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日本のメディアの
本質を現場から考える
@
〜新聞の発行部数と世論誘導〜

青山貞一


掲載月日:2007年1月28日

無断転載禁
◆青山貞一:日本のメディアの本質を現場から考える 
  バックナンバー

J巨大公共事業推進の先兵
I政権政党ともちつもたれつ
H政治番組による世論誘導
G民主主義を壊す大メディア
F意見の部分選択
E原発事故と報道自粛
D戦争報道と独立系メディア
C環境庁記者クラブ事件
B記者クラブと世論誘導
A地方紙と世論誘導
@発行部数と世論誘導

 
国の民度を計るひとつの重要な物差しに米国の社会学者シェリー・アーンシュタインの「参加の梯子」がある。

 図1は、アーン・シュタインの8段階の梯子を私なりに少々手直しし、大学の講義(公共政策論など)で使っているものだ。

 図1  「民度を計る」ための8段階の階段

8 市民による自主管理 Citizen Control 市民権利としての参加・
市民権力の段階

Degrees of
Citizen Power
   ↑
7 部分的な権限委譲 Delegated Power
   ↑
6 官民による共同作業 Partnership
   ↑
5 形式的な参加機会の増加 Placation 形式参加の段階
Degrees of
Tokenism  
   
4 形式的な意見聴取 Consultation
   ↑
3 一方的な情報提供 Informing
   ↑
2 不満をそらす操作 Therapy 非参加・実質的な
市民無視

Nonparticipation
   
1 情報操作による世論誘導 Manipulation
原典:シェリー・アーンシュタイン(米国の社会学者)青山修正版

 図1の物差しは、政治、行政に限らず新聞、テレビなど、大メディアの在り方を考えるとき、きわめて重要な尺度を与えてくれる。

 日本の大メディア、たとえば日本新聞協会はその「新聞倫理」のなかで、「新聞の責務は、正確で公正な記事と責任ある論評によってこうした要望にこたえ、公共的、文化的使命を果たすことである」と宣言している。

 しかし、企業の社会的責任(CSR)を含め、情報提供、情報公開、世論づくりなどに重大な責任をもつ日本の新聞社やテレビ局など、大メディアをつぶさにみてみると、「新聞の責務は、正確で公正な記事と責任ある論評によってこうした要望にこたえ、公共的、文化的使命を果たすことである」という宣言からほど遠い現実が浮かび上がってくる。

 事実、直近の「発掘、あるある大辞典」に象徴されるように大メディアが、「情報操作による世論誘導」を白昼堂々と行っている。しかも、調べれば調べるほど、それが日常、実態化している現実が見え隠れする。

....

 次に、日本の国政における野党の不甲斐なさについて、私は「独立系メディア」のさまざまな論考で何度となく言及してきた。

 これをメディア論的にみると、一昨年の「郵政民営化」問題に見られるように、小泉政権への一方的、露骨な肩入れが目立つ。大メディアが政権政党の広報機関ではないかと見間違う報道姿勢があった。

 ここからは、日本の大メディアは、本質的問題を横に置き、国民の「不満をそらす操作」が見てとれる。

 さらに、新聞はもとよりテレビでも、政府が募集するパブリックコメント同様、いろいろ視聴者からのご意見を頂戴いたしますなどと、いっているものの、内実は「視聴者のご意見を伺いました」と言うアリバイづくりがほとんどであることが分かる。

 すなわち、もともと独善的姿勢が問題となっている大メディアによる「一方的な情報提供」が日本では大手を振って闊歩している現実があると思える。

 これらは、たとえば日本政府の「やらせタウン・ミーティング」などで象徴的に現れていることだが、問題はそれが大メディアを通じて国民に政府広報的に垂れ流され、「情報操作による世論誘導」となることである。

 そこでは、新聞の責務は、正確で公正な記事と責任ある論評によってこうした要望にこたえ、公共的、文化的使命を果たすことであると言う新聞協会の崇高な新聞倫理などまったく見えてこない。

 行政とメディアとの連携による前代未聞の税金の無駄遣いとなった、このやらせ「タウン・ミーティング」では、朝日新聞の子会社である朝日広告が業務で深く関わっていたことが分かっている。こんなことで、果たしてまともな国家権力、行政の監視などできるはずもない。

....

 メディア論的に見ると、いかなる国も歴史的に「世論」は大メディアによって形成されてきたことが分かる。とりわけ、日本社会でこのことは顕著である。

 米英独仏など他の主要先進国と異なり、日本社会では、新聞が他国では想像できないほど異常に大きなシェア、購読者をもっている事実があるからだ。

 大メディアが異常に大きいシェア、視聴率などを持っているということは、とりもなおさず、そこで報道される内容が世論の形成に直結する危険性をはらんでいる。

 この場合、複数の中小規模のメディアではなく、異常に発行部数が多い数紙の新聞や全国ネットのテレビで流される情報が、その国の世論のベースとなることは想像に難くない。

 さらに、我が国固有の特権的な「記者クラブ」の存在があり、新聞、テレビに掲載される国、自治体などに関連する記事内容が、非常に画一的なもの、行政広報的なものとなりがちなことが指摘できる。

 もし、中央省庁の記者クラブから通信社により全国に配信された記事内容に決定的な間違いや世論操作があった場合、地方紙を含め「親亀こけたら(間違ったら)、子亀や孫亀までこける」、すなわち、日本の津々浦々まで間違いや世論操作が蔓延することになるのは間違いない。

...

 少々古いデータであるが、以下は青山が、世界の主要新聞の発行部数で示した主要新聞の発行部数データである。

 以下をみれば、日本の主要新聞の発行部数が欧米諸国と比べいかに巨大であるかがよく分かる分かる。

表1 世界の主要新聞発行部数比較
新聞名 推定発行部数
出典1)
推定発行部数
出典2)
読売新聞 1016万部
10,044,990
朝日新聞 826万部
8,241,781
毎日新聞 394万部
3,931,178
日本経済新聞 296万部
2,820,347
中日新聞
2,747,683
サンケイ新聞
2,058,363
USAトゥデー() 167万部
北海道新聞 120万部
1,233,170
ニューヨークタイムズ() 107万部
西日本新聞
846,566
ワシントンポスト 78万部
静岡新聞
738,599
ザ・タイムズ() 73万部
中国新聞
721,174
東京新聞
613,099
10 神戸新聞 52万部
560,175
河北新報
505,437
京都新聞
503,506
新潟日報
498,743
信濃毎日新聞
476,966
11 ガーディアン() 39万部
12 ル・フィガロ() 38万部
13 ル・モンド() 37万部
14 ディー・ウェルト() 30万部
出典:1)『週刊金曜日』−19971017日号・黒薮哲哉
外国紙は1996年・日本紙は1997年の調査
2)都道府県別新聞発行部数 2003年1−6月「社団法人ABC協会」「社団法人日本新聞協会」調べ
 
図2 日本の全国紙朝刊発行数、最新データ
全国紙の朝刊販売部数
日本ABC協会「新聞発行社レポート 半期」2006年7月〜12月平均/日本ABC協会「新聞発行社レポート 普及率」2006年7月〜12月平均

 読売新聞はニューヨークタイムズ紙の約10倍、ワシントンポストの約13倍、英国のタイムズの約14倍、フランスのフィガロの約27倍、ドイツのディー・ウェルトの約34倍と、いずれも桁が違うことが分かる。

 これはメディアのうち新聞ひとつを例にした場合だが、とりもなおさず、日本の大新聞の記事内容が日本人の世論形成に大きく関与することを意味する。

 同時に、ひとつ間違えば発行部数の巨大さが、世論誘導の危うさを潜在的に有することをも意味することになることを意味する。

つづく