敢然と東九州道の 路線変更に挑む農園主I 〜現地住民集会開催!〜 青山貞一 東京都市大学名誉教授 掲載日:2008年7月13日 独立系メディア E-wave Tokyo 転載禁 |
||||
●はじめに〜これまでの経過について〜 昨年冬(2007年12月)、ひょんなことから福岡県豊前市に12ヘクタールに及ぶ大きなミカン農園をもつ岡本栄一氏が進めている東九州自動車道(国土幹線自動車道路の整備路線)び路線変更に係わることになった。 全国有数のミカン農園主である岡本氏は、このまま高速道路を農園の真ん中に造られると、ご自身が40年間続けてきたミカン農園の経営が困難となる、いや営農を廃業せざるを得なくなるかも知れないという危機感から、一人で国土交通省(筆者は「関東軍」と呼んで)に立ち向かうことになった。 すべて怒りを忘れ軟弱となっている今の日本で、国土交通省(=「関東軍」)相手に一人で立ち向かう農園主が存在すること自体驚きである。 東京農大を卒業した岡本氏は、現在62歳、ばりばりの営農者である。同時に、高速道路問題に対案を示すため、独学で土木計画論、土木工事積算を学んだ。その上で岡本氏はひとりで国土幹線自動車道の事業認可取り消し請求、すなわち行政訴訟を提起したのである。 周知のように国相手の行政訴訟は、原告適格を得て実質審議に入ること自体、日本では難しい。日本では行政法そのものが霞ヶ関の裁量を大幅に認めている。裁判を提起する国民の原告適格性を非常に厳格に制限している。 さらに国が認可した事業者の処分性、すなわちどの時点で計画や事業の内容がどの程度確定しているかについての判断が国、事業者側に有利となっている。簡単に言えば、計画段階は青写真であって処分性はないということになり、岡本さんが提訴した国土交通省による西日本高速道路株式会社(以降、単に西日本道路と略 )への事業認可でも、高速道路が具体的にどこを通るか確定していないとされる。計画段階ならまだしも、事業認可段階で道路区域が確定していないなどと言うことはありえない。 ●事業認可後も道路区域の位置を認めない国、事業者? 現に、事業認可が国から下りた後、事業者である民営化された西日本道路は、予定されている道路区域に杭を打ち込み、用地買収にかかる世帯に対し測量依頼を行っている。用地買収に関連する住民に事業者から配付されている地図を見ると、明確に道路区域が示されているのである。 もちろん、岡本氏は用地買収はもとより、測量にも応じていないから、岡本ミカン農園内に杭が打ち込まれることはないが、岡本農園の土地を現地調査すると、ミカン農園の椎田南と豊前側(図1参照)にそれぞれ100m幅で杭が打たれている。にもかかわらず、国や西日本道路は、道路区域が決まっていないから岡本さんに行政訴訟における原告適格はないと信じられない主張をしている。 図1は東九州道建設予定区域にあたる椎田南ICから宇佐ICである。岡本農園は椎田南と豊前の間にある。 図1 東九州自動車道の椎田南IC〜宇佐IC区間 ●路線近くで住民大集会を開催 2008年6月26日(木)、東九州自動車道整備路線の国、事業者が予定している路線近くで現地住民と弁護団、国会議員、専門家による一大集会を開催した。 開催場所は、福岡県築上郡上毛町(こうげまち)土佐井(つっさい)にある住民集会場である。 上毛町(こうげまち)土佐井(つっさい)住民集会場 撮影:青山貞一 Nikon Coolopix 当日、東京から弁護団長の海渡雄一弁護士(東京共同法律事務所)、只野靖弁護士(同事務所)、民主党の川内博史衆議院議員(鹿児島)、同湯川政策秘書、青山貞一(筆者)、フリージャーナリストの横田一氏らが参加した。 今回の現地住民集会の目的は、今までの行政訴訟、民事訴訟、国会活動、周知活動などの経過を総括し、地元住民に報告するとともに、今後の活動方針を提案することにある。 ●集会の前に現地視察(豊前市〜築上郡) 6月26日午後、海渡、只野弁護士は午前中に福岡高裁で行われた道路用地に関連する民事訴訟があった。公判終了後、岡本氏が運転する自動車で福岡高裁からミカン農園および東九州道の路線予定辺そして事業者側が杭打ちを行っている地域の現地視察を行った。 川内議員と湯川政策秘書は、同日午前中から福岡県庁、西日本高速道路株式会社に東九州道に関連する各種確認、質問、情報収集を行い、その後、集会に駆けつけた。 一方、青山は13時45分、新北九州空港着便で福岡に入り、地元関係者の乗用車で現地に向かった。途中、岡本氏、弁護団と合流し、西日本高速道路株式会社による「くい打ち」の現場を視察した。この現地視察には、フリージャーナリストの横田一氏、新聞記者、週刊誌記者が取材で参加した。 原告・弁護団の現地調査で分かったことは、東九州道の起点、終点、主な経過地だけでなく、路線予定地には最大100m幅で道路区域(道路調査区域)の両側にしっかりと杭が打ち込まれていることであった。 予定道路区域の中心線には上記のような看板が頻繁に立っている 左は海渡弁護士、右は岡本栄一氏。 撮影:青山貞一 Nikon Coolopix 豊前インター建設予定地にも杭が林立している 説明する岡本栄一氏。 撮影:青山貞一 Nikon Coolopix
●地元大集会開催される! 6月26日の午後5時に福岡県築上郡上毛町(こうげまち)土佐井(つっさい)の住民集会場で住民と弁護団による住民集会がはじまった。 集会には、地域住民、行政訴訟、民事仮処分の原告始め60人の地域住民、読売新聞、朝日新聞、NHK、週刊誌、フリージャーナリストなどマスコミ関係者10名が参加し、小さな集会場は足の踏み場もないほどとなった。 以下は集会の議事次第である。午後5時から午後7時までの2時間、各種報告、提案、質疑応答など、熱のこもった集会となった。 @ご挨拶: 岡本栄一(ミカン農園主) A山すそルート案の解説 岡本栄一 B東九州道関連裁判の活動経緯 海渡雄一(弁護士,東京共同法律事務所) C国会での東九州道質疑 川内博史(衆議院議員,民主党) D今後の活動提案 海渡雄一 E質疑応答 F総合司会及び各種解説 青山貞一(武蔵工業大学教授) G閉会の辞 只野 靖(弁護士,東京共同法律事務所) 路線図をもとに説明する岡本栄一氏(左)と海渡弁護士(右) 撮影:青山貞一 Nikon Coolopix 挨拶にたった岡本氏は、この間の活動報告をされた。とくに、ご自身が提案しているいわゆる「山すそルート」が用地買収費、道路建設費、環境影響等で事業者側の予定路線に比べいずれも優れていることを路線ルート図を主に報告した。 岡本氏は実施設計レベルで道路建設に伴う各種費用を積算するためには、事業者が国から事業認可を受ける段階で出しているルート、道路構造毎の各種積算費用データが不可欠だが、国、事業者側は情報提供、情報公開に応じないことについても報告した。 次に、海渡弁護士から今まで行ってきた東九州道の国の事業認可取り消しの行政訴訟、そしてこの冬に80名以上の路線予定周辺住民による民事の建設差し止め仮処分の経緯についての報告を行った。 海渡弁護士からは、今の日本では多くの行政訴訟で原告側が門前払いされ実質審理すら行わられていない状況、せっかく行政事件訴訟法が改正されたにもかかわらず、依然として原告適格(訴えの利益)すら裁判所が認めようとしない実態について報告した。 改正行政事件訴訟法では訴訟類型として差し止め訴訟(同仮処分)を新たな訴訟類型として認めており、東京における小田急高架化事業に係わる行政訴訟では、最高裁が従来の原告適格性を大幅に緩和している実態があることについても報告された。 青山からは解説として、高速道路整備の本場である米国では、国(連邦政府)が高速道路(Freeway)の路線案をあらかじめ複数つくり、情報公開と市民参加で複数の代替案から次第に一本の案に、環境アセスメントを含む各種の評価をしながら狭めてゆくのが常識となっている。にもかかわらず日本では、依然として国、事業者は代替案は一切公表せず、一つの案をもとに、直線的、強行に建設してきたことなど、日本における高速道路事業の不合理さ、非民主性について話した。 国や事業者が十分な情報公開も住民の参加もないまま強引に道路を造ることによって、人々の間に「道路が通れば道理が引っ込む」あきらめが蔓延していること、到底、民主主義国とはいえない方法が永年続けられ、経済的合理性がない道路が延々と建設されてきた実態を諸外国と対比しつつ述べた。 集会では、この間、国会の国土交通委員会で冬柴大臣に鋭い質問を浴びせ、高速道路整備のあり方を根底から問題にしてきた川内議員が東九州道の椎田〜宇佐区間におけるたたかいは、日本の今後の道路建設のあり方を占う重要な現場であると述べた。 川内議員からは、「現在、国土交通省に東九州道r整備路線の椎田〜宇佐区間のB/C(費用便益比)について宿題を出している。国は重要な関連情報を廃棄したり、あるのに出さないなど狼狽している。ここに来て一気に「杭」をあちこちに打っているは、そのあらわれだ」などと述べられた。 川内衆議院議員の報告 撮影:青山貞一 Nikon Coolopix ちなみに、東京の弁護士事務所で毎月開催されている準備会では、ある専門家から、「日本の国土交通省の公共事業に係わるB/C(費用便益比)は、欧米で1.0(閾値)が日本の2.6から2.8に相当する」とのことであり、OECD報告などで明らかなように、世界一の土木系公共事業天国の日本では、いかに杜撰な評価により、必要性、妥当性、正当性がない道路が次々に建設されてきたかが分かる。 提案として、海渡弁護士から現在行っている事業認可取消請求(行政訴訟)に加え、今後、事業者による土地収用法の事業認定、収容採決を先取りし、事業認定の差し止め請求を行ったらどうかという提案がなされた。これについては、別途、弁護士、専門家による準備会で引き続き検討することとなった。 ●質疑応答 質疑では、住民から「すでにあちこちに杭が打たれ、測量が行われているのに、今から反対できるのかなど、多くの質問が出された。 また事業者側が住民に高額の日当を渡してまで測量依頼を行っている実態が具体的証拠とともに報告され、事業者による地域社会分断の実態が明らかになった。 さらにその昔、現在のルートより山側を通る路線ルートが地域で行政や議会の関係者から話されたことについても、多くの住民から情報が寄せられるなど、非常に有意義な集会となった。 今後の活動提案として、地元と連携し、国会の場、司法の場で国、事業者の強引な道路整備に対し、費用、環境破壊が少なく、地場産業(農地など)を破壊しない岡本案(山すそ案)を実現すべくがんばることが確認され、午後7時、住民集会は成功裏のうちに終了した。 以下は2008年6月28日の読売新聞に掲載された記事。 |