◆青森県視察総括コメント 豊かな自然あってこその青森
池田こみち
青森県へは2度目の訪問となる。県内には多くの観光資源・環境資源が点在しているが、これまで私が見学したのは秋田県との境に位置する十和田湖だけだったので何も見ていないも同然の状態だった。
今回は、下北半島を中心に原発関連施設、風力発電関連施設を視察することが主な目的であったが、全行程約800kmにわたって県内を走り、青森県の魅力と課題を多少なりとも感じ取ることができた貴重な機会だった。
●青森県内の原子力関連施設
現在、青森県内には、東通原子力発電所(予定を含めて2施設、4機)、大間原子力発電所(建設中1機)、六ヶ所原子燃料サイクル施設、使用済燃料中間貯蔵施設、旧原子力船「むつ」関連施設が存在している。これらは、いずれも下北半島側に集中しており、エネルギーの大消費地である東京首都圏とつながっている。
本州最北端の地に東京電力が東通原発を計画していることがそれを象徴している。福島第一原発事故の際にも、東京に電力を供給するために福島に原発を設置しているのはいかがなものか、という議論が沸騰した。まさに、日本経済をエネルギー面から支え牽引する役割を過疎の村が背負わされている現実を直視し、改めて拭いようのない重圧のようなものを感じざるを得なかった。
六ヶ所村の原燃資料館では、頭の先から足の先まで制服でビシっと身を固めた説明員の女性が「原子力発電所から出される使用済みの燃料の97%が資源化可能なものであり、それをリサイクルしているのが私どもの施設なのです。」と誇らしげに話し、解説ビデオでも「六ヶ所村は次世代エネルギーパークの整備をいち早くめざし石油備蓄・風力発電・核燃料リサイクルを推進している」とし、平成20年には「六ヶ所村地域新エネルギービジョン・次世代エネルギーパーク整備プラン」を策定されている。
実際、これらの原子力関連施設の整備にはこの間、膨大な税金が投じられてきたことは間違いない。
今回、下北半島と津軽半島を走ってみて、明らかに下北半島側の自治体の公共施設は過剰なまでに立派に整備されていた。
東通村体育館
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014-5-18
東通村役場と村議会議事堂・交流センター
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014-5-18
図1:電源立地地域対策交付金 交付対象地域 出典:青森県のWebサイト
図2 青森県内市町村地図 出典:マピオン
図より明らかなように、交付金はもっぱら下北半島側に集中し、原発関連の交付金は全自治体に交付されている。一方、津軽半島側は白地となっていることがわかる。六ヶ所村だけを取り上げてみても、昭和54年から平成24年度までの電源三法交付金の総額は約450億円に上り、総事業費はそれを上回っている。
(出典:六ヶ所村Webサイト)
実際、東通村でみたように、交付金は、立地可能性調査開始年度あるいは開始翌年度から一期分として1.4億円/年が交付され、稼動期間はもちろん、運転終了まで手厚く交付されることとなっている。
問題はこうした巨額の交付金が本当の意味で地域住民の幸福度アップにつながっているかどうかである。地域の雇用の増加、賃金ベースのアップ、公共施設の整備拡充などは確かにメリットではあるが、その一方で失うものも多いのは言うまでもない。
今回の視察では、改めてそのことを思い知らされた。
●自然の恵みがもたらす豊かな環境資源
青森県は大きく三つの地域に区分される。下北(下北半島全域)、三八上北(三沢市・八戸市を中心都市とする南部地域)、津軽(青森市・弘前市を含む西部地域)である。
今回の視察では、三沢市以南の県南地域と津軽地域の西津軽郡・弘前市以南の白神山地までは回れなかったものの、北部エリアは概ね回ることができた。
下北・津軽の二つの半島が突きだし、その間に抱かれるように豊かな陸奥湾が広がっている。ホタテをはじめとする豊かな漁場となっている。また、北海道との間の津軽海峡では大間のマグロに代表される全国ブランドの漁業も盛んだ。また、十三湖や小川原湖など汽水域の湖や沼も多く、シジミなどもブランドとなっている。
陸に目をやれば、標高1625mの岩木山が青森県の最高峰であることから分かるように、風力発電に適した台地が広がっている。また、南部には世界遺産の白神山地が連なり、霊場恐山、津軽富士と呼ばれる岩木山、豪雪で知られる八甲田山など地域の人々の精神性に通じる自然、奥深い手つかずの自然も堪能できる。
夕暮れの岩木山、弘前にて
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014-5-19
もちろん、南部の十和田湖や奥入瀬渓谷も絶景である。野生生物もクマを筆頭に多様性に富んでいる。今回はホンドギツネに遭遇したが、残念ながら会えなかった下北半島の東の突端尻屋崎地域に放牧されている寒立馬(かんだちめ)の愛らしさは何とも言えない。青森県の天然記念物に指定されている貴重な農耕馬である。
二つの半島と県北部地域には、豊かな農地、牧草地が広がり、リンゴはもとより、牛肉や米、酒、果物など農産物にも特産品が多い。実際、私も毎年、津軽の「達人りんご」を取り寄せて頂戴している。格別の美味しさだ。
まさに、太平洋・津軽海峡・日本海と三方を海に囲まれ、他の県にはない環境資源と観光資源に恵まれた県であると言える。今回は時間がなくて沢山の物産を味わう暇がなかったが是非また味わってみたいものである。
青森の資源はこうした自然や食べ物だけではなく、今回視察した斗南藩関連の史跡をはじめ、文学の分野でも今回視察した太宰治の生地は有名だが、それ以外にも寺山修司や石坂洋次郎なども青森出身であり、歴史的文化的遺産も多い。伝統工芸では津軽塗が有名だ。
五所川原市 太宰治「斜陽館」
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014-5-19
五所川原市 太宰治「斜陽館」にて
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014-5-19
今回、いくつかの自治体の郷土館を訪ねたが、建物の割に中身が貧弱で十分に地域の歴史文化、資源を展示できていないように感じた。今後は是非とも、原発関連施設の立地や稼動に依存しない街づくり、地域づくりを進めてほしい。
たった三日間の青森視察ではあったが、初めて青森県の持つ魅力に触れることができ充実した旅となった。地元の方々との触れあいはを十分に持つことが出来なかったのは残念だったが、各所でお話ししたみなさんはみな優しく津軽弁が耳に残っている。是非また機会を作って再度訪問してみたい。
文責:池田こみち |
◆日本原燃使用済核廃棄物処理の流れ(全体概要)
青山貞一
六カ所村には、イギリス、フランスなど世界に数カ所しかない核廃棄物再処理工場がある。六カ所村の超広大な土地に日本原燃が所有する核燃料の再処理工場が散在しています。
1993年から約2兆1,900億円の費用をかけ、青森県上北郡六ヶ所村弥栄平地区に「濃縮」、「埋蔵」、「再処理」、「廃棄物管理」、「MOX燃料加工」の各事業とそのための施設建設が進められており、現在試運転中である。核廃棄物サイクル処理は、今回の現地調査の一つの目玉です。
2014年5月18日午後3時六カ所村にある日本原燃PRセンターを訪問しまし。この訪問はあからじめ原燃PRセンター側に所定の説明付きの訪問申し込みを行った上で実現したものです。
六カ所村原燃施設PRセンター入り口にて
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014-5-18
六カ所村役場前にて
撮影:斎藤真実
六カ所村原燃施設PRセンターにて
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014-5-18
以下は六カ所村の原燃PRセンターにおける展示(物)をもとに、六カ所村にある日本原燃の核廃棄物処理の流れの全体概要の説明です。
出典:六ヶ所村日本原燃
原子力発電所で使い終わったウラン燃料の中には、燃え残りのウランと新しく出来たプルトニウムがあります。これらを再びMOX燃料(Mixed Oxied Fuel)の原料として使えるように化学的な処理をするのが再処理工場です。つまり、再処理工場はウラン燃料のリサイクル工場です。
出典:六ヶ所村日本原燃
◆核廃棄物再処理の概要
(1)使用済み燃料の移動:最初に各地の原発から受け入れ保管しているキャスクにある使用済み燃料を燃料棒の状態のまま移動させる。
(2)燃料棒のせん断:専用裁断機で細かく切断し、6規定の濃硝酸に溶かす(水相)。溶解:酸に溶けない燃料被覆管(ハルと呼ばれる)と不溶残渣(モリブデン、
テクネチウム、ルテニウム、パラジウム、ジルコニウム等)を取りだす。
(3)分離:取り出した水相の硝酸濃度を3規定に調整し、ドデカンにリン酸トリブチル
(TBP)30%を溶かした有機溶媒(油相)とミキサー・セトラー (mixer-settler)型抽出槽
やパルスカラム(pulse column)型抽出塔で混合・接触させると、硝酸とイオン対を生成したウラン及びプルトニウムがTBPに抽出され、油相に移動する。
(4)精製:次に油相を還元剤(硫酸ヒドロキシルアミン等)を含む別の水相と接触させると、
プルトニウムだけが水相に移動する。
(5)脱硝・製品管理:プルトニウムは容易に核兵器に転用可能なため、それのみを所有することは核拡散防止条約で禁止されている。そのためプルトニウムとウランと混ぜた溶液を作り、これをマイクロ波で脱硝酸して酸化物MOXとして保管している。ウランについても流動床で脱硝して酸化物(回収ウラン)として保管している。
(7)高レベル廃棄物:燃料被覆管は低レベル放射性廃棄物(TRU廃棄物)として、
不溶残渣と各種放射性物質の混合体である硝酸系廃液は、蒸発缶等で濃縮した後、高レベル放射性廃棄物として処分される。
出典:Wikipedia
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出典:六ヶ所村日本原燃
原子力発電所から運ばれてきた使用済燃料は、使用済燃料輸送容器(キャスク)から取り出され、3基の燃料貯蔵プール(BWR専用、PWR専用、BWR/PWR共用)で4年以上冷却・貯蔵されます。
冷却・貯蔵により放射能の量は数百分の1に減衰します。
冷却期間を終えた使用済燃料は、次のせん断工程に移送されます。
出典:六ヶ所村日本原燃
せん断・溶解工程では、せん断機で使用済燃料を細かく切断した後、硝酸を入れた溶解槽で燃料部分を溶かし、燃料部分と被覆管部分とを分別します。燃料を溶かした硝酸溶液は、清澄機で不溶解残渣(燃料せん断片を溶解槽で溶解した際に溶解せずに残る粒子状のもの)を除去した後、分離工程へ送ります。
なお、溶け残った被覆管などの金属片は、固体廃棄物として処理します。
出典:六ヶ所村日本原燃
分離工程では、パルスカラムという装置で、硝酸溶液を溶媒といわれる油性の溶液と接触させ、ウラン・プルトニウムと核分裂生成物を分離します。さらに、化学的性質の違いを利用してこのウランとプルトニウムも分離し、精製工程へ送ります。
出典:六ヶ所村日本原燃
精製工程では、パルスカラムやミキサセトラという装置を用い、ウラン溶液及びプルトニウム溶液中に含まれている微量の核分裂生成物をさらに取り除いて純度を高めた後、脱硝工程へ送ります。
出典:六ヶ所村日本原燃
脱硝工程では、脱硝塔を用いて、精製されたウラン溶液とウラン・プルトニウム混合溶液から硝酸を蒸発及び熱分解させて、ウラン酸化物粉末とウラン・プルトニウム混合酸化物粉末(MOX粉末)にします。それぞれの粉末は、燃料加工施設等に出荷されるまでの期間貯蔵します。
出典:六ヶ所村日本原燃
再処理工程で生じる核分裂生成物を高レベル放射性廃棄物といいます。これらは、溶融炉の中で溶かしたガラスと混ぜ合わせ、キャニスターに入れ冷やし固める(ガラス固化体)。
文責:青山貞一 |
◆青森県視察総括コメント 地域社会が寄って立つむの
鷹取敦
今回の3日間の青森視察のうち2日間に参加した。2日間の間に訪れた場所は、主に下北半島に位置し、戊申戦争・斗南藩関係史跡、歴史・郷土関連施設、地域の歴史や自然環境に根付いた農業・漁業関連・寺、風力発電施設、原発関連施設・PR館等、役場・空港等の公共施設に分類できる多様な場所や施設であった。
下北地方(むつ市、風間浦村、大間町、佐井村、東通村)は「西通り」、「北通り」、「東通り」の3地方に区分される。西通りは陸奥湾に面しており、夏は暑く、冬は雪が多い。北通りは津軽海峡に面しており、風が強く、雪は少ない。東通りは津軽海峡と太平洋に面しており、山間部は雪が多いが、沿岸部では少ない。一方、上北郡のうち横浜町、野辺地町は陸奥湾に面しており、西通りと同様雪が多く、六カ所村は太平洋に面しており、東通りと同様、山間部では雪が多く、沿岸部では少ない。
出典:下北弁辞典
このように同じ下北半島でも、地域により自然環境の特徴が大きく異なるが、会津藩がこの地で斗南藩として再興を許された時、火山灰地質の厳寒不毛の地で名目3万石が実質7千石あまりだったことに象徴されるよう、極めて厳しい地方であったことは、今回訪れた斗南藩関連史跡や、郷土館、先人記念館からよく分かった。郷土館の展示の中心が、縄文時代の住居を復元したもので、地域の歴史を学べるようなものがほとんどないのは、このような自然環境による歴史を反映しているのかもしれないと思った。
旧斗南藩墳墓の地
撮影:鷹取敦 Sony DSC-HX50V 2014-5-17
このような自然環境と歴史と対照的なのが、数多く立地している風力発電の風車と、原発関連施設、そして東通村役場や周辺の学校の校舎に見られるような、過剰に立派なハコモノであった。原発、使用済み核燃料の再処理施設、中間貯蔵施設、そして原子力船むつ等は、厳しく貧しかった地方に、交付金等や雇用というアメとともに押しつけられてきた、他の地方で受け入れたがらない種類の施設であり、そのアメによって建設されてきたのが立派なハコモノである。
施設における直接、間接の雇用機会はともかく、ハコモノは地域の振興に役に立っているようには全く見えなかった。そして雇用機会も、福島第一原発の過酷事故後には、そこで顕在化したリスクとともに、失われると困る一方で、必ずしも喜ばしいものとは言えなくなったのではないだろうか。
原子力船むつの原子炉室の展示
撮影:鷹取敦 Sony DSC-HX50V 2014-5-17
東通村役場庁舎
撮影:鷹取敦 Sony DSC-HX50V 2014-5-18
一方で、横浜村の菜の花フェスティバル、恐山、そして有名な大間のマグロや横浜村の道の駅で食べたホタテに代表される海産物などの海と山の幸、そして自然環境を活かしたエネルギー源である風力発電は、この地域の特色を活かした、地域に根を張った産業、観光資源であると感じた。
風力発電は低周波騒音の問題やシャドーフリッカー(風車のブレードの影がちらちらとかかることによって生じる現象)の問題が指摘されているが、下北半島では風車の間近に民家は少なく、近くで見学していてもそのような不快感等を感じることはなかった。風力発電の立地条件としても恵まれている。
横浜町の菜の花フェスティバルの会場より菜の花と風力発電
撮影:鷹取敦 Sony DSC-HX50V 2014-5-17
恐山
撮影:鷹取敦 Sony DSC-HX50V 2014-5-18
福島第一原発事故以後、全国の原発の再稼働が困難となり、いみじくも視察の直後(2014年5月21日)には、福井湾の大飯原発3号機、4号機の運転再稼働を差し止める判決が福井地裁で出された。この判決が高裁、最高裁で維持されるかどうかは不透明であるし、原発に積極的な現政権によって、今後再稼働される原発が出てくる可能性はある。
しかし原発をとりまく環境は厳しく、さらに事故の可能性も考えると、地域社会が原発に依存しつづけることは、大きなリスクをはらんでいる。地域の自然環境、歴史、観光資源を活かした経済、社会への構造転換がいやおうなしに求められる時代ではないだろうか。そしてそれは、地方へエネルギー供給を依存し、リスクを押しつけてきた大都市の住民も共有すべき問題であると思う青森訪問であった。
文責:鷹取敦
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◆リサイクル燃料備蓄センター(RFS) 使用済み
核燃料貯蔵の安全性に関する一考察
斉藤真実
青森視察では、使用済み核燃料の中間貯蔵施設であるリサイクル燃料備蓄センター(以下「センター」とする)へも行くことができました。何と言っても、国内に初めてできた使用済み核燃料中間貯蔵施設とあっては、外観だけでもぜひ見ておきたい施設でした。
●リサイクル燃料(※)備蓄センターとは?
原発を稼働すると、使用済みの核燃料(※)が発生します。日本では使用済み核燃料は直接処分をせずに再処理を行うことになっています。再処理では、核分裂反応で発生したプルトニウムと、反応しないで残ったウランとを取り出し、新たな燃料に作り替えて再利用することを目的としています。
六ヶ所再処理工場は、当初は1997年に操業開始の予定であったのですが、事故や故障が度重なり、何回も延期され今に至っています。
そのため、再処理待ちの使用済み核燃料が各原発や六ヶ所再処理工場で溜まり続け、保管場所が満杯になりつつあります。これを解決するために、使用済み核燃料を「一時的に」保管しておく施設として作られたのがセンターです。
図1:リサイクル燃料備蓄センター3,000トン保管施設イメージ図、出典:RFS
この施設はリサイクル燃料貯蔵株式会社(RFS)により運営・管理されており、この会社は東京電力と日本原子力発電が出資してつくった会社です。使用済み核燃料を貯蔵する会社として、国から貯蔵事業の許可を受け、施設の建設・運営を行っています。
全国から使用済み核燃料を集めているのではなく、あくまで東京電力と日本原子力発電からの使用済み核燃料のみを貯蔵しています。最終的な貯蔵量は5,000トンであり、そのうち東京電力分は4,000トン程度、日本原子力発電分として1,000トン程度です。
東京電力は福島第一・第二原子力発電所、柏崎刈羽原子力発電所を有し、日本原子力発電の発電所は東海第二発電所、敦賀発電所1号機2号機を有するので、これらの原発からの使用済み核燃料が貯蔵されることとなります。
現在建っているのは3,000トン規模の1棟目であり、次に2,000トン規模の2棟目が建設される予定となっています。「中間」という名の通り、ここでの貯蔵は再処理工場へ運ばれるまでの一時的な保管であり、保管期間は最長50年、保管方式は乾式金属キャスク内に入れての空冷貯蔵です。
(※)「リサイクル燃料」「使用済み核燃料」という呼び名について混乱があるといけないので一言申し添えておく。使用済み核燃料を直接処分する場合は「ごみ」(高レベル放射性廃棄物のカテゴリ)となり、再処理をする場合は「資源」(リサイクル燃料)となります。よって再処理を前提としている日本においては、使用済み核燃料は「リサイクル燃料」扱いとなります。筆者が本稿で「リサイクル燃料」ではなく「使用済み核燃料」という表現を多用するのは、再処理をよしとしないスタンスの表れです。
センターは、むつ科学技術館や関根浜港から直線距離で1kmちょっとの場所、海からは500mほどの場所に立地しています。やや細い道に入ると程なく青と緑の「RFS」のロゴマークがついた建物が見えてきまし。 門にたどり着き、車を降りて門の手前で早速写真を撮ります。下の写真は青山貞一先生に撮っていただいた写真です。
写真1:リサイクル燃料備蓄センターの看板 青山貞一先生撮影
すると門の奥のほうにいた警備員らしい人が近づいてきて、「アポイントはありますか?無いとだめなのです」といったようなことを言われ、早々に追い払われてしまいました。はるばる来たのだから、もう少し写真を撮影したり、中にいる人(警備員か?)に質問してみたかったのですが、仕方がありません。
セキュリティ上必要な対応だろう。我々は純粋に研究目的で来ているわけですが、世の中には邪なねらいをもってこのセンターに近づく者もいるかもしれません。これも現場に行ってみなければわからないことです、視察ならではの良い経験でした。
この施設に対しては、「安全なのか?」というシンプルな疑問があった。以下、使用済み核燃料の中間貯蔵における安全性について考察してみます。
●原発の敷地外に、使用済み核燃料を搬出・貯蔵してもよいのか?
この施設が安全かどうかの前に、まず疑問として、使用済み核燃料とはどこに置いても危険はないのだろうか?実は2000年6月に原子炉等規制法が一部改正されるまでは、使用済み核燃料は原発の敷地外に置いてはいけなかったのです。
この法改正がなされたわずか5か月後に、待っていましたとばかりにむつ市が積極的に施設誘致に動き出します。この性急さからわかることは、使用済み核燃料の原発敷地外においての中間貯蔵の安全性が証明されたというよりは、使用済み核燃料の新たな置場を作らねば、という必要に迫られて法改正がなされたのだと言えます。
諸外国ではどうか。原発敷地外の使用済み核燃料の中間貯蔵施設はドイツ(ゴアレーベン他)や、スイス(ヴュレンリンゲン、2001年操業開始)などにもあります。
図2:ゴアレーベン中間貯蔵施設、出典:RFS
ゴアレーベンの中間貯蔵施設は1995年から使用済み核燃料の搬入を開始しました。しかし、原発敷地外から使用済み核燃料を別の場所へ運ぶことが危険視され反対運動も起こり、1997年に搬入はストップしたのです。
2002年4月には原子力法が改正され、2005年7月以降に行われる使用済み核燃料の再処理が禁止されました。それと共に、原発立地点または近傍に中間貯蔵施設の建設が義務付けられ、再処理を目的とした使用済み核燃料を原発敷地外から搬出することは禁止されました。これを受けてドイツ国内の原発敷地内では中間貯蔵施設が設置され、運用が始まっています。
つまり、ドイツでは原発敷地外に集中貯蔵施設を設けるも、結局は原発敷地内で使用済み核燃料を貯蔵することにしたのです。ゴアレーベンはドイツの北東部に位置し、そこから最も近いグローンデ原発からでも200km弱の距離がある。取り扱いが難しい危険物を長距離運ぶよりも、直近に貯蔵するほうが合理的です。
●使用済み核燃料の海上輸送について
輸送に関しては、日本の場合、陸上輸送ではなく海上輸送である点も見逃してはなりません。センターに運び込まれる使用済み核燃料は、近くの関根浜港に到着します。ちなみに関根浜港は原子力船むつのために築港され、日本原子力研究開発機構所有の港です。
使用済み核燃料はキャスクという容器に入れて運ばれる。キャスクにはIAEAの規則によって安全性試験が課されているのだが、試しにリサイクル燃料備蓄センターの金属キャスクについてはどのような説明がなされているか、RFSのホームページを調べてみた。すると、落下試験については9mの高さからの落下、耐火試験については800℃で30分間とある。そして、耐水試験では、
「水深15m相当の水圧化に、8時間沈めます。水圧によってキャスクが壊れ、放射性物質が漏れ出さないことを確認します。更に200m相当の水圧化でも確認します。」
とある。ここには書いていませんが、実は水深200mでは8時間ではなく1時間だけもてばよいことになっています。
図3:キャスクの機能と構造 出典:RFS
この試験条件を見ればわかる通り、IAEAの規則はあくまで陸上輸送を前提としたものなのです。最近ではあの痛ましい韓国のセウォル号沈没のニュースがあったように、海洋事故はいつでもどこでも起こりうるのです。
●日本とドイツとの違い
同じ法改正でも、ドイツは再処理を禁止し、使用済み核燃料の原発敷地外への搬出を禁止したのに対し、日本は原発敷地外の(再処理前提の)中間貯蔵を許可しました。これは対照的です。
この違いの原点は、ドイツが脱原発へ舵をきったことが大きいのではないかと思われます。ドイツは2022年までに段階的な脱原発を予定しています。終わる時期が決まっているため、最終的に発生する使用済み核燃料の量も予め検討がつき、中間貯蔵施設の設計がしやすいはずです。
一方日本では、今でこそ原発は全基止まっていますが、原発を「重要なベースロード電源」とした新エネルギー基本計画のもとでは、再稼働ありきの政策が推し進められるでしょう。そうなると、最終的に使用済み核燃料をどうするのかについてのビジョンが描けないため、結局場当たり的に対応していくしか方法がありません。原発を稼働させるということは、使用済み核燃料を貯蔵施設に移動させるといったほんの一過程においてもリスクが発生するのです。
●防災対策について
使用済み核燃料貯蔵を原発敷地内か、あるいは敷地外に置くのかについての議論でもうひとつ重要な点は、防災体制の有無です。日本では、原発から約3〜5km圏内、約5〜30km圏内の自治体において、原発事故時の防災計画策定を義務付けています。リサイクル燃料備蓄センター(以下「センター」とする)のあるむつ市は広域であり、東通原発から30km圏内の部分を有するため、原発に対する防災計画はあります。
図4:リサイクル燃料備蓄センターと東通原発の位置、
出典:朝日新聞DIGITALの図を筆者加筆
しかし中間貯蔵施設が発生源となった場合の防災計画策定は義務付けられてはいないので、むつ市としてはそのような想定をしていません。
原発が順次再稼働していくようなことがあれば、中間貯蔵施設の建設は各地で検討されるでしょう。実際、幾つかは検討されていました。となれば、今後原発敷地外に中間貯蔵施設が建設された場合は、その自治体は防災の問題まで抱えることになります。
●リサイクル燃料備蓄センターでの貯蔵の安全性は?
有事にどうするか、ということもさることながら、どうすれば有事を防げるのか更に重要です。
センターは地震・津波をはじめとする自然災害や、核テロなどに対して十分安全だと保障できるのか。使用済み核燃料を50年間無事に貯蔵できる設備は整っているのだろうか。空冷(外気を取り込む)のため、塩害はどうなのか。また、放射性物質漏れがあった場合にいち早く検知できるモニタリングシステムは万全なのか。素人が思いつくだけでも、安全性についての疑問は多々あります。
2014年5月現在、原子力規制庁(以下「規制庁」とする)による新規制基準適合性に係る審査が続行中です。月に4?5回審査は行われ、規制庁が予め受け取っているセンターの申請書を見ながら、質問・指示し、RFSが回答sます。審査ヒアリング概要・資料は原子力規制委員会のサイトで見ることができます。
原子力規制委員会 リサイクル燃料貯蔵審査状況
http://www.nsr.go.jp/activity/regulation/tekigousei/nuclear_facilities/STO/sto_01.html
第15回5月14日までに、279もの質問・指示がなされており、そのどれに対していつRFSが回答しているかも一覧になっていまあす。その質問・指示内容を見てみると、RFSが提出した説明資料に関して、より明確な説明や根拠を要求する指示が圧倒的に多いようです。被規制者の意思を尊重しながら「より詳しい資料の作り方指導」に終始している感が否めません。最大限の安全確保のための抜本的見直しという観点からの指示は見られませんでした。
事故や自然災害への対応が最も懸念されると思うので、関心が高いと思われる項目をピックアップしその概略を以下に示します。現在審査中のため、今後変更される可能性があります。
事故選定―火災・爆発; 「建築基準法」「消防法」に基づく対策をし、施設内では可能な限り不燃材・難燃剤を使用しています。考えうる火災の原因としてはウエスや塗料であるため、火災規模は小さく金属キャスクへの損傷は考えられない。よって火災・爆発は事故事象として選定不要。
・自然災害―地震; 耐震設計上の重要度を3段階に分類し、それぞれの重要度に応じた地震力に十分耐えるよう設計する。
・自然災害―津波; 敷地は、標高約20m?約30mの台地にあり、造成高は標高16mのため基準津波の遡上波は到達・流入せず。よって津波は考慮不要。
・自然災害―火山活動; 火山事象の発生実績・規模、敷地付近の地形的特徴から判断して施設運用期間中に影響を及ぼす可能性は十分に低い。
・自然災害―地すべり;
安全性に影響を及ぼすような地すべり等は生じない。
・外部人為事象―航空機落下など
センターへの航空機落下の確率は0.0000001回/施設・年以下のため、航空機に係る事故の発生の可能性は極めて低い。(出典:別添6添付書類八「変更後における使用済燃料貯蔵施設の操作上の過失、機械又は装置の故障、浸水、地震、火災、爆発等があった場合に発生すると想定される使用済燃料貯蔵施設の事故の種類、程度、影響等に関する説明書」)
これらを見ると、ほとんど考慮に入れていない。考慮に入れていたとしても十分な対策がされているかが疑問である。福島原発事故で我々が得た教訓である「想定外を想定すべし」とはつくづく難しい。
●「最長50年」で済むのか?
安全性で最も懸念されるのは、「最長50年間の管理」という前提で安全対策がとられていることです。
保管期間は最長50年と定められてはいますが、使用済み核燃料の搬出については事業開始後40年目までに地元と協議することになっています。再処理工場が稼働していないので現段階では搬出の具体的な見通しがたたないことが理由でしょう。
再処理工場の稼働の見通しがたたないのであれば、施設を作り搬入すべきではないと思うのですが、再処理工場は稼働する「はず」であり、使用済み核燃料も再処理工場へ搬出さ「はず」なのです。
しかし前述のとおり再処理工場は竣工が延びに延びて、当初の計画より既に17年も過ぎてしまいました。再処理工場も現在新規制基準適合性に係る審査中であり、この審査に更なる時間がかかることも考えられます。
また、ドイツの例もあるように、再処理が行われなくなることもあり得ます。もしそうなれば、当初の約束である最長50年を過ぎても、搬出先も決まらずここへ据え置かれることも、無いことではないわけです。そういった場合に、50年を過ぎても、安全性が継続されるかが懸念されます。
たとえば、金属キャスクは50年を過ぎても問題はないのでしょうか?金属キャスクの長期間の密封性については、金属ガスケットの長期密封性能試験が行われている(出典:「核燃料サイクル」日本原子力学会再処理・リサイクル部会)。
その結果を見ると、初期温度によって密封寿命が変わってくることがわかります。総じて初期温度が高ければ高いほど、密封寿命は減る。つまり、50年用の安全は、70年や100年といったそれ以上の年数用の安全を保証しないのです。
100年を超える金属キャスク全体の長期貯蔵における健全性については、IAEAの指針もまだ作成中です。120年から300年の長期貯蔵においては、米国電力研究所で2010年に研究が始まったばかりです。
このような状況と、再処理工場稼働が危ぶまれている状況とを重ね合わせると、最長50年という保証はなく、貯蔵の安全性についても不安にならざるを得ません。
以上、使用済み核燃料の中間貯蔵施設の安全性について考察してみました。
中間貯蔵施設は、原発の稼働状況、使用済み核燃料の状況、再処理の状況などの関連の中で存在している施設です。よって、その安全性を論じる時には一連で考察すべきです。
しかし、単独の施設として考えてみても、原発敷地外に使用済み核燃料を長期間保管すること自体安全とは言い切れず、その施設に対してなされている新規制基準の適合性検査の質についても、十分とは言い切れません。
新エネルギー基本計画では再処理を推進しているため、今後も六ヶ所再処理工場の稼働を待ちながら、日本は行き場のない「資源」という名の使用済み核燃料を抱えていく。現在、川内原発を筆頭に再稼働のための安全審査が行われています。もし再稼働をしようものなら、原発に貯蔵されている使用済み核燃料は溢れかえってしまうでしょう。そうなれば、また原発敷地外に中間貯蔵施設の建設がなされるかもしれません。
電気は原発でしか作れないものではありません。再生可能エネルギーがあります。それらは、ただ置いておくしか処分方法がない使用済み核燃料や、その他の放射性廃棄物、二酸化炭素も排出しません。まだ日本国内での再生可能エネルギーの割合は低いのですが、それらを利用する方法は幾らでもあるし、そのための制度設計は可能です。これ以上原発関連施設が林立しないで済むように、本格的なエネルギーシフトを実現してゆきたいと考えます。
文責:斉藤真実
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