日本のメディアの 本質を現場から考えるJ 〜巨大公共事業推進の先兵〜 青山貞一 掲載月日:2007年8月16日 無断転載禁 |
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関連ブログ:環境と財政を破壊する21世紀の愚行か!? 八ッ場ダム 我が国では巨大公共事業の時代は終わったかに見える。しかし、首都圏ですら従来型の土木系公共事業としての巨大なダム、道路事業が日進月歩の勢いで進められている。 首都圏で現在進められているダムで最も巨大なのは、八ツ場ダム(やんばダムと読む)である。 「21世紀の愚行か!?八ッ場ダム」にも書いたが、この八ツ場ダム計画は、利根川改定改修計画の一環として昭和27年に調査に着手されている。 一時中断を経て昭和42年に実施計画調査を開始した。昭和45年に建設に移行し、平成13年6月に補償基準の調印が行われている。まさに、巨大公共事業にありがちな半世紀に及ぶ建設の歴史がある。 ダムの諸元だが、規模は@流域面積/湛水面積が707.9Ku/304ha、A総貯水容量/有効貯水容量が107500千m3/90000千m3、B堤高/堤頂長/堤体積が131m/336m/1600千m3といずれも巨大である。 八ツ場ダムの巨大さは以下の写真で明らかである。歴史的資産である川原湯温泉はじめ現在のJR吾妻鉄道の軌道、国道145号線などの道路も水没する 出典:八ツ場ダム、国土交通省 ◆群馬県内における八ツ場ダムの位置 出典:八ツ場ダム、国土交通省 ところで、以下の八ツ場ダム関連の広報紙を見て欲しい。 広報紙を見ると一面の右に、発行は国土交通省八ツ場ダム工事事務所、編集は何と地元の地方新聞、上毛新聞となっている。 しかも、2007年1月15日号(第16号)は、代替地分譲へと題しているが、その実は澁谷慎一(国土交通省の八ツ場ダム工事事務所長)、片田敏学(群馬大学工学部教授)、高橋康二(上毛新聞社長)の三人の座談会が掲載されている。 みだし見ると、「2007年を記念すべき年に」、「ダムの必要性が拡大」、「忘れかけた台風被害」、「積極的な広報活動も」など地域住民にひたすらダム建設の必要性を鼓舞するものばかりであることが分かった。 2,3頁には巨大な見出しとして、「ダムに対する正しい理解を」とある。 出典:国土交通省 広報 やんば 2007年1月15日号 広報紙は、八ツ場ダムの広報センターでもあるやんば館にゆけば誰でももらえる。バックナンバーも見れる(ただし、バックナンバーは在庫がないといわれた)。 やんば館の女性説明員に聞いたところ、この広報紙は年に4回発行しているという。また上毛新聞はじめ朝日、読売など一般紙などに折り込まれ流域の水没対象地域などに世帯に配付しているとのことだ。 率直なところ、なぜ、第三者的、客観的立場を堅持すべき新聞社が、国策で進められる巨大な土木系公共事業、八ツ場ダムの建設促進のための広報紙の編集をするのか、大いに疑問を感ずる。 日本新聞協会の倫理綱領から見ても問題があるのではないか!
これでは、上毛新聞は建設費が6000億円とも8000億円、さらに最終的に一兆円を超すとされる巨大公共事業の批判などなど、できようもない。地方紙が国策による巨大ダム建設のつゆ払い、先兵となっているといわれても仕方がないだろう。 広報紙の大きさは夕刊紙などと同じ、いわゆるタブロイド判である。8頁だてである。上記の号では、1,4,5,8の各頁がカラーとなっている。やたら大きな写真が目立つ。見出しや本文の文章はまさに、国土交通省の一方的な宣伝、広告である。 まさに本特集の一大テーマである、情報操作による世論誘導そのものと思える。 さらなる大きな問題は、いうまでもなく国土交通省から上毛新聞に流れるカネである。 当初、国土交通省に対し情報開示請求をしようと考えたが、まずはホームページで検索してみたら、以下のPDFがでてきた。 実物はこちら→ 随意契約結果書 上のPDFを見ると、まず契約が随意契約である事が分かる。 国土交通省は、随意契約の言い訳じみた理由を延々説明している。しかし、いずれも随意契約の理由たり得ないものばかりである。 とくに、「昨今のダム事業批判によってもたらされている不安感、不信感の払拭のため八ツ場ダム事業の必要性を継続的にPRするとともに...」というくだりは、信じがたい言い訳、言い分である。 もちろん、昨今のダム事業批判には、誤ったものがないとはいえないが、大部分はそれなりの合理性や科学性をもっているだろう。自分たちの言い分は全て正しく、住民団体やそれを支援する学者らが言うことは間違っている、ということ自体時代錯誤的言い訳だ。これは官僚や行政がもつ「無謬性」というが、まさに傲慢そのものである。 国土交通省は上記のような言いがかり的なことを述べ、自分たちのしていることはすべて正しく、それを関係住民に一方的に説得する上で広報紙を使うという姿勢がみえみえだ。いまさらながら呆れる。 過去10年近く、建設省河川局が長良川、吉野川、徳山ダム、川辺川ダムなど、全国各地のダム事業や河川事業で激しい国民や勇気ある学者らの批判に曝されたことを、国土交通省は一体何とこころえているのであろうか? 地元唯一の地方紙、地元の地理、情勢に詳しい、新聞の販売網を持っているなどがあるが、そもそも広報の主体は国土交通省であり、過去から現在まで企画内容をみると、いずれも八ツ場ダムの工事、補償、土地分譲などに係わるものばかりであって、特段、地域の地理、情勢に詳しい新聞社である必要はまったくない。 さらに、八ツ場ダム広報センターであるやんば館で聞いたように、できあがった広報紙を読売、朝日などを含む新聞すべてに折り込みで配付しているのであるから、何も上毛新聞でなくとも編集能力があればどこでも編集はできる。また印刷は、上述したようにタブロイド判で8頁、半分がカラー程度なら、それこそ今時、どこの印刷屋でも印刷できるだろう。 年間の契約金額だが、9,043,755円(約900万円)となっている。 わずか8頁のタブロイド判広報紙を年4回発行するだけで、一回当たり240万円もかかるだろうか? もちろん、発行部数によるが。 上毛新聞はABCの調査による発行部数では約30万部とされているが、やんば館での説明では水没地域を中心に関連流域の世帯が対象であるといっていた。当然、配付数は人口数ではなく世帯数である。 以下は群馬県吾妻郡の最新人口及び世帯数である。以下の町村のうち、ダム建設で直接的影響を受けるのは、長野原町の一部と東吾妻町の一部である。 群馬県吾妻郡の最新人口及び世帯数
となると、おそらく印刷部数は4000部から6000部と推定される。ひょっとするともっと少ないかも知れない。私の知る限り私たちの別荘がある吾妻郡嬬恋村の世帯には配付されていない。 タブロイド判8頁、うち半分をカラー、それを5000部印刷する場合の印刷費用は、デジタルカラー印刷はじめ印刷方式にもよるが、せいぜい50万円程度(一部100円程度)であろう。 ちなみに折り込み費用は、8頁のパンフの場合一部当たり12円〜20円のはずだから5000部としても10万円程度である。 編集費、座談会がある場合の謝金、取材費、配付費の合計を一号あたり平均50万円としても、印刷費を加えた合計費用は、年4回発行で400万円がいいところであろう。 私が代表をしているシンクタンクでも自治体の環境計画関連で類似のパンフを製作したことがあるが、受託費は400万円にも満たない。新聞社の場合、印刷費はさらに安くなるかも知れない。 もちろん、見積もり条件は上記と異なるかも知れないが、特命随意契約でわずか年4回、各8頁の広報紙を製作、配付するだけで904万円超は「破格の高額」といわざるを得ない。 結局、この広報業務を上毛新聞社に高額かつ随意契約で国土交通省が出すのは、双方にとって大いにプラスがあるからに他ならない。 それにしても、地方紙が国土交通省から巨大ダム事業にかかわり広報紙の作成配布業務を随意契約で受託した上で、、社長自らが座談会でダムの必要性を積極的に説くさまを見ると、これが果たして新聞かと思えてくる。信じられないことだ。 ただ、これは上毛新聞だけの問題ではないだろう。愛知万博と中日新聞はじめたくさんあるはずだ。 いずれにしても、これは客観性を装った新聞メディアが、その実「情報操作と世論誘導」を率先遂行していることになる。 しかもその背後に上記のような露骨な利害関係があるとすれば、なにおかいわんやである。 つづく ◆渓谷に忽然と立ち並ぶコンクリートの橋桁(吾妻渓谷で) ◆上記の橋桁のすぐそばにある不動の滝(吾妻渓谷で) |