●新年のご挨拶
■既得権益の政官業学報のペンタゴンの終焉を
昨年は先進民主主義国家からほど遠かった日本で、一世紀ぶりに国民の手によって政権交代が実現し、「政」(=政治、政治家)、「官」(=官僚、行政)、「業」(=業界、産業企業)、「学」(=御用学者)、「報」(=御用報道)のペンタゴン(5角形)による既得権益、利権社会から脱却する第一歩を踏み出しました。これは日本国民にとって無血革命に類する画期的なことです。
◆政治:民主主義ランキング:米国17位、日本20位、英国23位
■右肩上がりの成長神話から持続可能な定常常態の経済社会へ
ただし、政権政党が目指すべきは、GDPや予算の規模をただ大きくすることではありません。国民がどれだけ幸せになるか、なれるかにあります。同時に、先進国はとっくに「ローマクラブ」が言うところの「成長の限界」の状態にあることを日本政府や自治体、国民は自覚しなければなりません。
■大切なのは、国民の幸せである
ミシガン大学の昨年度の国民の幸福度GDP調査では、最も幸せな国はデンマーク、日本は何と43位でした。なぜでしょうか?これこそ経済至上主義の政治家や企業家が考えなければならないことなのです。
◆幸福度GDP指標(ミシガン大学調査):最も幸せな国はデンマーク、米国16位、日本43位
上記の無血市民革命の一翼として、私も代表をつとめている政策学校一新塾が多くの国会議員、首長、自治体議員を当選させることができました。一新塾は、民主党がスローガンにするはるか以前から「生活者主権」というスローガンを掲げてきました。
一新塾生の政策コースでは、この一年間だけとっても、当選した塾生の多くはトップ当選、千葉市では31歳の熊谷さんが市長に当選し、小泉元首相のお膝元、横須賀市でも若い市長を誕生させることができました。その政策学校一新塾も昨年で創立15周年を迎え、秋に東京で15周年記念講演会を開催しました。
一新塾設立15周年記念講演会 東京都千代田区にて 2009.10
■異常な土建国家に終焉を
旧政権の象徴でもあり、1都5県で住民からの行政訴訟の対象となっていた群馬県長野原町の八ッ場ダム事業がとまりました。環境総合研究所の保養所が北軽井沢にあることもあり、私たちは8月30日以前に都合16回も現場に行き、現場から独立系メディアを通じ、この事業がいかに不要(ムダ)なものであるか、自然環境、希有な自然景観を破壊するものであるかを訴えてきました。
「コンクリートからひとへ」そして「新たな公共」というスローガンを具体化する第一歩です。何しろ日本社会は社会経済的弱者にすこぶる冷淡であると思います。
◆男女:男女格差ランキング(世界経済フォーラム調査):日本は79位
■新政権は立法を通じて司法改革を
昨年は司法の世界でも、環境総合研究所が調査研究、証拠提出、証拠保全、意見書、陳述などで支援した行政訴訟や民事訴訟で画期的な判決が出た年でした。また行政訴訟の新類型に加わった差し止め請求を背後、側面から徹底支援する年でもありました。昨年は刑事事件に関連した分析依頼も舞い込みました。環境総研の面目躍如という一年でした。
日本の刑事事件に関連する有害物質等の分析では、多くの場合、科学警察研究所などがサンプルの全量を消費したり試料の残りを廃棄するなどし、クロスチェックさせないことが冤罪のひとつの温床となっています。環境総研ではこの問題にも現場で切り込んでいます。この問題は、警察・検察における容疑者取り調べの可視化同様、刑事事件訴訟法などの法改正をすべきと考えます。司法の機能不全の原因は立法の機能不全です。おかしな法律は改正すればよいのです!
司法の機能不全の最大の原因は立法の機能不全にある!
■動脈産業からまともな静脈産業づくりを
昨年は1999年の所沢ダイオキシン事件からちょうど10年の年でした。50カ所以上の産廃焼却炉が集中する所沢の汚染を危惧する農民からの分析依頼に環境総合研究所が正面から対応、ほうれん草、ちんげんさい、小松菜、白菜などの葉菜や茶葉に東京湾の魚貝並みの汚染が発見されたことに端を発したこの事件は、国(農水省、厚生省、環境庁)、埼玉県、所沢市など、食の安全、安心に係わる日本の行政機関の無責任さと関連法制の不備を徹底的に浮き彫りしました。
青山はちょうど10年前のこの時期、衆議院環境委員会、参議院予算委員会に招致され、日本が置かれている貧弱な現状を赤裸々に述べるとともに、新法制定の必要性を説き、野党提出、それも参議院発の議員立法としてダイオキシン規制の新法を体を張って制定させました。
■科学技術予算の聖域化は許されない
年末の事業仕分けは、公開の場で国民監視のもとで国の予算づくりをするという他国にもない画期的なものでした。創立18年になる専門家による行動する学会、環境行政改革フォーラム(青山が代表)から職員を含め4名が抜擢され、国土交通、エネルギー、国際協力などの分野で市民、NPOの立場に立った事業仕分けを行いました。研究のための研究、ムダな予算の象徴ともなっている大学や独立行政法人の研究費にも第三者による厳しいメスがはじめて入った瞬間でした。
私たちの環境総研では、相当前から御用学者や権威主義学者がスパコンでしかできないとし、結果的に一部の組織の利権につながっていた3次元流体計算をパソコンで可能としました。その結果、市民やNPO、企業研究者、大学関係者にも手の届く超高度なシミュレーションを可能とてきました。これら環境総研のコンピュータ技術、ソフトウェア・アルゴリズムは、環境紛争の解決に役立っています。同じハードでも、長崎大学の准教授が開発したスパコンこそ見習うべきです。
■ハード重視からソフト重視へ
コンピュータ系は、ハードはそこそこでよく、肝心なのはソフト開発のための頭脳です。それが分からない権威主義者や利害関係者が先端、先端と何とかのひとつ覚えで騒いできたのです。今やソフト、IT知財で世界を席巻しているグーグルは1台数万円のパソコンであのような超高速の検索やインターネットGISを可能にしています。そのグーグルの若き2人の副社長は、いずれも数学者です。頭こそ重要なのです。その意味で理研や産総研など、税金で喰っている研究所の予算を聖域化するの大問題です。
◆青山貞一:グーグルと南サンフランシスコ的民主主義風土
■大メディアの堕落・凋落に変わる国民メディアの創設を
この一年は大メディアの本性が国民の前に露呈する一年でした。今や「社会の木鐸」は日本では死語となっています。世界の知性として名高いMIT(マサチューセッツ工科大学)のチョムスキー教授によれば、米国でも新聞が「社会の木鐸」でなくなって久しいそうです。インターネットの普及は、一方通行的に為政者の情報を伝える従来のメディアのあり方を根底から変え、世界中誰でもが自分の身近で起こっている事象を世界中の市民に瞬く間に知らせることを可能としました。
◆報道の自由度ランキング(国境なき記者団調査):日本は37位
米国でも新聞が堕落していると!
INDYPENDENT紙
米国では独立系メディアが育っている!
■独立系メディアの重要性は高まるばかり
独立系メディアでは、ちょうど一年前、イスラエルから攻撃を受けたとき、大メディアがどこも入らないガザ地区にいる知人、友人、市民から膨大な写真ファイルを受け、逐次、掲載し、大きな反響を得ました。大メディアの戦争報道は歪んでいる。多くの日本人はWebを通じて真実を知るようにしています。
ガザ地区から連日送られてきた写真の一部
ガザ地区から連日送られてきた写真の一部
今や大メディアは、広告主に配慮して真実を伝えない、そして行政などの情報操作による世論誘導の手先と化しています。その意味で独立系メディアの役割は今後一段と大きくなると確信しています。
他方、愚劣で品格もなにもない地上波は早晩、国民から見向きもされなくなるでしょう。事実、TBSなど民放キー局は、不動産業、都市産業などの上がりでメディア部門の赤字を覆い隠しています。尊大で傲慢、一方通行で反省がない大新聞も、どんどん販売部数を減らし、消え入る運命にあります。
そもそも、今のような報道であれば、数社の通信社がリーズナブルな料金でデーリーの事実報道記事をテキストやhtmlなどとして送ってくれれば圧倒的多くの国民はそれで十分なはずです。ちなみに、現在、共同通信や時事通信は社団法人の形式を取っており、地方のメディアが会員となっています。
記者クラブ制度に安住、慢心し、役所がリリースする金太郎アメ的内容はもとより不要なのです。脱記者クラブを実現し、足を使い調査報道を行う本来のジャーナリストの存在が大事なのであって、メディアがいつまでも紙(新聞)と電波(テレビ)というメディアである必要はまったくないのです。
大切なことは、たえず弱者へのまなざし
■米国流資本主義(金融資本主義)は百害あって一利なし
そもそも世界は多極化に向かっています。日本は旧態依然の自民党勢力の米国盲従路線とそれを支援する大メディアによって、今なお「死に体の米国」にひれ伏す外交が続こうとしています。
米国の希代で希有な映画監督、マイケルムーアが最新作で指摘するように、極度に金融資本主義化し、強者が弱者を収奪するマネーゲームの米国型資本主義は、システムとして破綻しているのです。いうまでもなく外交・軍事もただ物理的な軍事力に頼るだけで、しかもその背後には権益、利権が見える。日本はいつまでアッシー君、貢ぐ君をつづけるのでしょうか!
◆青山貞一:資本主義を痛烈批判、新作「キャピタリズム」ムーア監督来日
出典:キャピタリズム予告編
■時代錯誤の外交・防衛のパラダイムシフトを
時代錯誤のイデオロギーでアジア近隣諸国を敵視する外交軍事政策を変えれば、そこには多様な新たな世界が見えてきます。日本国民は、なぜいつまでも一部の外務・防衛省OBに日本の外交戦略・戦術に蹂躙されているのか不思議です。
その実、民主党の中にもその手先が何人もいます。その手の政治家や評論家がマスコミをたきつけ、普天間基地の辺野古移転はじめ個別具体に情報操作をしています。これでは多様化する世界に対応した自律的な外交などできようもありません。21世紀の外交の基軸をしっかり構築すべきです。
キャンプシュワブ沖にて 2009.2
撮影:池田こみち、Nikon CoolPix S10
歴代の日本政府、政権は憲法九条にそった専守防衛と言いながら、1991年の湾岸戦争後ペルシャ湾に海上自衛隊を送り、1992年にカンボジアに陸上自衛隊を派遣、2001年にテロ特措法でインド洋に自衛隊を派遣、そして2003年には、イラク特措法でイラクのサマワに自衛隊をなし崩し的に派遣してきました。このような無節操な自衛隊の海外派遣は日本が世界に誇こる憲法に反するだけでなく、近隣アジア諸国に脅威を与えるものとなります。
自衛隊海外派兵
の歴史
出典:東京新聞記事より青山貞一が作成
■戦争屋で武器商人の米国による戦争をやめなければならない
冷戦構造終結後、米国のガリバー化、9.11、イラク戦争を経由し、米国の政治経済の弱体化とともに世界は多極化に向かっています。日本は専守防衛と言いながら上記のように無節操、なし崩し的な海外派兵を止め、本来の意味での専守防衛、すなわち自衛隊は海外に出て行かず、水際の防衛に徹しなければなりません。
◆青山貞一:米軍アフガン増派〜早くも泥沼化の予見
そもそも日本が防衛利権と歪んだ敵視によって緊張を煽ってきた旧来の外務・防衛OBらの時代錯誤の軍国路線は、根本的に変えなければなりません。世界に戦争の種を捲き、世界の軍事産業の1/3から1/2を牛耳っている米国のマッチポンプへの追随はやめなければなりません。
ポーランド・アウシュビッツ強制収容所入り口にて 2009.3
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S10
日本が永年敵視してきたロシア(旧ソ連)、中国なども、友好重視の外交に向かっています。いつまでも仮想敵国をつくり、防衛費を増やす旧来の外務・防衛OBらの時代錯誤路線の擦り込みから目を覚ますべきです。
以下の軍事費は、2001年のものです。事実として日本の防衛関連予算は現在、推定で米国、中国、ロシアに次いで世界4位にいます。中国は現在、849億ドル(世界全体の5・8%)となっているようです。
しかし、国土の広さ、経済と人口の規模を考えれば、以下のグラフで第四位にいる中国が第二位になったとしても、産経新聞や外務・防衛OBが騒ぐ脅威となるとは思えません。一体、何のために外交があり、外務省があるのでしょうか?
■「抑止力」の名の下のマッチポンプ的防衛利権から脱しよう
それに対し、日本は日米安保のもとでイージス艦や最新鋭ジェット戦闘機など膨大な防衛装備を買わされている。しかも満足にそれら「超高額なおもちゃ」が生かされているとは思えない。しかも、今の自衛隊にはまともな指揮も士気がない。イージス艦の機密情報がウィニーで国民に共有されるに至っては、なんともお嗤いだ。産経新聞や外務・防衛OBの時代錯誤の「マッチポンプ的防衛論」や「抑止論」の呪文から日本政府と日本人は抜け出しましょう。
その意味で言えば、民主党は土木利権には敏感に対応したものの、もうひとつの防衛利権の呪文からは未だ抜け出せていないようだ。米国が戦後仕掛けたベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争はどれも巨額な戦費をつぎ込み、多くの人的犠牲を強いられながら、いずれも泥沼化し、最後は撤退の憂き目となっている。
歴史、文化、精神文化が刻印された価値観の違いを単純な物理力で中東を蹂躙することはできない。英国しかり、旧ソ連しかり、米国しかりである。まさにデジャブだ!
◆青山貞一:カイバル峠の世界史的意味〜米アフガン増兵に関連して
◆高橋乗宣の日本経済一歩先の真相: 少し中国に近づき、少し米国から遠ざかるのは正解だ
日本がG8の中で世界に誇れるのは以下なのです!!
◆平和な国ランキング:日本は5位 英誌調査、G8唯一の10傑
このように、私たちは日本は世界の多極化をにらみ、外交でプレゼンスを発揮し、本来の意味での専守防衛に徹した安全な国づくりをめざさなければなりません。
■そろそろ脱亜入欧の軌道修正をしよう
ところで今年は、昨年切り開いた政治、行政、司法の新たな道を守り育て、明治以来の脱亜入欧路線から日本の軸足をアジアにシフトさせ、持続可能で平和・友好・環境をベースにした本当の幸せが感じられる日本にする最初の一年にしましょう。
旧政権勢力それに大メディアによる新政権への執拗な攻撃が連日連夜続いています。一方で新政権の行く末を監視するとともに、やっと民主義国家の端緒についた日本を弱肉強食、土木利権の官僚社会主義国会に戻そうとする勢力への監視を強めねばなりません。
その意味で、21世紀、日本は従来の「大日本主義」から小さくともキラリと光る歴史と文化を大切にした知性、品位、品格のある「小日本主義」の道を歩むべきです。歩まねばなりません。
国民も私人主義を捨て、自律的な個人主義をベースに、同時にコミュニティ、地域を軸にした生活者主権を打ち立てなければなりません。それは今までの為政者やメディアに操作されやすい「観客民主義」から、主体性を持った市民(主体的市民)に私たちが変わることを意味します。
日本の行く末を本気で考えている皆様方、同志の皆様
「観客民主主義」、「お任せ民主主義」から脱し、日本社会を普通の民主主義国にすべくミッション(社会的使命)、パッション(情熱)、アクション(実行力)でがんばりましょう!
追記
■秩父事件に学ぶ
2009年暮、以前から気になっていた秩父事件に関し、池田さんと一日かけ現場を歩きました。実は秩父事件が起きた明治17年前後の時代状況と平成の今の状況が非常によく似ているのです。何がどう似ているのかについては、連載を読んでいただければ幸いです。
最大の違いは、国民の「気概というか士気」のあり方です。
今の日本は「観客民主主義」に陥っています。何でもかんでも国のせい、自治体のせい、社会のせいと、自分たちは何もせず、すべて世の中全体のせいにしています。そして、自分たちはといえば、炬燵に入って「のうのう」としています。
いまや日本国民は社会経済問題、政治問題で世界一闘わない人間となっています。これでは社会が変革できるわけはありません!
秩父事件では農民ひとりひとりが、どうしたら社会を経済をそして、政治を変えられるか、かえるべきかを勉強、模索し、具体的、主体的行動に打って出ています。保守的風土が高い埼玉県の西端から自由民権運動の波をつくっていったのです。それら農民ら普通のひとびとの行動には。本当に頭が下がる思いがあります。
暮れにツタヤで秩父事件を描いた映画「草の乱」を借りて見ました。現場を先に歩いてきた私たちにとって、映画が描いた秩父事件は現代に生きる私たちにとって真に迫るものがありました。
秩父事件の農民蜂起のひとつの拠点となった石間半納にて 2009.12
撮影:池田こみち Nikon Digital Camera Cool Pix S8
今の時代状況に酷似した明治17年の農民蜂起(秩父事件)
出典:映画「草の乱」より 荒川を渡るの絵図
青山貞一 2010年1月元旦 東京都品川区の自宅にて
ミッション: 環境境分野で社会正義を実現すること。国際的視野をもちながら、同時に第三者的立場の研究者として環境問題の現場に積極的に関わること。
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