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●女川原発と福島原発の決定的違い(2) 現地視察終了後、再度、事務棟に移り、質疑討議が行われた。 青山が東北電力幹部に現地視察と議論を依頼した際の最大のポイントは、東京電力福島第一原発より震源に近い東北電力女川原発が、なぜほとんど無傷で残ったのか、その理由を知ることにあった。 先に報告してきたように、津波の推定高を福島第一では5.7mとし、女川の場合は9mとして敷地の高さなどを福島第一では10m、女川では14.3m(実際には沈下があり13.8m)としてきた経緯があり、3.11時の実際の津波の高さ13mとの関連で福島第一が地震の後、津波によって電源を喪失し、甚大な事故につながったことは事実である。 以下を見ると、その経緯がよく分かる。 女川原発の場合、昭和43年以来、学識経験者による社内委員会では、過去の明治三陸津波、昭和三陸津波、貞観津波、慶長津波などを考慮し、想定津波の高さは3m程度としていた。 東北電力では、上記の検討委員会の意見を踏まえ、敷地の高さを14.8mとした。委員会の意見を踏まえたと言いながら、結果としておよそ5倍の高さに決定したことについては、当時の経営者及び技術担当者の意思決定は大変な英断であったとして、現在も発電所内で評価されている。さらにその後、1号機の営業運転開始後も、その時々の知見を随時収集しながら、津波に対する安全性を確認してきたという。 2号機の設置許可時(昭和62年4月)には、想定津波を3mから9.1mとし、9.7mまで法面を保護している。さらに貞観津波の地質学的影響調査の結果、敷地面を14.8mとすることにしたという。 東北電力女川原子力発電所概要(パワーポイント資料3−A) では、福島第一原発ではどうかといえば、先に示したように、津波の想定水位を5.7m、敷地の高さを10mとしており、3.11の津波約13mにより、完全に敷地内が浸水し、電源を完全に喪失している。 東北電力女川原子力発電所概要(パワーポイント資料3−@) ここで不思議に感ずるのは、女川原発の一号炉の設置時に、学識経験者が津波の想定高を3mとしたのに対し、東北電力が敷地高を14.8mと決定したことである。この14.8mという敷地高が、結果として3.11の津波を受け止めることになったことは特筆すべきことである。 学識経験者の3mの推定をなぜ、東北電力は14.8mと最終的に経営判断したかである。 3.11では同じ津波高13mが女川(東北電力)と福島第一(東京電力)を襲ったが、被害の状況は両者で顕著に異なっていた。その背景には、東北電力が有識者や省庁による津波高の想定(3m)を情報として得ていたにも拘わらず、独自の判断として敷地高を14.8mと決定したことがある。 もし、津波高を3mとしていたら、さらに福島第一のように5.7mとしていたら、敷地高を14.8mとはせず、せいぜい福島第一のように10m程度としていたにちがいなく、3.11における約13mの津波高によって、福島原発事故並の甚大な被害が起きていたことになる。 つまり、東北電力は社内に設置した学識経験者が想定した津波の高さである3mをいわば無視し、独自に敷地の高さを14.8mとしたことになる。 これについて、当日、青山は東北電力側に当時の議事録はあるのかどうかを聞いたが、東北電力は相当昔(35−45年前)のことなので、残っていないという趣旨の回答をしていた。 一言で言えば、東北電力は、学識経験者の想定を鵜呑みにせず、独自に過去の地震、津波の歴史に学び、経営判断し敷地の高さなどを決めた事実が分かった。これはすごいことである。 一方、以下は、東京電力が3.11以前に15m超の津波高を試算しながら、「想定外」として、現実には何ら対策を取ってこなかったという新聞記事である。
結局、東北電力は、いわゆる学識経験者の想定の5倍近くの高さ(14.8m)に敷地面を設計し、3.11で甚大な影響、被害を免れたが、東京電力は自ら15m超の津波の遡上高を試算しながら、想定外としてまったく何ら対応を取らず、世界史的に見て甚大な原発事故を起こしたことになる。 周知のように、東京電力には過去58人もの経済産業省の官僚が幹部に天下っていた。日本の官僚の最大の特徴は、無謬性である。無謬性は、自分たちのしたことに誤りはないとすることだ。誤りがあっても修正すれば甚大な事故に至らぬこともある。 しかし、東電の体質はそれら官僚により汚染され、いつしか企業幹部の体質も官僚体質に染まっていたと言えるだろう。 同時に、官僚はいわゆる学識経験者を自分たちの手のひらで操り、自分たちの思い描いたように結論づけてきた。しかし、今回の現地視察と議論でいみじくも分かったことは、東北電力はそれら学識経験者の想定より、自分たちの歴史の教訓を生かした独自調査結果により、敷地高を決めたことで、歴史的災難を未然に回避することができたことである。 今回の現地調査だけで、上記の結論を導き出すのは無理があるだろう。また東北電力側が私の質問や仮説に今後、過去の議事録などの資料をもとにどう対応するかも注目に値するものである。 いずれにしても、震源地に近い女川原発が3.11で甚大な被害を出さず、震源地から遠い福島第一原発が歴史的大災害、被害となった背景には、企業組織、経営陣などが、官僚的思考、権威主義に陥らず、歴史的教訓を生かした独自の判断があると思える。 この特集おわり |