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真夏の群馬北西部短訪

J品木ダムと草津温泉
青山貞一
掲載月日:2012年8月23日
 独立系メディア E−wave Tokyo
無断転載禁

 ◆特集:真夏の群馬北西部短訪 2012.8.17-8.20
@浅間山大噴火と鎌原観音  H暮坂高原の「花楽の里」
A迷走つづける八ツ場ダムと工事現場  I上信越県境の野反湖
B八ッ場ダムは公費乱費の典型  J品木ダムと草津温泉
C江戸の中山間地の生活を今に伝承  K四阿山とバラギ湖
D群馬満蒙拓魂之塔と浅間牧場  Lパノラマライン北ルート
E六合村の赤岩養蚕集落  M白根山をトレッキング
F六合村の赤岩神社  N「毛無峠」と小串硫黄鉱山跡
G六合村の上の観音堂  OGPSによる移動経路図

●白根山系河川の強酸性水

 
私達は野反湖で自然を満喫した後、一旦国道292号線まで戻り、一路、品木湖(ダム)に向かった。

 この一帯は、白根山系にあり全国的に有名な草津温泉はじめ万座温泉などいおう温泉のメッカである。いおう鉱泉の温泉水は、下の表にあるように酸性度が非常に高く、pHで2〜4となっている。

 とくに私達が登ってきた白砂川上流の支流地域は、pHが低い。とりわけ強酸性となっているのは、草津温泉を始点とする湯川である。湯川のpHは2前後である。

一次支川 二次支川 酸性度(pH)
湯尻川 (本川) 7.7〜7.9
万座川 (本川) 3.6〜6.7
遅沢川 (本川) 2.4〜3.2
白砂川 本川上流部 4.9〜5.6
湯川 1.8〜2.7
大沢川 2.3〜3.2
谷沢川 2.8〜3.9
湯川合流点 2.2〜3.0
温川 (本川) 6.9
四万川 (本川) 6.7〜8.0
名久田川 (本川) 7.2
沼尾川 (本川) 6.8
出典:Wikipedia

◆白砂川水系の水質測定

 東京都市大学青山研究室は過去、青山が在学中、学生等を連れて白根山系の河川の水質調査を行ってきた。下は、測定に使用しているデジタル水質測定機器である。

 
左からデジタル伝導率計、デジタルpH計、デジタルDO計、デジタル塩分計
撮影:青山貞一、Nikon Cool Pix S10 2010.5.5 

 また下の地図は、主な測定地点である。草津町という文字が見える。


測定予定地点図(おおむねの位置を
で示している)

2010年5月5日の水質(pH)測定結果


 下は青山が水質を測定している写真の一部である。


品木ダムにて 撮影:池田こみち、Nikon Cool Pix S10 2010.5.5


白砂川上流にて 撮影:池田こみち、Nikon Cool Pix S10 2010.5.5

 いずれも切り立った渓谷の底を流れており、測定器のセンサーを川の水に浸けるのがいずれも非常に難しかった。また品木ダムの湖水のサンプリングは結構大変でした。


白砂川中流にて 撮影:池田こみち、Nikon Cool Pix S10 2010.5.5
 

 ところで強酸性水は、下の写真にあるように鉄やコンクリートを溶かしてしまう!

 たとえば、草津温泉から出るpH2の湯水は、下の写真にあるように約10日間で五寸釘を溶かし細い針金としてしまう! 


出典:国土交通省関東地方整備局品木ダム水質管理所

 同様にpH2の湯は下の写真のように一ヶ月で、コンクリートをボロボロにしてしまう。
 

出典:国土交通省関東地方整備局品木ダム水質管理所

●強酸性水の中和工場

 品木ダムを視察後、私達は品木ダムに流入する湯川の源流でもある草津温泉に向かった。


湯畑にて。これは青山ゼミの学生を連れ2006年8月にでかけたときに撮影
(2006年8月8日、ニコンCoolPix 撮影:青山貞一)


いつもにぎわう湯畑。
(2007年9月15日、ニコンCoolPix 撮影:青山貞一)

草津温泉の歴史

 日本武尊や行基、源頼朝が開湯したという伝説を持つほど、古くから知られた湯治場である。草津の名の由来は「くさうず(臭水)」が訛ったものであるとされる。

中世
 『吾妻鏡』によると、建久4年(1193年)8月源頼朝が浅間山で巻狩りを行った際に、木曽義仲の遺臣で義仲遺児を匿って草津に潜んでいた細野氏を見出し、湯本の姓を与えて草津の地頭としたとされる。以後、湯本氏は温泉経営をもって北条・足利に仕えたとされるが確実な裏付けがあるわけではない。草津温泉の直接史料での初出は文明4年(1472年)で、蓮如が訪れたときのものであり、この頃にはすでに全国に名の知れた湯治場となっていた。戦国時代になると湯本氏が文献に多く登場し、草津の湯治客からとる湯銭を武田配下の真田氏に納めたり、草津や白根で採れる硫黄を戦国大名に贈ったりしている。豊臣秀吉が徳川家康に草津入湯を勧めた書状なども伝わっている。

○近世
 江戸時代初期は真田氏の沼田藩、その後は天領として幕府の直轄支配を受けている。湯本氏は沼田藩の家老として重用されていたが、後に本家は断絶させられてしまう。現在と比べて交通は不便にもかかわらず、湯治客で賑わいは年間1万人を超える数を記録している。近世を通じて60軒の湯宿があり、幕末には「草津千軒江戸構え」といわれたほど栄えていた。草津温泉は泉質が強烈なため、湯治後に肌の手入れのために入る、「草津の上がり湯」なる温泉地が周辺に複数できた。

 江戸時代初期は内湯はなく、湯宿は基本的に素泊まりだった。18世紀初頭になると、「かこい湯」・「幕湯」という貸し切り湯の習慣ができ、のちに内湯が設けられるようになった。

○近代
 明治時代、お雇い外国人として来日したドイツ人医師ベルツ博士によって、その良さを再発見される。大正期には軽井沢から草軽電気鉄道という軽便鉄道が草津まで開通し、更に後には高崎・渋川などからバスも乗り入れるようになった。長野原線(現・吾妻線)が長野原駅(現・長野原草津口駅)まで開業したのは1946年(昭和21年)である。

○現代
 2003年(平成15年)から、「ONSEN」を世界で通用する言葉にしようという運動を行っており、草津温泉もその運動に参加している。2005年(平成17年)には、それに関連したシンポジウムを開催した。


撮影:青山禎一 Nikon CoolPix S10

 2004年(平成16年)、長野県の白骨温泉に草津温泉の入浴剤(草津ハップ)が用いられたことが発覚したことから、その効能が再び注目されている。但し、これをきっかけとした温泉偽装問題の中、入湯税の徴収額と納入額に差が有ると報じられた。ところで草津温泉ハップを溶かした湯はアルカリ性であり、皮肉なことに白骨温泉特有の白濁したアルカリ硫黄泉に酷似。

 2006年には草津温泉の土産物店などで売られている『湯の花』の多くが、同温泉で採集されたものではなく、硫黄に炭酸カルシウムを混ぜて製造したり、近隣の温泉の湯の花だったことが判明した。これを受けて公正取引委員会は、景品表示法違反(優良誤認)で製造販売した4社に排除命令し、6社には注意をした。

 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


 草津温泉には大小、膨大な数の温泉があるが、昭和初期から温泉からの排水はそのまま湯川と呼ばれる一級河川の上流に流されてきた。

 その後、昭和45年前後に水質汚濁防止法などの環境法が整備されるが、おそらくひとつひとつの温泉は小規模であり、いわゆる特定施設とならず、規制の対象とならなかったはずである。

 このように草津温泉の強酸性水をそのまま湯川などに流していたが、そうなると当然下流域の河川のpHが著しく低くなり、飲料水はもとより農業用水などでも利用できなくなる。

 そこで、建設省(当時)は、草津温泉を流れる湯川など白砂川の主要支流の河川について石灰で中和する工場を流域に設置し、たとえば草津温泉の大滝の湯近くにある工場の場合、1日に60トン規模の石灰を使い、pHで2前後の強酸性水を5前後まで中和している。

 国土交通省側の説明では、「湯川の水を汲み上げ、石灰を混ぜて再び湯川に注ぐことによって中和している」としている。


湯川の始点に近い草津温泉にある石灰工場
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8 2010.5.5

 下の写真は湯川の始点に近い草津温泉の大滝の湯近くにある湯川の強酸性の水(湯)を石灰によって中和している現場である。写真手前が中和以前、写真奥が中和後である。石灰により中和するため水(湯)が白濁していることが分かる。


湯川の始点に近い草津温泉にある石灰による中和現場
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8 2010.5.5


 下は私達が8月19日、その中和工場を訪問したときの写真である。国土交通省の担当者がひとつひとつ説明をしてくれ、私達がその都度質問をしていった。

 国土交通省の若い担当者は、青山や池田が専門的な質問を次々にするのでびっくりしていた!


施設、設備の説明をする国土交通省職員
撮影:鷹取敦 Digital Camera CASIO EX-H20G


中和工場の施設、設備の説明をする国土交通省職員
撮影:鷹取敦 Digital Camera CASIO EX-H20G


施設、設備の説明をする国土交通省職員
撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10


施設、設備の説明をする国土交通省職員
撮影:鷹取敦 Digital Camera CASIO EX-H20G


施設、設備の説明をする国土交通省職員
撮影:鷹取敦 Digital Camera CASIO EX-H20G

 根掘り葉掘り質問する国土交通省職員。すべてに懇切丁寧に答えた(笑い)。


青山にヒヤリング(アンケート)をする国土交通省職員
撮影:鷹取敦 Digital Camera CASIO EX-H20G

●中和水が流れ込む品木ダム

 ところで、湯川の中和水や大沢川、谷沢川などの酸性が強い水は、国土交通省がつくった品木ダムに流れ込む。このダムも中和工場設置とほぼ同時期の昭和40年代中頃に開発されている。


 下の写真2枚は、以前(2010年のGW)に品木ダムに行ったときに撮影したものだが、今回も野反湖の帰り4人で品木ダムを視察した。


国土交通省の品木ダム。右は池田こみちさん
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8 2010.5.5


国土交通省の品木ダム
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8 2010.5.5

●ヒ素を含む浚渫土砂不法投棄?
 
 当然のこととして、品木ダムには石灰を高濃度に含む土砂(ヘドロ)が堆積する。そのヘドロを定期的に浚渫しているのだが、そのヘドロに高濃度のヒ素が含まれていることが明らかになっている。従って、それをどこに持って行っているかが問題である。


撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8 2010.5.5

◆河川整備基金助成事業
「品木ダムの堆積環境の解析と浚渫物土捨場による環境負荷の見積」
http://www.kasen.or.jp/seibikikin/h22/pdf/rep1-07.pdf

 国土交通省と群馬県は、過去、廃棄物処理法に言う安定型最終処分場に、高濃度のヒ素を含むヘドロ(浚渫土砂)を捨てているが、これは違法行為ではないのかという疑問が提起されている。

 これについては、その昔、朝日新聞が大きく報じた。私の意見も掲載されている。

◆八ッ場ダム上流で国交省、基準の370倍のヒ素汚泥を投棄 朝日新聞http://www.eritokyo.jp/independent/aoyama-col120367.htm

 また水質調査結果、国土交通省の最終処分場などへの現地調査を踏まえ、詳細な調査報告を環境行政改革フォーラムの論文集に執筆しているので、別途参照して欲しい。 
 
 さらに、独立系メディアに関連する調査、詳細な調査結果などを公開しているのでご覧頂きたい。

●特集:真夏の上州で環境調査  2010.7.17
青山貞一:真夏の上州で環境調査 (3)白砂・吾妻水系における環境問題の所在@
青山貞一:真夏の上州で環境調査 (4)白砂・吾妻水系における環境問題の所在A
青山貞一:真夏の上州で環境調査 (5)白砂・吾妻水系における環境問題の所在B
青山貞一:真夏の上州で環境調査 (6)「水質調査」の目的・方法・対象
青山貞一:真夏の上州で環境調査 (7)「吾妻川」で水質調査
青山貞一:真夏の上州で環境調査 (8)「川原湯温泉」で水質調査
青山貞一:真夏の上州で環境調査 (9)「不動の滝」で水質調査
青山貞一:真夏の上州で環境調査 (10)「白砂川(広池発電所)」で水質調査
青山貞一:真夏の上州で環境調査 (11)「白砂川(滝見橋)」で水質調査
青山貞一:真夏の上州で環境調査 (12)「品木ダム」で水質調査 
青山貞一:真夏の上州で環境調査 (13)「大沢ダム」で水質調査 つづく

つづく