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■創立20周年に寄せて 世にパソコンがはじめてでたとき、私はローマクラブ日本事務局に在籍していたが、冬のボーナス全部を叩きでたてのPCを買った。環境ソフトをつくるためだ。 今から25年も前のことである。 その後、1986年に池田こみちさん(現在、常務取締役副所長)と株式会社環境総合研究所を創立した。私のこの分野での大きな夢は、当時、数億から十億円もしていたスーパーコンピュータでしか無理とされた3次元流体計算など高度で複雑な科学技術計算や各種の環境シミュレーションをPC上で行うためのソフトの開発であった。
限られたメモリーと速度の制約の中で、いかにして計算スピードを上げるか、少ないメモリーでプログラムをくみ上げるかなど、課題は山積していたが、それに挑戦する楽しみもあった。 「転機」(日経新聞1990年3月20日号) 5年後、20種以上の高度な環境ソフトをMS-DOS上で開発することに成功した。成功とは言っても、さまざまな前提と制約があった。その時点で、早稲田大学大学院を卒業したばかりの鷹取敦さん(現在、調査部長)が環境総合研究所の新たな仲間に加わった。 鷹取さんは私がつくった各種の環境ソフトを、Windows上で動くC言語系のアプリケーションに移植するとともに、新たな諸機能を付加、拡充した。これらの環境ソフトは、どれも私たち、環境総合研究所の研究職人にとっては、手塩にかけ目に入れても痛くない子供のようなものである。 まず、それらのソフトを研究所の各種業務に使った。使う事により課題が明らかになるからだ。 池田さんは、川崎市、横浜市はじめ全国各地20以上の自治体から依頼された環境管理計画や環境計画の策定過程でつかった。鷹取さんは、委託計算サービスに使った。さらに、手塩にかけたソフトを国、自治体、大学、民間コンサルタントなどに実費提供していった。私にとっては、まさに娘が嫁に行くような気分だった。 これより前、環境解析、数値計算の分野で日本では知らないひとはいない大西行雄さんが環境総合研究所大阪を設立したいと申し出られた。大西さんもこの分野で同じミッション、目的をもっていたので青山と池田が株主になるなど積極的に支援することとなった。 環境総合研究所にあって、私や鷹取さんはどちらかと言えば、大気系が中心(専門)だが、大西さんは水系がメインである。東京と大阪の両方合わせることで、かなりのことはやれると考えた。ちなみに大西さんが京都大学大学院博士課程で開発した3次元多層潮流計算ソフトはピカイチで追随を許さないものとなっている。 そうこうしているうちに、研究所の経営も軌道にのるようになってきた。私たちは創立当初から株式会社でありながら、環境NGOそして「たたかうシンクタンク」を標榜かつ自認していた。社会経済的弱者や小さな自治体を環境面で支援する「環境オンブズマン」と「環境アドボカシー」を首都圏を中心に数多く手がけることになった。 環境総研が研究開発してきた主な環境関連ソフト 環境オンブズマンと環境アドボカシーの提唱と実践 神奈川新聞 2000年3月6日
毎日新聞 1990年4月23日
環境オンブズマン活動と環境アドボカシー活動は、国内にとどまらず湾岸戦争、ナホトカ号座礁、イラク戦争などがもたらす環境汚染の調査、解析、予測、評価、政策提言にまで及んだ。 東京新聞 1992年8月3日
さらにこれら独自の「道具」をもとに、環境訴訟も積極的に支援する。川崎公害訴訟、東京大気汚染訴訟、圏央道建設差し止め訴訟などの訴訟に、あらかじめ調査、分析等を行い、意見陳述書を書いて証人に立った。青山、池田、鷹取の3人が法廷の証人に立った数は、ゆうに30件を超える。 読売新聞 1986年4月10日
一方、本四連絡架橋騒音問題、羽田飛行場滑走路拡張騒音問題、日の出町最終処分場ダイオキシン問題、諫早湾干拓事業、恵比寿ガーデンプレイス大規模都市再開発事業など、公共事業に絡む環境問題にも、敢然と独自の環境調査、環境解析、環境影響評価をもとに敢然と挑みつづけている。
最終的に全国各地延べ5万人近くの一般市民が参加して行っている「松葉を使ったダイオキシン測定・監視活動」は、所沢ダイオキシン事件直後から開始された。 このプロジェクトは、池田さんが中心となり途中から齋藤さんがアシストしている全国規模の市民参加による環境測定監視活動だ。その齋藤さんは、大学時代、理学部で物理、大学院では環境倫理を修論のテーマとしている。 全国松葉調査の成果は、全国各地で開催された報告会で市民にフィードバックされている。報告会の数は200回を遙かに超えている。さらに毎年、国際ダイオキシン会議(学会)で論文発表し、米国環境保護庁や英国環境省、カナダ環境省などの研究者からも評価されている。この松葉ダイオキシン調査活動は、現在も継続されている。この調査でも、スプライン補間システムなど、私たちが開発したソフトが威力を発揮している。
................ 研究所創立から現在に至る間、パソコンの速度は1000倍以上、主メモリーも1000倍以上となり、まさに、私たちは水を得た魚のごとくとなった。そして、当初の夢が実現しつつある。 ................. 今の日本社会、環境調査、環境アセスなどの分野で必要とされることは、強度耐震偽装事件でも明らかになったように、行政や環境コンサルタントなど、一部のひとびとの専管事項とさせないことである。 そのためには、技術と社会、定量と定性、事業者と住民団体の双方に関心を寄せミッションあるひとが、環境政策支援ソフトの研究と開発を手がけ続けることだと思う。私たち環境総合研究所は、その社会的使命(ミッション)と社会的倫理観を強くもち、今後ともがんばる所存である。 ミッション(理念、目的、社会的使命) 「NGOの窓」(読売新聞2002年7月17日) 環境総合研究所スタッフ |
環境総合研究所が研究開発してきた主な環境関連ソフト |
■はじめに 「秒進分歩」のハードウェア この25年間、環境シミュレーションを支援するコンピュータ、とくにパーソナルコンピュータのハードウェア技術の進歩にはすさまじいものがある。まさに日進月歩ならぬ「秒進分歩」の勢いである。 ちなみに、環境総合研究所が1991年に起こった湾岸戦争の時、ペルシャ湾へ流出した原油がその後どう流れるかを予測するために、3次元流体モデルを使った潮流シミュレーションを行った。超高速のコンピュータが必要となり、当時、沖電気から学術割引で最新鋭UNIXワースステーションを導入した。 環境総合研究所自主調査研究、湾岸戦争の地球環境への影響、1991 沖電気から導入したUNIXマシン(ワークステーション)は、表1の最下段にあるように、当時インテル社の最新最速のRISCチップ、i860(60Mhz)を使ったものだった。アカデミック割引でも300万円もしたこのスーパーパソコンの速度、すなわち倍精度浮動小数点演算で表す科学技術演算速度は10Mflopsであった。こうしてUNIXベースのスーパーパソコンで戦争に突入する前から3次元流体モデルによる潮流シミュレーションや大気拡散シミュレーションを行ったのである。 それから約15年、今では何と本体価格10万円〜30万円のパソコンが、当時300万円もしたUNIXマシンより30倍から100倍、270Mflops〜1Gflopsの速度を達成しているのだ。まさにこれは、隔世の感があり驚異である。しかも、CPU速度ばかりでなく、搭載可能のメインメモリーの規模も止まるところを知らない。パソコンでも簡単に1GB搭載可能となっており、数GBが搭載な機種もある。 かつて、つくば研究学園都市の気象研究所や国立環境研究所など、国立研究所や旧帝大などの大学にある大型汎用コンピュータやスーパーコンピュータでしかでき計算できなかった高度、複雑なシミュレーションが今や卓上のパソコンで可能な時代となったのである。もちろん、ソフトウェアあってのハードであることは言うまでもない。いくらパソコンが高速になっても、ソフトがなければただの箱であるからである。 |
表1 コンピュータ(CPU)別の倍精度浮動小数点演算速度比較
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「秒進分歩」なのは、コンピュータ系ハードだけではない。データ通信、とくにインターネットによるデータ転送速度もこの間飛躍的な発展をとげている。 たとえば、ADSLなどブロードバンド・インターネットの環境は、現在、家庭でも簡単、廉価に使用可能な時代となった。それにより環境に関連する高度なシミュレーション計算や調査、解析の結果をフルカラーで地球の裏に瞬時に情報提供することも容易となった。インターネットGISはその典型例である。 ちなみにADSLとは非対称ディジタル加入者線(Asymmetric Digital SubscriberLine)の略で、既存の電話回線で高速通信を実現する技術である。利用者端末で送信と受信の圧倒的な通信量の違いに着目し、受信速度を送信速度に比べ高速化している。「非対象」は送受信速度が非対称であることを意味する。 ■コミュニケーションツールとしての環境ソフト 21世紀は「環境の時代」と言われている。同時に21世紀は高速インターネットと高度機能パソコンが家庭や職場のすみずみまで常備品となる時代でもある。 21世紀には、高度情報化のなかで市民、企業、行政、いかなる主体も、環境問題への適切な対応が肝心となるだろう。対応をひとつまちがえば、国、自治体などの行政機関はもとより、巨大企業と言えども隘路に入ることになる。 逆説すれば、いちはやくいかに必要な情報を入手するかが重要なものとなる。これはたとえば、企業の場合、工場事業所の立地を巡る環境アセスや公害規制で重要なだけでなく、操業、稼働にともなうPRTR対応、ISO14001対応、地域社会との間でのリスクを巡るコミュニケーションなど、日常的な環境管理においても重要なものとなる。 わが国でも米国に30年以上遅れ国の情報公開法が制定され、2000年4月から施行された。化学物質管理法(PRTR法)も2000年から施行された。今後、制度、実態を問わず環境情報の公開、提供が進めば、職場や業務のみでなく、地域社会や家庭、大学や高等学校の教育現場でも環境情報をいち早く入手し、自ら調査、予測、解析、評価するための環境ソフトやネットワークをいかに使いこなすかが大切なものとなる。 その意味で21世紀には、環境情報の入手や解析、評価に関連したソフトウェアの社会的有用性が高まるだろう。しかも、それは今までのように一部の専門家や研究者、行政関係者だけでなく、地域や家庭、職場においても重要性が増すことになる。 このように環境に配慮した政策や計画の立案、企業戦略づくり、また地域のまちづくりに対応した代替案の評価と選択のために、また関係者相互が有機的に交流するための「コミュニケーション・ツール」として、環境ソフトや情報システムが有用となる時代が到来するはずだ。 ■政策提言の支援ツールとしての環境ソフト 私たちこの分野にいる研究者や専門家、政策立案者にとっては、このような時代変化にいかに情報システム、ソフト、ネットワークが対応するかが大きな課題となる。 たとえば、今後は、従来のように国民、市民、住民団体、NGO、学生らが環境情報の単なる受け手、もらい手としてではなく、環境情報システム、環境ソフトをホームページ上で使いこなし、行政や事業者が整備したデータを集計、解析、分析、評価することになる。 さらに一歩進んで、ホームページ上で高度な環境影響の予測や環境管理のためのシミュレーションを行い、自分たちのホームページに掲載する。さらに、それらをもとに報告書を作成し、立法、司法、行政、事業者らに政策提言すると言った能動的な環境情報の活用が具体化するかもしれない。 私たち株式会社環境総合研究所は、1986年設立以来、環境情報システムや環境ソフトの役割を「コミュニケーションツール」及び「政策提言支援ツール」に位置づけ、積極的にその研究開発に励んできた。 今後のひとつの重要な方向として、従来、MS-DOSからWindowsで稼働させてきた各種環境情報システム、環境ソフトウェアをインターネットのホームページ上で誰でもが利活用できるようにすることがある。 こういうと一見簡単なように思える。しかし、Windows上で稼働するソフトと同じ利用環境、機能をWEB上で得るのはそれほど容易なことではない。だが、もしこのネットワークシステムが実現すれば、夢のようなことが出来ることになる。 たとえば、高速パソコンとADSLインターネットがあれば、自宅の書斎で日本の平均的なコンサルタントやシンクタンク、さらには国公立研究機関級の情報処理、解析、シミュレーション、評価や、それらの報告書、論文、パワーポイント化も可能になる。また大学の環境科学や土木工学の授業や演習で学生や大学院生が環境総合研究所が研究開発し使ってきた情報システムやソフトを自由に使えることになるのである。 これは決して夢物語ではない。 図1 高速パソコンと高速インターネットでつくる21世紀の環境情報システム 出典 株式会社 環境総合研究所 |
■環境ソフトの新ニーズ 以下、環境影響シミュレーション、環境モニタリング、環境計画策定支援などに関連する環境ソフトの新たなニーズについて展望する。以下では、一部のシステムを除き、インターネット環境と情報システム、環境ソフトとの有機的連携についてはふれていない。しかし、早晩、ホームページ上で可能となるはずである。、 (1)環境アセスメントのスコーピング支援 環境アセスソフトは、岐路にさしかかっている。環境アセス法が制定され、スコーピング(方法書)手続が導入された。スコーピングのやり方如何によっては、従来のような定番メニューのアセスから脱却し、多様な環境影響の調査、予測、把握、事後モニタリングが可能となるはずだ。 スコーピングは国の法律だけでなく、順次、都道府県、政令指定都市など地方の制度でも手続化されてゆくものと考えられる。そこでは当然のこととして、従来の技術的にみると20〜30年前の水準にある環境アセスから地域自然的、社会的条件、ニーズに対応、適合した調査、予測、評価を支援す環境シミュレーションの役割、機能、可能性もでてくるはずだ。したがって、この「スコーピング」を支援する環境アセスソフトがあってもよい。 (2)計画アセス、戦略アセス支援 環境アセスソフトは、法、条例などのもとで行われる制度アセスとは別に、政策、構想、基本計画など行政計画や法定計画の立案の早期段階で行うアセスがありうる。いわゆる計画アセス、戦略アセス、総合アセスである。ここでも環境ソフトの利用価値は大いにあるはずである。 そこでは、地域社会の社会経済的、自然環境的な諸条件を考慮した代替案の立案やその絞り込みにも環境シミュレーションなどのソフトは有効なはずである。計画の早期段階であれば環境影響の精緻な予測や絶対評価より、ある程度ラフであっても代替案毎の相対評価を行うことの意味が高くなるからである。またこの段階では、環境的価値と社会経済的な価値との間での総合評価や二律背反(トレードオフ)な関係を調整するためにシミュレーションが威力を発揮できる。 私も3年間かかわった環境庁の「計画段階の環境影響評価に係る技法開発」では、計画アセスに有効なさまざまな手法、技法のアイディアが検討された。当時はパソコンがない時代、対話型の計画アセス支援ソフトの開発も困難だった。しかし、これからは計画アセス分野は、PCによる対話型ソフトの独壇場となるはずである。 (3)環境計画立案支援 自治体の環境管理計画、環境基本計画、アジェンダ21、自動車公害防止計画など、いわゆる環境計画の策定過程、また自治体が住民参加で立案する環境に配慮した基本構想、総合計画、土地利用計画、都市計画の立案過程でも環境シミュレーションは有効なはずである。自治体や複数自治体の広域地域の道路ネットワークを対象に、大気汚染や騒音のシミュレーションを行うことや、自治体内あるは複数の自治体にまたがる河川、湖沼、内湾を対象に水質汚濁のシミュレーションを行うことがは以前からあった。 パソコンがもつ計算速度や記憶容量の飛躍的な増加と拡大により、かなりの精度を保ちながら広い範囲をでシミュレーションを行うことが容易となってきた。これにより、シミュレーションを生かした政策や計画の代替案作成やその相互評価が一段と容易となってくるはずだ。また排出量レベルでも、自治体さらには個々の世帯で二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスやエネルギー消費の総量を自動集計する環境ソフトをさらに一歩進め、インターネット上でいかにしてCO2を削減するかについて議論するのもよいだろう。 環境総合研究所では、過去、20以上の中小自治体の環境計画、自動車公害防止計画の策定支援において、パソコンレベルでの対話型環境シミュレーションを現場の職員との間で数多く試み、多くの成果を上げてきた。シミュレーションは、政策、計画の変更に柔軟、敏速に対応することが命である。その意味で高度化、複雑化する社会システムにあって、対話型の環境シミュレ−ションソフトへのニーズは高まる一方であると思われる。 図2 自治体の環境計画、総合計画の中での環境シミュレーションの役割(道路交通騒音の例) (4)3次元流体モデルの援用 従来の環境アセス、たとえば大気汚染濃度の拡散シミュレーションでは、地形や建築物、構造物や森林などを全くと言ってよいほど考慮しない(できない)正規プリュームモデル、パフモデルが国、自治体、公団などで広く使われてきた。だが、廃棄物の焼却施設からの排ガスのシミュレーションでは、対象となる施設の多くは、中山間地など地形が複雑な地域に立地されている。処分場も同じだ。 このような状況にあっては、今まで従来国、自治体が全国一律に使ってきたプリュームモデルは現実に即した予測はできないことになる。私たちが過去行ってきた検証研究では、予測結果は著しく過小評価となることが多いことが分かっている。これは大都市内に計画される幹線道路の環境アセスでも同じである。高層ビルが林立する谷間を高架の都市高速道路が計画される場合、今までのモデルでは何を予測しているか分からなくなる。 パーソナルコンピュータの高速化と容量の巨大化によって、運動方程式を差分法や有限差分法を使って近似解を求める3次元レベルの流体力学モデルの出番となった。これにより高額な風洞実験やスーパーコンピュータに頼ることなく現実に近い複雑で高度なシミュレーションが可能となる。環境総合研究所では、海洋での潮流や汚濁予測はもとより、ビルが林立する大都市内での道路大気汚の染削減対策、山間地など複雑な地形をもった地域に立地される廃棄物の焼却施設や最終処分場を対象に、ダイオキシン、重金属、大気汚染などの拡散シミュレーションを数多くてがけてきた。これらはいずれもパソコンで計算したものである。 図3 複雑な地形下での高精度な大気汚染・有害化学物質の拡散予測 図4 大都市内でのアスベスト移流・拡散の短期予測シミュレーション例 (5)GIS・GPSとの連動 地理情報システム(GIS)と環境シミュレーション、環境モニタリングの有機的連動も重要なテーマのひとつである。現在、世界中でその種のシステム構築のための研究開発がすすめられている。環境シミュレーションや環境モニタリングは、入り口から出口まで地理と密接に関係しているからだ。 従来、データ作成では、その都度、大型デジタイザー上に地図をおき、海洋地形データ作成でもデジタイザー上の海図から水深データをサンプリングし、スプライン補間により3次元データを作成してきた。またシミュレーションやモニタリング結果の地理的表示についても同様にその都度、縮尺を合わせ、発生源や濃度データを地理表示してきた。 同様に、自然環境系のデータマッピングや植物、動物等の生息域の面積計算についても、従来かなりの手間がかかっていた。今後、GISと環境ソフトが有機的に連携し出せば、上述の作業に要する時間は大幅に短縮することになり、環境シミュレーション、モニタリング本来の作業にエネルギーを投入することができるようになる。さらに、複数の衛星を使って現在の正確な位置、高度を示すGPSとGISを連度させることにより、中山間地などでの植物、動物生息調査の効率が飛躍的に向上するシステムの開発も実用段階に近づきつつある。また海洋上のブイと無線により通信することにより、風向、風速、水温、潮流の向き、流速などをGIS上にそれらの位置とともにリアルタイム表示させるシステムも容易となっている。 (6)インターネットGISとの連動 インターネット上の地理情報システム(GIS)、すなわちインターネットGISと環境シミュレーション、環境モニタリングソフトが有機的に連動することも重要かつ緊急のテーマである。たとえば、多くのひとびとに現地調査した結果をホームページ上のGISからデータを入力可能してもらい、自動集計、解析した結果をホームページ上に逐次表示するなど、対話型あるいは住民参加型の環境調査の新たな手法としてもきわめて意義がある。また環境総合研究所がナホトカ号座礁時の原油の漂流シミュレーションで行ったように、流体モデルによるシミュレーション結果を時々刻々、WWW化することにより、いち早い現地対応が可能となると言った大きなメリットも生まれる可能性を秘めている。 (7)環境モニタリング支援 環境アセス法では事後調査、環境モニタリングが含まれるようになった。東京都などの自治体のアセス制度では以前から入っていたところもある。この環境モニタリングでも環境解析に関連し、環境情報システムの必要性は高い。たとえば、環境モニタリングによって集められたデータを自動集計、解析し、地域環境の現況を再現、表示するとか、環境アセスの予測結果をチェックするするために環境ソフトを使うこともある。 また、点在する実測データをもとに、地域全体の濃度分布などを再現する補間、シミュレーションソフトもそのひとつである。さらにそれらを一歩進め、常設の環境測定局あるいは環境モニタリングのために置いた移動測定局から電話回線等を使って基地局に順次送られてくるデータを即座に集計、解析し、シミュレーションと組み合わせることにより、地域環境の現況をリアルタイムで住民、行政、事業者にホームページ上で知らせる情報システムも考えられる。環境総合研究所では、東京都板橋区、千葉県市川市からの依頼でリアルタイム大気モニタリングシステムを開発し、インターネットGIS上で住民に情報提供している 図5 2次元スプライン補間ソフトを使って解析した松葉ダイオキシン濃度分布 図6 東京都中野区の都市高速中央環状線換気塔からの大気汚染シミュレーション (8)住民アセス支援 住民アセス、代替アセス、平行アセスなど、名称こそさまざまだが、地域住民、環境NGOを側面、背後から技術・専門的に支援する環境アドボカシーも環境アセスソフトの重要な利用分野である。さらに、一歩進んで住民団体が自ら必要な関連データを現地調査や行政、事業者からの情報提供や情報開示により収集し、インターネットのホームページ上で収集したデータを入力する。モデル、パラメータ、データを一部変え、感度分析する。これにより事業者のアセス準備書の内容をクロスチェックすると言った「市民のためのオンライン・環境アセス・セルフサービス」が利用可能な時代もすぐそこに来ている。 図7 恵比寿ガーデンプレイス都市再開発事業における住民支援環境アセス (9)リスクアセス・PRTR支援 日本でも化学物質管理法(PRTR法)が制定された。欧州各国ではPRTR、米国ではTRI(Toxicity Release Inventory)と呼ばれるこの制度では、最終的に工場、事業所単位で保有、排出、移動する指定化学物質の量やそのリスクなどを求めに応じて社会に情報提供する。 わが国では現在、MSDSとPRTRを結びつけるデータベースソフト開発が盛んだ。また日本では当面、工場、事業所の単位ではなく地域単位の有害化学物質の排出量の情報提供から出発するようだが、欧米では個別の工場、事業所単位の種類別化学物質の排出量を専門家やNGOが自分達のインターネットのホームページで排出データをもとにその濃度をシミュレーションし、リスクをGIS上で評価し、公表しているものまである。 また、工場、事業所などのいわば点源に対し、道路や土地利用など非点源(線源、面源など)からの有害化学物質の拡散を行い、リスクを評価することも考えられる。下図は、東京23区の数1000本の道路を対象に行った有害化学物質濃度のシミュレーションの一例である。 今後、日本でも同様の流れがでてくるだろう。有害化学物質のリスクをアセスするために、リスクを管理するために、そしてリスクを公衆に周知するための環境ソフトのニーズも高まるものと思われる。 図8 東京23区の道路上を走行する自動車からのガスの濃度推定(非点源PRTR) 図9 日の出広域最終処分場の現地モニタリングをベースとした現況再現(特定風向時) (10)緊急時災害時支援 地震や災害によって有害化学物質が環境に漏洩したり、日本海におけるナホトカ号座礁時により有害物質が海を漂流するなど、緊急・災害時の環境シミュレーションも重要な環境ソフトの利用分野となるだろう。インターネット全盛時代にあって、リアルタイムで環境シミュレーション結果をホームページ上に自動転載し情報提供することも可能である。環境行政分野ではないかも知れないが、茨城県東海村の原子力関連施設から放射能、放射線が漏洩した後の気象条件、地形条件を考慮した緊急・災害時の環境シミュレーションに類するニーズは高い。 図7 日本海でのナホトカ号座礁時の油塊シミュレーション 環境ソフトの社会化に向けて 以上、環境ソフトの新たなニーズをざっと「技術展望」してきた。 今の日本社会に必要とされることは、環境シミュレーションを一部の事業者や専門家の専管事項とさせないためのソフトの研究と開発である。そのためには、技術と社会、定量と定性、事業者と住民団体の双方に関心を寄せるひとびとが、環境政策支援ソフトの研究と開発を手がけることだと思う。 |
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ここでは、環境総合研究所(ERI)がパソコンをベースに研究開発し、業務及び非営利活動に活用している環境調査、環境シミュレーション、環境モニタリングに関連する主な環境情報システムを以下に紹介する。
日本の多くの地方空港では自治体の環境部局が公害防止や環境保全の観点から航空機騒音の計測などの実態調査を行うだけでなく、空港の管理運営を所管する空港管理部局が事業者の立場から、実態調査や予測調査を行っている。 だが、空港周辺に居住する住民にとって見れば、両者は部署は違っても同じ県知事のもとで仕事を行っている空港管理者(行政)の立場であることには変わりない。すなわち、いずれの「実態調査」も第三者性に欠けるものであるとして調査の方法や結果に確たる信頼が得られないのが現状であり、地域紛争に発展するものもある。 ERIでは、住民と行政の双方からの意向を受け、今まで多くの地方空港において自主開発した30台に及ぶ超小型PCと連動したディジタル騒音計と航空機の飛行経路を3次元計測するPC利用のプロファイル追跡システムによる現地測定、さらにそれによって得られた騒音レベル、飛行経路データを元にやはり自主開発の航空機騒音シミュレーションシステム(SUPER NOISE(A))による現況騒音再現シミュレーションと現況再現で得られた各種パラメータをもととにした滑走路延長、飛行スケジュール変更、新機種導入などに対応した騒音予測、WECPNL評価などを行ってきた。調査の概要及び手順は概ね以下の通りである。調査の各段階でパソコンを用いた専用システムの開発を行い、調査精度、データ処理速度および費用対効果の向上を図っている。 図−1 空港周辺における高精度航空機騒音シミュレーションの概要
日本の自治体では、常時監視測定局にて測定した大気汚染の1時間データを、翌年の夏ごろになり「前年度の大気汚染状況の速報値(月間値や年平均値)」として公表している。一部には、人通りの多い駅前の電光掲示板などで「ただいまの大気汚染濃度」を数値で表示したり、稀にはパソコン通信やインターネットによりリアルタイムに近いかたちで「速報値」が公表されている例も見られる。 しかし、いずれの場合も0.03ppmといった測定局ごとの数値による情報提供であるため、一般市民や、喘息患者など大気汚染による影響を受けやすい市民、さらには環境部局以外の部署や知事・市長などの意思決定者にとって極めてわかりずらい不親切な情報提供となっており、結果的に膨大な設置費、管理を投入して測定しているデーが有効に活用されていない実態がある。地域の大気汚染の実態をわかりやすく伝え、対策への理解と協力を求めるためには、即地情報として大気汚染の分布を地図上にグラフィックスで示すことが不可欠である。 そこで、ERIでは大気拡散シミュレーション、ネットワーク、GIS、データベースなどの各技術を有機的に統合し、自動車排ガスからの影響を含めリアルタイムに大気汚染濃度分布をシミュレーションするシステム「SUPER MONITOR」を開発し、詳細な大気汚染濃度マップを1時間単位に自治体のホームページに自動提供するシステムを導入してた。 1996年6月には板橋区の委託により環境提供システム「かんきょうくん」上での情報提供を実現し、1999年7月には通産省の補助事業の一貫として市川市において、インターネットおよびキオスク端末による情報提供を実現している。 関連情報→ 大気環境監視システム 図−2 リアルタイム大気拡散シミュレーションシステムの概要
図−3 市川市の事例(実証実験中)
これまで、廃棄物の最終処分場周辺では、埋め立てている焼却灰や飛灰の再浮遊や飛散は「一切あり得ない」という事業者側の一方的な判断から環境アセスや生活環境影響調査では、その環境影響や健康リスクは全く考慮されてこなかったと言える。 ERIでは、ダイオキシン類に関連する自主研究の一環として、東京都多摩地区の市町村の焼却灰や飛灰が長年にわたって埋立処分されてきた谷戸沢処分場周辺への焼却灰・飛灰の再浮遊・飛散の可能性を推定するため、PCベースの差分法による3次元流体シミュレーションシステムを用い、環境影響の予測と評価を試みた。 図−4にその一部を示す。また、市民団体からの同シミュレーション結果を検証するため、土壌中のダイオキシン類濃度の測定分析についても行い、我が国で初めて一般廃棄物最終処分場に処分された焼却灰・飛灰に含まれるダイオキシン類の再浮遊及び周辺への飛散について実証した。 関連情報→廃棄物最終処分場からの焼却灰飛散予測 図−4 最終処分場から周辺地域へ飛散シミュレーションによる検討結果の例 一方、図−5は、複雑な地形をもった地域に複雑な構造を持った幹線道路を建設する場合の大気汚染の3次元の流体シミュレーションの例である。従来、数1000万円の費用をかけ風洞実験でしか行えなかったこの種の高度はシミュレーションが、パソコンレベルでも可能となってきた。 図−5 複雑地形における幹線道路の大気汚染影響シミュレーション 図ー6は、神奈川県厚木基地に隣接する産廃焼却施設からのダイオキシン汚染 の3次元流体拡散シミュレーションである。図は年平均濃度として工場周辺のダイオキシン類濃度を表示している。このシミュレーションでは、地形、建築物、構造物などを詳細に考慮している。 関連情報→環境濃度から排ガス濃度を推定するための調査 図ー6 神奈川県厚木基地に隣接する産廃焼却施設からのダイオキシン汚染 の拡散シミュレーション(年平均濃度)
東京都における今世紀最後の大規模再開発事業と言われた「サッポロビール恵比寿工場跡地再開発事業」(恵比寿ガーデンプレイス開発事業)では、東京都のアセス条例に基づき実施された事業アセスで見過ごされた環境影響を地元NGOである恵比寿三丁目環境対策協議会の上田明会長が「住民アセス」としてERIに依頼してきた。いわばスコープされた項目を対象にERでは住民アセスを実施するとともに、工事中から供用後まで5年にわたり、事後環境調査を実施した。 住民アセスの現況調査や総合事後調査では、騒音・振動・気象の各測定にてノートPCとセンサーを組み合わせた携帯測定・データロガ・、集計・解析の総合システムを開発し利用した。また住民アセスの現況再現及び将来予測シミュレーションではERIが独自開発し自治体等に有償提供しているPCベースの各種シミュレーション、解析のためシステム(大気:SUPER AIR, SUPER HIWAY、騒音:SUPER NOISE(H), SUPER NOISE(P)、解析:SUPER SPLINE)等の環境アセスソフトを活用し短期間のうちに報告書を作成することができたた。 さらに、事後モニタリングでは、市民環境測定局を常設し、大気(NO、NO2,NOx、CO2、SPM)、気象(風向、風速等)のセンサーからのデータをA/D後、パソコン通信を用いE−NET(全国規模の環境情報パソコン通信ネットワーク)に転送し、リアルタイムに大気汚染情報を地域住民、事業者、関係する行政機関に提供するシステムを開発、運用した。これは大気汚染、気象など環境アセスのモニタリングデータを1時間単位に情報提供するシステムとしてはわが国では先駆的な事例である。なかでも大都市内部の1時間毎のCO2濃度データのリアルタイム公開は世界でもあまりないものと思われる。 関連情報→自動車排ガス大気拡散ソフト 関連情報→道路交通騒音予測ソフト 図−6 住民アセスにおける環境シミュレーションシステムの概要 図-7 恵比寿ガーデンプレース住民アセス支援システム
ERIでは、これまで川崎市、横浜市をはじめ20自治体の環境計画の立案を支援している。計画立案に先立って実施する基礎調査では、大気、騒音、水質、廃棄物、二酸化炭素、緑被率など主要な環境項目についての現況再現シミュレーションや予測シミュレーションを実施、計画立案に役立てている。 計画策定後は、計画の普及推進や進行管理を支援するための情報システムの構築・導入をサポートした例もある。静岡市では毎年、データの更新、人事異動に伴う再研修、システムのバージョンアップおよび運用上のコンサルテーションのための契約を行っており、「静岡市環境プラン」の(平成6年3月策定)運用におけるのみならず、開発案件の評価(スコーピング)等、日常の環境行政に役立てている。 図−8 環境計画と環境シミュレーションシステム 図−9 東京臨海副都心を対象とした道路ネットワークの大気シミュレーション例 (本事例は、ERIの自主研究)
これまで環境影響評価では景観の評価は写真の合成によって行われてきた。しかし、景観は多分に主観的な要素を含み、環境影響評価書においては最終的に事業者側の立場にたった主観的な記述によって評価されてきた。 ERIが開発した定量的景観評価システム(SUPER VIEW3D)では、ゴルフ場や宅地開発により景観影響を与える「量」(=面積)の定量的な評価を実現している。これは任意の景観評価ポイントをメッシュ地図上に複数設定し、そのポイントから造成面が見えるかそれとも見えないかの可視分析を行うものである。定量的景観評価システム(SUPER VIEW3D)は、通常の写真合成やモンタージュによる評価と合わせ、定量的な評価を行うことによってより客観性をもった総合的な評価を行うためのツールである。 関連情報→ 3次元景観定量解析ソフト 図−10 定量的景観評価の例
地質・土質の現状を把握・解析する方法としてボーリング柱状データを活用する方法がある。膨大な量のボーリン柱状データグもそのままでは非常に利用が難しい。また、地下水汚染等が生じた場合にその発生源や原因を推定するのはさらに難しい。 環境総合研究所が名古屋市、静岡市から依頼をうけ研究開発した地質・土質データベース(SUPER GEO)は、地域に蓄積されたボーリング柱状データを地理情報として3次元データベース化することにより、任意の断面の地質・土質を取り出したり、任意の深さの地質・土質を平面的に表示することが可能である。さらには複数の井戸の地下水位データをスプライン補間システム(SUPE SPLINE)により面的に展開し、地質、土質データと重ね合わせ表示することにより、地下水汚染の流れを推定したり・地盤沈下対策に役立てることを可能とするシステムである。 図−11 3次元地質土質解析表示システムの表示例 |
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