日本のメディアの 本質を現場から考えるI 〜政権政党ともちつ、もたれつ〜 青山貞一 掲載月日:2007年7月24日 無断転載禁 |
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日刊ゲンダイの連載のひとつ、「テレビにダマされるな」(鈴木哲夫著)の2007年7月24日号に、興味深い記事があった。 2007年冬から夏にかけての通常国会で政権与党である自民党と公明党は、国民にとってきわめて重要なさまざまな法案を次々に強行採決した。その数は17法案とされている。まさに北朝鮮を嗤えない独裁政治といっていよい。もっとも酷い場合は、実質審議、1日わずか数時間で強行採決している。 そのひとつが教育改革関連3法案の強行採決だ。 2007年6月19日の参院文教委員会で通称、教育改革関連3法案の質疑がなされた。この質疑には安倍総理も出席した。 この質疑はNHKが生中継していた。 ところが、午後5時過ぎ、安倍総理の質疑が終わり、退席するとNHKの生中継が終了した。そして生中継が終了した直後、委員長が教育改革関連3法案の強行採決に踏み切ったのである。 自民党関係者はこれについて次のように話したという。すなわち「NHK中継がおわったら、即、強行採決するという戦術が事前に国対(党国会対策委員)から伝わっていました。安倍さんのいいところだけ見せて、強行採決はカットということですよ」。 鈴木氏は続ける。「参院選を目前に控えて、自民党は支持率が下がる一方の安倍をいかにイメージアップするか、メディア戦略に苦心しているのだった」と。 メディア戦略と言えば、2005年の郵政民営化選挙における小泉総理が有名である。小泉総理は徹底的にテレビメディアを劇場型政治として使い、衆院選挙を圧勝に導いたのは記憶に新しい。 これについて鈴木氏はコラムのなかで、「あのときは、投票した人の半数がテレビを参考にしたと世論調査で答えている。今度もテレビは使える」(安倍側近)と記している。 事実、安倍総理サイドは、今回の参院選挙公示直前に、テレビメディア戦術を具体化している。すなわち、安倍サイドは、テレビ各局の関係者を集め「安倍総理は積極的にテレビに出る。 ワイドショーでも構わない」と売り込んでいる。この件については、日刊ゲンダイはじめいくつかのスポーツ紙が報じていた。 当然、テレビ局側は公示直前に、安倍総理だけを出演させるわけにはいかない、というスタンスをとったものの、日本テレビのNews Zeroが単独出演に対応した。 その他の局の多くは、党首討論的、すなわち安倍総理だけでなく、7党首を全部出演させるか、安倍総理を最初に出演させ、その後次々に党首を出演させる方法をとるなどしていた。 実際、テレビ朝日は報道ステーションで初日、安倍総理、次は小沢代表というように日単位で政党の代表を登場させ、古館キャスターと質疑させる方法をとっていた。 おそらく読者も、それらをご覧になったはずである。 あるブログによると、「5日夜。安倍総理は日テレ『NEWS ZERO』にも出演したらしいが、視聴率も支持率を反映したかのように最低だったらしい。関係者の話しによれば、出演者との質疑応答はあらかじめ自民党が用意したシナリオに沿って進められ、『これ以上の質問はするな!』という取り決めがあったらしい。『どうしてもっと突っ込んだ質問をしないのか!』という、番組への抗議の電話も少なくなかったという」 ところで、鈴木氏の上記のコラムによれば、あるテレビ局は「安倍さんではなく小泉さんだったら出演に応じたかも、視聴率がとれるからね」と述べたという。 すなわち、逆説すればテレビ各局は、「表向きは公平性を言いながら、視聴率がとれないから出さないというホンネに、数字がすべてというテレビの体質がよくみえる」と述べている。 事実、上記の日本テレビのニューズ・ゼロでは、安倍総理単独出演にもかかわらず、平均世帯視聴率は5.9%で通常平均より低かったという(ビデオリサーチ調査、関東地区)。 ....... そもそも、冒頭の強行採決直前に中継を終わらせたNHKは、仮に自民党なり安倍総理サイドからの要請があったり、編成上の制約があったとしても、少なくとも強行採決が十分想定、予想された委員会の生中継を続けるべきであったはずだ。 それが生中継が可能なNHKの社会的役割であったともいえる。なぜなら、17本という数字に象徴されるように、衆院での圧倒的多数の議員を要する与党が数にものをいわせ、重要法案を次々に強行採決することは、十分に予想されたことであったし、それがいわば安倍政権の政治運営戦術であったからだ。NHKはそれを国民に伝える義務があったはずである。 まさに「テレビが政権のお先棒を担っていると非難されるゆえんである」と批判されても仕方があるまい。 結局、今回の参院選で、テレビ各局が前回の郵政民営化衆院選挙のように、より積極的に先棒をかつがなかったとすれば、それは単に安倍総理では視聴率がとれないから、ということでは、どうしようもない。 日本の大メディアは、結局、政権政党ともちつ、もたれつの関係にあるのである。 つづく |