環境省廃プラ焼却 「問題なし」の非科学性 鷹取 敦 掲載日:2007年1月24日 |
以前のコラム「23区廃プラ焼却「実証確認」のまやかし」において、「東京二十三区清掃一部事務組合」が行っている廃プラスチック焼却の「実証確認」なるものが、全く科学的な体をなしていないことを指摘した。 これに関連して、1月23日、廃プラ焼却の問題点に強い懸念を持つNGO(廃プラ市民協)、東京23区区民、区議(以下「NGO等」と表記)が国(環境省廃棄物・リサイクル対策部)にヒアリング・申し入れする場に同席する機会を得た。 自治体である「東京二十三区清掃一部事務組合」と同様、国(環境省)も十分な調査、根拠なく、「安全宣言」をしていることが明らかとなった。 その概要を以下に示す。 NGO等は事前に8つの質問を環境省に提出しており、基本的に、今回のヒアリングはそれに回答する形で進められた。 なお8つの質問のうち2つは廃棄物・リサイクル対策部の所管外ということで、残りの6つについて回答を得た。 なお、以下はあくまでも概要であり、一字一句正確に再現したものではないため、詳細について実際の質疑とニュアンスが異なる部分があるかもしれないことを予めお断りしておきたい。 また、ヒアリングに応じた担当者のその場における受け答えはおおむね丁寧であったが、本稿で論じたいのは、対応が丁寧であるかどうかではなく、その内容と本質である。 ■質問1、2:未規制物質の排出、周辺への影響について■ 1つめおよび2つ目の質問は、廃プラ焼却に伴い、塩化水素、ダイオキシン類などの規制物質の他に、多環芳香族炭化水素類(PAHs)、重金属類など未規制化学物質の排出が想定されるが、焼却炉(自治体、民間が設置する規制対象、未規制事業所)からのこれらの排出実態、周辺の土壌、水系への蓄積、影響をどのように把握しているか、について問うものであった。 これに対する環境省の回答の趣旨は、規制対象以外の物質については全国、全施設について把握している訳ではない。有害大気汚染物質については、いくつかの地点で一般大気を測定し毎年公表している、ということであった。 なお、有害大気汚染物質とは、 http://www.env.go.jp/air/osen/law/index.htmlである。 上記の有害大気汚染物質には、重金属類のうち一部しか含まれていない上、質問で指摘しているような廃プラ焼却との関連について問題意識を持って調査しているということではない。例えば東京都では、http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/kansi/yugaitaiki/yugai.htmに示すように「一般環境大気測定局」(特定の発生源の影響を受けにくいと想定される地点)と「自動車排出ガス測定局」(幹線道路沿道)で、年間12回測定されている。これは、廃棄物焼却、とくに廃プラ焼却の影響の有無を判断できるような調査ではないし、そもそもそのような目的で行われていない。 環境省の回答を聞くと、何らかの関連する調査をしているような印象を受けるが、実際には質問されているような調査は全く行っていない。つまり廃棄物焼却と未規制物質の周辺環境汚染について全く調べていないに等しい。実際には規制対象物質についてもそのような調査はほとんどまともに行われていない。 ましてや、焼却炉から排出されている排ガス中の濃度や排出量については、なにも調査されていないに等しいことが環境省の回答から明らかとなった。 環境省が調査を行わないので、住民は以前より自らの負担で調査を行ってきた。以下はその一例である。これらの調査により、焼却炉等の影響による周辺環境の汚染の可能性は既に明らかとなっている。 http://eritokyo.jp/independent/soil/ryusenen-soil2.htmなお、NGO等の指摘によれば、23区区長会を含む全国市長会が、重金属類など未規制物質の規制値を決めるよう国に要望を出してきたが、国は全くこれに応えてこなかったそうである。 ■質問3:焼却施設内の汚染、作業者の健康リスクについて■ 3つ目の質問は、焼却施設内の作業環境中(労働者が仕事をしている場所)における上記の物質の排出実態及びダイオキシン類等有害物質による作業者への健康リスクについてどのように把握しているか、労働環境の所管である厚生労働省との情報の交換及び連携の有無等を問うものであった。 これは管轄が違うので最初から回答しないということであった。同じ焼却施設からの影響であるのに所管が違えば全く質問にも答えないという縦割りの弊害は重大な問題である。アスベストでも工場労働者への影響と周辺環境(住宅地)への影響は所管が異なることによる弊害が指摘されてきたが、環境省としては全く改善する姿勢がないということであろう。 ■質問8:焼却施設内の汚染、作業者の健康リスクについて■ 同じく回答がなかった質問として、平成19年度環境省新規事業予算に盛り込まれている「6.安全・安心・快適な生活環境の保全」の中の「局地的大気汚染の健康影響に関する疫学調査」の対象施設として廃棄物焼却施設(溶融施設等を含む)を加える考えの有無を問うものがあった。 これは、当該調査が幹線道路沿道における自動車の排出ガスへのばく露と健康影響との関連性を明らかにするための調査であるため、廃棄物焼却施設等の固定発生源は対象とはしていない、ということで回答無しである。行政の枠組みとしては理解できないことはないが、国民にとってはいずれも健康への影響について心配していることには変わりはないし、せっかく調査をするのであれば、同様に対象として欲しい、もしくは同趣旨で別途、調査を行って欲しいと考えるのは当然であろう。呼吸する大気が自動車分、焼却炉分と分かれているわけもない。 ■質問4:廃プラ焼却と重金属類の排出について■ 4つ目の質問は、廃プラ「サーマルリカバリー(サーマルリサイクル)」(筆者注:焼却によって発生する熱を利用して発電等を行う。発電量、すなわち焼却量を維持しなければならないためごみ問題への取り組みを後退させる「リサイクル」の名に値しない仕組み)に伴うに関する重金属類の排出をめぐる環境汚染問題について、以前から廃棄物対策課とやり取りを行ってきたが、その後の経緯と安全性に対するリスク評価について問うものであった。 これに対する環境省の回答の趣旨は、重金属類については、ダイオキシン対策済み施設については排出が無い(ゼロではないが「問題ないレベル」)と考えている、その根拠は既存の研究論文および研究者の意見。国、自治体など行政としての調査は行っていない、というものであった。 なお、「排出が無い」という表現を「ゼロではない」と言い換えたのは、NGO等側の指摘があった後であり、当初は全くのゼロであるかのように答えていた。 また「既存の研究論文」については、NGO側が予め論文の著者に対して行ったアンケートで、廃プラ焼却の安全性を明らかにするような目的でもなければ、そのような結論も出ていないことが明らかとなっている。また、廃プラ焼却の問題点を指摘する研究については取り上げていないことも指摘された。つまり、環境省は廃プラ焼却に都合のいい論文の一部だけをつまみ食いしたのであり、いわば、先日来大きな社会問題となっている「納豆がダイエットに効く」という捏造と同じ構図なのである。これを指摘された環境省からは何の反論も無かった。 そもそも、重金属類については、EUは物質毎にグループを作って排出基準を設け、規制・監視の対象としている。つまりEUでは「問題がある」(もしくは問題がある可能性がある)と考えているからこそ、それを未然に防ぐために規制対象としているのである。環境省はその事実を知りながら、実際の焼却炉での実験も国もしくは行政として行うことなく、他人の論文の一部を恣意的に引用することで問題ないと判断した、ということになる。 焼却炉には様々なタイプがあるし、燃やすものも千差万別である。1つ1つの焼却炉の監視を行うことなく問題ないなどという結論が出せるわけはない。 ■質問5、6、7:廃プラ焼却の施設への影響について■ 5、6、7の質問は、廃プラ焼却に伴う燃焼管理、設備類のメンテナンス上の問題、不具合等、各種汚染物質の排出実態、事例、実証実験の有無、防止対策等の把握について公表を求めるものであった。 これに対する環境省の回答の趣旨は、廃プラ焼却に関連して「事故」が起こったという報告は受けていない。(近年「事故」が起こった場合には環境省に報告が上がる制度になっている。)ただし、廃プラを特定しての「事故」の原因分析を行っている訳でもない、環境省では実証実験も行っていない、というものであった。 また、環境省の担当者のうち1人は自治体(関西)の焼却炉で長年、働いた経験があるとのことだが、その方によれば、関西では廃プラは焼却されているのが普通だが、プラスチック焼却が原因でトラブルが起こったという経験はない。事故もないし、規制値を超えたこともない、ということだった。 一見、廃プラ焼却に関する「事故」がないかのようであるが、実際には関連を調べていない、実証実験さえも行っていないのだから「分からない」と回答するのが正解ではないだろうか。 なお、NGO側から、メーカーサイドからの意見として廃プラ焼却は燃焼管理上、問題があると答えているところがある、と指摘されたが、環境省はこの事実も把握していないということだった。つまり、「問題ない」のではなく「何も調べていないし、調べるつもりもないので、分からない」とういことが実態である。 また、国への報告対象である「事故」とされるのは極めて限られた事象であり、「不具合」は最新炉でも沢山起こっている。規制基準を大幅に上回る排ガスの排出(つまり汚染物質を大量に周辺環境にまきちらしている状態)している状態も「事故」ではなく「不具合」とされている。「事故」の報告がないと安易に説明するのはおかしい、とNGOから指摘されたが、まさにそのとおりである。「事故」がないとだけ説明して、なにも問題がないかのような印象を与えるのは作為的であり、アカウンタビリティ(あえて「説明責任」とは表記しない)を果たしているとは到底言えないだろう。 ■その他:溶融スラグの問題点について■ 池田こみち氏のコラム「隠蔽される鉛流出の実態」で、「彩の国資源循環工場」(埼玉県寄居町)における、ガス化溶融炉の冷却してスラグを生成する際に用いる水「水砕水」に高濃度の鉛に溶け出し、流出した「事故」について指摘されている。 環境省に、このような事態、すなわち水砕水に有害物質が高濃度に溶け出す可能性を想定していたか尋ねた。スラグとは高濃度の有害物質が「封じ込められて」いるものであり、それを冷却する水に溶け出すことは想定されてしかるべきであろうという問題意識から質問したものである。 これに対して、環境省はスラグの品質、排水処理の問題ではという回答であり、ほとんど何の問題意識もないことが分かった。 ちなみに、埼玉県は溶出するものと思っていなかったと言っているが、メーカーは当然、溶出するものと思っていたと言っているそうであり、見解、認識は食い違っている。 ごみ弁連会長であり理学博士でもある梶山弁護士によれば、水砕水は強いアルカリ性になっており、鉛は両性金属なので強アルカリ性で溶解度が上昇する、ヒ素、亜鉛、アルミニウム、ホウ素なども溶解度が上昇する可能性があるということであった。 メーカーが溶出するものと思っていたのは科学的にみて正しい認識、ある意味で常識的でもあるわけだが、これについて行政は問題意識もなくメーカーにまかせっぱなしで、問題が起こってはじめて気がつくということなのだろうか。 なお、上記でスラグに「封じ込められて」と書いたが、環境省が指摘したように、スラグはその「品質」によって有害物質が溶出する可能性が少なくない。しかしそのその安全性を確かめる溶出試験の「公定法」に問題があるため、安全であるかどうか分からないのだ。「公定法」の問題点については、以前のコラム「土壌汚染対策法のデタラメな分析法」の「日本の溶出試験の問題点」で指摘したとおりである。 環境省も以前に、栃木県で溶融スラグを穴に埋めるのに用いる計画に対して、環境省は溶出する恐れがあるので反対したことがあるとNGOは指摘したが、環境省は、ケースバイケースであるが、原則としては溶融スラグは安全だと考えていると答えた。残念ながら「安全だと考える」根拠は示されなかった。 どこかで聞いたことがあるやりとりだと思ったら、「横浜環状南線(圏央道)質問集会」での国交省の回答がまさに同じようなものであった。 ここで国交省は、アセスのマニュアルの方法が「正しいと信じている」と繰り返すばかりで、科学的な根拠を全く示すことが出来ず、会場から失笑を買っていたのである。 これでは科学ではなく「宗教」であろうと。 |