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■ERI版SPEEDIのシステムSuper Air 3Dの概要 コンピューターシミュレーションを行う上で重要な要素は、流体理論、使用するデータ、モデルの再現実験、その検証などである。とはいえ、コンピュータとソフトウェアも重要なことは言を待たない。 国のSPEEDIで使っているコンピュータは数十億円するスパコンであると推測されるが、私たちは一貫して誰でも入手可能なパソコンを計算装置として使用してきた。この種のシミュレーションで最も重要なことは、「頭」を使うことであり、良いソフトがなければ、いくらハードウェアにスパコンなど高価な装置を使っても、それはタダの箱に過ぎないと言える。 とはいえ、当然、パソコンも良いもの、CPU(中央演算装置)も速度が速いこと、多くの計算負荷に耐えうるものであることにに超したことはない。 幸いなことに、過去20年、私たちが駆使してきたパソコンCPU単体速度や主記憶(メインメモリー)容量、ハードディスク容量は、いずれも飛躍的に増大し、しかもそれらの費用対効果も飛躍的に増大してきた。 以下の表1は、パソコン(CPU)別の倍精度実数浮動小数点演算速度の比較である。1990年のi486CPUに較べると2010年のIntel Core i5 第一世代CPU(具体的には、Core i5 770など)の計算速度は実に、1万6000倍に及んでいる。さらにその後インテル社から出され、現在、私たちが使っている第二世代CPU(具体的には、Core i5 2500K, Core i7 2600K, 2700Kなど)は、同一コア、スレッドのCPUで50%高速となっている。 なお、2012年4月29日にインテル社から発表された第三世代CPU(具体的には、Core i5 3570K,Core i7 3770Kなど)は、大幅な省エネ化、省電力化が達成しているが速度そのものは第二世代とそれほど変わっていない。 |
その結果、250km×250kmの広域を1km×1km(xy)のメッシュ、しかも3次元で上空5000m以上まで風のながれ、汚染の流れを複雑な地形や構造物、建築物を考慮した実用レベルの数値計算がパソコンで可能となってきた。
たとえば、Intel社のCore i5 〜 i7の第二世代CPU(Sandy Bridge)は、ひとつのCPUに従来のCPUが4個統合されており、上述の規模の3次元シミュレーションを相互の計算速度を落とすことなく、同時に4ケース計算させることが可能となっている。 しかも、型番の最後にKのつくCPUは、4個あるCPU単体のクロック周波数は、ターボ計算機能、OC(オーバークロック)機能がついており、空冷で通常の1.5倍程度まで計算速度を上げることが可能となっている。 ちなみに以下のCPU(Intel Core i5 2500K)の単体価格は、17000円前後である。 図 インテルの第二世代 Sandy Bridge CPU Intel Core i5 2500Kの外観 図 スーパーパソコンの心臓部、マザーボードにCPU:Intel Core i5 2500Kとメモリー8GBを取り付けたところ。 撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 図 CPU:Intel Core i5 2500K、メモリー8GB、HDD2TB の仕様をもったスーパーパソコン全容。ケース、電源込みで約5万円である 2012年4月29日、Intel社は Core i5 3570K, i7 3770K など第三世代のCPUを発表したが、これら第三世代のCPUは使用ピーク電力を従来の95Wから77Wにするなど省電力化となっており、計算速度、負荷対応などはほとんど第二世代のCPUと変わっていない。 ■ERI版SPEEDIのシステムSuper Air 3Dの大幅改良 ここ数ヶ月、青山、鷹取は、ERIの3次元流体シミュレーションモデルを大幅に改良・拡充してきた。現在、1.8.0.0。 従来からSuper Air 3Dで数値計算(有限差分法)を行う部分は、フォートランでプログラミングしてきたが、それをC言語の系統のオブジェクト指向言語C#に全面的に移植した。 これにより、高速パソコン上でグラフィックインターフェースを活用でき、地形データ作成の段階から全面に対話型の処理により、高度な有限差分法による3次元流体数値計算と結果表示、感度分析などが可能となった。 下は、Super Air 3D ver1.4.0.0 システムのエントランス画面である。 Super Air 3D ver1.4.0.0では、CPUがインテル社のi5,i6,i7のCPUを使ったパソコンの場合、主記憶容量が8GB以上あれば、相互の計算速度を損なうことなく同時に最大4つの風向を計算可能である。 Super Air 3D ver1.4.0.0 のシステムエントランス画面 Super Air 3Dver1.4.0.0 では、上記の対象範囲の風場、濃度を系サインする場合でも、以下に示すように、境界条件設定に際しては、x,yそれぞれの方向に140km程度のx,y,z空間をマージンとしてとっている。 Super Air 3D ver1.4.0.0 システムにおけるx,y方向の 境界条件設定の例 以下は、 による数値計算画面である。 この例示では川内原発について180km×200kmの広域を対象に4風向の数値計算を同時に行っている。4コア、4スレッドのCPUが対応4台のCPUを使い4台×4CPU=16風向を同時掲載可能となっている! リアルタイムモニターでSuper Air 3Dの計算状況、CPU使用率、主記憶域の占有率を監視している |
Super Air 3D ver1.8.0.0 数値計算中の画面
■全国各地における原発事故影響範囲を推定! 日本全国津々浦々はもとより、デジタル化された地形データが入手できれば世界各地の原発周辺地域において影響予測シミュレーションが可能な体制を構築することができた。 もちろん、ERI版SPEEDIシステムは、原発事故時など緊急時用だけでなく、将来予測にも使える。 以下の図は、福島原発事故時に北北東(NNE)の風が吹いた場合のシミュレーション図である。 今後、全国各地の原発事故想定時のシミュレーションは、以下の福島原発事故時の発生源強度と同程度のものとして行うこととする。すなわち、シミュレーション結果から影響範囲を読み取る場合は、以下の分級を参考としてもらうことになる。 出典:青山貞一、鷹取敦、環境総合研究所(東京都目黒区) 出典:青山貞一、鷹取敦、環境総合研究所(東京都目黒区) 以下は福島第一原発事故による放射性物質の広域的な汚染構造を解明するためにSuper Air 3Dを用いた論文である。 ◆青山貞一・鷹取敦・池田こみち:福島原発事故に起因する放射性物質による地域汚染の実態解明と汚染構造の把握(2),環境アセスメント学会誌、2012年 Vol.10 No.1 つづく |