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インド洋に浮かぶ自然と共生する超小国
セーシェル共和国への旅 (1)

Republic of Seychelles, Indian Ocean

青山貞一 Teiichi Aoyama  S79IDY- JA1IDY
初出:November 1992,
拡充: 2 October 2010

独立系メディア「今日のコラム」 無断転載禁


セーシェルの珊瑚礁の海辺
A Field Trip to Republic of Seychelles, Indian Ocean
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◆インド洋に魅せられて

 このコラムは、1992年秋にインド洋に浮かぶ野生生物の楽園、セーシェル共和国(
Republic of Seychelles)から帰国直後に書いた論考を2010年10月に推敲し、独立系メディアに掲載したものである。

 筆者は、セーシェルに行った後、なぜかインド洋の島々に魅せられることになる。そしてモーリシャス(Mauritious)、レユニオン(Reunion)、コモロ(Comoros)、マヨット(Mayotte)などインド洋の島々にたびたび足をはこぶことになった。


 
今年は生物多様性条約締結国会議が愛知県で開催される。私見だが、セーシェル諸島は世界有数の生物の多様性が保全されている地域であり、国であると思う。そんなこともあり、18年前に書いたブログを全面更新した!

 セーシェルは下の地図(左)にあるように、マダガスカル島の北でケニアやタンザニアの東のインド洋上にある。右の地図にあるように、セーシェルは本島のマヘ島以外に多数の島から構成されている。

セーシェル共和国の位置
http://www.nationsonline.org/oneworld/seychelles.htm
http://geography.howstuffworks.com/africa/geography-of-seychelles.htm


◆日本(成田)からまる1日

 
ひょんなことから、1992年9月、持病の気管支喘息の転地療養をかね、インド洋に浮かぶ美しい鳥類の楽園そして珊瑚礁の島、セーシェル共和国(Republic of Seychelles)に行った。

 日本からセーシェルまでは行くだけでまる一日かかる。


 まず成田から約7時間、ノースウエスト航空のボーイング747でシンガポールまで飛んだ。

 シンガポールの巨大ハブ空港、チャンギ国際空港に到着後、深夜に3時間の待ち合わせ(トランジット)となる。その後、エア・セーシェル(Air Seychelles)という国営航空のボーイング767でさらに7時間インド洋上を南西に飛ぶ。エア・セーシェルの予約はエコノミーであったが、なぜかビジネスクラスに座ることができた。

 明け方、下の写真にある珊瑚礁に囲まれた美しいセーシェルのマヘ
(Mahe)国際空港に到着した。自宅から成田までのアクセス時間を含めるとまる1日の旅である。


右の山が海に落ちる先にある部分がセーシェル国際空港の滑走路

 
下の写真はセーシェル国際空港に降り立った筆者である。18年も前なのでかなり若い!


エアセーシェルのB767の前に立つ筆者(青山)

 旅行して分かったのだが、セーシェルには日本やアメリカからの旅行客は観光、ビジネス、学術を含めほとんどいない。わずかに遠洋漁業で立ち寄る日本の漁船関係者やまれに新婚旅行のカップルがいる程度だ。

 その理由は簡単。ハワイ、グアムなど、ミーハーが行くいわゆるアメリカ型の観光リゾート地ではないことに加え、シンガポールからセーシェルに行く便が当時週にわずか1便しかなかったからである。

 チャンギ国際空港で行き3時間、帰り6時間、しかも深夜の空港待ち時間もある。到底、パッケージツアーになれた日本人には耐えられない、ということだろう。

 週1便しかないのだから、最低でも9日間の休暇が必要となる。忙しい日本人にはそのような時間がとれない。

 しかし、日本人もたまには自転車操業的人生から抜け出し、希有で秀逸な自然があるインド洋の孤島でゆったり楽しむのもよいことだ。実際、セーシェルに行ってそう感じた!
 


Source: Air Seychelles


 私自身、1991年に気管支喘息で当時高輪にあった環境総合研究所の職場で倒れ病院に担ぎ込まれた。そんなこともあって転地療養を兼ねセーシェルに行くことにした。ゆったり時間をとることを余儀なくされたわけである。


 現在、日本からセーシェルに行くにはシンガポール経由以外にカタール経由などの中東系エアライン便があり、結構楽にインド洋のセーシェルに行けるようになった。

 航空運賃は1992年のとき使った成田-シンガポール〜セーシェル往復フライトは17万円であったが、現在、東京や大阪とセーシェルを往復する便はエミレーツ航空で13万円台である。何と羽田発でも13万円台のものもあった。円高の効果もある。


 セーシェルのマヘ島からセーシェルの他の島々に行くには、下の図にあるようにマヘ港から船(フェリー)で渡ることになる。遠い島には船をチャーターするか空港がある島の場合にはセスナ機などで行くことになる。

 私たちが数年後、コモロ島からマヨット島に行ったときは15人乗りのセスナ機で行った。セスナ機では持ち込め得る機材の長さ、重さなどがかなり厳しく制限され厳しかったことを覚えている。


http://www.justseychelles.com/travel-planning/seychelles-maps.php


◆セーシェル共和国とは

 セーシェル共和国は南緯4度、インド洋のちょうど真ん中にある。

 そのセーシェルは実に多く島々からなる島嶼国だ。

 首都はマヘ島のビクトリア(Victoria)である。

 かのバスコダガマが1499年にセーシェル群島を発見したが、その後1742年からフランス領、イギリス領を経て1977年に完全独立を果たしている。

 セーシェル共和国は下図に示すように多数の島から構成されている。人口は全島で約6万7千人、主島であるマヘ島にその過半が生活している。


 人種的には、アフリカのネイティブ(黒人)もいるが、大部分がイギリス、フランス、インド、スリランカ人らとの混血である。東南アジア以東のひとびとはきわめて少ない。


インド洋におけるセーシェル共和国の位置
http://www.state.gov/r/pa/ei/bgn/6268.htm


セーシェル共和国の主な島の位置関係

 人口6万人(現在7万6千人)と言えば、日本では小さな自治体である。 しかし、セーシェルはれっきとした国、それも国際空港もある社会主義国家である。

セーシェルの概況(当時の最新情報)
  首都:ビクトリア
  主な言語:セーシェル語
  最大都市:ビクトリア
  国際連合加盟日:1976年9月21日
  最大都市の人口(1995年現在):4万人
  緯度/経度(最大都市):南緯04度40分/東経55度31分
  通貨:セーシェル・ルピー
  国内総生産(GDP)(1997年現在):5億4800万米ドル
  面積:455km2
  総人口(1999年現在):7万6000人
  人口密度(1997年現在):165人/ km2
  国民1人当たりGDP(1997年現在):7304米ドル

 セーシェルは25の地方行政区分に分かれている。マヘ島が22(島嶼1を含む)に分かれているほか、プララン島と島嶼が2つに分かれ、4番目に大きなLa Digue島全体が1つの地方行政区分を成す。

 大部分の社会主義国が崩壊した後、インド洋の超小国の政治、産業経済、生活、環境はどうなったのかにも筆者は関心があった。

 日本からセーシェルに入るのはシンガポール経由のみであるが、西からはフランス、イギリス、南アフリカ、ケニア、モーリシャスなどのアフリカ諸国から航空機が入っている。

 いずれも便数は多くないが、そのことが逆にセーシェルが最後の楽園として自然、環境、文化が保たれてきた大きな理由となっていると思われる。

 セーシェルにおける使用言語は英語とフランス語それに現地語であるクレオ語の3つである。

 クレオ語はフランス語を簡易化したような言語で、現地の人々の日常言語はクレオ語となっている。ただし、観光客など外国人に対しては英語、フランス語を大体誰でも話す。宗教は80%以上
がカソリックだ。


ビクトリアのPier区にあったユニークな寺院

 下はYou Tubeにbestdestinationsさんが投稿したセーシェルの全体概要が分かるビデオである。


Source:bestdestinations



◆首都はビクトリア

 セーシェルの首都ビクトリア(Victoria)は、マヘ島の北部にある。下図はセーシェル共和国の首都があるマヘ島を示している。私たちが10日間ほど宿泊した場所は首都ビクトリアから東海岸を北上した半島の先端にあるMachabeesである。


セーシェルの首都ビクトリア(マヘ島)
Google Map

 下は首都ビクトリアの中心地。


Source;WikiTravel

 首都とはいっても人口が1992年当時でわずか約2万人(現在でも4万人)である。
下の写真は首都ビクトリアである。


セーシェルの首都ビクトリア(マヘ島)
English Wikipedia


セーシェルの首都ビクトリア(マヘ島)
English Wikipedia



◆宿泊

 セーシェル本島のマヘ島にはたくさんのホテルがある。一泊数1000円から5万円もする高級ホテルまでたくさんある。

 ホテル以外に、ゲストハウスと呼ばれる個人経営の民宿の一種も多数ある。キッチンから冷蔵庫、食器一式などが備わっていて、自炊しながら長期滞在が可能となっている。

 私たち(青山、草野)が宿泊したのはMachabeesにあるゲストハウスであった。一泊6000-7000円の長期滞在型だ。ベッドルームが2つあり、4人が十分長期滞在できる。

 食事は自炊が基本だが、夕食に限ってケータリングを頼んだ。ケータリングといっても、つくってくれる食事は魚一匹とご飯である(嗤い)。

 電気はEU同様、交流240Vでプラグは成田の雑貨屋で売っているものが使えるが、100〜240Vなどインバーターやレギュレーター、変圧器が入っている電気製品でないと、壊れるので要注意である。最近のパソコンやデジカメ・ビデオなどの充電器、ひげそり器は100〜240Vとなっているものが多いが、古い家電製品を使う場合には240V→100Vの変圧器が必要となる。


私たちが長期滞在したMachabees地区
Source: Google Map


◆産業と生活

 セーシェルの主要産業は観光である。セーシェルは「
インド洋の真珠」と呼ばれ欧州からその美しい海に魅せられ観光客が押し寄せる。

 さらに、マグロを主とする魚介類、石鹸の材料となるコプラ、ココナッツの輸出等も重要な収入源となっている。

 そんなこともあり、アフリカ諸国でセーシェルは高水準の国民所得を誇っている。

 「人間の豊かさ」を表す人間開発指数 (HDI) は、2005年度版「人間開発報告書」ではアフリカ最高の全国中51位を記録した(指数は0.821)。


 ホテル、レストランを含めた滞在型リゾート以外の産業では、漁業と農業だが、農業は平地が少なく、土地が狭いこともありあまり盛んとは言えないようだ。

 年間の観光客は統計によると約10万人である。ホテルのベッド数は全島で3,600である。一人当たりのGNPは24,145ルピー、日本円に換算して約60万円であるから単なる数字からみた産業経済は貧しいが、実際にみたものはこれよりはるかに豊かと感じた。

 現地に長く生活している山本さんから聞いたところによると、島からすぐのところで大きな魚が簡単につれるから、「食うには困らない」とのことだ。なるほどとうなずいてしまう!それほど日本人のようにあくせく働かなくても生きて行ける強みがある。


◆島民の食べ物

 次は食べ物だが、一般国民の主食は魚と米である。

 それも独特の香辛料をまぶした魚あるいはチキンと野菜のシチューはゲストハウスで毎日でたがたいへん美味である。思いの外美味しいのだ!

 実はこの食事のスタイルは、のちに行くインド洋のコモロ・イスラム共和国でも同じであった。

 夕食は一匹の大きな魚の煮付けとご飯のみというのが一般的である。

 たまに野菜や果物がつくものの、一週間以上いて大部分の日の夕食は一匹の大きな魚の煮付けとご飯のみであった。


Source:Air Seychelles

 セーシェルにはスリランカやモルディブ諸島から輸入されるカレーパウダーがあり、風味や香りもあって日本のカレーとはまったく別の美味が楽しめるのもうれしい。

 一般島民の食事は、昼食が中心で夜は非常に簡単ということだった。どこの国にもある、日本のインスタント食品はほとんどなく、シンガポールなど東南アジアからの輸入食品がわずかながらある程度だ。

 私たちは自炊していたのでほとんどレストランには行かなかったが、ちなみにセーシェルならではの食べ物は、やはりツナ、サーモンなどの魚介である。その他小さな魚類やタコの料理もある。

 それらの魚介(シーフーズ)をガーリンク(ニンニク)やジンジャー(ショウガ)と焼き、味付けとしてはカレー味、トマト味などが一般的で主食はご飯である。

 下はセーシェルの食べ物情報から。これはその後出かけた他の島々での経験をあわせると、何もセーシェルだけのものではなく、他のインド洋の島々でもほぼ同じと考えてよい。マヨット島など現在でもフランス領の島では、魚介のフランス料理がリーズナブルに食べれた。

・Specialities of the Seychelles
The Indian Ocean's fish are large, meaty, and packed with flavour, so seafood is a natural first choice in the Seychelles' eateries. The rounded red snapper, also called bourzwa, tastes like extremely tender chicken and is often grilled with garlic and ginger and served whole with a salad or rice and vegetables.

・Tuna and king fish steaks
are delicious grilled or fried in garlic butter, and picturesque parrot fish are usually deep fried in batter and come with a spicy tomato Creole sauce. Swordfish is also grilled, while sailfish is often smoked like salmon. Shark comes as a "chutney" - stir fried and seasoned with onions, herbs and the savoury bilimbi fruit.

・Smaller fish
- like mackerel, job fish and rabbit fish - are grilled or cooked as curry, fish soup or stew. Rabbit fish - kordonye in Creole - is nicknamed "the fish that makes women drunk" as one of its glands secretes an intoxicant. It tastes quite normal, but both men and women may feel tipsy after eating it.

・Octopus, or zourit,
is one of the Seychelles' chief delicacies, and needs to be cooked carefully till it is tender and can be chopped into a cold seafood cocktail or added to a hot creamy coconut curry.

 私たちが毎日ケータリングで食べた夕食は、下の写真にあるようにひとつの皿(ワンプレーと)に魚、ご飯、フルーツが乗っているものだった。風味があっておいしい。毎日、その日にとれた魚を出してくれたのもいい。どれもおいしかった!


http://www.destination360.com/africa/seychelles/dining


◆中古製品を修理して使う元祖循環型

 マヘ島での乗り物はバスが島内を巡回している。その他、タクシーも数は少ないもののある。レンタカーもある。レンタカーはイギリス製の小さなリッターカーが多い。

 現地で走っている車の大部分は日本製の中古である。そのような理由からか車は左側通行となっている。車に限らず、セーシェルでは家電でもビジネス機材でも修理(Repair)して再使用(Reuse)し、長く使うのが常識となっているとのこと。先進国の人々は見習わなければならない!


首都のマヘには日本の中古自動車がたくさん走っていた
English Wikipedia

 現地でいろいろお世話になった山本浩二さんはその修理を行っている。山本さんに言わせると、日本の家電やビジネス機器メーカーは売り込みは熱心だが修理など維持管理をしてくれない。

 皆困っていたので、もともと電気技師の山本さんが修理をボランティアで買って出ているいう。

 島民に大変喜ばれているようだ。山本さんと一緒に歩いていると、至る所で島民が山本さんに挨拶する。なくてはならない存在となっていることが分かる。


◆世界で唯一?うまくいっている社会主義国

 セーシェルはキューバなどと同様、社会主義の島嶼国である。しかし、土地の所有や商店、ビジネスの私的な経営が認められている。

 一方、義務教育の9年間と医療はすべて無料となっており、どこの途上国にも見られる”物乞い”は一人もみられなかった。

 ソ連、東欧など東側諸国の西欧化の影響か、複数政党が認められており、言論もほとんど自由であった。

 第一回選挙では、従来から社会主義を進めてきた大統領が当選したという。ひとびとの表情は結構明るい。旧ソ連東欧のような極度な貧富の差も見受けられない。

 もちろん、白人など富裕層の高等教育などへの不満はあるようだが、総じて世界でも社会主義がうまく機能している数少ない国のひとつと見えた。



海外との関係

 現地には、中国、キューバ、フランス、インド、イギリス、米国、旧ソ連の大使館それにベルギー、デンマーク、モリシャス、ノルウェー、スイス、マダガスカル、モナコなどの領事館があるが、日本の大使館、領事館はなかった。未だに在ケニア大使館が、在セーシェル大使館大使館を兼轄していると外務省のWebに書いてある。

 そのような理由もあり、セーシェル共和国は日本人には殆ど知られていない。

 実際、日本人は、観光客を除くと全部で8人ほどがいるだけで、どこの国にもいる商社マンはいない。 調べると日本とは、1976年に外交関係を樹立以降、主に冷凍魚を輸出して、自動車を輸入している。

 さらに、何と領事館、大使館もない。独立した国家でありながら、日本の領事館さえないのはめずらしい。わざわざ、ケニアのナイロビまで行かないと用が足せないと現地に嫁いだ元国際協力事業団の女性が話してくれた。


セーシェル本島近くのエデン島

 セーシェル共和国には産業らしい産業はないが、カツオなどの遠洋漁業の基地となっていることもあり、日本の漁船が立ち寄る程度の関係しかなく、国際協力についても殆ど実績がないようだ。

 一方、かつての宗主国であるフランスやイギリスは、ミッテラン政権が社会党であったこともあり、今なお相当の経済援助を行っている。

 また、イギリスは国営のBBCの中継基地をマヘ島にもっているほか、フランスについで国際協力を行っているようだ。

 はっきりいって、これほど日本との関係の少ない共和国もめずらしいのではないかと思った。

 米国については、シェラトン・ホテルがある程度で日本同様ほとんど経済・文化を含め関係がないように思えた。結果として日本や米国と関係が薄い分だけ、独自の文化と自然環境が守れているのではないかと思われる。日本は領事館すら置いていないのが気になるが。



(2)につづく