敢然と東九州道の 路線変更に挑む農園主B 〜地場産業と環境を破壊する高速道〜 青山貞一 掲載日:2008年1月17日、18日拡充 独立系メディア E-wave Tokyo 転載禁 |
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次に肝心な東九州自動車道による環境悪化について触れよう。 私が呼ばれたのは、幹線道路がもたらす環境への影響をまずは概括することにあった。 2008年正月、東京からかけつけた筆者と高木健一弁護士は、みかん農園主、岡本栄一氏に次々と、国土幹線自動車道路が通過予定となる地域を案内された。 みかん農園で路線位置を説明する岡本氏。右は高木弁護士 撮影:青山貞一 Nikon Coolpix 岡本氏は過去、おそらく何10回と、それらの路線が通過する地域を歩いており、信じられないきめの細かさで、立ち木一本、一本、民家一軒、一軒に至るまで説明を受けた。 現地をこまめに歩いて分かったことは、路線選定されている地域とその周辺は、おそらく全国でも有数の閑静な農村地域であることだ。筆者と弁護士がそれぞれ持参したデジタル普通騒音計で環境騒音を測定してみた。 すると、以下の写真にあるように、大部分の地点で、騒音は35デシベル前後。東京では考えられないレベルであった。40デシベルを感覚的に表現する言葉として相当静かな図書館というのがあるが、それよりはるかに静かな地域である。 この当たりは何度計測しても30デシベル台 撮影:青山貞一 Nikon Coolpix この当たりは何度計測しても30デシベル台 撮影:青山貞一 Nikon Coolpix 以下は一時間当たりの交通量1000台、大型車の割合が15%、高速走行を設計速度の100km/hとした場合の8m高さの盛土構造の高速道路から住宅地側への騒音(等価騒音)予測の例である。 図11 道路を走行する自動車による道路交通騒音の断面予測例 出典:株式会社環境総合研究所 もし、1日1〜2万台の幹線道路、それも大型車が含まれる幹線道路が建設され供用されれば、道路から数10m離れていても、60〜70デシベルに一気に跳ね上がることを上のシミュレーションは如実に示している。 騒音レベルが30デシベル増加するということは、交通量比で1000倍である。地域に永住する人々にとっては、まさに環境破壊以外の何物でもない。 環境省は、以下に示す幹線道路近傍における道路交通騒音の環境基準にかかわる通知を事業者に出している。 表2 騒音に係わる環境基準(道路に面する地域)
上記の適用条件だが、(環境庁大気保全局長通知)によれば、「幹線交通を担う道路の近接する空間」とは次の車線数の区分に応じ道路端からの距離によりその範囲を特定するものとされている * (1) 2車線以下の車線を有する幹線交通を担う道路 15m (2) 2車線を超える車線を有する幹線交通を担う道路 20m 簡単に言えば、幹線道路近くでは、道路端から2車線以下の場合は15m、2車線超の場合は20m離れた地点で、昼間は70デシベル、夜間は65デシベルと甘受せよということになる。 道路から十数mの距離にある農家や民家では、昼間は70デシベル、夜間は65デシベルを我慢しろと、環境省が言っているのである。もちろん道路ができた後に民家を道路沿いに敢えて建築する場合ならいざしらず、もともと超閑静な農村にそこのけそこのけと道路が建設されるのに、残された農家や民家はトンデモない騒音を我慢せよと、こともあろうか環境省が言っているのである。 道路により移転させられる世帯も大問題だが、沿道近くに残された世帯は、東京の繁華街並みの道路交通騒音に一年中悩まさせられることになる。訪問した路線予定地周辺の住民は、騒音や大気が著しく悪くなることをもっとも心配していた。 当然のことだが、豊前や中津は静寂さとともに、清浄な空気、おいしい空気が自慢の地域である。そのど真ん中を貫通して幹線道路ができれば、大気が悪くなるのは間違いない。 下図のシミュレーションは2車線の盛土構造(8m高)の道路ができた場合、盛土と小高い丘の間に大気汚染が滞留し、大気質が悪化する状況を示している。
事業者側の環境アセスメント(環境影響評価)ではまったく触れられていないが、8mもの盛土構造の道路が万里の長城のように農村地域に構築されると、風の流れが変わるという問題が起きる可能性が高い。 下図はコンピュータシミュレーションで盛土構造の道路が地域の風の流れを変える可能性を示したものである。盛土の風下で風が渦を巻き、風速が低下している様子が分かる。 出典:株式会社環境総合研究所 ....... ところで東九州自動車道は、豊前から中津の間では大部分が8m高の盛土構造となる。遮音壁が付けば最低でも3m高くなるから地表から11m高となる。3階建てのビル並みの高さとなる。 のんびりとした超閑静な農村風景は一変する。下の写真は同一地点から撮影した山田地区の写真である。上は現在の景観、下は8mの盛土構造の高速道路ができた場合の景観である。今まで見えていた農村風景は全く見えなくなり、万里の長城ならぬ「国土交通道路の長城」しか見えなくなる。 見えなくなるだけではない、今まで簡単に行き来できた地域の往来が不可能になったり、著しく困難になる。これは人間だけでなく小さな野生生物も同じである。この種の地域分断は生態系に著しい影響を与えるのだが、事業者の環境アセスでは地域分断について調査すらしていない。 図14 のどかな田園風景 撮影:青山貞一 Nikon Coolpix 図15 8m高の盛土の高速道路ができれば地域の景観は一変する 地域も分断され人や動物の行き来もできなくなる 撮影:青山貞一 Nikon Coolpix 岡本氏は、提案している代替路線を<山すそ>案としているが、事業者案の路線はまさに<里地>案である。事業者案は、上述のようにどうみても意図的に優良な農地や農園、集落、民家がある地域を通過するように選定されている。 下は筆者が現地(山田地区)で撮影した農村風景だが、事業者側の路線はこの農地のど真ん中を70m以上の幅で通過することになる。 すばらしい農地を札束で買いまくる。昔ながらの手法が潜行している 撮影:青山貞一 Nikon Coolpix 下の写真でも、事業者ルートは、優良農地のど真ん中を70m以上の幅で通過することになる。私たちから見れば、本来、優良農地を避け<山すそ>を通過させれば用地買収費が少なく、買収もし易いと思われるが、ここではどうもそうでないらしい。敢えて人家も農地もない<山すそ>を避ける背景には、用地買収費を高くすることで、土地所有者に多くの買収費を提供する、という意図も見え隠れする。 巨額の公共工事が地元の土建業者を潤し、<里地>の優良農地や民家を貫通させることで多くの用地買収費を地元に落とすと言うからくりが、見え隠れするのである。 かつて静岡空港は、静岡名産の茶畑を破壊し尽くして建設された。長崎県の諫早湾では、豊饒の海を壊し、不要な農地をつくる干拓事業が行われた。農民や漁民は一時、農地を売ったり、漁業権を売ることでカネを手にしたが、その後を見れば、一時金はなくなり、農業や漁業のような持続可能な一次産業が消滅し、土木作業の仕事にしがみつくのが現実となっている。 東九州自動車道でも、地域に残された優良農地を敢えて踏み倒し、日本有数の閑静な集落を破壊し道路を建設しようとしている。まさに国土交通省は、地方に残された一次産業資源を踏みつぶし、自然を破壊し、地域に国に累積債務の根源を作り続けていると言って良いだろう。 ここで8m高の盛土の高速道路ができれば地域の景観は一変する 撮影:青山貞一 Nikon Coolpix 仮に高速道路ができても、それほど物流トラックが多数走るとは思えない。なぜなら、立派な一般国道が高速道路と平行に、しかも近くを走っており、無料で走れるからだ。他の地域でも同じだが、物流関係者にとって世界一高額の高速料金はおよびでないのである。 つづく |