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自らの存在を否定する環境省
〜東京大気汚染裁判に関連し

鷹取 敦

掲載日:2006年10月17日


 都心部の深刻な大気汚染について、損害賠償と大気汚染排出差し止めを争っている「東京大気汚染裁判」に関連し、東京都は患者救済に向けてメーカー側と協議の場を設けると提案したと報じられたのは9月27日のことである。

ヨミウリオンライン 2006/9/28早朝より引用

 東京都内のぜんそく患者らが排ガスで健康被害を受けたとして、国と都、旧首都高速道路公団(現首都高速道路会社)、自動車メーカー7社に損害賠償を求めた東京大気汚染訴訟で、都が患者救済に向けてメーカー側と協議の場を設けることが27日、わかった。

 そして翌28日には「東京大気汚染裁判」の控訴審が東京高裁で結審し、原田敏章裁判長は判決期日を示さずに、原告、被告双方に和解協議入りを促し、事実上の和解勧告を行った。

NIKKEI.NET 2006/9/28より引用
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20060928AT1G2802W28092006.html

 原田裁判長は、提訴から10年以上経過し、原告の多くが死亡したとして、「事実認定、因果関係など争点は多岐。判決では解決できない問題を含んでおり、できる限り早く抜本的、最終的解決を図りたい」と指摘。「関係者が英知を集め、協力して」と呼びかけた。

 東京都は判決を目前にして患者の救済に主体的に乗りだす姿勢を明確にした、ということである。

「東京大気汚染公害訴訟の判決への対応について(東京都知事本部)」に、地裁判決への東京都の姿勢が次のように示されている。東京都は地裁判決の際もあえて控訴をしなかったのだ。

東京都サイトより引用
http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2002/10/60CAU100.HTM

1.判決の内容・論理は承服できない理由

(1) 国の自動車排出ガス規制責任がないとしたが、大気汚染の根本的な原因は、国の自動車排出ガス規制の怠慢にある。

(2)道路が公害の発生源であるとしたが、道路整備は、大気汚染の解決のためにむしろ必要である。

2.控訴しない理由

(1) 多数の健康被害が発生し、各地で訴訟が提訴されており、今や問題解決を個々の裁判にゆだねられない全社会的な問題となっている。これ以上行政内部の論理を優先して、裁判を継続し、結論を先送りすべきでない。

(2) 今、早急に実施すべきことは、1)国の自動車排出ガス対策の強化、2)健康被害者の救済である。

 地裁での判決への評価や、道路整備が必要かどうか、などの点については大いに異論があるが、少なくとも現に深刻な健康問題をかかえている患者の救済を優先した姿勢は評価できるだろう。

 一方、本日、NHKによって報じられたところによると、若林環境大臣は、次
のように、大気汚染とぜんそくの因果関係が不明であるから患者の救済はできない、との考えを示した。

NHKサイトより引用

http://www3.nhk.or.jp/news/2006/10/17/k20061017000133.html
 これについて、若林環境大臣は、17日の記者会見で「大気汚染とぜんそくの因果関係が十分明らかになっていないため、国民の税金を使うわけにはいかない」と述べ、財源の負担には応じない考えを示しました。

 同報道において原告弁護団の西村隆雄弁護士が「東京だけでなくほかの地域の大気汚染訴訟でも排気ガスとぜん息の因果関係は認められてきた。」と述べたと報じられているように、「排ガスとぜん息の因果関係」は裁判所でも認められてきたし、この点について「不明」とするのは科学的な観点だけでなく一般的な感覚からしてもかけ離れているのではないだろうか。自動車排ガスは健康に悪くない、と思っている人がどれだけいるのだろうか。

 そもそも、排ガスが健康影響を及ぼすと考えているからこそ、国も自動車メーカーに対する規制(単体規制)や、自動車NOx・SPM法などの特別措置法を設け、国(環境省、国交省、その他関連省庁)・自治体をあげて膨大な税金を投入し、(効果はともあれ)自動車大気汚染問題に取り組んできたはずであろう。

 もし因果関係が明確でないのであれば、税金を投入して自動車排ガス対策を行う必要はない。それこそ税金の無駄遣いだったということになる。もしそうであれば、自動車公害問題について、環境省はそもそも不要だ、ということに他ならないだろう。

関連コラム

◆青山貞一・東京大気汚染公害裁判の東京地裁判決へのコメント
〜主として東京23区の「面的汚染」について〜
http://eritokyo.jp/independent/air/tkoaircomment1.html

◆東京大気汚染公害裁判・論点解説集
http://eritokyo.jp/independent/etc/tokyoair/tkoairlawsuite.html

◆東京都特別区における窒素酸化物・浮遊粒子状物質
高濃度汚染地域解析調査 −概要−
http://eritokyo.jp/independent/etc/tokyoair/index.html

◆東京23区の大気汚染シミュレーション
http://eritokyo.jp/independent/etc/tokyoair/tko23airmap1.html

◆東京大気汚染公害裁判・鷹取敦証人への国の反対尋問
http://eritokyo.jp/independent/nagano-pref/tokyoair-col1002.html

◆青山貞一・衆議院環境委員会 参考人意見公述 配付資料・要旨
環境保全の基本施策に関する件・(大気汚染による健康影響問題)
http://eritokyo.jp/independent/etc/nox-sankounin/index.html
http://eritokyo.jp/independent/etc/nox-sankounin/index2.html

◆青山貞一・アルジャジーラが取材に〜日本の環境政策について〜
http://eritokyo.jp/independent/nagano-pref/aoyama-col6045.html