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本コラムの分類<沖縄>
本連載は、2010年3月7日(日)、東京都三鷹市三鷹公会堂で開かれた普天間飛行場代替施設にかかわるシンポジウムで、青山貞一(東京都市大学大学院教授)が基調講演を行った際の内容の要旨である。 |
以下、沖縄県宜野湾市で講演した際に用いたパワーポイントから辺野古アセスの課題を記す。 なおこの課題は、沖縄大学学長、桜井国俊教授が沖縄県に提出した「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価準備書に対する意見書」の主なものを示すものである。 当初約10億円の巨額を掛けたという普天間飛行場代替施設の名護市辺野古地区への移設にかかわる環境影響評価(実施、いであ株式会社。 ※このあと、次々にアセス関連調査が行われ総額は100億円を 超しているものと思われる。もちろん、これは日本最高、おそら く世界最高額のはずである!
この会社は過去、「新日本気象海洋」、「国土環境」、「いであ」とたびたび社名を変えている。 この環境アセスは、以下に示すように多くの根幹的な課題を持っている。 ●外交防衛面での必要性が不明確 日米安全保障条約が制定され50周年が経つが、制定当初と現在では冷戦構造の終了はじめ国際情勢が著しく変化している。わずか日本の国土の0.6%に米軍基地の75%以上が集中する現状はどうみても異常である。 しかも沖縄が日本に復帰してこの方、沖縄には新たな米軍基地はひとつも設置されていない。しかも、米軍の地球規模での軍事再編のなかで「グアム統合軍事開発計画」が策定されたが、その中では伊波市長が言うように今後、海兵隊の沖縄駐留は減らしグアムに移転されることとなっている。 ●情報公開・合意形成の配慮がない 約10億円かけたとされる環境アセス準備書は約7000頁もあり、市民、専門家が縦覧や複写することが事実上困難である。最低限、章、節単位で検察が可能、またキーワード検索を用意したCD−ROM版を提供すべきである。 防衛省はWeb上でPDFをダウンロードさせる方式をとったが、櫻井学長はこれをダウンロードするには10数時間がかかると指摘している。防衛省は形だけ公開とし、公開や意見聴取のアリバイをつくるだけではないのかと思える。 5000頁を超えるアセス準備書 途中から防衛省はアセス準備書をPDF化しホームページに掲載したが、本文検索は出来ず、目次だけで20頁もある。公表したというアリバイづくりである! ●事業内容の大幅修正、変更に伴う方法書作成のやり直しがなされていない! 日本の環境アセスでは、環境影響評価準備書の作成に先立ち方法書プロセスがあり、調査、予測、評価、事後評価などの項目、方法を決めることになっている。 だが、作成され縦覧された方法書では、 @使用する航空機の機種追加、 A集落上空の飛行、 B920mと430mの誘導灯の追加、 C3カ所の洗機場などが追加、 D膨大な量の海砂の採取を県内外で実施。これは沖縄県内で12.4年分の採取量にあたる。 このように方法書には150頁に及ぶ追加を行うほどの重要な事業の変更、追加であるにも係わらず、事業者である防衛省は方法書のやり直しを一切行わず、したがって環境影響評価準備書でも上記5つの追加事業はアセスの対象となっていない。 防衛省と沖縄県は、方法書のやり直しは政省令で規定しており、だが対象施設は米軍の軍事施設であり、もともと民生用施設に比べ環境影響が著しく、騒音ひとつをとっても受忍限度を超えることは間違いない。 立法府ではなく官僚自らが規定した政省令ではなく、米国のNEPAのように「影響の著しさ」(=Significant impacts)からやり直しを行わねばならないだろう。 ●関連施設を本体に含めないことによる累積的影響を見過ごしている! 環境アセスでは、次の5つの施設をアセスの対象外としている。すなわち @下士官宿舎 A船艇整備工場 B通信機器整備工場 C管理棟 D倉庫 である。 しかし、それぞれの施設がもたらす累積的、複合的な影響は看過出来ない。たとえば、船艇整備工場や通信機器整備工場では、有害な化学物質や重金属、有機塩素系化合物などを使用する可能性もある。環境総合研究所が2000年にキャンプシュワブ沖の排水口で採取した海水及び底質の分析調査では、さまざまな重金属物質が確認されている。当然のこととして5つの施設もアセスの対象とすべきである。 ●タッチアンドゴー訓練さらに夜間着艦訓練(NLP)が行われる可能性 肝心な航空機騒音だが、滑走路をV字型で運用するため、周辺地域上空を回避するので騒音影響は相当程度軽減できるというのが沖縄防衛局の主張である。だが普天間基地ではヘリコプターもその他の軍用機も、訓練のため頻繁にタッチアンドゴーを繰り返しており、防衛局が環境アセス準備書で示した飛行プロファイル(経路)は実態にそぐわない。 準備書では陸側滑走路を使用してタッチアンドゴーの騒音コンターが示されているが、海側滑走路を使用したタッチアンドゴーについては記述がない。タッチアンドゴーについては、陸側滑走路のみを使用するとの申し合わせがあったとしても、それが守られる保証はまったくない。もとより、陸側滑走路を利用してのタッチアンドゴーであっても、多数のオスプレイによる訓練は周辺地域に深刻な騒音影響をもたらす可能性が高い。 ●ジュゴン調査方法の課題 環境アセス法違反の業者による環境現況調査は、ジュゴンやサンゴ礁調査のための機材を海上自衛隊の掃海母艦まで繰り出し、非暴力で反対活動を展開する市民を威圧しつつ夜間にダイバーが設置する形で実施された。 ジュゴンの生態を知らない潜水隊員によって設置されたことから、ジュゴンの行動監視用の水中ビデオカメラは、サンゴ礁のクチから出入りするジュゴンを脇から観察するという当初計画とは異なり、クチから入ってきたジュゴンを待ち構えるような位置に設置された。 このように、事業者が行ったジュゴン調査は、ジュゴンを威圧しかねない不適切な方法で実施されたが、それがジュゴンの行動にどのような影響を与えたかについての検討が準備書では全くなされていない。アセス調査自体がジュゴンを遠ざけた恐れが否定できないのである。従って、準備書第6章6.16ジュゴンの記述は、そうした検討を経て全面的に書き直されるべきである。 ●ジュゴン調査結果評価の課題 調査で確認されたジュゴンは嘉陽沖の1個体と古宇利島沖の2個体であるとして、新基地建設がこれら個体に及ぼす影響のみを検討している。しかし、これのみでは環境アセス法が求める要件を満たしていない。現存する個体がたとえ3個体であっても、それらの個体が再生産し、個体群として存続していく上で、新基地建設がどのような影響を及ぼすのかを明かにすることが求められている。 過去の環境省調査また関係10漁協へのアンケート調査による概略のジュゴン目撃位置は、辺野古沖がジュゴンの生息環境の1つとなりうる条件を備えている(或いは備えていた)ことを示している。しかも辺野古沖は、ジュゴンの生息に適した金武湾から沖縄島東岸を北上し西岸の古宇利島沖にまで至る沿岸環境の中央に位置し、この地域の海面が埋立で消失することは、ジュゴン生息域の分断をもたらす。 従って、辺野古沖という沖縄のジュゴンの生息環境の重要な部分が新基地建設によって消滅することが、沖縄島周辺でのジュゴン個体群の再生産と存続の可能性をどれだけ狭めることになるのかについての検討、評価をしなければならない。この検討を行わずに新基地建設が沖縄のジュゴンに及ぼす影響は少ないと断定するのは論理の飛躍である。 ●沖縄県が厳正な保護を図る区域に分類している辺野古沿岸域を消滅させることへの評価がない! 辺野古沿岸域は、沖縄県の「自然環境の保全に関する指針」で、「評価ランク?」(厳正な保護を図る区域)に分類されており、新基地建設は、沖縄に残り少なくなった貴重な自然を消滅させることになる。 現に今回の準備書は埋立計画区域にウミガメ産卵場所やアジサシ営巣地、そしてサンゴや海草藻場の存在を確認しており、これらの自然は、この事業によって間違いなく消滅する。沖縄は全国一の埋立県であり、復帰後本土との「格差是正」のスローガンのもとすさまじいまでの速度で埋立事業を実施してきた。 2000−2007年の8年間、埋め立てによる県土面積増加比率全国第1位が沖縄県だった。埋め立て自体が自己目的化し、埋立地の多くが有効利用されずに放置され、一時の利益は有るがその後に続く雇用機会が生まれていないのも沖縄の特色である。 かくして沖縄では、自然のままの海岸線や湿地はいまや極めて希少なものとなった。そして今、沖縄本島に残された貴重なサンゴの海が、新たな埋立事業により泡瀬と辺野古で消えようとしている。 従って本環境アセスでは、辺野古沿岸域が沖縄にとってどれだけ貴重な自然であり、その消滅が沖縄に意味するものは何か、という観点からの評価でなければならない。環境を「大気質」「騒音」「振動」・・「廃棄物」と要素に還元し、そのそれぞれについて新基地周辺に及ぼす影響の多寡を論ずることのみでは、新基地建設の環境影響は評価できない。いまや残り少なくなった貴重な自然が消滅すること自体を評価すべきである。 ●ウミガメ類の産卵・孵化がキャンプシュワブの砂浜で観察されたにもかかわらず、ウミガメ類の産卵の可能性が低い場所に無理やり色分けされている。 ウミガメ類の上陸確認位置は、ウミガメ類の上陸調査結果が示すウミガメの卵が確認された合計9ヵ所の地点の一つが、キャンプシュワブの砂浜にあることを示している。これを受けて採餌及び回遊の状況は、辺野古弾薬庫下もウミガメの産卵地として良好な場所であるとしている。 ところがウミガメの採餌・産卵に適した砂浜の分布状況を示した図では、キャンプシュワブの砂浜は、ウミガメ類の産卵の可能性が低い場所に色分けされている。その理由は、「上陸記録は複数あり、産卵・孵化が一度記録されている。辺野古埼の周辺は沖側に岩礁帯があり上陸が困難な可能性がある。 図 大浦湾沿いにあるジュゴンとウミガメ保護の看板 また、近傍に照明も多い。辺野古漁港付近では人の活動が盛んである」というものである。「可能性が低い」という結論が先にあり、観測結果を無視したものである。このウミガメ類の例に限らず準備書各所に示された生物調査結果は、辺野古沿岸域には極めて高い生物多様性があることを示している。 しかし準備書全編を通じてしかるべき考察なしで「影響は総じて少ない」という結論が導かれている。この準備書は、結論ありきのアワセメントの代表例となることは間違いない。 ●本環境アセス準備書で米国防総省はNHPA(国家歴史保護法)で求められている説明責任を果たすことができるのか。また沖縄防衛局が実施している環境アセスは、米国のNEPA(国家環境政策法)の評価にこたえ得るのか? 米連邦地裁で争われているジュゴン訴訟を通じ米国防総省は、普天間代替施設の建設ならびに使用の事業がジュゴンにどのような影響(文化的価値への影響を含む)を及ぼすのかを考慮に入れ、この事業を行うことをNHPA(国家歴史保護法)により求められている。 そのために国防総省には、まず辺野古新基地がジュゴンに及ぼす影響の評価を行うことが求められている。これに対し国防総省は日本政府が行っている環境アセスが影響を明らかにするはずなので自らは影響評価を行わないとしている。 従って、今回の準備書は、米国防総省がNHPA(国家歴史保護法)で求められている「この基地をつくったらジュゴンに何が起きるのか」について説明責任を果たすことができるものであるか否かが問われることとなる。 ところが既に指摘したように、準備書のジュゴンで示された調査・予測・評価の方法、結果、結論は、到底学術的に妥当なものとは言い難く、NHPA(国家歴史保護法)で求められている説明責任を果たすことができない。また、それ以前の問題として、沖縄防衛局が実施しているアセスは、米国のアセス法である国家環境政策法(NEPA)の評価にたえうる形で実施されているかという問題がある。 それは、意味ある形で代替案が比較検討されているかという点である。今回の準備書では、事業者は「4.2知事意見及び事業者の見解について」において、辺野古新基地の沖合移動を求める知事意見ならびに名護市長意見に配慮して、政府案と沖合移動の6代替案の比較検討を行っている。 しかしこれは地元意見に配慮したというポーズ以上のものではなく、意味ある代替案ではない。あくまでも辺野古沖に移設するというシナリオの中での極めてマイナーな違いについての比較であり、上に見たハワイでの事例から判断して、米連邦地裁の評価にたえないことは明らかである。 ●海域生態系の保全措置として移植を挙げているが、有効性には疑問。ミティゲーションの優先順位が間違っている。環境影響の回避、緩和の後にあるべき環境影響の代償措置(移植)が先にある! 「準備書7.2.9海域生物、海域生態系(1)環境保全措置の検討」は、「埋立区域内に生息するサンゴ類を可能な限り、工事施工区域外の同様な環境条件の場所に移植する」、「代替施設の存在に伴い消失する海草類藻場に関する措置として、改変区域周辺の海草藻場の被度が低い状態の箇所を主に対象として、専門家等の指導・助言を得て、生育基盤の環境改善による生育範囲拡大に関する方法等を検討し、可能な限り実施する」としている。 しかし、海草やサンゴ生態系の移植は世界的に成功事例がなく、環境保全措置としてその有効性に疑問がある。ところが「(2)環境保全措置の検討結果の検証」では、他所でも繰り返し使用されているフレーズの「事業者としては実行可能な範囲で、環境影響を回避又は低減しており、適切な検討を行っていると考えています」をここでも使用している。 しかし、移植については世界的に成功事例がないなかでのこの記述は、実行可能な範囲で努力すれば効果はどうでもよいという無責任な主張である。 ●垂直離着陸機オスプレイMV22の配備について 1996年12月の日米特別行動委員会(SACO)最終報告の草案には、垂直離着陸機オスプレイMV22の普天間代替施設への配備が明記されていた。 だがオスプレイが配備される施設の受け入れについては「国内で理解を得るのが難しい」と日本政府が懸念を表明したため、この部分の記述が最終報告からは削除された経緯がある。 この件は米ジュゴン訴訟における米国国防総省提出資料から明らかになっている。それ以後も、オスプレイの県内配備が計画されていたことは、複数の米側資料に記されていた(例えば2007年10月19日付け沖縄タイムスが、最新の「海兵航空計画」で2014年度からオスプレイを県内配備する計画になっていると報じている)。 従って、方法書でも、また今回の準備書においても、オスプレイの配備が明らかにされるか否かが衆人の注目するところであった。しかし「準備書の対象に係る飛行場の使用を予定する航空機の種類」にはオスプレイ配備の記述がない。沖縄防衛局は「配備の情報は得ていない」としている。 しかし、2007年8月の方法書提出以後の事業内容情報を小出しにし、後出しする沖縄防衛局の姿勢からはにわかに信じがたいものがある。もしオスプレイの配備が、後日、評価書の公告・縦覧前に明らかになった場合、アセス法第28条の規定に基づき防衛省は方法書に戻ってアセスをやり直さねばならない。 <参考> ●辺野古環境アセスを検証するシンポ 2009年5月30日は午後2時10分に主催者挨拶などに続き、青山貞一(東京都市大学)が約1時間にわたり基調講演を行い日米の環境アセス制度、関連手続の概要と主に日本の環境アセス制度の本質的欠陥、課題について述べた後、本件の方法書、環境影響評価準備書について具体的に問題点を指摘した。 なお、日本の環境アセス制度・手続の問題点は前章に示した。 環境影響評価の準備書は要約だけで20本、本札は198本のURLとなっている。本報告書は5000頁を超え、厚さは40cm以上ある。 ※普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価準備書(要約書)(PDF) ※環境影響評価準備書本文(PDF198本) 青山の基調講演に引き続き沖縄大学の桜井国俊学長が今後はじまる沖縄県環境影響評価条例にもとづき設置される環境影響評価審査会の委員に環境アセス制度の専門家がいないことなどを指摘した。桜井学長によれば、沖縄県が日本の返還されてこの方、沖縄県では基地が日本に返還されることはあっても、基地が新設されることはなかったことを力説した。 問題点を指摘し、審査会に環境法制度の専門家を 入れる必要性を指摘する沖縄大学の桜井学長 さらに桜井学長は、本来、事業者と住民との間でのコミュニケーション、合意形成の手続きあるはずの環境影響評価の準備書が5000頁を超え、閲覧すらままならず、ホームページにPDFがリンクされてもURLが198本にも及ぶなど、およそ読む側の立場を理解しないものとなっていると述べた。 5000頁を超えるアセス準備書 次に報告に立ったのは世界野生生物基金(WWF)の花輪伸一さん。 花輪氏は下のパワーポイントにあるように、もとより宜野湾市にある普天間基地を県内に移設することについて県民の68%が反対していること、また環境アセスメントにおいて環境への影響は軽微であるという記述には80%が納得できないと認識していると述べた。 普天間代替施設の県内移設に関する世論調査結果 報告する花輪氏(WWF) さらに東京から沖縄県の基地問題、環境問題を支援するために沖縄県に移り住んだという辺野古弁護団事務局長の弁護士、金高望さんが関連する訴訟の経過と今後の展望について報告された。 報告する金高氏(弁護士、辺野古弁護団事務局長) さらに当該環境アセスメントにおける大きな争点となっているジュゴン保護の観点から今回の環境アセスの関連調査との関連で、ジュゴンNPO、ジュゴンキャンペーンの吉川英樹さんがジュゴンの生息状況、発見地点などの調査内容を報告した。 吉川さんのジュゴン報告 |