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下北・津軽半島の風力発電ファーム

総括コメント


青山貞一

環境総合研究所(東京都目黒区)

掲載日:2014年5月31日
独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁


速報1(17日)   速報2(18日)   速報3(19日)

@野辺地町・横浜町   C外ヶ浜町(旧三厩村)
A岩屋・風間浦村・佐井村   D五所川原市
B東通村・六カ所村   総括コメント



 今回の現地調査で分かったことは,下北半島や津軽半島の沿岸域は、いずれも風速が早く、風力が強く風力発電の適地であったということである。たとえば下北半島の大間崎や津軽半島の龍飛岬は、人間が立っているのが大変なほどの風が吹いていた。逆に言えば、現地調査中、検査、修理中のものを除けばどの地域の風力発電機も元気よく回っていた。

 欧米のように特定の地域、たとえばある丘の上とか広大な牧草地に多くの風力発電機を立地するというより、バードストライク問題がなければ、下北半島や津軽半島の沿岸域はどこでも風力発電適地であると思われる。景観破壊ということはほとんどなく、横浜町のように菜の花畑とうまくマッチしている。


菜の花畑の向こうに大型風力発電装置(横浜町)
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014-5-17

 風力発電機からの電力を電力会社の送電網につなぐ系統電力系も、岩屋ウィンドファームではかなり本格的な変電、送電システムを組んでいたが、青森県の場合、北海道のような送電容量が少ないとか、近くに送電網がないということにより立地が困難あるいは膨大な費用がかかるという心配は少ないと思う。


出典:ユーラスエナジー公式Web

 現在までに下北半島や津軽半島など青森県内の風力発電は大小200機ほどがあるようだが、一機当たり1250kwとして25万kwに及ぶ。これは原発1基の1/3の出力である。したがって、さらに下北半島や津軽半島の沿岸域で風力発電機の立地を増やすことで、原発1基分の出力も期待できる。

 少々古いデータだが、下図は日本における風力発電の導入量の推移である。2010年時点で日本には2400基を超す風力発電があり、250万kwの発電量があるとされている。原発3基分と言ってよいだろう。
 
 NEDOのデータをもとにすれば、おおざっぱに言えば日本全体の1/10の風力発電導入実績が青森県一県にあると言える。

 これはなかなかすごい数字である。というのも、以下のグラフは2010年までの導入実績であるが,その後も着々と青森県では風力発電導入の動きがあるからだ。


出典:NEDO

 さらに青森県だけでなく、日本各地で風力発電を増やして行けば、原発10基分もけっして夢では無いはずだ。

 ところで、青森県の風力発電事業の多くは東京電力や金融、商社などの資本により設立された会社によるFIT(固定価格買取制度)を活用した売電事業である。大型の風力発電装置は高価であり自治体や農協などが事業者となることは依然として容易ではない。


六ヶ所村のウィンドファーム   六ヶ所村日本原燃PRセンターにて
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014-5-18

 しかし、今後、再生可能エネルギーを推進して行くためには、売電事業者のみでなく、地域に根ざす事業者やNPO、農協、生協などが出資者を集め風力発電事業を行うスタイルも重要なものとなるであろう。


五所川原市市営のウィンドファーム
出典:http://www.yonezawa.co.jp/

 ここのウィンドファームは五所川原市営であり、システムの詳細が公開されている。



 この場合重要なことは、自然エネルギー財団の国際シンポジウムで何度となくデンマークの世界一の風力発電システムメーカーやスウェーデンの環境省の元幹部から聞かされたように、いくら日本にリーズナブルな価格でシステムを輸出しても、日本的な商慣行により、同じシステムを他国で建設、供用する場合に比べて2〜3倍もの費用が日本の場合かかるということである。これは巨大工業製品のすべてにいえることである。法制度とは別に、日本で風力発電機が欧米、中国ほど進まない大きな理由はここにある。

特集:日本の環境エネルギー関連コストは欧米に比べなぜ高いのか?
◆青山貞一・池田こみち:自然エネ財団 REvision2013シンポ参加記(1,2) 
◆青山貞一・池田こみち:自然エネ財団 REvision2013シンポ参加記(3)
◆青山貞一・池田こみち:自然エネ財団 REvision2013シンポ参加記(4)


◆青山貞一・池田こみち:カリフォルニア州オルタモント(5000基の風力発電)
◆青山貞一・池田こみち:スコットランドの更新可能エネルギー開発

 また日本の環境影響評価は、従来ほとんどすべて「軽微な影響しかない」としてあらゆる事業分野で開発のためのパスポートなどと揶揄されてきた。しかし、風力発電はバードストライク問題や自然景観問題を理由に非常に長いリードタイムとなっていると、先の国際シンポジウムで批判されてきた。予備調査をしっかりと行っていればもっとリードタイムを短くすることが可能であろう。

 ノスリなどの猛禽類によるバードストライク問題だが、私が長野県環境保全研究所の所長をしていた2003−2006年、旧自然保護研究所の研究員が長野県全域を対象に,生息、テリトリー調査を行い、ゾーンとしてこの地域はバードストライクが起きる可能性が高い、中位、低いなどのランキング地図をあらかじめ作成していた。

猛禽類に対する地域アボイドマップの作成について 長野県環境保全研究所

 長野県南信地域の伊奈地域に、ある総合商社系企業が13基の風力発電の立地を打診してきたとき、事前協議段階で当該地域は風力発電に不適として事業者と調整している。この時期が後ろになればなるほど、事業者側の経済負担も大きくなるので、やはり事前調査をしっかり全域に対して行っておくことが大切であろう。

 また風力発電機の電力をすべて既存の電力会社のグリッド(変電・送電網)につなぐのではなく、地域社会で優先的に使用してゆくことがあっても良く、行く行くは他の再生可能エネルギー源と組み合わせ、地域社会のエネルギー自立を計ることも夢ではない。再生可能エネルギーは地域性が強いエネルギーであるが故に、青森県のような風力発電適地は、今後、それらを最大限生かす地域エネルギー需給計画を立ててゆくのもよいだろう。

 青森県は、自分たちがあまり使用しない電気、電力のために巨大なリスクといつも同居する原発主体の電気・電力供給から地域エネルギー自立を本気で考えるべきである。電源三法などの交付金や補助金に依存した現在のあり方は、持続可能性がないばかりか、日常的に地域住民の不安を大きくするばかりであるからである。

青森県ウィンドファーム現地調査の項はこれで終了  青山貞一