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ゴミ弁連シンポジウム in 夕張市
(3)夕張を知る(財政破綻)

青山貞一
24 June 2010
独立系メディア「今日のコラム」
無断転載禁


●財政破綻の経過と内容

 なぜ、夕張市が破たんしたのか、その理由はエネルギー政策の一大転換を中心に多数あるようだが、現地市民との話では、炭鉱時代、それこそゆりかごから墓場まで、何でもかんでもその炭鉱関連の組合におんぶにだっこになっていて、自分たち自身で人生やまちの将来のありようをほとんど考えてこなかったことが最大の問題であると述べていた。

 公募で来た市長のもと、議員は昔の半分(9名)となっているが、議員はいまだに自主的、自律的に考え判断できないと参加した市民が口をそろえて述べていた。


夕張市中心街の集合住宅
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8
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 周知のように夕張市は、かつて炭鉱の街として大いに栄えたものの、石炭から石油へのエネルギー政策の一大転換により、炭鉱が次々に閉山に追い込まれていった。

 1990年(平成2年)には夕張市の2大炭鉱のひとつ、市南部にある三菱南大夕張炭鉱が閉山した。これによって夕張から炭鉱がなくなった。

 これら炭鉱の廃坑に伴い、炭鉱会社が設置した鉱員向けのインフラを市が買収することになる。たとえば1982年(昭和57年)、北炭が所有していた夕張炭鉱病院を市立病院移管に対して夕張市は40億円を負担した。

 また北炭は、夕張新炭鉱での事故を理由に、鉱産税61億円を未払いのまま撤退し、さらに北炭・三菱は、炭鉱住宅5000戸(市営住宅に転換)や上下水道設備などを夕張市に買収してもらうことになる。

 これらの累計額は、151億円にも達した。

 このように、閉山に伴う炭鉱閉山処理対策費は総額で583億円に達することとなり、しかも上記の対策費の多くが随意契約で支払われた。簡単にいえば、市役所は言い値で対策費を払ったことになる。

 かつては石炭の採掘が主要産業だった夕張だが、現在はメロン栽培(夕張メロン)を中心とした農業と一部の精密機械や食品加工業、石炭の歴史や映画などをテーマにした観光産業が産業の中心となる。

 しかし、その夕張の観光産業も夕張市に対して巨額の負担を強いており、それが市財政のさらなる悪化をもたらしている。

 下は1980年から2005年における夕張市の人口推移である。最盛期12万人超いた人口の減少や2008年の時点で、下のグラフにあるように、
65歳以上比率が市としては全国最高の43%となっている著しい高齢化もある。結果として企業誘致は進まず、新規産業の創生もままならない状態にある。




出典:総務省統計局

 さらに2006年(平成18年)には、深刻な財政難のあおりを受け、2007年(平成19年)3月6日に財政再建団体に指定され、事実上、自治体経営が財政破綻した。最盛時12万人近くいた市民は現在1万1千人と1/10以下に減退した。

 ところで夕張市は、中田鉄治元市長時代に石炭産業の撤退と市勢の悪化に対し、「炭鉱から観光へ」とテーマパーク、スキー場の開設、映画祭などのイベントの開催、企業誘致により地域経済の再生、若年層を中心とする人口流出の抑止、雇用創生などを図っていった。

 下の写真は、不要なはこもの開発の代表格である旧夕張ロボット大科学館。市の観光開発政策に一貫性がなかったことから、すぐに陳腐化し、閉館に追いやられた。閉館後、転用先が無かったロボット大科学館は2008年に何と取り壊された。


旧夕張ロボット大科学館
出典:Wikipedia

 だが、上記のどれも当初計画通りには進まなかった。

 逆に観光・レクリエーション関係の衰退期またはド派手な観光・レクリエーションに巨額の投資を行ったこと、それに放漫な経営がたたった。結果的に夕張市には累積債務、赤字が重くのしかかり、市財政を圧迫していったのである。

 これに追い打ちをかけたのが、産炭地域振興臨時措置法(以下、産炭法)である。同法が2001年(平成13年)に失効した。それにより夕張市の財政はさらに悪化した。この種の臨時措置法や特別措置法は、期限が限定されているのが通例である。

 たとえば、原発立地地域には同様の財政措置が取られており、その期間は小中学校に夜間照明装置を付けたり、立派なはこもの校舎がふるまわれるが、期間が過ぎれば、維持管理費の拠出もままならなくなることが多い。

 その後、夕張市は実質破綻状態にあったことが表面化した。自治体の財政諸指標で見ると、何も夕張市だけが極端に悪化しているというより、北海道や長野県の基礎自治体にも同様な財政悪化はある。横浜市、神戸市などの政令指定都市も歴史的にはこもの行政を展開してきたことで実質公債比率などはかなり悪い。

 だが、夕張市の場合、上記のように先行きの見通しがまったくたたないという意味で他の基礎自治体や政令指定都市とは異なっている。

 2006年(平成18年)6月20日、後藤健二前市長が定例市議会の冒頭で、財政再建団体の申請を総務省にする考えを表明した。この時点では、2006年度決算を以て申請し2007年度から財政再建団体になる予定だった。

 だが、この時、夕張市は、一時借入金などの活用により表面上は財政黒字となる手法をとったため、実質的には累積債務などの負債がふくれあがり、さらに財政は悪化の一途をたどったのである。

 一時借入金残高は、実に12金融機関から292億円、企業会計を含む地方債残高が187億円、公営企業と第三セクターへの債務・損失補償が127億円となった。これを夕張市の標準財政規模(44億円)と比べると、ひとけた大きく上回っていたこともあり、再建期間内での再建は実質不可能と推定された。再建期間は通常10年である。

 その後、後藤市長の財政再建団体申請の表明後、「空知産炭地域総合発展基金」から14億円の借り入れしていることが明らかになった。これを「ヤミ起債」問題という。

 これら違法な粉飾まがい決算が何年も行われていた疑いも浮上し、北海道庁が立ち入り調査に乗り出すこととなった。

 2006年度決算におけ総務省の財政指標である実質公債費比率は、38.1%であった。この数値は、当時、全国でも長野県王滝村の42.2%に次ぐ悪い数字であり、財政再建団体を適用しなかったとしても、2008年度決算から適用される地方自治体財政健全化法の財政再生団体に該当するものである。 

 下は2005年度の実質公債比率、起債制限比率、経常収支比率の各財政指標でみた基礎自治体の財政ワーストランキング。上位は北海道内基礎自治体に占められており、とりわけ夕張市はすべての指標が悪化していることが分かる。 

2005年度 実質公債比率ワースト・ランキング
市町村:
指数が20より悪い市町村を表示

(注)1 平均欄の比率及び指数のうち、経常収支比率、実質公債費比率及び起債制限比率は加重平均であり、財政力指数は単純平均である。
出典:国の平成17年度データ、平成17年度 地方公共団体の主要財政指標一覧より筆者が作成


2005年度 起債制限比率ワースト・ランキング
全市町村:平均値より悪い市町村を表示)


(注)1 平均欄の比率及び指数のうち、経常収支比率、実質公債費比率及び起債制限比率は加重平均であり、財政力指数は単純平均である。ただし、経常収支比率及び財政力指数の全国市町村平均について
出典:国の平成17年度データ、平成17年度 地方公共団体の主要財政指標一覧より筆者が作成


2005年度経常収支比率で見た政ワースト・ランキング
(全国市町村:
指数(100以上)

(注)1 平均欄の比率及び指数のうち、経常収支比率、実質公債費比率及び起債制限比率は加重平均であり、財政力指数は単純平均である。
出典:国の平成17年度データ、平成17年度 地方公共団体の主要財政指標一覧より筆者が作成


 その結果、2006年度決算時点で再建団体適用状態だったことが判明する。これを受け、後藤市長は2006年(平成18年)7月25日に2006年度中の財政再建団体を申請する方針を表明した。道は同年8月1日に夕張市の財政状況の調査に関する「経過報告」を公表した。

 北海道は、再建期間短縮等の観点から、赤字額の360億円を年0.55%の低利で融資(市場金利との差額は道が負担)、国も地方交付税交付金などによる支援を打ち出す。 これら北海道、国の動きにより、再建期間は18年間の見込みとなった。

 予定では2007年度に再建計画を策定する予定だったが、同紙報道により前倒しとなった。再建計画が遅れれば、負債額はさらに膨らんでいた可能性があったことも示唆している。

 下は、平成19年度決算による財政状況である。2005年度よりいずれの指標も悪化していることが分かる。

平成19年度決算における夕張市の財政状況

○標準財政規模 43億5,355万7千円
○財政力指数 0.24 (北海道市町村平均0.28 全国市町村平均0.55) - 北海道の平均をやや下回る
○経常収支比率 84.0% (北海道市町村平均92.0% 全国市町村平均92.0%)
○実質公債費比率 39.6%(北海道市町村平均14.4% 全国市町村平均12.3%) - 財政再生基準に該当
○実質収支比率 △730.7%
○実質単年度収支 14億7,593万3千円 - 標準財政規模の33.9%の黒字額(借金返済へ)
○地方債現在高 132億6,522万5千円(人口1人当たり1,099,207円 北海道平均647,852円 全国平均446,922円) - 全国平均の2.5倍の借金
○普通会計歳入合計 90億3,519万5千円
○地方税 10億6,180万円(構成比 11.8%)
○地方交付税 42億2,518万5千円(構成比 46.8%) - 歳入の40%以上を交付税に依存
○地方債 4億6,386万3千円(構成比 5.1%)
○普通会計歳出合計 425億1,951万7千円
○人件費 7億7,589万円(構成比 1.8%)
○扶助費 13億6,156万4千円(構成比 3.2%)
○公債費 21億1,761万1千円(構成比 5.0%)
○定員管理の適正度(平成19年度)
○人口1,000人当たり職員数 11.60人(北海道平均8.74人 全国平均7.82人) - 職員数の減少により業務停滞が伝えられているが、実は人口に比べて職員数がやや過剰気味である:全国平均の1.48倍
○一般職員89名 (うち技能系労務職3名)、教育公務員1名、消防職員37名 一般職員等合計 127名
○ラスパイレス指数 68.0 (全国市平均97.0)
参考
○一般職員等(127名)一人当たり給料月額 23万1,300円 (職員手当を含まない)
○職員給(給料+手当)÷一般職員等(127名)=402万5千円 - 給料月額の17.4か月分
○地方債等の残高(財政一覧表より)
1普通会計分 144億7,400万円
2特別会計分 39億1,600万円
3関係する一部事務組合分 0円
4第三セクター等の債務保証等に係る債務 35億2,500万円
地方債等の合計 219億1,500万円
基金の状況(財政一覧表より)
1財政調整基金 0円
2減債基金 0円
3その他充当可能基金 2億3,000万円
充当可能基金の合計 2億3,000万円

<参考・引用文献>
(1)夕張市に関連するWikipedia
(2)青山貞一
 「夕張市は他人事ではない」全国自治体財政ワーストランキング調査
青山貞一:全国自治体財政ワーストランキング @実質公債費比率
青山貞一:全国自治体財政ワーストランキング A実質公債費比率 2年比較
青山貞一:全国自治体財政ワーストランキング B起債制限比率 2年比較
青山貞一:全国自治体財政ワーストランキング C経常収支比率 2年比較

つづく