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三鷹公会堂 辺野古シンポ
青山貞一基調講演要旨


G鍵を握る環境と安全

〜環境アセス〜

掲載日:2010年3月9日
独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁


本コラムの分類<沖縄>
●特集:普天間代替施設問題を検証する(三鷹公会堂シンポ基調講演) 2010.3
@前提としての外交・防衛論 F不透明な立地選定 - 米国はグアムに決定!
A公共事業としての防衛・基地利権 G鍵を握る環境と安全 -環境アセス
B大メディアによる情報操作と世論誘導 H鍵を握る環境と安全 -オスプレイ
C政治家と利権 - 砂利 I鍵を握る環境と安全 -ジュゴン
D政治家と利権 - 土地 J鍵を握る環境と安全 -海洋生態系
E不透明な立地選定 - 民主党の”公約”? K10億円かけた辺野古アセスの根幹的諸課題

 本連載は、2010年3月7日(日)、東京都三鷹市三鷹公会堂で開かれた普天間飛行場代替施設にかかわるシンポジウムで、青山貞一(東京都市大学大学院教授)が基調講演を行った際の内容の要旨である。


 
 2009年5月30日沖縄県浦添市の社会福祉センターで「辺野古アセスを徹底検証する」と題する基調講演を行った。

 この時点ではまだ政権交代はない。

 私は沖縄県と防衛省が行っている普天間飛行場代替施設としての名護市辺野古でのV字型滑走路をも対象として行われていた日本側の環境アセスメント(環境影響評価)について批判的論評を行った。



 その後、2009年8月30日に政権交代があり、周知のように民主党・国民新党・社民党の3党連立政権は、普天間飛行場の代替施設の立地位置を白紙に戻し、2010年5月までに立地場所を決めることになった。

 もとより鳩山総理、小沢幹事長は、先に述べたように、県外・海外への移設を記者会見などで公言していたが、民主党の政権公約には県外・海外移設は含まれていなかった。

 そして日本政府は普天間飛行場代替施設として名護市辺野古のキャンプシュワブ沖にV字型滑走路を建設することを前提として環境アセスメントが行われていた。

 以下は2010年2月6日、東京都市大学環境情報学部で開催された「環境行政改革フォーラム」の研究発表大会における青山の発表の概要である。

 発表テーマは、「沖縄県普天間代替施設(辺野古移設)環境アセスメントの諸課題」である。



◆日米両国で実施される環境アセスの摩訶不思議

 前章で述べたように、戦略的な根拠として米国は2006年9月、「グアム統合軍事開発計画」をもとに海兵隊の再編成を具体化し、世界的規模での海兵隊の再編成を行うこととし、その拠点を沖縄ではなくグアムに決めていた。

 その一環として米国の在沖縄海兵隊は、伊波市長が指摘するように司令部だけでなく航空部隊を含めグアムのニールセン空軍基地への各種移転事業を対象に環境アセスメントを米国の国家環境政策法(NEPA: National Environmental Policy Act of 1969)を根拠に淡々粛々と実施していた。

 にもかかわらず、自民党前政権は日米ロードマップに基づき普天間代替施設の辺野古移転を強行決定し、日本の環境影響評価法によって環境アセスメントを米国とは別に実施しいた。

 すなわち、ここ数年の間に、何と
日米同時にふたつの環境アセスが米国のグァムと日本の沖縄で行われていることになるのである!事実、2つの環境アセスメントが日米両国で同時に行われてきた。そして今も行われているのである。

 その背景には、守屋元防衛次官が言う「普天間移設『混迷』の一因は利権」にある。最近になって日刊ゲンダイがスクープした辺野古周辺の土地を自民党政治家を中心に多くの政治家が買いあさっていたという利権の構図もある。

 米国側はグアムへの移転費(高額な住宅建設など)を日本側が拠出してくれることもあって、敢えて伊波市長が示す米国による沖縄海兵隊のグアム移転には、この間深く言及してこなかったわけだ。



◆米国側(米軍)の環境アセスメント

 もともと、米国は日本の意向とは無関係に「グアム統合軍事開発計画」をもとに地球規模レベルの戦略的視点で、アメリカ太平洋軍(USPACOM)- アジア・太平洋地域における海兵隊の拠点について戦略アセスを行っていた。



 その戦略アセスでは、@沖縄、Aハワイ、Bグアム、C韓国、Cシンガポール、Dオーストラリア、Eタイなど、都合9カ所の代替案を徹底的に分析、評価し、最終的にグアムを新たな拠点として選択していたのである。

 ただし、この戦略アセスは、環境より軍事作戦を重視したアセスメントとなっていることは言うまでもない。

 米国は、その戦略アセスをもとに最終的にグアムをアジア太平洋地域の戦略的拠点と決定したのである。

 さらに、その上でジミー・カーター大統領時代に制定された「国家環境政策法(NEPA)の国外適用に係わる行政命令(Executive Order)」を法的根拠として、海兵隊のグアム移転事業についての環境アセスメントを行い、その環境影響評価準備書(Draft Environmental Impact Statement)を2009年11月、グアムの住民を対象に告示、縦覧をしたのである。

 信じられないことだが、事実である。


◆日本側の環境アセスメント(いわゆる環境影響評価)

 他方、日本では沖縄県の名護市辺野古(キャンプシュワブ沖)への移設を前提にV字型滑走路を対象に環境アセスが2009年以降、告示・縦覧され意見書の募集と沖縄県が設置した環境影響評価審査会における審査がはじめられた。

 しかも、他方で民主党新政権は鳩山総理、小沢幹事長が普天間代替施設の立地選定を県外又は海外を前提に2010年5月までに行うと会見などで言明する、奇々怪々な状態となっていたのである。

 先に示した沖縄県浦添市での私の以下の基調講演は、沖縄県が実施していた辺野古・キャンプシュワブ沖への普天間飛行場移転に伴う環境影響評価の問題点を第三者が批判的に指摘するために行われた。その講演会では、私(青山)や沖縄大学学長の桜井教授らが参加していた。


 
 日本側の環境アセスメントは、日本のコンサルタント業者(いであ株式会社)が防衛省から約10億円で委託を受け実施したものであり、環境影響評価準備書は実に6000頁以上に及ぶ超大部なものであった。

 日本の環境アセスメントは事業の実施を大前提として実施されることが圧倒的に多く、普天間代替施設の辺野古移転に伴う環境影響評価準備書には多くの問題点があった。また準備書作成に先駆けて実施されたいわゆるスコーピング(方法書作成)の内容にも大きな問題が発見された。

沖縄県、アセス審査拒否も 行政訴訟も覚悟 普天間代替
2007年2月16日
 琉球新報

 名護市キャンプ・シュワブ沿岸部への普天間飛行場代替施設建設に伴う環境影響評価(アセスメント)に関連し、防衛省が県の同意のないままアセス方法書の送付を強行した場合、県が知事意見の取りまとめに向けた審査を行わない考えのあることを防衛省に伝えていたことが15日までに分かった。

 従来よりも態度を硬化させた格好だ。防衛省は15日、県に対し早急に方法書を送付したい考えをあらためて伝えたが、県は従来の姿勢を崩さず話し合いは平行線をたどった。

 県は、方法書が送付されれば、手続き上、受け取りは拒否できないとの認識だ。環境アセスの方法を選定するまでに知事は、方法書の送付を受けた後、住民意見の概要書を踏まえて、県環境影響評価審査会から答申を受けて意見を出すことになっているが、合意のないまま方法書が送付されれば、審査会への諮問見送りも視野に入れている。

 アセス手続きで県が審査せず知事意見も出さない事態に至った場合、県は防衛省から「不作為」を理由に行政訴訟を起こされる可能性もあるが、県はこの訴訟も覚悟の上で対応する構えだ。

 防衛省の門間大吉会計課長が15日、県庁で仲里全輝副知事、府本禮司基地防災統括監と面談し、早期に普天間代替施設のアセス手続きに着手したい意向を説明した。だが仲里副知事はあくまで地元の理解を得た上でアセスに入るべきだとの従来の認識を繰り返した。

 普天間代替施設の環境アセスについて、防衛省は従来、サンゴの産卵期からの観察が必要だとして6月にも調査に入りたいと説明してきた。そのためアセス方法選定に要する期間を逆算して、3月ごろまでには方法書を送付したい意向を県に伝えてきた。

 私たちが問題点を指摘した後に開催された沖縄県の環境影響評価審査会でも、日本政府が実施した環境影響評価には多くの数の問題点があることがそれぞれの専門家から指摘されていた。


◆米国の制度と比較した場合の日本の環境アセス度の問題点 

 本来、環境アセスメントは下図に示すように、提案された政策、計画、事業の「必要性」、「妥当性」、「正当性」の3つの視点からのチェックが不可欠である。



 しかし、日本の環境影響評価法や環境影響評価条例では、必要性のチェックがなく、妥当性も代替案がないことから評価がきわめて難しく、さらに情報公開は市民参加など正当性にも乏しいことが指摘されてきた。

 日本の環境アセスでは、以下に示す6つの問題点が指摘できる。

 最も重要な課題は、計画の遅い段階で環境アセスが適用されるため、提案される政策、計画、事業、とくに事業の「必要性」がまったく評価できないことにある。

 さらに米国の国家環境政策法(NEPA)に基づく環境アセスメントで必須のものとされている代替案の分析が実質的にされていない。そのため環境面、社会経済面から見た計画の妥当性が評価できないという根幹的な欠陥をもっている。




 ここでは、上記の6つの問題点を含め、日本と米国の環境アセスの制度と実態に以下の12項目を指摘したい。

@アセスの適用時期

アセスの適用時期が遅く、計画がほぼ固まった整備計画の段階で適用されるため問題があっても実質的に後戻りできない。米国の国家環境政策法(NEPA)によるアセスでは、より早期段階(earlier stage)に適用すべきとされている。

Aアセスの対象行為

アセスの対象が個別事業に限定されているため、ひとつひとつは比較的小さな影響であっても、まとまると累積的な影響をもたらす複合事業が対象とならない。米国のNEPAでは個別事業だけでなく、複合事業、土地利用、総合計画、広域計画なども対象となる。

B他の諸計画との整合性

アセスの対象が個別事業に限定されるため、土地利用計画、環境管理計画、都道府県の総合計画、市町村の基本構想など他の行政計画との間での整合性がとれない。

C複数行為による累積的・複合的影響

アセスの対象が個別事業に限定されるため、ひとつひとつは小さくとも累積あるいは複合すると大きな環境影響を持つ行為への環境配慮がなされない。

D代替案の分析

環境面から見た代替案の比較評価ができず、事業を実施しないという代替案が含まれないため、事業実施を対象にアセスを行っている。米国のNEPAでは代替案の存在が大前提となっているため、代替案毎の相対評価、定性評価が重要なものとなっている。

E評価のあり方、方法

代替案分析がないため、調査、予測結果の評価がどうしても絶対評価、定量評価に限られ、その結果、いわゆるアワセメントが横行している。米国のNEPAでは、代替案の存在とそれに対応した環境分析、相対評価が義務づけられている。また代替案にはNo Action、すなわち事業を行い場合も含まれている。

F審査主体

審査が法的責任がない学識経験者に丸投げされており、しかもそれらの学識経験者を沖縄県が選定している。米国のNEPAなどでは、日本で言う審査会はない。日本では、そもそも有識者などの委員には何ら法的権限、責任もなく、行政の隠れ蓑となっている。NEPAでは、大気汚染、水質汚濁などの環境負荷、有害物質、廃棄物などについては環境保護庁(EPA)の付置研究所が、自然環境系については内務省系の付置研修所がEISの審査に当たっている。

G住民との合意形成、コミュニケーション

アセスの行政手続が対象地域の地域住民との間でのコミュニケーション、合意形成に有効となっておらず、形式に流れている。しかも、行政側の手続の瑕疵が行政訴訟の対象となりにくいことから、手続が形骸化している。

H住民、NPOへの専門的サポート

防衛省の辺野古環境アセス報告書の頁数は、実に5000頁に及んでいる。しかも満足な代替案分析がない。そのため地域住民、市民団体がこの報告書をチェックするのは時間的にもきわめて難しい。米国と異なり、日本ではそれをサポートする専門家がきわめて限られている現実がある。

I行政訴訟の可能性


米国のように行政手続法としてのアセスで不備があっても行政訴訟が提起しづらい。米国のNEPAでは、このアセスメント実施に関連する各種の司法審査がアセスス制度を機能させる上で極めて重要な役割を担っている。他方、日本では、従来、原告的確性や処分性の観点からアセス手続に関連して行政訴訟を起こすことは困難であった。
 
Hへ続く