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●特集:奥秩父、滝川上流の遭難事故を検証する 青山貞一:日テレ取材班の奥秩父遭難を検証する @経緯と事故の場所 青山貞一:日テレ取材班の奥秩父遭難を検証する A貴重な現場動画 青山貞一:日テレ取材班の奥秩父遭難を検証する B詳細分析 青山貞一:日テレ取材班の奥秩父遭難を検証する C遭難の原因リスト 青山貞一:日テレ取材班の奥秩父遭難を検証する D尾瀬での経験 青山貞一:日テレ取材班の奥秩父遭難を検証する E3次元シミュレーション ●特集:奥秩父遭難現場視察報告 2010.9.19 青山貞一:秩父再訪を敢行して 日テレ取材班遭難現場調査 青山貞一:奥秩父遭難現場視察報告 @現場周辺の状況 青山貞一:奥秩父遭難現場視察報告 A遭難事故の再検証 青山貞一:奥秩父遭難現場視察報告 B使えない携帯電話(通話・メール・GPS) 青山貞一:奥秩父遭難現場視察報告 C3次元想定ルート図 青山貞一:奥秩父遭難現場視察報告 DGPSデータによる検証 本論考は、当初2010年8月に執筆公表したものに、その後行った筆者ら(青山貞一、池田こみち、鷹取敦)による追跡調査などの内容を追記したものである。原則として追記した部分は青色で囲ってある。 日本テレビ取材班による奥秩父での遭難事故がさまざまな憶測を呼んでいる。ひとつはこの取材が、ここ数年、番組づくりがいろいろな疑義、批判を呼び起こしている「バンキシャ」であることだ。 ここでは多くを語らないが、亡くなった二人の現地取材者がガイドの指示に従っていったん引き返したものの、再度、いわば無謀な取材を敢行したのが、当人たちの自主的な意思ではなく、番組制作上層部の意向にあったのではないか、といった憶測もある。 一方、私の東京都市大学青山研究室の教え子にもテレビ局や制作会社に勤務しているものが数名おり、彼らにも今回のような無謀と言える取材を強要され、事故に遭遇することがないとはいえない。 その意味でも、当初の遭難者、埼玉県関係者、日テレ社員、都合8名もの方々が亡くなった今回の遭難事故から、私たちは多くの教訓を得なければならないだろう。 ところで、ここでは山岳取材のベテランを含む現地取材者が、なぜ埼玉県の奥秩父で遭難し、しかも最悪、すなわち亡くなったかについて、その直接的かつ物理的な原因という観点から見てみたいと思う。 ■経過 経過はこうである。 当初、遭難発生の現場となったブドウ沢(標高1100m)の北部近くで沢登を行っていた東京都勤労者山岳連盟「沢ネットワーク」の8人のパーティーのうちの1人の女性(55歳)が滝つぼに転落した。そして他のメンバーが尾根筋から携帯で救助を求めた。
その後、遭難した女性の救援に向かった埼玉県の防災ヘリ「あらかわ1」が狭小な渓谷での救援に失敗し、渓谷の底に墜落し、結果として何と救助隊員の5人が亡くなった。 ブドウ沢の北で発見された埼玉県の防災ヘリ「あらかわ1」 出典:NHKニュース 当初、滑落した「沢ネットワーク」の女性メンバーは、川崎市多摩区の小野千枝子(おの・ちえこ)さん(55)である。そのうち小野さんはヘリ墜落後、別の救助隊により病院搬送されたが死亡した。 一方、「沢ネットワーク」パーティーの残りの男女7人は山小屋で1泊し、翌日の7月26日に無事下山を果たした。
問題の日テレ取材班の事故はこの後に起こった。 脱落ヘリの現場取材を敢行した日テレ社員の記者北優路さん(30)とカメラマン川上順さん(43)は、8月1日、ヘリ墜落現場の滝川下流の2〜3キロ付近で遺体となって発見された。死亡原因は水死とされている。 滝川支流の沢で発見された日テレの2社員の遺体 出典:テレビ朝日 ヘリ墜落現場は奥秩父の尾根が互い違いに絡み合いジグザグに曲がりくねった渓谷にであった。現場は国道140号の「出会いの丘」(以下の写真参照)から南へ約3キロ入った奥深い山中でブドウ沢と水晶谷の合流地点である。
埼玉県警秩父署によれば、現場は埼玉・山梨県境の奥秩父山系にある標高約1100メートルの沢沿い、最も近い登山口からでも山岳隊員が4時間かかる難所であるという。
以下は埼玉県警が発表した経緯である。 ■遭難までの経緯(埼玉県警による) 7月25日 埼玉県防災ヘリが墜落し5人死亡 7月30日 北優路記者、川上順カメラマン、山岳ガイドが現場近くに宿泊 7月31日 午前6時半 登山開始 10時ごろ 北記者と川上カメラマンがガイドと別れ再入山 午後11時ごろ 日テレから救助要請 8月1日 午前4時 県警山岳救助隊が秩父署を出発 9時10分 心肺停止状態の2人を発見 午後3時すぎ 病院で2人の死亡を確認 8時35分 山岳ガイドが会見 11時50分 県警が2人は北記者、川上カメラマンと判明と発表 8月2日 午前7時5分 捜査員らが現場確認のため秩父署を出発 9時20分 天候不順で断念し署に戻る ■遭難事故の場所 次は事故が起きた場所である。 報道関係の記事ではなかなか分かりやすい地図がないが、以下の朝日新聞の記事中にあった概略地図が唯一分かりやすいものである。 朝日新聞の地図には、(1)ヘリの救助を要請した女性が遭難した現場(第一遭難場所)、(2)それを救助に出たヘリが脱落した現場(第二遭難場所)、(3)そしてそれを地上から取材しようとして遭難し2人が死亡した現場(第三遭難場所)がそれぞれ×で示されている。 下の地図にはランドマークとして、<雁坂トンネル>、<国道140号線>、<豆焼橋>、<林道終点>、<滝川>、<黒岩尾根登山道>がある。 出典:朝日新聞 朝日新聞次の地図(下図)は、山岳ガイドが死亡した日テレの2人をガイドしようとしたと推測される<ルート2>と取材対象となったヘリ墜落現場へ黒岩尾根登山道から下りる<ルート1>が示されている。 出典:朝日新聞 下は国道140号の雁坂トンネルを抜けた直後にある豆焼橋。この橋梁の標高は1100〜1200mの範囲にある。 国道140号の雁坂トンネルを抜けた直後にある豆焼橋
下が豆焼橋。雁坂トンネルの出口左側に林道が見える。多くの沢登り者は橋手前の「出会いの丘」にクルマを置き、この橋を渡ってから林道に入り、林道終点まで行く。 豆焼橋。トンネルの出口の左側に林道が見える 豆焼橋から林道への入り口 下はグーグルマップの地形図に今回遭難し死亡した2人が林道終点から滝川の沢までたどった推定ルートを示したものである。ルートはAとB二つである。 ひとつ目のAルートは、2人は林道終点から黒岩尾根登山道沿いに南下した後、標高1200mの尾根から標高900〜1000mの滝川本流の沢まで約200〜300mを下ったことになる。 このルートの到達点は、当初、ガイドが想定していたルートより500〜700m以上北側になる。 出典:グーグルマップより作成 ふたつ目のBルートは、ガイドが提案したルートに近いもので、2人は林道終点から黒岩尾根登山道沿いにAよりさらに南下した後、標高1200mの尾根から標高900〜1000mの滝川本流の沢(釣橋小屋跡近く)で、ヘリの墜落現場にほど近い沢まで約200〜300m下ったことになる。 出典:グーグルマップより作成 AルートとBルートの大きな違いだが、Bルートの場合、2人はおそらくヘリ墜落現場までたどり着いていることである。 2人の記者は現地に到着し、ビデオカメラに脱落したヘリの残骸を収録した後、滝川本流で事故にあったことになる。 上の図中、青の→のように下流に流され、釣橋小屋跡よりさらに北側の沢まで漂着したことが想定される。 いずれにせよ、もしビデオカメラが回収でき、磁気テープがあればA、Bを問わずルートはかなりの確度で確認が可能となるだろう。 上記を3次元の衛星画像(グーグルアース)でみるとどうなるか。 下の3次元立体地図はAルートを想定し、3次元化したものである。GISで白い色のルートを図ると700−800mとなる。始点は林道終点であり、終点は遭難現場である。なお、以下の地図中、ブルーの色の滝川の本流である。 出典:グーグルアースより青山が作成。 白線はGISのパスで計測した想定ルートである。 つづく |