エントランスへはここをクリック   
  
敢然と東九州道の

路線変更に挑む農園主M

〜東九州自動車道

事業認定事前差止訴訟

第一準備書面全文〜

掲載日:2008年12月16日

転載禁
青山貞一:敢然と東九州道の路線変更に挑む農園主
@道路局は現代の「関東軍」か H土地を売らないの仮処分を提起
A民営化で進む高速道 I現地住民集会開催
B地場産業と環境を破壊する高速道 J行訴第10準備書面
C代替ルートの政策提案 Kルート変更求め集会
D総事業費の比較 東九州道、事業認定事前差止訴訟提起
E岡本氏と櫻井よし子氏 L事業認定差止訴状
F国会で大いに議論を! M第一準備書面全文
G欺瞞に満ちた道路特定財源案 N国土交通省ヒヤリング
H土地を売らないの仮処分を提起 O国土交通省との直接交渉

 ※ 本件に関する経過に関する論考
 

   
平成20年(行ウ)第31号東九州自動車道事業認定事前差止請求事件

原告 岡本榮一ほか13名

被告 国(行政庁 国土交通大臣)



                    準備書面(1)

                                       平成20年12月15日

福岡地方裁判所 第1民事部合議B係 御中

                            原告ら訴訟代理人

                             弁護士 海  渡  雄  一

                               同  只  野     靖


 山裾ルートの合理性と現実性についての主張の補充

1 はじめに

 原告は、訴状請求の原因「第5」の「5原告らが提案する山裾ルートの合理性と現実性について」(19頁)において、現行ルートの工事費は総額1030億円を要するところ、山裾ルートでは541億円で済むと述べた。

 原告は、その後、西日本高速道路(株)が作成した現行ルートの「事業費明細書」(甲31)を入手した。なお、同明細書は、併行審理されている御庁平成18年(行ウ)第51号事件以来、原告の度重なる要求にもかかわらず、被告が頑なに提出を拒んできた「概算事業費計算書」(約200枚)ではない。

 「事業費明細書」(甲31)は、未提出の「概算工事費計算書」に比べれば情報量が少なく分かりにくいものであるが、一応の各単価の記載があるので、原告は、これに基づき、改めて山裾ルートの工事費を積算した。その結果、工事費は460億円で済むことが判明した(甲32)。
 以下、その詳細を述べる。


2 現行ルートの「事業費明細書」(甲31)の概要

 現行ルートの「事業費明細書」(甲31)は、

@ 工事費 718億円
A 用地補償費 189億円
B その他 120億円

の3つに分けられる。

 さらに、@工事費は、
ア 土工費 173億円

イ 舗装費 25億円
ウ 中央分離帯費 1.9億円
エ 橋梁費 178億円
オ トンネル費 120億円
カ 連絡等施設費 56億円
キ 交通管理施設費 19億円
ク 雑工事費 12億円
ケ 付帯工事費 97億円

に分けられる。

 さらに、各項目は、工事の種類毎に「工種」「種別」「細別」に細分化され、「細別」毎に「単価」と「数量」が記載され、それを掛け合わせたものが「細別」の「金額」となっている。


3 原告提案の山裾ルートの概要

 原告は、山裾ルートの全体を、福岡県側は73区間、大分県側は71区間に分けて積算を行った。福岡県側の平面図が甲35の1〜4、同縦断図が甲36の1〜4、大分県側の平面図が甲35の5〜8、同縦断図が甲36の5〜8である。

 工事単価は、原則として、現行ルートの「事業費明細書」(甲31)の「細別」毎の「単価」を用いたが、合理的な理由がある場合には、適宜単価を変更した。その結果を一覧にまとめたものが甲32「事業費明細書」であり、それを説明したものが甲33「山裾ルート事業費明細書の説明」である。甲34の枝番の資料は、各工事の詳細を説明したものである。

 以下、その主要な部分を概説する。


4 工事費 当局ルート718億円 山裾ルート373億円

(1) 土工費 当局ルート173億円 山裾ルート91億円

ア 切盛土工 当局ルート112億円 山裾ルート50億円

 原告は、福岡県側は73区間、大分県側は71区間の区間ごとに、切土、盛土に分け、その土量を計算した。その計算結果をまとめたものが甲34の1である。切土量は合計約310万立方メートル、盛土量は294万立方メートルとなった(甲34の1の5頁)。
地質についても、甲31にならって、「土砂A」「軟岩」「硬岩」の3規格にわけ、地質図(甲34の2)からそれぞれの区間の地質を決定した。その結果は、甲34の1の3頁〜4頁の「適要」欄に記載した。

 移動土量表(マスカーブ)(甲34の2)を作成した結果、土の運搬距離は、当局ルートは平均4500メートルに対して、福岡県側では平均601メートル、大分県側では平均724メートル、全体の平均では660メートルと極端に短くなった(甲34の2)。このため、たとえば「土砂A」の単価は、当局ルートでは1立方メートルあたり1316円とされているが(甲31)、山裾ルートでは932円と設定できる。

 これらの結果、切盛土工費は、当局ルートでは112億円かかるところを、山裾ルートでは50億円で済む。

イ 法面工 当局ルート13.6億円 山裾ルート10億円
  山裾ルートの法面工をまとめたものが、甲34の4及び甲34の5である。

ウ 擁壁工 当局ルート4億円 山裾ルート1.7億円
  山裾ルートの擁壁工をまとめたものが、甲34の6である。

エ 溝渠工(カルバート)当局ルート33億円 山裾ルート17億円
  山裾ルートの凾渠工(カルバート)をまとめたものが甲34の7であり、管渠工(パイプカルバート)をまとめたものが甲34の8である。

オ 排水工 当局ルート10億円 山裾ルート12億円

  山裾ルートの排水工をまとめたものが甲34の9である。この工事については、山裾ルートの方が、単価の高い切土の施工距離が長く、若干高くなる。

(2) 舗装費 当局ルート25億円 山裾ルート25億円

(3) 中央分離帯費 当局ルート1.9億円 山裾ルート5.9億円

  中央分離帯については、当局ルートが1.9億円に対して、山裾ルートは5.9億円と高額になっているが、これは、当局ルートが暫定二車線の工事であるため、分離帯が殆どないためである。一方、山裾ルートは、二車線工事で完了である。従って、当局ルートが計画通りに完成した場合には、当然山裾ルートの方が、費用は安くすむ。

(4) 橋梁費 当局ルート178億円 山裾ルート51億円

 山裾ルートの橋梁費をまとめたものが甲34の10である。山裾ルートでは合計14の橋が必要である。14本のそれぞれについての説明を加えたものが、甲34の10の1〜34の10の14までの各資料である。袴道橋(オーバーブリッジ)をまとめたものが甲34の11である。
橋のコストの大半は橋げたである。当局ルートは1平方メートル当たり30万円程度のPC(鉄とセメント)構造の橋げたを使用しているのに対して、山裾ルートでは、1平方メートル当たり9万円程度のRC(鉄製)を多用した。

 橋の延べ面積は、当局ルートが33000平方メートルに対して山裾ルートは22000平方メートルで3分の2程度であるが、RCを多用したこと、橋の数が半分以下であること、基礎工事がほとんど必要ないことで、コストは3分の1以下となる。

(5) トンネル費 当局ルート120億円 山裾ルート123億円

 山裾ルートのトンネル費をまとめたものが甲34の12である。この工事については、山裾ルートの方が若干高くなる。

(6) 連絡等施設費(インター)当局ルート56億円 山裾ルート38億円

 インターチェンジの数は、当局ルートが4カ所に対して山裾ルートは3カ所であり、数が少ない分工費が安い。

 インター内の土量比較でも、山裾ルートは工事量が少ない。
当局ルートの中津インターは工事費が10億円とされているが(甲31の3頁)、平面図をみると中津インターと交差する中津日田道路に工事の一部分を負担させており、土量も多いことから、実際には、10億円を大きく上まわる費用がかかっている。

(7) 交通管理施設費 当局ルート19億円 山裾ルート19億円

(8) 雑工事費 当局ルート12億円 山裾ルート 未積算

 雑工事について、当局ルートでは12億円を見込んでいるが(甲31の3枚目)、遮音壁については、全く設置しない計画となっている(甲31の4枚目)。しかし、原告が入手している平成12年度の概算書では遮音壁として15億円が計上されていた(この点については、次回までに主張を補充する)。いずれ、沿線住民からの要望で、遮音壁の設置が求められることは必定であり、その場合には、さらに工事費がふくらむことになる。

 一方の山裾ルートでは、人家が少ないので、遮音壁の設置は大幅に削減できるはずである(この点についても、次回までに主張を補充する)。

(9) 付帯工事費 当局ルート97億円 山裾ルート 0

 当局ルートの付帯工事費97億円の大半を占めているのは文化財調査費88.7億円であり、この金額は工費総額684.7億円(消費税含まず)の実に13%に上っている。原告が入手している平成12年度の概算書ではこのような項目自体がなかった(この点については、次回までに主張を補充する)。文化財調査のために、このような巨額の費用を計上することは極めて異常なことであるとともに、いかにも唐突の感を免れない。

 当局ルートにおいて、遺跡の存在が確認されている場所は上毛町唐原の台地の神籠石列石だけである。しかしながら、同地点は、地下をトンネルで抜けるので、遺跡には全く影響はない。

 ほかに、当局ルートでは、遺跡の可能性がある場所は特段にない。発掘調査に費用を要するとしても、全体で10億円を超えるような費用がかかるとは思われない。

 高速道路のような土木事業においては、文化財調査費はいわば聖域となってしまっている。文化財調査費という名目を隠れ蓑とした事業費の不正や流用が強く疑われるのである。
 

5 用地補償費 当局ルート189億円 山裾ルート41億円

ア 用地費 当局ルート84億円 山裾ルート19億円

 山裾ルートの用地買収面積をまとめたものが甲34の13である。当局ルートの用地費は平均1平方メートルあたり5300円で計算されているが、細別の単価は公開されていない。数量は、宅地が6.3万平方メートル、水田が63万平方メートル、山林が61万平方メートルなどとなっている。

 これに対して、山裾ルートは、宅地はほとんどなく、水田(畑も含む)が39万平方メートル、山林が69万平方メートルである(甲34の13の3頁)。
細別の単価が公開されていないため、あくまで概算であるが、山裾ルートの方が4分の1のコストで収まる。

イ 補償費 当局ルート105億円 山裾ルート22億円

 山裾ルートの補償費をまとめたものが甲34の14である。当局ルートの細別の単価は公開されていない。数量は、宅地が2.7万平方メートル、収穫樹が6.6万平方メートル、用材木が61万平方メートルとされている。

 これに対して、山裾ルートは、人家に当たるのは23戸である。さらに道路から50m以内で環境に影響が生じるのが合計37戸あり、これに対して1戸あたり500万円を補償している。


6 当局ルートにはアクセス道路費用が入っていない

(1) 当局ルートの豊前インターや中津インターには、国道10号線と接続するために、豊前インタ ーでは1.4キロメートル、中津インターでは2.9キロメートルのアクセス道路の建設が新たに必要となる。特に中津インターでは、トンネルや盛土区間ばかりとなり、高コストである。豊前インターと合わせて、100億円が見込まれるが、この費用は1030億円には入っていない。

(2) これに対して、山すそルートのインターは、それぞれ国道に直結しているのでアクセス道路の必要はない。この点でも極めて経済的である。


7 小括

 以上のとおり、現行ルート(1030億円)で使用されている各単価を用いて原告が提案する山裾ルートを積算した場合、総額ベースで469億円であり、現行ルート(1030億円)の45%ですむことが明らかとなった。実際には、現行ルートではアクセス道路の建設費等がさらに加算されるため、その差はますます大きくなる。

 この点については、原告岡本が、併行審理されている御庁平成18年(行ウ)第51号事件以来要求している「概算事業費計算書」(約200枚)が提出されれば、より一層明らかになるはずである。また、本件の工事全体からみれば、未だ明らかになっていない地元自治体の負担分も決して無視できない。これらの負担分も含めれば、本件の工事費は、さらに巨額なものとなる。

 現在の当局ルートは、住宅地、田畑等に有効に利用されている。高速道路の建設により土地利用ができなくなる範囲が広範であり、周辺住民が被る経済的損害と生活環境・自然環境の破壊は重大である。その当然の帰結として、本件道路計画の事業費は高額である。

 これに対して、原告が提案している「山裾ルート」は、

1)もともと、起業者の当初の計画では「山裾ルート」が計画されていた。

2)「山裾ルート」は、平地ルートから山側に約1キロ前後(場所によって600メートル程度から2キロ程度山側に寄っている)離れているにすぎず、平地ルートと同じ道路交通目的を達成できる。

3)既存の椎田道路をできる限り転用しており、既存の道路を有効に使用するという点からも合理的である。

4)山裾ルートの具体的な内容は、トンネル、橋脚に至るまですでに積算されており、その結果事
業費は本件道路計画の半分以下ですむ。

 このように、あらゆる観点から見て、原告の提案する山裾ルートの方が土地の適正かつ合理的な利用プランであることは明らかである。被告が予定している事業認定が、土地収用法20条に定める要件を満足しない違法なものであることは明らかである。

 被告は、ここに至ってもなお原告らに原告適格がない、差止め訴訟における訴訟要件に欠けるなどの本案前の抗弁に拘泥し、本案については認否すらしていない。

 しかしながら、原告らはいずれも本件区間の予定路線地内に土地を有するかあるいは近隣に居住しているものであって、原告適格があることに疑問の余地はなく、また、事業者である西日本高速道路(株)は着々と土地の買収を進めているのであって、事業認定がされることも確実であり、差止め訴訟における訴訟要件にも欠けることはない。むしろ、法が事前差止め訴訟を導入したのは、まさに、本件のような場合を想定したものであるというべきである。

 被告は、原告の提案する山裾ルートの合理性と現実性について、速やかに認否反論すべきである。

 なお、被告の答弁書に対する反論、その後の経緯及びその他の点については、必要に応じて次回以降補充する。

つづく