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格差を是正するバガンの社会の仕組み

Social system of Bagan to correct
the disparities


青山貞一 Teiichi Aoyama  池田こみち Komichi Ikeda
掲載月日:2016年8月4日
独立系メディア E−wave Tokyo

無断転載禁
(83) パゴダの構造と仏教の宇宙観の表現  (84) なぜ、多くのパゴダができたのか
(85) 格差を是正するバガンの社会の仕組み


 三つ目の疑問です。

 では、なぜ富を蓄積した一般庶民がその財を自分の生活をよくするためではなく、パゴダを建設するために使ったのかという疑問がでてきます。

 この答えは、仏教の信仰心をもって生活するバガンの人々の日々の生活の中に伺えます。

 下はバガンを代表するパゴダのひとつ、ダマヤージガ・パゴダです。 


出典:NHKスペシャル「アジア巨大遺跡 バガン」

 以下はグーグルマップで見たダマヤージガ・パゴダの位置です。


出典:グーグルマップ

 以下はダマヤージカ・パゴダの概要です。

> ダマヤージカ・パゴダ(Dhammayazika Pagoda)は、バガン王朝のナラパティ
> シードゥー王(King Narapatisithu、実在の王としては第7代、1139年生〜1210
> 年、在位:1173年〜1210年)によって1196年から1198年に建立された仏教寺院で、
> ニュー・バガンからアナウップワーソー村へ向かう道路の左手(北側)にありま
> す。ダマヤージカ・パゴダの外形は、五角形三段の基壇の上に、金塗り円錐形
> (ベル形)の仏塔が配置され、レンガ造りとなっています。基壇の壁面には、
> 「ダマヤージカ(Jataka、釈迦の前世物語)」のシーンをあしらったテラコッタ・
> タイルが嵌め込まれています。

 このお金は、ダマヤージカ・パゴダに村民が寄進、すなわち寄付したお金です。この月は、日本円でおよそ40万円集まりました。


出典:NHKスペシャル「アジア巨大遺跡 バガン」

 村民の一人が言います。私たちは国からの援助ではなく、こうした寄進されたお金で、パゴダの修復や維持管理を行っていると。


出典:NHKスペシャル「アジア巨大遺跡 バガン」

 中には驚くほどの大金を寄進する人物もいました。

 この人(経営者)は年収の5%を寄進に使うために蓄えているとのことです。


出典:NHKスペシャル「アジア巨大遺跡 バガン」

 1000万円を寄進(寄付の仏教用語)したヤンホーさんの言葉の中に、疑問を解く手がかりがありました。

 仏教の教えでは、「寄進すればするほど報われる」と言われていますと。また、寄進は自分にとって大きな功徳になります、とも言っています。
 

出典:NHKスペシャル「アジア巨大遺跡 バガン」

 ここにはじめて、「寄進」と「功徳」という言葉が出てきます。

 功徳は仏教徒が現世で行う善い行いを指します。世の中や人のためになる行為です。

 ところで、この功徳にはさまざまな形があります。

 そのなかには、地域を掃除すること、小鳥や野良猫に食べ残しをあげること、お坊さんらに托鉢をさしあげること、得度式や出家する人々を経済的に支援すこと、そして自分たちの仏塔(パゴダ)をつくることなどがあります。


出典:NHKスペシャル「アジア巨大遺跡 バガン」

 とりわけ、毎日托鉢に来るお坊さんに対し食事を提供することは、代表的な功徳となります。


出典:NHKスペシャル「アジア巨大遺跡 バガン」

 佛教に仕える僧侶に食事をささげれば、功徳になると。 


出典:NHKスペシャル「アジア巨大遺跡 バガン」

 ミャンマーでは現世でどれだけの功徳を積んだかで、来世に何に生まれ変わるかが決まると信じられています。

 そのため、あらゆる場面で功徳を積むことが生活の一部になっています。

 1000年前に生まれたパゴダは、この功徳の産物でした。

 パゴダは王だけでなく、村民がパゴダをつくることでも功徳となったのでした。


出典:NHKスペシャル「アジア巨大遺跡 バガン」

 このようにして、自分が人間界から天界へ、また天界から涅槃に行くためにはどうしたらよいのかが課題となり、仏教では、仏教徒は功徳を積むことにより人間界から天界へ、また天界から涅槃へと行けるとされています。

 王族だけでなく、村民が寄進してパゴダをつくることも功徳の一環となったのです。その結果、バガン遺跡からは肩書のない名前だけがが書かれた石碑をもつ膨大な数のパゴダができたと言えます。


 私達宿泊したホテルのすぐ隣にあったバガン考古学博物館1階に 集められた沢山の石碑碑文の中からは以下の文言が見つかっています。、
,
 バガン王国は数あらゆる王国の中で最も住みごごちがよい。
,
 住民たちは危険を知らず、心地よい生活を楽しんでいる。
,
 国(バガン王朝)は有用な財に満ち、民は豊かで、その収入は莫大である。
,
 ゆえに、この国(バガン王国)は、神々の国よりも
,
 望ましいとさえ言えるのだ

,

と。

 バガンには弱肉強食となる私的利益を極大化することが人間や人間社会の幸福にはつながらないという規範があり、「寄進による功徳」、すなわち富がたえず偏在しないよう、もてる者はもとより平均的な住民も、コニュニティ内の日常生活、行事、活動などに寄進(=寄付)することにより、長期的な功徳を得るという理念が規定にあったのです。

,


つづく