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スイス山歩き - ツェルマット(1)

鷹取敦

執筆日:2019年8月20日
 独立系メディア E-wave
無断転載禁


内容目次
8/11-13 ツェルマット 1 ツェルマット(1) | 2 ツェルマット(2)
8/13-16 グリンデルヴァルト 3 グリンデルヴァルト(1) | 4 グリンデルヴァルト(2) | 5 グリンデルヴァルト(3)

 最近夏にはヨーロッパの都市を訪れていました。2010年にデンマーク、スウェーデン、2013年にノルウェー、2014年にギリシャ、2015年以降はスペイン北部、スペイン南部、オーストリア、チェコ・スロヴァキア、ハンガリーとハプスブルク帝国つながりの地域で、歴史的に大変興味深い地域であるため城、教会、旧市街、博物館、美術館などが中心でした。

 今年は趣向を変えて、スイスの山岳地域に訪れて、自然を満喫しながら山歩きをすることにしました。訪れた都市はツェルマット(Zermatt)とグリンデルヴァルト(Grindelwalt、カタカナではグリンデルワルトの表記も)です。

 スイス連邦はヨーロッパの中できわめてユニークな歴史を持ち、その結果として公用語はドイツ語(スイスドイツ語)、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の4語(多く使われているのは前3語)となっています。歴史的にそれぞれの言語が話されている地域の集まりとなっています。今回訪れたのは主にドイツ語が話されている地域です。

 スイスドイツ語とは標準ドイツ語の方言で、かつスイス内でも地域によって違いがあります。フランス語圏、イタリア語圏などの国民は標準ドイツ語を学習するため、ドイツ語圏の人よりもドイツ語が通じやすいという話もあるようです。

 ちなみに、スイス連邦のインターネットドメインは".ch"ですが、これはラテン語のConfoederatio Helveticaの略です。Confoederatioが連邦で、Helveticaがスイスを意味します。

 なおスイス連邦の「連邦」ドイツ語の正式名称Eidgenossenschaftは「誓約者同盟」という意味であり、いわゆる連邦(Bund)とは異なる単語です。これはスイスの歴史的な成り立ちに由来したものです。いつもは訪れた地の歴史について最初に書くのですが、今回は後に取っておきます。

 まず今回訪れた2地域の概要を紹介します。


Googleマップより作成

ツェルマットとは

 ツェルマットはスイスの南部、イタリア国境近く、マッターホルン(標高4,478m)山麓、標高1,600mほどの渓谷にあります。ゴルナーグラート(標高3,130m)に登山鉄道で上がるとマッターホルンとともにアルプス山脈で2番目に高い山群あるモンテ・ローザ(最高地点は4,634m)も一望できます。

 人口は約6000人、観光業が主要産業です。街の中は内燃機関を搭載した自動車の乗り入れは原則禁止されており、道も狭いことから小型の電気自動車が走り回っています。

グリンデルヴァルトとは

 グリンデルヴァルトは、スイスの中央付近にありアイガー(標高3,970m)の麓、標高1,000m程度の高さに位置する人口約4000人の町で、ユングフラウ(標高4,158m)観光の拠点となっています。アイガー、ユングフラウはメンヒ(標高4,107m)と合わせてオーバーラント三山と呼ばれています。旧安曇野村(現松本市)と姉妹都市として交流しています。

 グリンデルヴァルトからみてアイガーやユングフラウ、メンヒと反対側にはフィルスト(標高2,000mほど)のビューポイント(ヴィッダーフェルソグレートリ山塊の一部)があり、ハイキングなどができます。

アイガー・ウルトラトレイル(グリンデルヴァルト地域で開催)

 グリンデルヴァルト、アイガーの麓、フィルストなどを通るアイガー・ウルトラトレイル(最長レースは101km)というトレイルランニングのレースが7月に開催されています。

 ちなみに同じアルプスでフランス、スイス、イタリアの三カ国をまたがって8月末に開催されるUTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン、100マイル)がトレイルレースの最高峰です(上の地図の3カ国の国境が接するあたり)。グリンデルヴァルトで開催されているアイガーウルトラ・トレイルは、UTMBとともにウルトラトレイル・ワールドツアーの1つです。日本にもUTMF(ウルトラトレイル・マウントフジ)という富士山のまわりを巡る100マイルレース(4月開催)がありUTMBの姉妹レース、ウルトラトレイル・ワールドツアーのレースとなっています。

 なおトレイルランニング(略称トレラン)とは、舗装されていない山の中を走るレースです。日本では冬場はマラソンの季節ですが、春から秋にかけた(走ると)暑い季節は、木立の中、場合によっては標高の高い山地を走るトレランが、多くの市民ランナーにも近年親しまれてきています。筆者は2017年の秋からフルマラソン等のロードやトラックの大会に参加していますが、今年(2019年)の春からトレランのレースにも参加しています。

ツェルマットへ

 2019年8月10日(土)の朝に自宅を出発し途中で昼食を取り成田空港でボーディングパスを受け取った後ゆっくりします。夕方成田空港発の香港経由の便でチューリッヒ空港に8月11日(日)の午前6:30に到着しました。ここから列車でツェルマットに向かいます。Vispで乗り換えた列車は単線の登山列車のようでした。ツェルマット駅到着が11時過ぎ、ホテルにチェックインしたのが11時30分でした。


ツェルマット駅前 撮影:鷹取敦 Nikon COOLPIX S9900

 チューリッヒ→ツェルマット、ツェルマット→グリンデルヴァルト、グリンデルヴァルト→チューリッヒの3日間は、SWISS TRAVEL PASS FLEXの3日間有効なものを使いました。それぞれ使用日に日付を記入するとその日は対象路線等は乗り放題で、博物館や割引になる路線等もあるようです。

 下はツェルマットの町とマッターホルン、モンテ・ローザの山群の位置関係が分かるようGoogleマップを3次元表示して回転させたものです。図の下がおおむね北方向です。

 ツェルマットからゴルナグラートまで登山鉄道で30分ちょっとで登ることができます。下の図をみるとゴルナグラートの方がマッターホルンに近いように見えますが、実際はゴルナグラートの方がやや遠いくらいです。標高がツェルマットより1,500mほど高いのでマッターホルンやモンテ・ローザがよく見える絶景の地となっています。


Google マップより作成

 自宅で起床してから30時間以上機内で短時間寝た以外は休めていない状態でしたが、翌日が雨の予報だったので、ホテルにチェックイン後すぐに出てゴルナグラートに登山鉄道で向かうことにしました。


ゴルナグラートに向かう登山鉄道 撮影:鷹取敦 Nikon COOLPIX S9900

 ちなみに下の写真のようにツェルマットの町からもマッターホルンが見えます。上の方が雲に隠れていましたが、登山鉄道でゴルナグラートに登るまでに雲が晴れることを期待します。


ツェルマットの町から見えるマッターホルン 撮影:鷹取敦 Nikon COOLPIX S9900

 下の写真は登山鉄道の車窓からみた途中の駅です。ツェルマットからゴルナグラートまで複数の駅があります。ほぼ登山鉄道に沿って登山道があります。途中の駅の間をハイキングすることもできますし、健脚な人はツェルマットとゴルナグラートの間約10キロの道(標高差約1,500m)を歩いて登ったり降りたりすることもできます。


登山鉄道の車窓から 撮影:鷹取敦 Nikon COOLPIX S9900

 下の写真のゴルナグラートの駅舎に表示された標高は3,089mでした。


ゴルナグラート駅 撮影:鷹取敦 Nikon COOLPIX S9900

 下の写真はモンテ・ローザとマッターホルンの間の氷河です。


ゴルナグラートからみた氷河 撮影:鷹取敦 Nikon COOLPIX S9900

 下の写真は筆者の左に上の写真の氷河が見えます。写真のさらに右側にマッターホルンがありますが、雲に隠れてこの日は見えませんでした。

 なお筆者は上は下着、シャツ、ウィンドジャケット、下はトレッキングパンツ、靴はトレイルランニング用のシューズを履いています。手にはトレラン用の指が出ている手袋、背中のザックもトレラン用で、肩ベルトの左前に500mLのソフトフラスク(水を入れたやわらかい素材の水筒)、ザックの中にも同じもので水は合計1L持ちました。

 右の肩ベルトにはOSMO ACTIONというアクションカメラをつけています。アクションカメラはGo Proが有名ですが、OSMO ACTIONはドローンの事実上の標準機種を作っているDJI社によるものです。広角、高解像度、防水で、モニター画面を見ないでボタン一つで静止画や動画を撮影できます。ドローンで有名なDJI社によるものだけあって、動画撮影時の揺れ補正機能が秀逸です。

 ハイキングで下山し、その際に周辺の風景を撮影できるよう、このような装備で望みました。標高が上がると気温が下がり、標高が下がると気温が上がっていくので、この上にレインジャケットを来たり、この写真で着ている緑色のウィンドジャケットを脱いだりして温度調節をします。この日は比較的気温が高く、ツェルマットの町では最高気温は30℃近くあったようです。ゴルナグラートではおそらく0℃よりは高かったものと思われます。


氷河を背景とした筆者 撮影:鷹取美加 iPhone XS

 この後、ハイキングをしながら下山することにしました。私はフルマラソン4時間切りで、トレランの経験もあるので、天候さえ問題なければツェルマットの町まで歩いて降りる脚力はありますが、一緒に行った妻はハーフマラソンを歩きを交えて完走したくらいの脚力です。(とはいえ日常的に10キロくらいのランニングはしていて、同年齢の一般の人と比べると相当脚力はあると思います)

 日本から長時間のフライトの直後で休んでいなかったこともあり、体力的に無理がありそうなら途中の駅から登山電車に乗って下山する選択肢をエスケープルートとして、様子を見ながら歩いて下山してみることにしました。エスケープルートは山で体調や天候が悪くなった時に切り上げるためのルートで、安全のために予め計画しておくことが重要です。

 なお、この時はまだ決めていませんでしたが、翌々日に再度ゴルナグラートに上り、マッターホルンの頂上を見ることに再挑戦しました。この時の話と写真は後で掲載します。

 ここから下山の撮影はOSMO ACTIONで行いました。下の写真はスタート地点、つまろゴルナグラート駅の近くです。標高が高いため植物はほとんど見えません。黄色い標識は歩行者、赤い標識は自転車用です。


ゴルナグラートからの下山 撮影:鷹取敦 DJI OSMO ACTION

 遠くにアルプスの山々が、右手の奥に登山電車が見えます。登山鉄道と平行した道を降りていきます。


ゴルナグラートからの下山 撮影:鷹取敦 DJI OSMO ACTION

 下の写真の中央の湖の左側に大きな岩山があります。写真ではそれほど大きく見えませんが、近づくとかなり巨大な「山」で、ロッククライミングをしている人がこの写真では分からないくらい小さく見えます。


ゴルナグラートからの下山 撮影:鷹取敦 DJI OSMO ACTION

 湖の畔には白い小さな花が群生して咲いていました。


ゴルナグラートからの下山中の筆者 撮影:鷹取美加 iPhone XS

 下の写真は行きの登山鉄道の車窓から撮影したこの岩山の上の人影です。これだけ拡大してもまだ米粒のようです。


岩山の上の人影 撮影:鷹取敦 Nikon COOLPIX S9900

 しばらく歩くと左側が急傾斜になりました。急勾配な傾斜が遙か谷底まで続いています。このあたりまではハイキングをしている人達をよく見かけました。駅に近いほど子供連れが多く、この写真のあたりでは大人中心です。比較的年配の方もいらっしゃったのでそれほど大変な道のりではないことが分かります。


ゴルナグラートからの下山中の筆者 撮影:鷹取美加 iPhone XS

 下の地図はGPSウォッチに記録された軌跡の一部を衛星写真、地形表示に重ね合わせたものです。右端の三角形がスタート地点(ゴルナグラート駅付近)となっています。この地図の左端付近で左側の勾配が急になっていることが分かります。上の写真はちょうどこのあたりと思われます。この地図の左端でスタートから約4kmちょっとです。標高にして500mくらい降りてきました。


Garmin connectより作成

 ちなみに下の地図の緑の点線(右の三角形から左に向かって進み上で切れている線)と紫色の線(Rotenbodenと書いてある線)の間に登山鉄道があります。登山鉄道に近いルートを歩くことも出来ましたが、この時は遠ざかる方の道を選んだため、このように斜面の下まで見える絶景に出会うことが出来ました。

 次の駅(ゴルナグラート駅から3つ目の駅)で登山電車に乗りたい場合には赤線の左寄りの部分から上に向かって分岐している2本の緑の実線のいずれかを北上するとその先が駅となっています。ここから駅に向かってハイキングを終了する人が多かったようで、この先、人に出会う頻度が極端に少なくなり、出会った人達もみるからに健脚そうな人ばかりになってきました。


Garmin connectより作成

 上の地形図のように斜面に沿って歩いて行くとツェルマットの町に面した側の斜面に出ました。すぐ下に見える建物は中腹です。その向こう側に小さく見えるのがツェルマットの町です。


ゴルナグラートからの下山 撮影:鷹取敦 DJI OSMO ACTION

 上の写真をみると緩やかな道で中腹の広場まで降りられそうですが、先に進んだところ下の写真のように(写真では分かりにくいかもしれませんが)、非常に急な斜面についているつづら折りの岩だらけの道でした。ここが一番の難所でした。とはいっても難しくも危険でもないのですが、急な下りが続き、脚に負担がかかります。標高が下がってきたため、まわりに木が増えてきました。


ゴルナグラートからの下山 撮影:鷹取敦 DJI OSMO ACTION

 岩場を過ぎて振り返ったのが下の写真です。どこに道があるのか分からない岩がごつごつした斜面であることが分かります。小さくロープウェイも見えています。さきほど通り過ぎた駅から麓のFuri駅まで降りるロープウェイです。Furiまでロープウェイで降りた場合には、さらに別のロープウェーに乗り換えてツェルマットへ向かうことになります。


ゴルナグラートからの下山 撮影:鷹取敦 DJI OSMO ACTION

 ここから先は木立に囲まれた道になります。上の方と植生が全く違うことが分かります。


ゴルナグラートからの下山中の筆者 撮影:鷹取美加 iPhone XS

 さきほど上から見えた中腹の集落に着きました。ハイキングの途中で一休みしている人達や、遊具で遊んでいる子供達が居ます。このあたりでスタートから6kmです。


ゴルナグラートからの下山 撮影:鷹取敦 DJI OSMO ACTION

 この先は自動車も通れる砂利道とハイキング用の道をツェルマットの町まで降りていきました。このあたりから自転車(マウンテンバイク)も目立ちます。親子連れや若い人達などが自転車で気持ちよさそうに下っていきました。


ゴルナグラートからの下山 撮影:鷹取敦 DJI OSMO ACTION

 最後は舗装道路に出てツェルマットの町はずれに到着です。ホテルまではまだもう少し距離がありますが、下の地図の赤い■がついているあたりのカフェで一休みしてゴールとしました。


ゴルナグラート駅からツェルマットの町までのハイキングの全行程 Garmin connectより作成

 下の地図の赤い線が今回歩いた道、緑の太線が登山道、赤い点線がロープウェイです。登山鉄道の位置は元の地図では分かりにくかったので筆者が黒い太線で強調しました。途切れている部分はトンネルです。登山鉄道にはツェルマット駅とゴルナグラート駅の間に4つの駅があります。駅と駅の間を歩けば2kmほどのハイキングが楽しめるようになっています。


ゴルナグラート駅からツェルマットの町までのハイキングの全行程 Garmin connectより作成

 下のグラフはスタートからゴールまでの標高(気圧による相対高度、緑の塗り潰し)と、歩いたペース(水色の折れ線)です。横軸は距離ではなく時間となっています。水色の折れ線で示したペースは1キロあたりの時間で、上が速く、下が遅いグラフになっています。比較的平らな区間は一部走り、トレラン気分を味わいました。


ゴルナグラート駅からツェルマットの町までのハイキングの全行程グラフ Garmin connectより作成

 ガイドブック(地球の歩き方A18スイス2018-2019)にこのコースは、標高3090mから1605m、高低差1485m、総延長11.5km、所要時間4時間、難易度 技術2、体力4と紹介されていました。

 今回のハイキングはGarmin(GPSウォッチ)の記録によると、距離9.9km(山だと実際より短めに記録されます)、所要時間2時間50分でした。時間的にはいいペースで下山できたようです。

 標高が高いのでスタート地点あたりでは人によってはやや呼吸しにくいようですが(私は歩きでは感じませんでした)、ほぼ上り区間なしの下りコースなので心肺機能の負担は少ないコースです。雄大な自然に囲まれ、コースの変化もあって、楽しいハイキングコースでした。

 一方、高低差が大きいので脚への負担はそれなりにあります。妻と私の一致した意見としては、ハーフマラソン程度の脚の疲労感でした。ハーフマラソンを(歩きを入れてでも)完走できる人であれば、気象条件と準備さえ整っていれば、充分歩けるコースです。そこまでの体力に自信がなくても、駅から駅までの2km程度であれば、小さな負担で充分に楽しめます。

 さらに、フルマラソンやトレランを沢山走っているような人であれば、上り、下りの往復コースも充分に楽しめると思います。いつか機会があれば挑戦してみたいと思います。先月、フルマラソンを4時間切る走力を持つ友人達と東京都最高峰の雲取山2,107mの山頂に登ったときには、約1,700mの標高差、合計25kmを約6時間40分で往復しました。おそらく同程度のレベルかと思われます。

つづく