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チベット少年の亡命生活を描いた

映画「オロ」、鑑賞記

青山貞一・池田こみち

掲載月日:2013年12月7日
独立系メディア E−wave Tokyo
無断転載禁


 昨日(2013-12-6)、池田さんと一緒に環境総合研究所がある東京都目黒区大岡山から15分ほど真っ暗な道を歩き「シェア奥沢」という民家を改造した劇場に行きました。 最大で30人ほどが収容可能な多目的劇場に行き、「オロ(OLO)」という映画を見ました。

 劇場は自由ヶ丘と大岡山のちょうど真ん中、奥沢に住む青山の友人(堀内正弘さん 、現在、多摩美術大学 教授)の自宅近くにある民家を改造し「シェア奥沢」として、音楽コンサートや映画鑑賞などに使っているそうです。


普段のシェア奥沢 出典:シェア奥沢資料写真

 早めに会場に着いたのできょろきょろ見ると、すごい音響システムがありました。真空管を使ったオーディオアンプや大口径のスピーカー、ツィッターシステムなど、随所に堀内さんのこだわりが感じられます。


シェア奥沢の映画劇場 開始前 出典:シェア奥沢資料写真


真空管を使ったオーディオアンプ
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S50

 終了後、友人の知り合いの女性が食材をもちこみつくった交流会にも誘われましたが、夜が遅くなるので、歩いて大岡山経由で自宅に帰りました。

 肝心な映画「オロ」ですが、オロは主人公の名前です。


主人公の少年オロ、右は監督の岩佐氏   出典:DVDオロ 


オロと老人との対話   出典:DVDオロ 

 映画は、インド北部にある「ダラムサラ」という山岳地帯にある中国からの亡命者が生活する場を舞台とし、ひとりでチベットからネパールを経由しダラムサラに亡命した10歳の男の子の生き様を描いたドキュメントです。

 全体を貫くのは、世界有数の仏教国、チベットの人々の心のふるさととなっている仏教であり、ヒマラヤ山脈の高地の過酷な自然です。しかし、そこには仏教にある東洋的無為自然、自然と人間の共生、そして家族愛があります。


ダラムサラの位置 ネパールの西隣、インド北部にある
出典:DVDオロ 


ダラムサラの位置


ダラムサラの寺  出典:English Wikipedia

 わずか6歳で親や兄弟と別れて亡命、一回目は失敗し刑務所送りとなります。二度目の亡命も命からがらであり、やっとのことでダラムサラまで数ヶ月かけ到着します。

 6歳にして家族と離ればなれになる経緯、ダラムサラにある難民を受け入れ、生活と教育を受け持つ施設、そのなかで日本では到底考えられない厳しくつらい毎日を送りながらも、たくましく、主体的に生きる少年の姿が描かれていました。


ダラムサラのチベット子供難民救済センターでの食事時間
出典:DVDオロ 

 物質文明の頂点、経済至上主義に浸っている先進諸国に生活する私たちにはまったく見当たらない、清貧でありながらも、研ぎ澄まされた精神文化をもつひとびとの生き様を見いだすことができます。もちろん、それを感ずる知性とリテラシーがあってのものですが。


随所にカメラマン津村さんの秀逸な映像が光っていた 出典:DVDオロ 

 ダラムサラは、有名なダライラマが亡命政権をつくった場所でもあります。そこは1500m−3000mの山岳地帯にあり、気候は厳しく夏の平均気温も10℃を超えない地域です。

 下はダラムサラの地形です。まるで私たちがよく行くソレント半島のピアノ・ディ・ソレントそっくりです。

ダラムサラの地形  出典:Wikipedia

 何とこの映画の音楽を担当したのはNHKの朝ドラ、「あまちゃん」のあの有名な冒頭音楽を担当した大友良英さんです。オロでは生ギターひとつで、寒さの中で凛として生きる少年を主人公としたドキュメント的なドラマにふさわしい、澄み切った曲を提供してくれています。

 終了後、撮影カメラマンの津村和比古さんが撮影や現地ロケの裏話をたくさんしてくれました。 監督の岩佐寿弥さんは、この映画をつくったあと、東北被災地で上映会を開催してきましたが、娘さんが住む宮城県で開催後、夜中に階段を踏み外し落下、何とその場でお亡くなりになられたとのことです。


現地ロケで映像を撮影した津村和比古さん
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S50

 私は2010年11月、自宅で深夜階段を踏み外し頸椎を骨折し、99%死に至る状況の中で運良く助かったこともあり、複雑な思いでした。

 その後、主催者で司会者でもある友人の堀内さんから、まっさきに「青山さんから一言」と指名されたので、以下のようなお話をしました。「物質経済文明に毒されている私たち日本には全くない、小さくてもきらりと光る清貧でなおかつ至誠に生きる子供たちのすばらしい主体的な生き方を見せて頂き、本当にありがとうございました」とお伝えしました。

 また、一緒に参加した池田からも津村さんに質問とコメントをしました。「現地のTBV(チベット子供村)などは、特に取材制限などはないのでしょうか。欧米、カナダなどにはチベットからの難民も多く、チベット問題に対して関心が高いと思いますが、日本ではほとんどこうした子供の実態は知られていません。これは取材や報道しないメディアの怠慢なのでしょうか。また、全編を通じて荘厳なまでの風景と子供やお年寄りとのふれあい、会話などがとてもよくマッチしていて、心が洗われる感動的な作品だったと思います。」と。

 日本では、チベットでの反政府暴動や焼身自殺などの事件的なことはニュースになっても、チベットの人々が置かれた現状に真摯に向き合ったり現状を伝える報道がないのが残念に思いました。

 この映画は決してプロパガンダや政治的な主義主張を訴えるものではありませんが、チベットからの難民の日常の生活が報道とはちがうリアリティを映し出していると感じました。

 周知のようにチベットは、中国に併合されて以来、漢族が多数、チベットに送り込まれ、生活、宗教、文化のありようが次第に一変しつつあります。

 多くのチベット人は、漢人監視の下で重苦しい生活のなかで厳しく過酷な毎日を送っており、せめて子供たちに将来を託し、チベット文化を守り継ごうと、亡命させているのだと思います。


イアキンフ・ビチュリンが19世紀に作成したチベット・ラサの地図  出典:Wikipedia


チベットのラサにあるポタラ宮  出典:Wikipedia

 映画のエンディングで、オロはチベットの独立に触れます。わずか10歳の少年が独立について真剣に語るのです。チベットが独立すれば祖国チベットに帰り、家族と一緒に過ごしたいと告白します。

 ひるがえってチベットを取り巻く国際情勢をみると、非常に厳しいものがあります。中国の覇権はとどまるところを知らない勢いがあります。

 最近も新疆ウイグル地区でも少数民族の暴動が起きていますが、中国政府の動きを見る限り、力で押し込める政策一辺倒となっているようなので、このままの状況では到底、チベットの独立は困難です。

 しかし、昨年訪れたスコットランドでもそうですが、独立を悲願とする地域、民族には、今の先進諸国の人々にはない目の輝き、強い主体性、そしてパッション(情熱)があります。

 ブルーレイの高品質の動画ファイルを実費で買ってきましたので、そのうち環境総合研究所の大会議室などで鑑賞会を開きたいと思います。まちがいなく心が洗われますよ!

<DVD解説>
チベットからインドへ亡命した少年の3年間を追ったドキュメンタリー。6歳の少年オロは母親に背中を押され、ヒマラヤを越えてチベットから亡命。インド北部の町ダラムサラで、チベット亡命政府が運営する「チベット子ども村」に寄宿し、勉学に励んでいる。チベットを出てから一度も会えていない母に思いをはせ、さまざまな人々と触れ合いながら、「なぜ母親は自分を異国の地に行かせたのか」という疑問への答えを探し続けるオロ少年の姿を映し続ける。

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DVD、メモ用紙など、オログッズ
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S50