世界のことを意味します。

 仏教における人間界とは、迷界・欲界・六道、また十界の中のひとつの世界にして、地獄から数えて第五番目に位置しています。また三善道のひとつです。

 過去の世において、五戒(不殺生・不偸盗・不邪淫・不妄語・不飲酒)、また中品の十善の善因を修した者が生れる場所とされています。

 となると、五戒を満たさないものは、人間界にはいられないということになります。


◆天界(てんかい)

 天界とは、天使や神々の住まう、我々の住んでいる「地上」の遥か上に存在しているとされる世界を意味します。

 天国と同一視される事もあり、各種宗教に於ける教義の中で言及されている事もあります。多くの民族の神話などにその存在を認められています。

 たとえば、高天原(たかあまはら、たかまがはら)は、『古事記』に含まれる日本神話および祝詞において、天津神が住んでいるとされた場所を意味します。有名な岩戸の段も高天原が舞台です。

 『古事記』などでは、地上の人間が住む世界である葦原中国や、地中にあるとされる根の国・黄泉に対し、天界は天上界にあった、と記述されていました。


◆涅槃(ねはん)

 ここにいう涅槃(ねはん) は、仏教の主要な概念の一つです。以下に概要を紹介します。

 涅槃は、「さとり」〔証、悟、覚〕と同じ意味であるとされています。煩悩(ぼんのう)の火を吹き消した状態を指すのが本義です。

 その意味で、滅とか寂滅とか寂静と訳されます。また、涅槃は如来の死そのものを指す。涅槃仏などはまさに、死を描写したものであります。

 「人間の本能から起こる精神の迷いがなくなった状態」という意味で涅槃寂静といわれています。釈迦が入滅(死去)してからは、涅槃の語にさまざまな意味づけがおこなわれました。

 有余涅槃・無余涅槃とわけるもの
 灰身滅智、身心都滅とするもの
 善や浄の極致とするもの
 苦がなくなった状態とするもの

などです。

 以下は涅槃図(19世紀)です。


出典:Wikipedia

以上の解説の主な出典は Wikipedia です。



つづく