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与野党逆転ではじまる
日本の民主政治の夜明けC
〜「脱」利権構造〜


青山貞一
 
掲載日:2007.8.4


 政権交代の最大の効果は、今更言うまでもないが、「利権構造からの脱却」である。敢えて構造といったのは、60年近く一党支配がつづくと、単なる利権ではなく、構造的な利権と化すからだ。

 すなわち、戦後60年近く、事実上、一党による独裁政治が続けば、「政」「官」「業」による利権配分の構造、それも鉄のように堅い利権構造ができあがるのは当然である。ならない方がおかしい。

 一般会計、各種特別会計を問わず税金なり公金を食い物にする土建型公共事業と官製談合こそ、自民党の独裁政治が築き上げた利権構造社会の典型である。

 しかし、この種の利権の対象業種は、最大時期50万社、600万人に及ぶ就業人口をもった土建業に限ったものではない。

 たとえば、大学や教育分野でのパソコンなどIT関連設備の導入を巡る利権もすさまじいものがある。旧国公立系大学はもとより、私学であっても文部科学省から膨大な補助金が出ており、それらが高額IT設備の購入に充てられている。それらの調達をめぐり、大手IT機器・設備メーカーがあの手この手で自社に有利なように画策をしているのだ。

 また昨年、政府の各種の「やらせミーティング」で判明したように、広告代理店や大手新聞社と政界、官界(政府)との間での新たな利権が構築されている。調べると額は半端でない。

◆青山貞一:北朝鮮を嗤えない「やらせタウンミーティング」(2)
◆青山貞一:北朝鮮を嗤えない「やらせタウンミーティング」(1)

 さらにクールビズなど環境省の地球温暖化対策でも大手広告代理店や銀行系シンクタンクに巨額の委託事業が行くなど、政治家、行政、業界の間での新たな利益の配分が顕在化している。

◆池田こみち:またクールビズ? 環境省は本筋で勝負すべき!
◆池田こみち:地球温暖化防止キャンペーンに27億円、その効果は?

 これらの多くは新手の中央官僚天下りポストと連動している。天下り先を有利に確保するための新たな官製談合であるとさえいえるだろう。

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 民営化された公社、公団、たとえば日本道路公団や特殊法人の改廃や統合でできた独立行政法人の多くでは、中央省庁から多くの官僚が理事などとして天下っている。独立行政法人の役員の約8割は省庁や関連組織からの天下り、独立法人の総職員数は7万1千人強(平成17年度)だが、このうち7万人が公務員からの移行組となっている。しかも、独立行政法人の給与は特殊法人時代の平均給与より、30%高くなっているものもある(道路公団の場合)。まさにお手盛りの高額給与を得ているのである(フリージャーナリスト、横田一氏)。

 それら独立行政法人、国立大学法人、財団法人、社団公人など膨大な数の公益法人、外郭団体には、政府から委託事業、補助事業、助成など、さまざまな形態及び経路で巨額の税金が流れている。民主党の調査によれば数兆円に及ぶとされている。

◆青山貞一:道路公団民営化」が残したもの!  
◆青山貞一:独立行政法人は廃止すべし 

 このように、自民党政権下でできあがった政官業癒着の利権構造は、小泉改革後も、手を変え品を変えて生き残っている。いや焼け太りつづけているの実態がある。

 これは自由民主主義を標榜するはずの自民党が、その実、「官僚社会主義」に支えられたものであることを如実に示すものである。

◆青山貞一:「族」「利権」議員集団  
◆青山貞一:「官僚出身」議員

 小泉政権以降も、まさに形を変え残存している。

 ある事例では民営化は名ばかりで、実質的に特命随意契約により税金が垂れ流されている。

 にもかかわらず、民営化によって国の情報公開法の対象外となり、国民の目の届かぬところで、税金浪費天国を謳歌しているといっても過言ではない。大手メディアのジャーナリストは、本来、徹底的に調査し報道すべきだが、ここ10年、大手メディアによる本格的な調査報道はほとんどなくなっているのが現実だ。

 もっぱら、後述するように、今の大手メディアに体を張った調査報道など期待しようもない。

 その意味からして、与野党逆転そして政権交代こそ、これら税金を食い物にする政官業の現状追認の利権構造を断ち切る最大の好機である。この点では、民主、共産、社民いずれの野党も異論はないはずである。

 ....

 ところで、現状追認の「政官業」トライアングルは、かなり前から「政官業学報」、すなわち、政治、行政、業界に加え学界、報道が加わった、より堅牢なペンタゴン(五角形)となっている。

従来の利権構造
              ↓
現在の利権構造

 たとえば、今回の新潟中越沖大地震による柏崎刈羽原子力発電所への一連の情報逃れや対応を見れば、このことはよく分かる。

●新潟日報2007年8月3日
原発被災は「歴史的な実験」?

 県の技術委員会座長を務める宮健三・法政大大学院客員教授は東京電力柏崎刈羽原発の視察を終えた2日の記者会見で、「(中越沖地震は原発にとって)歴史的な実験かもしれない」などと「実験」発言を繰り返した。

 宮座長は「大地震が起きたことは大変なショックだったが、現場を見たら安心した」と述べた後、「(地震は)何というか、代え難い貴重な実験だったんですね。歴史的な実験かもしれない」と強調した。

 報道陣が発言の真意をただしたが、随行した県原子力安全対策課の担当者が「時間がない」と言って遮り、会見を打ち切った。同課の松岡輝彦課長によると、宮座長は県に対し「『地震による設備破損などを教訓に技術を進歩させなければならない』という意味で発言したが、(被災者の気持ちを思えば)言葉の選び方がまずかったかもしれない」と語ったという。

 同委員会は、2002年に同原発などで発覚したトラブル隠しを受け、県が03年2月に設置。材料力学、耐震工学などの専門家9人が同原発の運転、管理、安全確保などについて技術的側面から指導、助言する。宮客員教授は発足当初から座長を務めている。

 宮健三氏は、東京大学名誉教授、慶応大学大学院理工学研究科教授などを歴任後、現在、法政大大学院客員教授そしてNPO日本の将来を考える会の代表として、原発関連の行政委員会、検討会などの委員や座長をしている。

 新潟県の原発関連技術委員の会座をつとめている。さらに宮氏は長経済産業省は、「中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会」の委員の一員でもある。

 その宮氏は、こともあろうか大地震の被災地そして原発立地域で、「(中越沖地震は原発にとって)歴史的な実験かもしれない」などと「実験」発言を繰り返えすこと自体、どうみても異常である。

 宮健三氏は、原子炉構造工学の専門家だが、電力会社の情報隠蔽体質はじめ情報操作などの事の重大性そして県民感情を理解しているとはいえず、アプリオリに「原発推進の役割」を担っているとしか思えない。時事通信によれば宮氏は上記の記事が出た直後、委員、座長を私的都合で辞めている。

 以下は宮健三氏らの「中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会」委員解任を要求する市民団体から経済産業大臣への申入書である。

◆政府の「中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会」の委員である宮健三氏と班目春樹委員長の解任を要求する

経済産業大臣 甘利 明 様

 中越沖地震による柏崎刈羽原発の耐震安全性に関する国の審査が完全に崩壊した中で、経済産業省は、「中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会」を設 置し、7月31日に第1回会合を開催した。この「調査・対策委員会」は、班目春樹氏 を委員長とし、宮健三氏も委員に加わっている。

 宮健三氏は、新潟県が行った原発視察を終えた8月2日の記者会見で、次のような発 言を行ったと地元紙新潟日報が伝えている。

 「(中越沖地震は原発にとって)歴史的な実験かもしれない」 「(地震は)何というか、代え難い貴重な実験だったんですね。歴史的な実験かもし れない」(8月2日付新潟日報WEB版)

 折しも震災の被害の中で、新潟日報社が被災者を対象に行ったアンケート調査結果(7月29日公表)では、最も心配なこととして、「住宅再建」、「体調や健康」への 不安以上に、「原発トラブル、放射能漏れ」が最大の不安としてあげられている。このアンケート調査の内容については、第1回「調査・対策委員会」の場で、新潟県から代 表として出席された斎田英司新潟県危機管理監が紹介し、宮健三委員も聞いていたはずである。

 それにもかかわらず、宮健三氏がこのような発言を行ったことは、地元の人々の気持 ちを踏みにじり、まるでモルモット扱いするものであり、到底許されるものではない。

 また、委員長の班目春樹氏は、地震直後から「運転再開は1年後」と早々と発言し、 「調査・対策委員会」の委員長に就任してからも、取替が不可能な圧力容器の損傷の評価に関して、「今の技術ならば、やろうと思えばできる」(8月3日付日本経済新聞) などと無責任な発言を繰り返している。

 以上からだけでも、宮健三氏と班目春樹氏は、到底、委員の資格がないことは明かである。よって、両委員の解任を強く要求する。

 なぜこのような人物を国の委員会のメンバーに据えたのかと、誰もが深い疑念を抱いている。このような発言を続ける両委員を委員会のメンバーに留めておけば、貴職の任命責任が改めて厳しく問われることになる。

2007年8月3日
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 

 本来、実社会を批判し監視すべき学者・研究者・専門家が、「政官業」の利権に組み込まれてしまい、民主主義社会の基本であるチェック・アンド・バランスがまったく効かない社会となっている。これは原発やダム・道路に関連する工学分野で顕著である。しかし工学に限らず経済学など社会科学系も例外ではない。
 
 同時に、時の政権・権力を批判そして監視すべき、新聞やテレビなどの報道機関、ジャーナリズムも、政官業の利権構造に取り込まれ、批判的精神を失うだけでなく、利権配分のおこぼれにあずかっている。

 その結果、情報公開は閉ざされ、「情報操作による世論誘導」が日常化する。まさに御用学者と御用報道が国から地方まで跋扈する「政官業学報」癒着の常態化である。

 御用学者や御用報道は、結果的に官僚がつくる政策、施策をアリバイ的に追認する審議会、委員会、検討会に組み込まれ、つゆ払い的に利用されている。

 御用学者や御用報道は、何でも官僚がしてくれる謝金付き会合にでることがいつの間にか、ステータスとなる。政府の広報担当官にNHKの解説者が任用されたのは記憶に新しい。

 膨大な量の資料、情報が入ることも彼らにとってありがたいことであろうが、その実、それらの資料はあくまで政府や省庁に都合の良い政策、データ、情報に過ぎないのである。彼らはあくまでも官僚や政党の手のひらで議論しているにすぎない。

....

 かくして、北朝鮮を嗤えないほど利権に満ちた政官業学報癒着の政治経済システムにすべてが統合されてゆく。

 その結果、政商的企業、銀行金融企業、重厚長企業、目先の利く広告代理店や巨大メディア企業に莫大な税金が流れ込む。他方、地方を基盤とする企業や正直者は、いつも馬鹿を見ることになる。こうして各種の「格差社会」があっという間にできあがったのである。

 国民が、はたと気づいてみたら、世界でGDP第2位の日本経済にそぐわない、「格差社会」となっていたのである。

 この「格差社会」化は、本来向かうべき方向としての地方分権どころか、地方の経済や社会の破壊を助長している。

 小泉・竹中タイプの節度無き市場至上主義的な規制緩和は、日本の津津浦々で地場産業、地場企業など総じて地方経済を破壊している。たとえば、誰しも、米国型郊外立地の巨大店舗による弱肉強食的経済を目の当たりに見ているだろう。

 3大都市圏以外の地方都市は、もろに「格差社会」の深刻な影響を受けている。これが一人区で自民党が大惨敗した直接的原因である。この春、青山研究室の大学院生の修士研究で沖縄県を徹底的に現地調査した。そこでみた惨状は、まさにすさまじいものであった。

◆青山貞一:米軍基地と公共事業依存のまち、沖縄県
◆青山貞一:沖縄知事選、問われる今後の行方(3)
◆青山貞一:沖縄知事選、問われる今後の行方(2)
◆青山貞一:沖縄知事選、全野党共闘の敗因と問われる今後の行方

 与野党逆転そして政権交代を、これら利権と欺瞞に満ちた日本型経済社会を根底から変える起爆剤としなければならない。

つづく.