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■ERI版SPEEDI研究開発Super Air 3Dの基礎 私たちは、以下の論考で述べたように、この20年間、3次元流体シミュレーションモデルSuper Air 3Dを研究開発し、業務及び自主研究などで複雑な地形、構造物、建築物が存在する地域に立地する焼却炉、溶融炉、高速道路などから排出される大気汚染のシミュレーションを行ってきた。 ◆青山貞一・鷹取敦:ERI版 SPEEDI ベータ版ほぼ完成 私たちの3次元流体シミュレーションモデルSuper Air 3DはSPEEDIとほぼ同じモデルの基礎構造(3次元流体数値計算モデル、有限差分法など)をもっており、過去、このモデルは発電所、焼却場、道路などから周辺地域に拡散する大気汚染物質のシミュレーションに使用してきた。 Super Air 3Dは、モデルを開発する際、風洞実験設備で各風向について検証し、その上でコンピュータシミュレーションを行っている。 最初に、地域における放射性物質の移流、拡散シミュレーションを行う際の主な要因には以下のものがある。 すなわち、実際の放射性物質の移流、拡散シミュレーションでは、@発生源の強度データ、A気象データ、B地形データなどが不可欠となる。 出典:青山貞一 以下、それぞれについて概要を述べる。 1.発生源の強度について シミュレーションでは、当然のこととして発生源の排出強度が重要だが、原発事故の場合、単位時間当たりの放射性物質の濃度や排ガス量などを把握するのは不可能に近い。 そこで緊急時用にERI版SPEEDIを使う場合には、原発近くに設置してあるモニタリングポイント及び原発近くの自治体に設置されたモニタリングポイントなどにおける放射線量をオンラインで把握し、原発からの直線距離および風向、風速、有効煙突校などから逆シミュレーションすることで暫定的に発生源の排出強度を把握する。 この方法は環境総合研究所が神奈川県厚木基地ダイオキシン事件に関し、米国からの依頼による基地内5カ所の環境濃度から産廃焼却炉煙突から排出される汚染の濃度を逆シミュレーションで把握する際に開発している。 モニタリングポイントの放射線量の変化に連動し、3次元流体計算における発生源強度を自動的に上下することで対応が可能である。 この方法により、危険な状態にある原発敷地内に立ちいることなく、排出強度をかなり正確に把握することができる。 逆シミュレーション参考文献 ◆青山貞一、梶山正三、鷹取敦 環境大気濃度から排ガス濃度を推定する手法の研究−厚木米海軍基地に隣接する産廃焼却炉を事例として−環境行政改革フォーラム2001年度研究発表会予稿集 2001.12 ◆青山貞一(環境総合研究所所長、ゴミ弁連技術顧問)○、梶山正三(未来市民法律事務所弁護士、ゴミ弁連会長)、鷹取敦(環境総合研究所主任研究員)環境大気濃度から排ガス濃度を推定する手法の研究−厚木米海軍基地に隣接する産廃焼却炉を事例として− (PDF版) 2.予測モデルについて ガス状、粒子状を問わず大気汚染物質、有害化学物質そして放射性物質の移流、拡散シミュレーションを行うためには、以下のいずれかのモデルが必要となる。 出典:青山貞一 上記のモデルのうち、@とBはモデルの構造上、地形を考慮することができず、福島県のように地形が複雑な地域におけるシミュレーションには不適となる。 私たちが使用しているSuper Air 3Dは、Aの数値計算モデル(3次元流体モデル)である。さらに数値計算モデルの有限差分法により近似解を求める方法を採用している。Bの統計モデルでは、気象、地形の影響を正確に反映できない。 流体シミュレーションについては以下を参照のこと。 ※1 流体シミュレーション(Weblio) ※2 青山貞一:大気汚染に関する予測・評価技術(実務編)、環境アセスメント学会誌 3(2):00-00(2005 有限差分法については以下を参照のこと。 ※1 有限差分法 Wikipedia ※2 有限差分法の概要 Weblio ※3 有限差分法 伊藤幹夫 ※4 有限差分法 CFD 芝浦工業大学 @では地形が考慮できず、Cでは1/500などの縮尺で予測対象地域の立体模型をつくるなど、途方もない費用がかかる。Dは未だモデル開発が未了であるからだ。 また、30年以上前に作成された原子力研究所の内部資料から国のSPEEDIが用いているシミュレーションモデルを調べたところ、私たちと同じAの数値計算モデルであることが分かった。 3.気象データ 風向、風速、大気安定度、降雨量などの気象データは、通常、各地に設置されている気象台、測候所、アメダスなどのデータを用いる。最低1時間単位、できれば10分単位の風向、風速、降雨量が必要となる。 たとえば、福島第一原発から排出された放射性物質(ガス状、粒子状、エアロゾル状など)による放射線(Sv)や放射能(Bq)は冬期に卓越する北からの風によって風下に移流、拡散し、大気はもとより土や水を汚染している。 このように風向、風速、大気安定度などの気象条件、とくに風向によっては、首都圏にあたる茨城、千葉、埼玉、東京、神奈川などまで移流、拡散している可能性は大いにある。 図 北風系の場合の汚染物質の移流、拡散 以下は福島県内の気象台、測候所、アメダスの設置位置を示している。 下は福島県から東京に至る主なアメダスの位置を示している。 そのような場合には、大気に放射性物質(ガス状、粒子状系物質)が含まれ、また降っている雨や霧と一緒になりエアロゾル状の物質となって地上に降り注ぐことになる。 放射性物質による放射線(Sv)や放射能(Bq)の移流、拡散には風向、風速、大気安定度などの気象条件がきわめて重要な要素となる。 以下は、福島県発近傍のいわき市から東京に至る主要地点の気象状況である。 ◆福島県いわき市小名浜(福島県浜通りの月別風配図 北北西から北換えが卓越 北風系の場合の風下にあたる東京管区気象台について月別風配図 ◆風配図(東京管区気象台・月別) 以下は、福島原発から東京に至る各気象台の冬場(1月〜3月)の風向出演頻度と平均風速である。 水戸 北北西から北風が卓越 宇都宮 北北東から北風が卓越 熊谷 北西が卓越 東京 北北西が卓越 上記の各地域の気象データ(風配図)を見ると、いずれも冬期(1月〜3月)は、北風系、すなわち北西、北北西、北、北北東、北東の風が卓越していることが分かる。 冬期には福島県第一原発から茨城、千葉、埼玉、東京、神奈川に向け吹く北風系が圧倒的に卓越していることを表している。 ただし、これは冬期に卓越している風向が北風系ということであり、同じ冬期でも日によって時間によっては栃木、群馬に向かう東風系、また宮城、岩手、山形などに向かう南風系も割合は少ないもののある。 上記は月平均値なので日、時間は示されていない。仮に原発からの放射性物質の放出が甚大となった時に、北風系以外の風が吹いていれば、その風下で汚染が高くなることを意味する。 なお、汚染をC、発生強度をQ、風速をS、Aを係数とすると、発生源からの距離が同じ場合、 C=A・Q/S という関係式が成り立つ。 汚染の強弱は、発生源の排出強度に比例し、風速に反比例することになる。 ただし、S(風速)は地形、土地利用、土地表面のそ土、構造物・建築物などの影響を強く受ける。 4.地形データ 次に、地形データについて述べる。 数値計算モデル(3次元流体モデル)では、地形要因や温度要因を詳細に考慮できるが、原発事故時シミュレーションでは計算量の関係で環境中の温度要因は捨象している。 地形については、私たちは国土地理院の標高データ(元のデータは50m×50mメッシュ)を活用し、以下のような地形の立体モデルをあらかじめ構築している。 出典:青山貞一 以下は福島原発から浪江町、飯舘村、福島市までの地形断面図の例である。 出典:青山貞一 以下は福島原発から郡山市、会津若松市までの地形断面図の例である。 出典:青山貞一 以下は、Super Air 3Dを用い実際に地形を考慮して行ったシミュレーションの具体例である。 2次元、3次元の流体シミュレーションモデルと上記のデータを使うことにより、以下にあるように山や谷による拡散の影響が考慮され、より現実に近いシミュレーションが可能となる。 出典:青山貞一 以下では発生源の風下に山がある場合、その高さの違いによる拡散の仕方がどう変わるかについてシミュレーションしてみた例を示している。 出典:青山貞一 以下は、山間地のシミュレーション例である。 福島県内での拡散を分析する際、これら山間地における汚染状況はきわめて重要なデータを提供してくれる。 出典:青山貞一 以下は、環境アセスメント学会の学会誌に青山貞一が執筆した流体モデルによる大気汚染の予測、評価に関する技術(実務編)の概要である。 ◆青山貞一:大気汚染に関する予測・評価技術(実務編) 環境アセスメント学会誌 3(2):00-00(2005
5.積算線量シミュレーションについて ERI版SPEEDIでは、シミュレーションのメッシュ単位で外部被曝の積算量の推計が可能である。 さらに原発事故以降50年目までの外部被曝放射線量の推計(予測)も可能であるが、この予測はあくまでも放射性物質の移流、拡散シミュレーションにともなう線による外部被曝積算に限定される。実際には、ひとたび拡散した放射性物質が降雨などで地表面に沈降、蓄積し、そこから空間に向け放射線を放射することによる被曝、さらに飲料、食物などから摂取するいわゆる内部被曝量がある。 つづく |