日本のメディアの 本質を現場から考えるA 〜地方紙の発行部数と世論誘導〜 青山貞一 掲載月日:2007年1月28日 無断転載禁 |
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先に日本の大メディア、なかんずく巨大メディアとしての主要新聞の発行部数をみた。次にいわゆる地方紙の発行部数を見てみよう。 表2 主要地方新聞と世界主要紙の発行部数比較
1)『週刊金曜日』−1997年10月17日号・黒薮哲哉 外国紙は1996年・日本紙は1997年の調査 2)都道府県別新聞発行部数 2003年1−6月「社団法人ABC協会」「社団法人日本新聞協会」調べ 表2では、あえて米英独仏などの主要新聞の発行部数も示している。 表2より明らかなように、たとえば中日新聞、北海道新聞の発行部数は、ニューヨークタイムズ、ワシントンポスト始め、欧米主要紙よりもはるかに多いことが分かる。 このように、日本における新聞の発行部数は、他の先進諸外国と全く異なった様相を示している。それは全国紙だけでなく、地方紙にあっても発行部数が地域独占ないし寡占状態になっていることを例示している。
テレビはもとよりインターネットが普及している今日でも、これら世論形成に圧倒的な影響力をもつと想定される新聞のシェアは、大きく、国全体では全国紙、地方では少数の地方紙がそれぞれ圧倒的な発行部数とシェアをもっていることがよく分かる。 表3は、日本におけるここ10数年間の新聞発行部数と世帯数の推移をみたものである。このデータは、表1と同じく日本新聞協会の経営業務部調べによるもので、1993年から2005年までの全国規模での新聞の発行部数である。 それによると、日本の人口が2005年3月末の時点で1億2686万93977人であるのに対し、2005年の発行部数は5千2570万部である。単純平均化した1世帯あたりの部数は1.04部である。 経年変化を見ると、1993年次店で世帯あたり部数が1.22部であったのが、2000年で1.13部,2005年で1.04部と、12年間で0.18単調減少してきたことがわかる。 とはいえ、日本社会では新聞、それも全国及び地方で寡占化されている新聞が世帯あたり1部以上の部数を有している現実がある。 表3 新聞の発行部数と世帯数の推移 (単位=部)
世帯数は総務省自治行政局編「住民基本台帳人口要覧」による(3月31日現在) 発行部数は朝夕刊セットを1部として計算 最新データ(2005)の出典 次に、地方紙の地域別シェア状況の概略を見てみる。 2004年10月時点での都道府県別の発行部数を表4に示す。出典は日本新聞協会である。表中、全国規模での2004年度の総発行部数は表2とほぼ同じであることが分かる。 表4 日本の新聞の県別発行部数
表3からは次のことが分かる。 たとえば人口が220万人規模の長野県では、信濃毎日新聞の公称発行部数は表2で約47万7千部である。 信濃毎日新聞社自身による県内における各紙の発行部数は図2の通りである。圧倒的に信濃毎日新聞のシェアが大きいことが分かる。これは中部圏での中日新聞、北海道での北海道新聞、九州地方での西日本新聞、中国地方での中国新聞などに共通したことである。 図2 長野県内での各社の新聞発行部数 出典:信濃毎日新聞社 最新のデータでも県内発行部数 4800,045部、世帯普及率61.35%(2005年4月、日本ABC協会公表部数)となっている。ちなみに、表3の発行部数と上記の信濃毎日新聞公表部数のパーセンテージを計算すると、53%となり、上記の61.3%にならないが、これは表3の発行部数にはスポーツ紙が入っているが、信濃毎日新聞社の図2のデータにはスポーツ紙が含まれていないためと思われる。 仮に61.3%であれ、53%であれ、一地域の特定新聞のシェアが50%を超えている現実には変わりはない。 中日新聞の地域独占率を概算すると約52%、北海道新聞は約55%、新潟日報は58%、など明らかにこれは地域が独占、寡占状態にあると言ってもよい。 田中康夫前長野県知事時代、地元の大地方メディアと田中県政との関係は、さまざまな原因、理由から相互に犬猿、最悪であった。となると61.3%の世帯シェアをもつ新聞社が田中県政をたえず、過小評価し、県民に知らせるべき事を敢えて無視したり、知らせないと言う状況が起こることは十分あり得ることとなる。 事実、筆者が長野県の特別職やアドバイザーとして改革支援に赴いた過去3年を見ると、新聞倫理からしてあるべき新聞、ジャーナリズムの在り方からして大きく逸脱した実態があったと思える。もちろん、完全に客観的、第三者的な評価、検証は難しいとしても、私自身が眼前で経験した事実を知らせることは十分可能である。 これについて、今後、具体的な事例を通じて検証したい。 また、地方紙の社主は地方の産業・経済界の名士、有力者であることが多い。 ちなみに、信濃毎日新聞の社主が誰かと言えば、小坂健介氏である。この小坂健介氏は小坂一族であり、信濃毎日新聞社代表取締役社長にとどまらず、日本新聞協会の副会長もしている。 また地元の有力テレビメディア、信越放送(SBC)の大株主は県内随一の地元大メディア、信濃毎日新聞社である。さらに言えば、小坂健介氏の親類には現役の自民党衆院議員で前文部科学大臣の小坂憲次氏がいる。 筆者が書いた青山貞一:大マスコミが書かない二、三世議員総理たらい回しをご覧いただければ分かるように、小坂一族は、 小坂善之助 → 小坂順造 → 小坂善太郎・小坂徳三郎 → 小坂憲次 と、まさにメディアだけでなく、衆議院議員を実質的に世襲している。これは数ある国会議員の中でもっともたらい回し回数が多いものとなっている。 その意味で、長野県は、政治家、産業、メディアが小坂一族によって間接支配されていると言っても過言ではないだろう。もちろん、これは長野県に限らず他の地域にも類似の状況がある。しかし、長野はこの点で日本の縮図であると言えよう。 このように、我が国では新聞の発行部数によって世論操作が容易となる情報メディアのインフラストラクチャーが隅々まで行き渡っている現実があると言える。 つづく |