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敢然と東九州道の

路線変更に挑む農園主L

〜東九州自動車道

事業認定事前差止訴訟

訴状全文〜

掲載日:2008年8月15日

独立系メディア E-wave Tokyo

転載禁
青山貞一:敢然と東九州道の路線変更に挑む農園主
@道路局は現代の「関東軍」か H土地を売らないの仮処分を提起
A民営化で進む高速道 I現地住民集会開催
B地場産業と環境を破壊する高速道 J行訴第10準備書面
C代替ルートの政策提案 Kルート変更求め集会
D総事業費の比較 東九州道、事業認定事前差止訴訟提起
E岡本氏と櫻井よし子氏 L事業認定差止訴状
F国会で大いに議論を! M第一準備書面全文
G欺瞞に満ちた道路特定財源案 N国土交通省ヒヤリング
H土地を売らないの仮処分を提起 O国土交通省との直接交渉

 ※ 岡本栄一氏以外は原告名及び住所を伏せてあります。
 ※ 
本件に関する経過に関する論考
     

                         訴  状

                                       平成20年8月11日

福岡地方裁判所 民事部 御中

                            原告ら訴訟代理人
                            弁護士 海  渡  雄  一
                              同  只  野   靖

当事者の表示 別紙当事者目録記載の通り

東九州自動車道事業認定事前差止請求訴訟

訴訟物の価額 金2240万円(算定不能×14)
貼用印紙額  金8万9000円

請求の趣旨

1 被告は、別紙事業目録記載の工事に関して、土地収用法(昭和26年法律219号)第20条に基づく事業認定をしてはならない。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決を求める。

請求の原因

第1 本件の概要

 本件は、高速自動車国道東九州自動車道(「東九州自動車道」)のうち、福岡県築上郡大字上ノ河内から大分県宇佐市大字山本までの区間(「本件区間」)について、その予定路線上に土地を所有している後記原告らが、土地収用法(昭和26年法律219号)第20条に基づく事業認定を改正行政事件訴訟法37条の4によって導入された事前差止訴訟制度に基づいて差し止めようとするものである。

 原告の内、岡本栄一は既に御庁に対して東九州自動車道事業計画認可取消請求事件を提起し、平成18年(行ウ)第51号事件として第1民事部に係属中である。本件訴訟と前記事件とは、対象とする事業、原告(原告喜久田は除く)、被告を共通とし、また請求原因事実、訴訟資料も共通であるので、両事件を併合審理されるよう、強く要望する。

 以下において、引用する書証番号は上記平成18年(行ウ)第51号事件において提出されている書証番号である。


第2 当事者等

1 原告ら


 原告岡本榮一(「原告岡本」)は、住所地において、「岡本農場」の名称でみかん農園を営んでいるものである。

 原告KT及び原告KHは夫婦である。

 原告岡本は、東九州自動車道の本件区間の予定路線内に土地を所有している(甲1)。 原告KTは、東九州自動車道の本件区間の予定路線内に別紙土地目録記載の土地を所有している(登記簿謄本は追完予定)。

 原告KHは夫である原告KT喜久田哲とともに、住所地において農業を営んでいる者である。

 原告OSは、東九州自動車道の本件区間の予定路線内に別紙土地目録記載の土地を所有している(登記簿謄本は追完予定)。

 これに対して原告AS、原告OM、原告IU、原告IM、原告YH、原告KY、原告OM、原告TSらは、東九州自動車道の本件区間の予定路線内には土地を所有していないが、その直近に土地を所有している者達である。


 原告らの所有土地・居住土地と本件道路計画の位置関係の詳細については、提訴後に提出する準備書面において明らかにする。

2 訴外西日本高速道路株式会社

 訴外西日本高速道路株式会社は、旧日本道路公団が分割民営化されて平成17年10月に設立された株式会社であり、本件区間を含む東九州自動車道の起業者である。

3 被告国

行政訴訟法38条によって11条が準用されるので被告は国となる。処分をしようとしている行政庁は国土交通省である。

 国土交通大臣は、土地収用法17条の規定に基づき、本件事業について事業認定を行う場合には、その事業認定を行う権限を有するものである。

 また、国土交通大臣は、都市計画法59条2項の規定に基づき、本件事業について都市計画事業の認可を行う場合には、その認可を行う権限を有するものである。


第3 本件事業の現状

1 本件事業の現段階

 東九州自動車道の本件区間は、片側2車線(往復4車線)で、約65m幅で計画されている。予定路線位置は、すでに地図上にも記載があり、予定路線では、地権者立ち会いの杭打ちがほとんど終了している。その一部には、すでに買収に応じた地権者もいるようである。福岡県築上郡上毛町安雲で、買収が既に行われたとする情報がある。

 原告岡本は、この予定路線のど真ん中である福岡県豊前市松江に12ヘクタールもの農園を持ち、この道路の必要性が低いこと、道路を建設するとしても片側1車線で十分であり、現在すでに供用されている椎田道路をできる限り転用した上で、ルートを山側にずらしたほうが費用が大幅に節約されることについて、永年にわたって地域住民の先頭に立って議論を提起してきた。

 原告岡本は、従前から、現在の予定路線の代替案を具体的に示してきた(甲9 原告岡本陳述書、「山裾ルート」)。原告岡本が今回あらためて行った試算では、その事業費は約541億円で足りる。現在の計画に要する事業費は約1030億円と言われているから(ただし実際にはさらに増大するはずであるが、ここではひとまず措く)、総額53%の事業費で、同じ目的を達成することができるのである(甲24号証)。

 原告らが本件訴訟を通じて行っている主張は、単なる高速道路反対論ではない。合理的な代替案を示した上で、事業目的を達成するために、どちらがより適切な計画であるかをきちんと行政に判断してもらいたいということである。そしてそれが実現しないときには公正な裁判所に司法判断を求めたいと考えてきた。

 こうした原告らの努力もあって、徐々に東九州自動車道の建設とその路線計画の問題が国政の場でも注目されはじめ、いわゆるガソリン国会においては、非常にホットな国政の議論の対象ともされた(甲25号証、甲26号証)。東九州自動車道の問題は、いまや一地方の話題ではなく全国版の新聞記事の論評の対象ともされており(甲27号証朝日新聞記事)、その事業の必要性、公益性、ルート選定の合理性、経済性などが厳しく問われているのである。

2 次の段階において執られる予定の行政手続について

 本件提訴に先立ち、原告代理人らは国土交通省道路局総務課高速道路経営管理室、道路局有料道路課、総合政策局総務課土地収用管理室に連絡し、本件事業において任意買収できなかった土地について、どのような手段で土地の取得を図る計画であるかを聞いた。より具体的に土地収用法に基づく事業認定を行うのか、それとも都市計画法に基づいて都市計画事業の認可を行うのかを明確にするよう求めた。ところが、前2者は、所管が違うとして問いに答えず、土地収用管理室は、どのような手続きを執るかは起業者が決めることであるという答えであった。

 そこで、原告代理人らは、西日本高速道路株式会社九州支社に連絡し、同一の質問を行ったところ、同会社のホームページにおいて掲載しているとおりの手続をとる予定であるとの説明であった。同会社のホームページによれば、今後土地の買収を進めて、杭打ち後3年か、土地の買収率が80パーセントを超えた時点で土地収用事業認定申請の準備を始め、1年以内に事業認定を申請するとしている。このホームページの記載によれば、次の行政手続は土地収用法上の事業認定を予定しているものと推定されるが、公式に回答が得られたわけではないので、本訴においては念のために都市計画法に基づいて都市計画事業の認可を得ることも差し止めの対象とすることとする。

 被告ないし起業者において、都市計画法に基づいて都市計画事業の認可を得る計画はないことを明言されれば、この点は何時でも取り下げる用意がある。

 行政事件訴訟法46条の趣旨に照らせば、行政、起業者は市民のこのような質問に対して適切に返答するべきである。

 いずれにしても、土地収用法の要件は法20条に記載があり、都市計画法上の都市計画事業の認可は、法70条により事業認定と同様の効力を有するものとされている。

 今後、本件について上記のいずれの手続きが執られるかは、明確とは言えないが、その要件と効果は、ほぼ共通しており、今後の議論では土地収用法20条の規定に基づく事業認定がなされるものとして議論を進めることとする。


第4 本件は、事前差止の各要件を満たしていること

1  事前差止の要件


(1) 改正行政事件訴訟法3条7項は、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにもかかわらず、これがされようとしている場合において、抗告訴訟としての差止め訴訟ができる旨の明文化を行い、同法37条の4は、差止めの訴えの要件について、以下のとおり定めている。

1 差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。

2 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分又は裁決の内容及び性質をも勘案するものとする。

3 差止めの訴えは、行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。

4 前項に規定する法律上の利益の有無の判断については、第九条第二項の規定を準用する。

5 差止めの訴えが第一項及び第三項に規定する要件に該当する場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をすることがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずる判決をする。」

(2) 事前差し止め訴訟の意義と要件

 以上のとおり、同法37の4は、その訴訟要件として、
@ 「対象行為の特定性 蓋然性」
A 「重大な損害を生じるおそれがある場合(損害の重大性と回復の困難さ)」
B 「その損害を避けるために他に適当な方法がないこと(補充性)」
C 「法律上の利益を有する者(原告適格)」を要求し、さらに、本案要件として、
D 「行政庁がそのような処分もしくは裁決をすべきでないことが、根拠法令の規定から明らかに認められること又は裁量権の範囲を超えもしくはその濫用となること」
を定めている。

2 本案前の要件1 対象行為の特定性、蓋然性

(1) 東九州自動車道の本件区間については、既に訴外西日本高速道路株式会社の申請に対して、

ア 平成18年3月31日に道路整備特別措置法第3条に基づく事業許可(「本件事業許可」)

イ 平成20年3月31日に高速道路株式会社法第10条に基づく事業計画の認可(「本件認可」)がなされており、これに対して原告は取消訴訟を提起し、平成18年(行ウ)第51号事件として御庁第1民事部に係属中である。

 また前記のように、現地においては杭打ちと測量も行われており、本件区間の建設計画は、路線の正確な位置・構造を含めて既に明確に特定されている。

 そして、その計画において、計画道路地が原告らの所有する土地を貫くことが明らかにされている。

(2) 原告岡本について言えば、ほかならぬ訴外西日本高速道路株式会社が行った本件事業許可を求める申請書の添付書類中の地図にも、「岡本農場」の記載があることからも明らかであり(乙5の1の5頁)、被告もこの事実について全く争っていない。そして、現に、原告岡本所有地と隣地所有者との境界部分の現場には、そのことを示す杭も打たれている(甲28号証写真撮影報告書写真D〜S)。

(3) 他の原告らのうち、原告喜久田哲と原告織部茂幸らについては、本件道路予定地内に土地を所有し、農業や居住の用に供している。

 たとえば、原告喜久田哲は本件道路予定地内に水田を約一反所有し、農業を営んでいる。既に買収交渉の前段階の接触を起業者から受け、道路建設がされた後の状況を図示した予想図を持って来られている。

(4) その他の原告らも、いずれも本件道路予定地のすぐ近くに土地を所有し、居住・農耕の用に供している。本件道路事業が実施された場合、その生活環境破壊、自然環境破壊の影響を直接的に受ける者であり、法律上の利益の侵害を受ける者である。

(5) 原告らは、任意買収に応ずる意思はない。そして、原告らの内予定地内に土地を所有する者達は、この事業計画に協力して、原告らの所有地を任意に売却する意思は全くない。したがって、本件計画を進めるためには、訴外西日本高速道路株式会社は、土地収用法による事業認定を得、収用裁決を得る以外に計画を進めることはできない。したがって、本件計画を進行するためには、任意買収を進めた上で、近接した時期に事業認定の手続きに進むこととなることは確実である。請求の趣旨記載の事業認定がなされる蓋然性は著しく高いといえる。

3 本案前の要件2 損害の重大性と回復の困難さ

(1) 原告らは、訴外西日本高速道路株式会社の申請に基づき、事業認定、土地収用裁決へと手続きを進行された場合、自らの所有する土地を奪われるという重大な損害をこうむる。そして、その損害を回避するためには、事業認定がされた後、あるいは土地収用裁決がされた後に、その取消を求めていたのでは、もはや手遅れである。回復困難なのである。

(2) すなわち、土地収用事案においては、既に事業地内の多くの土地について任意買収が済み、公有地等となっている事業案と、そうでない対案があった場合に、前者の案が適切であるとの判断が行われる可能性が高いのである。このことは、被告らの作成してきた事業認定申請マニュアルからも裏付けられる。

(3) 建設省建設経済局総務課土地収用管理室が監修した『新事業認定申請マニュアル改訂版(道路事業・河川事業・都市計画事業関連編)』(ケイブン出版・2000年6月)には、事業認定申請書には、「事業の認定を申請する理由」欄に、「B事業認定の申請に至った用地交渉の概要(所有者関係人等の概数と用地取得面積及び進捗率及び交渉開始年月を記載すること。)。」を記載することや(同書75頁)、起案地内に存する主な支障物件の種類及び数量について、「事業開始のときにあった物件を記載し、事業認定の申請時点において既に移転、除却が完了しているものに,ついては、その旨を記載することが望ましい。」(同書92頁)、「必要面積及び土地所有者・関係人数とそれらに対する取得率」「土地所有者等との交渉状況」について、一覧できる資料を作成して添付することなどを指導している(同書479頁、496頁)。その上で、事業認定の申請に添付する事業計画書の記載においては、上記Bの要件を明らかにするために、「他の場所を選定せず、なぜこの場所にしたかという理由を、代替案の比較等により具体的に記載し、起業地の特定性を明らかにすること。」「この際考慮すべき基本的ポイントとしては次のようなものがあげられる。(1)社会的条件@潰地面積の多少A支障となる物件の多少」などと明記されている(同書94,95頁)。

(4) 以上の説明に加え、この『マニュアル』には、事業認定申請書や事業計画書の作成事例が数多く掲載されており、その事例の中の記述には、例えば次のような記載がある。
「これらの事業に必要な土地の面積は131.040u、土地所有者及び関係者は170名であつて、昭和58年から用地取得の協議を開始し、平成6年7月現在で約87%の用地取得を完了しているものである。起業者としては、今後とも誠意をもって用地取得の協議を重ね、円満に解決するよう努めるものであるが、今後任意による解決が困難な場合には、速やかに収用委員会の裁決を求められるよう、あらかじめ事業の認定を受け、事業の円滑な進捗を図ろうとするものである。」(同書155頁)

(5) さらに、同書では、事業認定を行う際、起業地の一部の区間について用地取得等が全て完了している場合は、事業認定申請単位を縮小させ、申請事務を簡素化することを推奨している(同書62頁)。これは、収用の対象となる土地以外の部分がすでに任意で買収されている場合と、そうでない場合で、手続自体が大きく変わることを意味している。

(6) 以上見てきたように、土地収用法に基づく土地の収用、使用に対する事業認定の際には、既に用地取得がどれだけ進ちょくしているかという状況は、認定の当否に大きな影響を与えている。特定の起業地内の多くの部分が、事業認定以前の段階において既に任意買収されているとしたら、そのこと自体が当該事業の適正さ、土地利用の合理性を基礎づける事情になるのであり、起業者は当然そのことを理解しているため、収用のための事業認定の申請前に、事業予定地の買収を行うよう努力するのである。

(7) 本件においては、現状では公式には任意買収は開始されていないとされる。しかし、今秋にも任意買収に取りかかるとして、既に道路予定地の測量が大規模に実施されている。そして、測量に立ち会った土地所有権者には日当を支払うなどの、買収の事前工作が既に開始されている(甲29号証)。実際には買収が行われたという噂も現地では流れている。

  このような対応は、原告の提起した山裾ルートの提案が、国会や全国のマスメディアに取り上げられたことに驚愕した事業者が、早期に買収に取りかかり、本件ルートと山裾ルートとを、純粋に経済的に比較し、その適否を司法がフラットに判断できる事実状態を破壊し、本件ルートを進めるしかない状況を作り上げるために既成事実を積み重ねようとしているものと言わざるを得ない。

(8) したがって、このまま手続が進行した場合、原告らは本件について公正な司法判断を受ける機会を奪われかねないのである。まさに、損害は回復困難なのである。

  とりわけ原告岡本にとっては、営々として築き上げたミカン農園のど真ん中に道路を通されることとなり、原告岡本の営むみかん農園事業全体が遂行不可能となってしまうことが明らかである。他の原告達にとっても、農地や居住地を奪われ、地域の生活・自然環境を破壊され、その生活は根底から脅かされることとなるのである。

  原告らは現在の予定ルートに対して代替案を提示して、反対運動を継続してきたが、このまま任意買収がすすめられ、その既成事実の積み重ねの上に立って事業認定がなされた場合、原告らの提案している山裾ルートを採用しても、既に投じられた土地の買収コストを考慮すると、山裾ルートの経済的な優位が失われ、また行政の計画的な遂行の観点からも山裾ルートを採用した方が合理的であることを前提とする司法判断は著しく困難とされてしまう。

  したがって、原告には買収がまさに開始されようとしている現時点において「重大な損害を生ずるおそれが」生じていることは明らかである。

4 本案前の要件3 補充性

 仮に、すでに原告岡本が提起している事業計画認可等の取消訴訟の提起が認められず、また原告らが提起した買収行為の事前差し止めの訴え・仮処分が認められないとすれば、原告らには、本件以外に、「その損害を避けるため他に適当な方法が」ないこととなる。

 また、原告らの被る損害は営農の継続困難、生活基盤・自然環境の破壊という極めて重大なものであり、差し止め訴訟を認める以外に他に適当な方法がないといえる。

5 本案前の要件4 原告適格

(1) 土地所有等原告について 

原告らの内原告岡本栄一、原告喜久田哲、原告織部茂幸は予定路線上に土地を所有する者であり、土地収用法上の事業認定、収用裁決について原告適格を有することについては、判例理論の上においても争いがなく、同原告らが本件差し止め訴訟について原告適格を有することは明らかである。原告喜久田ひろこも、原告喜久田哲の妻であり、予定路線内の農地で営農している者であるから、本件差し止め訴訟について原告適格を有することは明らかである。

(2) 近隣住民原告について

  その他の原告らは、本件いずれも本件道路予定地のすぐ近くに土地を所有し、居住・農耕の用に供している。本件道路事業が実施された場合、その生活環境破壊、自然環境破壊の影響を直接的に受ける者であり、法律上の利益の侵害を受ける者である。


第5 予定されている事業認定の違法性

1 事業認定の要件


 事業認定の要件について、土地収用法第20条は、以下のとおり定めている。
「国土交通大臣又は都道府県知事は、申請に係る事業が左の各号のすべてに該当するときは、事業の認定をすることができる。

1.事業が第3条各号の一に掲げるものに関するものであること。
2.起業者が当該事業を遂行する充分な意思と能力を有する者であること。
3.事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること。
4.土地を収用し、又は使用する公益上の必要があるものであること。」
2 本件訴訟における各要件について検討の方法について

(1) 1,2号要件について

原告らは本件事業が、土地収用法第20条1号に該当することは争わない。

 起業者である西日本高速道路株式会社が、事業を遂行する意思と能力を有するかどうかについては(同法同条2号)、少なくとも同会社が公正な経済性分析の上で計画を立案し、最も適正かつ合理的な土地利用を進めるという政策判断の意思と能力を有していないことは、以下に述べるところから明らかである。

 以下では、主に、同法同条3号及び4号について述べることとする。

(2) 3号の「適正且つ合理的な利用」とは、「当該土地(起業地)がその事業の用に供されることによって得られるべき公共の利益」と「当該土地がその事業の用に、供されることによって失われる私的ないし公共の利益を比較衡量し、前者が後者を優越すると認められることをいう、と判例上解釈されており(いわゆる日光太郎杉事件に関する宇都宮地判昭44年4月9日行集20巻4号373頁など)、事業認定庁における認定実務においても同様の解釈が採用されている(小澤道一(元建設大臣官房審議官)『要説土地収用法』52頁)。

  そして、「得られるべき公共の利益」「失われる私的利益」「失われる公共の利益」には、比較困難な様々な利益が含まれることから、処分の前提として、事業認定庁が行う利益の比較衡量においては、「実務上、起業者提示の代替案等に基づき代替案の検討が行われるのが通例」であり(前掲小澤52頁)、現実には、特定の事業を行うことにつき、事業者が選定した特定の場所が、他の場所と比較して相対的に適正かつ合理的か否かが判断されることになる。

(3) 4号の要件の解釈においては、収用の計画そのものが必要性があるかどうかが厳しく問われることとなる。

必要性がない、もしくは必要性が低い計画については公益性がないと言うこととなる。また、収用又は使用という取得手段をとることの必要性を検討することになるため、収用又は使用を避けるために国公有地を適切かつ合理的に活用するための別案・選択肢がないか否かも検討されなければならない(前掲小澤63頁)。

3 本件道路計画の必要性について

(1) 道路事業を評価する視点


 本件道路事業を客観的に評価する視点として、ここでは当該道路事業の<社会経済的な必要性>、<技術・財政的な妥当性>、それに<適正手続面からの正当性>の3つが重要なものとなる。以下、本件道路事業にかかわる3つの視点のうち、とくに<必要性>及び<妥当性>について疑義を申し述べるとともに対案を示すものとする。

(2) 交通量の把握が重要である

 我が国の高速道路事業建設をめぐりこの間、全国各地で起きている議論、紛争のうち最も重要な視点は、当該道路の必要性に係わるものである。本件道路事業にあってもこれは例外ではない。国、事業者は、福岡県東部の椎田南と大分県北部の宇佐を高速道路あるいは高規格道路で結ぶために東九州自動車道を建設しようとしているが、その際、現状及び将来における当該地域の主要道路の交通量がどうなっているかを知ることは重要である。

(3) 現状の交通量について

 本件道路建設の予定地域、すなわち椎田南から宇佐の間には、福岡県東部と大分県北部をつなぐ主要な道路として一般国道10号線がある。国と福岡県が平成17年に実施した全国道路交通情勢調査(交通センサス)によれば、一般国道10号線の交通量は、築上郡椎田町椎田西町で平日1日24時間で16,076台、豊前市松江で22,094台、豊前市岸井で23,638台となっている。これらは平成17年度の実測値である。

 一方、上記本件道路建設の予定地域の外側には、福岡県側には椎田道路、大分県側には別府から宇佐まで宇佐別府道路といずれも高規格道路に準ずる2車線の有料自動車専用道路が建設され、すでに供用されている。これら有料道路の現状における交通量は、椎田南で約16,000台、宇佐で約8,000台と推定されている。

 上記から直ちに分かることは、現状では本件道路建設予定地域には、福岡県東部側で1日当たり約36,000台、大分県側で約26,000台、それぞれ流入及び流出する交通量があることである。現状では一般国道10号線の松江交差点などで若干の交通混雑がみられるが、渋滞といえるほどのものではなく、これらは通勤のピーク時にごく一時的に見られるものにすぎず、一般国道10号線の全面四車線化や椎田道路への分散誘導、あるいは椎田道路の料金を下げることによって十分解消が可能な程度のものであるといえる。

 上記の現状交通状勢分析から分かることは、将来、当該地域の交通量が大幅に増加することがなければ、本件地域において新たに高速道路を建設する必要性は乏しいということである。

(4) 将来交通量の予測について

 道路の自動車交通量を増加あるいは減少させる要因にはいくつかある。ひとつ目は、夜間人口、昼間労働人口、自動車保有台数などの社会経済指標が将来増えるかにある。まず人口だが、我が国は総体として現在、人口のピークを過ぎ減少に向かっている。今後、2050年には現状対比で25〜30%減少するという予測が国立社会保障・人口問題研究所によってなされている。また同研究所予測では、2030年には3分の1以上の自治体が人口規模5千人未満に、また2025年から2030年にかけて9割以上の自治体で人口が減少するとしている。さらにそれらの自治体では少子化とともに人口の高齢化が一段と加速化すると予測されている。これらの社会動向及び趨勢に本件道路建設の予定地域は該当する。

 道路の交通量を増加させる次の要因に、地域における発生集中交通を呼び起こす要因、すなわち大規模な工場、住宅団地、公共施設、集客施設の新規立地がある。当該地域には過去、大学誘致があった。その後、トヨタ、日産など自動車工場の立地計画が新聞記事となっていたが、それらの工場立地計画はいずれも2006年から2007年当時のものであり、ここに来て経済状況は劇的に変わってきている。具体的にいえば、2008年以降は後述するように全世界的なガソリン、軽油価格の高騰に起因する世界的な「車離れ」が生じており、すでにトヨタは減産計画を打ち出している。またダイハツは久留米など他地域への工場分散を打ち出している。このように当該地域内に新たな自動車の集中発生を呼び起こす可能性は低い。

 次の要因は、逆に道路の自動車交通量を減少させる要因である。周知のように、2007年末以来、世界規模でガソリン、軽油価格の暴騰が起きている。その結果、不要不急の自動車交通が全国的に激減している。今後、現実に原油が枯渇する以前に、原油価格が高騰し、ガソリン、軽油価格の暴騰が継続することは想像に難くない。さらに我が国で進行している「格差社会化」や過疎化によって、各世帯における実質的な可処分所得が減少し、自動車燃料だけでなく、さもなくとも高額な高速道路料金を支払えなくなることが十分推察される。

 上述のように、いずれの社会経済指標をとっても、今後、本件道路建設予定地域で交通需要、とくに自動車交通量を増やす要因は見あたらない。

(5) 事業者側の将来交通量予測値は過大評価である

にもかかわらず、国、事業者は本件道路建設予定地域において平成32年の計画交通量として平成11年11月に公表した環境影響評価書で以下の数値を公表している。

計画起点:
              事業者による将来予測
椎田インターチェンジ   28,900台/日    
椎田南インターチェンジ  25,900台/日
豊前インターチェンジ   22,500台/日
計画終点:

まず、国、事業者側が上記の交通量を予測したのは、バブル景気の余波を受けた年代であって、その後、上記の社会経済指標は悪化(将来交通量が減少)の一途をたどっている。また東京など大都市及びその周辺都市で社会経済指標が上向いていた場合でも、中央あるいは大都市と地方との間での「地域格差」が著しく大きくなっており、現状に比べて平成32年に約2倍となる計画交通量は、きわめて非現実的で過大な予測値である。予測の背景、前提条件が不明確であって、意図的に将来交通量を多くするよう捏造された疑義さえあるといえる。

(6) 原告側の将来交通量予測値

原告らは、事業の必要性の現状において述べたように、今後、本件道路建設予定地域で交通需要、とくに自動車交通量を増やす要因は見あたらず、新たに高速道路を建設する必要性も乏しいと考えるものである。しかし、ここではあえて事業者側による過大な将来予測に対し、専門家の協力を得て上記の諸要因を考慮し、分析した上で、本件道路建設予定地域における最大交通量を推計した結果(値)を以下に示す。ただし、参考のため以下には国、事業者による将来予測値もあわせて示してある。

計画起点:   事業者による将来予測値  原告らの最大予測値
椎田インターチェンジ 28,900台/日   16,000台/日
椎田南インターチェンジ25,900台/日   11,000台/日
豊前インターチェンジ 22,500台/日   9,800台/日
計画終点:

上記の原告らの最大交通量予測値は、現在の椎田道路及び宇佐別府道路の平日、1日交通量に近い値である。

(7) 結論
 このように、本件事業はその必要性に疑問があり、すくなくとも計画が過大であることは明らかである。本件事業の実行によって原告らの居住する平野の中央に巨大な構造物が出現し、その生活環境は一変し、農業も居住も継続できなくなる可能性が高い。騒音や大気汚染によって自然環境が破壊される恐れも現実のものである。
 本件事業がこのような犠牲を払ってまで遂行しなければならないものであるかどうかについては深刻な疑問がある。

4 本件事業計画、とりわけ路線選択の合理性・妥当性について

(1) 路線の妥当性


 次に国、事業者による東九州自動車道の椎田南から宇佐までの路線における道路事業の妥当性について検証し、その対案を提起する。ここでいう妥当性は、路線(ルート)選定及び事業費に係わる妥当性である。

 国、事業者は椎田南IC〜宇佐間を4車線の高規格道路を計画し、事業化しようとしている。しかし、「3 本件道路計画の必要性について」で述べたように、平成32年に国、事業者が予測した計画交通量となる可能性は極めて低い。これは大都市及びその周辺地域など一部を除いて、計画交通量がきわめて過大であり、実際にはその半分の交通量もなかった高速道路が後を絶たないことからも明らかである。そのような状況下で、椎田南〜から宇佐において、将来予測値に基づいて当初計画を修正せずに、4車線で高速道路を建設することは以下の諸点から到底、許されるものではない。

(2) 本件計画路線の重大な問題点

 すなわち国、事業者の路線選定は、次のような取り返しの付かない甚大な問題を数多く持っており、財政、環境の両面で妥当性及び合理性がない。

@ 大部分が平地を通過する路線選定となっていることから、後述する山裾ルート案に比べて用地買収費が非常に高くなること、

A 高架橋建設においては材質や工法で割高のものを用いている。人家の多い地帯を盛土で通すため、様々な付帯工事を必要としている。

B 椎田南インターを起点としており、岡本農園を通過することで実績ある農園の経営を破綻に追い込む可能性が高いこと、

C 平地を通過することから大気汚染、騒音振動、景観悪化、地域分断など深刻な環境影響をもたらし、地域住民の生活する平野の居住環境、自然環境を決定的に傷つける可能性が高いこと。

(3) 事業費の経済的妥当性・環境的合理性の欠如 

 すでに述べたように、本件道路事業は、交通量から見てその必要性は根拠があるものとは言い難く、路線の選定についても妥当性、合理性に著しく欠けている。

 すなわち将来交通量との関連では、2車線はまだしも、4車線の高速道路を建設する必要性、妥当性はない。また仮に2車線とした場合でも、敢えて岡本農園のど真ん中を通過し、多くの住宅、農地がある平地を通過することは、地場産業を不要不急の道路建設が破壊することになり、我が国でも有数の騒音が静寂で大気が清浄な地域の環境を著しく破壊することになる。

(4) 山裾ルートの経済的妥当性・環境的合理性は明らか

 かかる観点からして、原告代表の岡本栄一氏が永年提案してきた2車線の通称、山裾ルート(代替ルート、2車線)案は、国、事業者の4車線案に比べ、椎田道路を3km転用し、山裾ルートとすることによって以下に示すように、経済、財政面での妥当性と合理性が得られ、想定される環境影響や被害を回避することが可能となる。

5 原告らが提案する山裾ルートの合理性と現実性について

(1) はじめに


 原告は、従前から、現行ルートの代替案としての山裾ルート(片側1車線)を提案してきた。原告が提案してきた山裾ルートは、甲9号証原告陳述書添付の資料3の緑色のルートである。以下、現行ルートと山裾ルートを比較して、山裾ルートの優位性を述べる。

(2) 山裾ルートの内容とその優位性

 原告が提案する山裾ルートは、豊前平野の山裾に沿ったルートである。訴外西日本高速道路株式会社の工事計画書(乙4号証)に対応させた形で、山裾ルートの概要を作成したものが甲30号証である。山裾ルートに橋やトンネルはあるが、高い山や深い峡谷ではない。工費は、現行ルートの場合約684億円かかるとされているが、山裾ルートでは約413億円ですみ、約271億円も安価である。用地及び補償費は約53億円ですむので、現行ルート(188億円)よりも、約135億円も安価である。総額ベースでも、541億円であり、現行ルート(1030億円)の53%ですむ。 

(3) 現行ルートとその問題点

 現行ルートは、甲9号証原告陳述書添付の資料3(本書面末尾にも添付)の赤色のルートである。そのルートは、椎田バイパスから分かれて南下し、原告のミカン山の真ん中を通った後、豊前平野を縦断して大分県への県境に出ている。

 豊前平野を縦断する部分は、高さ8m幅65mの巨大な万里の長城のような盛土道路となる(それを図示したものとして乙5の3の2枚目)。このような盛土道路が建設されることにより、その左右において土地は分断されてしまい、連続的な利用は不可能となる。

 また、用地費及び補償費の合計が約188億円とされているのは(甲24号証)、平野部を通るルートであることが原因である。また、すでに供用されている椎田道路についても、椎田南インターから御腰掛までの間を転用していないため、その分費用が増加する。

また、現行ルートの工事計画書には文化財発掘調査費として89億円も計上されている。

(4) 現行ルートの費用はさらに増加する

 ところで、現行ルートは1030億円とされているが、その中には、以下に指摘する費用が入っておらず、実際には、さらに工費がふくらむ可能性が高い。

ア 当局ルートの工事計画書の中に債務引き受け限度額として1235.63億円との記載がある。この債務引き受け限度額とは高速道路債務返済機構が訴外西日本高速道路株式会社に債務保証したものである。この1235.63億円は公表されている1029.53億円の事業費よりも206.1億円も多い。この206.1億円の使途としては、一般管理費60.53億円、利息135.74億円、消費税50.21億円と記載されている。

この点について、原告が訴外西日本高速道路株式会社に「本当に1235.63億円使うのか」と聞いてみたところ、同会社は「全部使う」「足らなければもっと借りる」と述べた。以上からして、現行ルートの真実の事業費は1235.63億円であると言える。但し遮音壁と準備工事費の合計80億円を加算しなければならない。

イ 地元負担について
訴外西日本高速道路株式会社の本体工事とは別に、地元自治体による付帯工事が発生する。

@ 現行ルートの豊前インターや中津インターにはアクセス道路が必要であり、豊前インターは1.4キロメートル、中津インターは2.9キロメートル、国道10号線へのアクセス道路が必要となる。そのために約105億円くらいかかる。これらの費用は、1030億円には入っていない。これに対して、山すそルートのインターは、それぞれ国道に直結しているのでアクセス道路の必要はない。この点でも経済的である。
A また、平野を通る現行ルートは側道の新設、道路水路付け替え工事も多くなりインターチェンジ、パーキングエリアの負担工事もある。これらを少なく見積もっても、現行ルートは80億円以上の負担増となる。
ウ 小括

 以上の経費を加えると、現行ルートは1500億円に費用が増加する。
なお、現行ルートは現在暫定2車線の工事であるが、いずれ4車線化の工事が予定されている。その場合、高コストの高架橋やトンネルをもう1列作らなければならず、事業費はさらに500億円の追加となり、暫定事業費と合わせると2000億円に達する。

(5) 工事概算書と単価表の提出を強く求める

 現行ルートの工事計画(乙4号証)には、平野ルートでは欠かせない遮音壁や準備工事費がまったく計上されていない。トンネル費についても疑問がある。

 原告は、かかる点を明らかにすべく、被告に対して「概算工事費計画書」の開示を求めてきたが(甲5号証)、現在に至る開示されていない(甲5号証、被告第4準備書面7頁)。
 しかしながら、現行ルートと山裾ルートの比較するためには、各単価を含む現行ルートの詳細な工事費が明らかにされなければならないし、また、それを明らかにすることに何の不利益も支障もないはずである。

 原告は、被告に対して、「5計画路線図」(甲第2号証)に係る概算工事費計画書(単価表を含む)の提出を求める。

6 結論

 以上からすれば、本件計画が、「土地の適正且つ合理的な利用に寄与」するものとはいえず、また「公益上の必要性」にも欠けることは明らかである。

 もう一度、原告らの議論をまとめると本件道路計画は、現在の交通量と将来に予測される交通量を過大に見積もった計画であり、その必要性は乏しい。仮に道路を建設するとしても、すくなくとも、片側2車線は不要であり片側1車線で十分である。

 ルートの選択についても、現在の平地ルートは、住宅地、田畑等に有効に利用されており、土地利用ができなくなる範囲が広範であり、周辺住民が被る経済的損害と生活環境・自然環境の破壊は重大である。その当然の帰結として、本件道路計画の事業費は高額である。

 これに対して、原告らが提案している「山裾ルート」は、

1)もともと、起業者の当初の計画では「山裾ルート」が計画されていた。
2)「山裾ルート」は、平地ルートから山側に約1キロ前後(場所によって600メートル程度から2キロ程度山側に寄っている)離れているにすぎず、平地ルートと同じ道路交通目的を達成できる。
3)既存の椎田道路をできる限り転用しており、既存の道路を有効に使用するという点からも合理的である。
4)山裾ルートの具体的な内容は、トンネル、橋脚に至るまですでに積算されており、その結果事業費は本件道路計画の三分の一から半分ですむ。

 このように、あらゆる観点から見て、原告らの提案する山裾ルートの方が土地の適正かつ合理的な利用プランであることは明らかである。被告が予定している事業認定が、土地収用法20条に定める要件を満足しない違法なものであることは明らかである。

第6 係属中の事業認可計画取消訴訟との関係と今後の審理の在り方について
1 係属中の訴訟の内容
 原告岡本は、本件に先立って、平成18年9月に、西日本高速道路株式会社に対してなされた本件事業許可と本件認可の各取消を求めて提訴し、同訴訟は、現在、御庁第1民事部に係属審理中である。
 しかし、同訴訟では、被告国は徹底して本案前の抗弁に固執し、未だに実体審理に入ることができていない。

2 併合審理を求める

 原告らとしては、本件訴訟とすでに係属中の事業許可等取消訴訟とは、その請求の基礎が全く同一であるから、同一裁判所で併合審理を求めたい。

 本件道路計画は、計画段階から、杭打ち、測量、買収交渉の段階に入った。現地には、大勢の関係者が立ち入り、測量、説明会の開催などが繰り返されている。本件道路事業において、その路線内に土地を所有する原告らに原告適格があることは明らかである。
 そして、本件道路の必要性と代替案と計画案の経済性の比較対照について司法判断を受けることができなければならない。

3 裁判所は早急に実体審理に入れ

 しかし、本件道路の必要性とルート選定の合理性については、今や全国民注視の社会問題となっている。このような重大な政策問題について司法審査の機会が保障されるべきことは民主主義社会における司法制度として当然のことである。

 今回提訴した事業認定の差止訴訟と、現在係属中の事業認可等取消訴訟との両方が違法であるということはあり得ない。裁判所は、両訴訟を併合審理し、早期に実体審理にはいり、本件道路計画の適否についての司法審理を進めるべきである。


第7 結論

 よって、原告らは行政事件訴訟法37条の4の規定に基づき、被告に対し、国土交通大臣が別紙事業目録記載の工事に関して、土地収用法第20条に基づく事業認定をしてはならないとの判決を求める。

証拠方法
 御庁第1民事部に係属中の東九州自動車道事業計画認可取消請求事件(平成18年(行ウ)第51号事件)との併合決定を待って、新たな証拠を提出することとしたい。

附属書類
2 訴訟委任状      14通


当事者目録
〒828−0002
 福岡県豊前市大字●●●●●●●
 原 告  岡   本   榮   一
〒828−0011
 福岡県豊前市大字●●●●●●
 原 告  AS 
〒828−0012
 福岡県豊前市大字●●●●●
 原 告  OM 
〒828−0066
 福岡県豊前市大字●●●●●
 原 告  IY 
〒828−0066
 福岡県豊前市大字●●●●●●●
 原 告  IM 
〒828−0064
 福岡県豊前市大字●●●●●
 原 告  YH 
〒828−0048
 福岡県豊前市大字●●●●●
 原 告  KY 
〒871−0907
 福岡県築上郡上毛町大字●●●●●
 原 告  KT 
〒871−0907
 福岡県築上郡上毛町大字●●●●●
 原 告  KH 
〒871−0921
 福岡県築上郡上毛町大字●●●●●●
 原 告  TS 
〒828−0066
 福岡県豊前市大字●●●●●●
 原 告  OS 
〒871−0921
 福岡県築上郡上毛町大字●●●●●●●
 原 告  NK 
〒871−0921
 福岡県築上郡上毛町大字●●●●●●●
 原 告  KR 
〒828−0048
 福岡県豊前市大字●●●●●
 原 告  TM 

〒160−0022
 東京都新宿区新宿1−15−9 さわだビル5階
    東京共同法律事務所
 TEL 03-3341-3133 FAX 03-3355-0445
  上記原告ら14名訴訟代理人
     弁護士  海   渡   雄   一
       同   只   野    靖

〒100−0013
 東京都千代田区霞ヶ関1丁目1番1号
 被告 国
    上記代表者法務大臣 保 岡 興 治

〈処分を使用としている行政庁〉
〒100−8918
 東京都千代田区霞ヶ関2丁目1番3号
 国土交通大臣 谷  垣  禎  一

事業目録

西日本高速道路株式会社起業に係る以下の事業

1 事業の名称
  高速自動車国道東九州自動車道(椎田南から宇佐まで)

2 対象区間
福岡県築上郡大字上ノ河内から大分県宇佐市大字山本までの区間(28.3キロメートル)


つづく