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青森県の風力発電から見る

現状と課題(前半)

  斉藤真実
環境総合研究所(東京都目黒区)

掲載日:2014年6月1日
独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁


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 青森県の風力発電の勢いに触発され、青森県の風力発電の現況と問題点、それに対する国の施策と今後の展望についてまとめてみることにする。

1.風力発電供給量第1位の青森県

 下北半島には原発関連施設が集中して立地しているため、青森県と言えば原発のイメージが強かった。しかし、下北半島および津軽半島をほぼ全周するルートをすすむと、そこここに風車がある景色と出会った。意識的に風車のある場所を目指したということはもちろんであるが、ふと車窓から見ると風車が見えたことも多々あった。通常の旅行をされた方の大半は、風力発電のイメージのほうが強いかもしれない。

 青森県は再生可能エネルギー供給量では国内第5位であり、風力発電においては第1位である。県内の再生可能エネルギー供給量のうち、約60%を風力発電が占める。県内には2013年3月末現在で212基(総設備容量約33万kW)ある。

 「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」(平成23年4月)において環境省が試算した青森県の風力発電導入可能量(※)は、最大で1,962万kW、最小でも356万kWであった。これは、少なくとも現状の10倍以上の規模が見込めるということになる。

 風力発電に最適な山・海を擁していることが、青森県の強みだ。風力発電機を設置できる土地(あるいは海)があり、風況も良い。「このまま増設していけば、原発なんてもういらないのではないか」!とも思えた。

 そびえ立つ幾つもの風車がグルグルと回っているのを目の当たりにすると、青森県における風力発電の可能性を強く実感できた。

(※)導入可能量とは、事業収支に関する特定のシナリオ(仮定条件)を設定した場合に具現化が期待されるエネルギー資源量。356万kW?1,962万kWとばらつきがあるのは想定したシナリオの違いからくるものである。

2.風力発電の問題点

 今後とも精力的に風力発電を拡大していってほしいところであるが、現状においてはまだ様々なハードルが存在する。

2-1.「風力発電のデメリット」
 青森県内の風力発電事業を紹介している21あおもり産業総合支援センターのサイトを見てみると「風力発電のデメリット」が以下のようにまとめられていた。(数字は筆者が便宜
上つけた。)
@ 初期の建設コストが高いところ。
A 自然を相手にするため、台風や雷による故障が多く、メンテナンス費用がかかります。
B 海外メーカー製が多いため、技術者の派遣、部品の取り寄せ等に時間と経費がかかる場合があります。
C 森林法、自然公園法や航空法等、各種規制が多いため、利用できる場所が限られています。
D 因果関係は未解明ですが、バードストライク、低周波等の課題が社会問題化されています。
E 風力発電の出力は気候によって変動しますが、電気の質への影響を抑えるスマートグリッドの導入や電力会社間の電力網連携等が進んでいないことから、電力会社の買取枠に制限があります。
F 蓄電池等で出力の変動を抑制していない風力発電施設は、電力会社の入札、抽選に受からなければ、電力網へつなぐ「系統連係」することができず、競争によって売電価格が低くなっています。

出典:21あおもり産業総合支援センター
http://www.21aomori.or.jp/windpower/about.html

 @〜Dに関しては、日本全国共通の問題である。E、Fについては、少し補足をする意味も込めて、関連する風力発電会社の事業参入への主要なハードルを3つにまとめてみる。

2-2.風力発電会社の3つのハードル
2-2-1.電力会社の買取枠のハードル
 平成24年7月から始まった固定価格買取制度によって、風力発電による電力はその地域の電力会社が一定期間買い取ることになっている。とは言え、優先して買い取ってくれるのでもなければ、無尽蔵に買い取ってもらえるものでもない。各電力会社ごとに買取枠(受入可能量)があるのだ。このことがEに書かれている。

 風力発電は風任せのため、出力に変動があるとされる。電気を安定的に供給するためには、総電力量における風力の割合を制限すべきである、という考え方である。

 青森県内の風力発電会社の売電先である東北電力の受入可能量は200万kWであり、平成32年頃までに200万kWを達成することを目標としている。東北電力によれば、平成25年3月末時点で約54万kW程度が接続済とのことなので、まだまだ接続できる余裕がある。

 その他の一般電気事業者の受入可能量と接続済の量は、調達価格等算定委員会の資料「最近の再生可能エネルギー市場の動向について」(資源エネルギー庁、平成26年1月10日)(http://www.meti.go.jp/committee/chotatsu_kakaku/pdf/012_02_00.pdf)の38頁を参照のこと。また、この資料を「資料1」とする。

2-2-2.出力の調整にまつわるハードル
 東北電力では通常の風力発電機(「通常型」と言う)と、蓄電池などで出力の変動を緩和させられる風力発電機(「出力変動緩和制御型」と言う)とを分け、それぞれに受入可能量が割り当てられており、条件も異なる。その通常型の条件がFに書いてあることである。

 通常型は入札で売電価格をなるべく低く設定し、しかも抽選に受からないと電力網へつなげない、というハードルがある。では蓄電池などをつければよいのかと言えば、それはそれで相応のコストがかかる。単に蓄電池を併設するだけでは、膨大な蓄電容量をもつ設備が必要となりコスト高にもつながるため、接続する電気容量を制御するシステムの開発に力が入れられている。

 ちなみに初めて出力変動緩和制御型の風力発電機が導入されたのが、青森県五所川原市の市浦風力発電所であった。
 
 出力が安定しているかどうか、という点では、もう一つ問題がある。

 風力発電会社は出力をある程度コントロールできないと、東北電力にペナルティ料金を支払わねばならないのだ。東北電力をはじめとする一般電気事業者は電力需要に対して瞬時に電力供給する(これを「同時同量」と言う)ことが求められており、かつまた実際に行っている。

 きちんとコントロールしている電力バランスのなかに参入していく風力発電会社にもそのコントロール能力が求められている。風力発電会社に対してはやや条件は緩く、30分の枠内で需要と供給のバランスがとれればよい、ということになっている。しかし、うっかり供給が需要に満たなかったとすれば、足りない部分を東北電力が供給し、その電力量に対して高額の料金を払わなければいけない。

2-2-3.常時接続とは限らない、というハードル
 更に、風力発電会社が受ける制限がある。電力需要の少ない夜間等に、それ以上電力供給量を下げることができない場合は、風力発電の出力を抑制または停止しなくてはいけないのだ。太陽光発電に比べて、夜間も発電できることが風力発電の利点である。それなのに、せっかく発電できている夜間にも発電を停止しなくてはいけないことがあるというのは、厳しい。

 以上、3つのハードルについて述べた。

 FIT導入で全量買取が決められたとしても、依然として風力発電に制限がかけられている感は否めない。こういった状況が改善される見込みのある電力制度改革が強く望まれる。

(つづく)